No.25 リース?レンタル?
No.25 リース?レンタル?
「こっちだ」
ギルドを背に歩き出したヴィクターさんに、今度は置いてけぼりを回避すべく、後にピタリと張り付く。丁度昨日私達がこの街に着いた時間と同じくらいの人通りで、もう直ぐ夕方だと分かった。
昨日今日で通った道は覚えているので、今は門の方に向かっている事は分かったが、用とは何だろうか?特に事前に知らされていないので、黙って着いて行くだけなのだが。
門に向かう大通りから一つ外れた通りに入って直ぐに、ヴィクターさんは足を止める。
真後ろにいた為、危うくぶつかりかけた。
「ここですか?」
立ち止まる先には何かのお店が一軒。
「あぁ、入るぞ」
何のお店だろうと思いながら入店した。店内で最初に目に入ったのは、壁一面に置かれた剣。次いで見渡せば、鎧や斧の様な重そうな形状をした物も置いてある。
どうやら、武器を扱っているお店の様だ。
「やぁ、ジルやっと来たね」
店の奥からゆっくりと現れた1人の男性。
皮のエプロンに、厚手のグローブ。ゴーグルを無造作に額に上げた姿は、いかにも職人と言う出立だ。
「そう言うな、小型のマジックバッグはあるか?」
「あるよ。・・・その前にその後ろの子紹介してくれないの?ジルの連れでしょ?」
「新人の冒険者だ。ギルマスからの命令で、師従関係を結んだ」
「へぇ、ジルが・・・ふぅん・・・」
「メグミと言いますっ!新米冒険者です、よろしくお願いします!」
珍しい物を見るかの目線に、居心地の悪さを感じながら自己紹介をする。
「これはご丁寧に。僕はカイルこの街で鍛治職人をしている。ようこそ、僕の店へ」
分厚い手袋を外し、握手を求められ反射で握り返す。節張った関節やマメがゴツゴツと当たり、まさに職人の手だと思った。
「────で、何だっけ?マジックバッグ?ジル持ってなかった?」
「俺では無く、こいつのだ」
「あー・・・なら小さくて軽いのが良いかな」
後ろの棚をカイルさんが触り始めるタイミングでヴィクターさんに、小声で話し掛けた。
「あの、私のマジックバッグと言うのは・・・」
「簡易の麻袋は不便だと思ってな。造りのしっかりとした物を使え」
「・・・・・・それって、私の今日の持ち合わせで足り「これとかどう?」
金銭面での不安が過り、事前確認をしようとしたが、タッチの差で聞きそびれた。
「メグミの戦闘スタイルが分からないから、いくつか出してみたけど」
ショルダー型から、背負うリュック型、ウエストポーチ型とバリエーションが豊富である。
「近接型だな・・・後、恐らく飛んだり跳ねたりも加味しておきたい」
「あー、それなら足に巻く型が良いかもね。動き回っても、動作や可動に支障をきたさない。ただ、他に比べて容量が少ないからそこだけ注意して」
「今は簡易の麻袋だ。それに比べたら遥に良い」
「それと比べられるのは心外だなー・・・」
会話に入れずに成り行きを見守る。もう置いてけぼりも慣れて来た。
が、相変わらず気になるのは"値段”だ。見るからに高そうな商品を前にソレしか頭に無い。プライスカードが無い、個人経営のお店・・・一体お幾らになるのか・・・
「この形で良いか?」
「あ、え、はい・・・・・・あのー、ちなみにお幾らでしょうか?」
「うん?そうだね、容量が少ない型だからね、そうだな・・・金貨5枚かな。他は金貨10枚からだけど、この型ならそれで良いいよ」
金貨・・・?あれ、確か私が手にしたのは銀貨6枚と少し。金貨とは・・・銀貨の上の単位に金貨が存在しているのだろうか?
「金貨・・・って・・・」
「そうか、その辺りの説明をしていなかったな・・・通貨は全部で6種類。1番下から鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、聖金貨となる。1種類10枚で、1つ上の価値に変わる。目安としては先程食べた串焼きは銅貨5枚だ。宿が1泊で銀貨3枚から5枚くらいだ」
つまり日本円に例えると、銅が100円くらいの扱いになると言う事だろうか?
そう考えると物価の感じは似ているのかも知れない。鉄貨が1番下と言う事は、1円単位は無く10円が最小値だから、間違わないようにしないといけない。
「と言う事は、5万円くらい・・・結構なお値段だ・・・」
突然の高額商品に思わず尻込みをしてしまう。けれど、何でも入れる事が出来ておまけに軽量で、鮮度を保つ機能付きだと考えれば破格だ。現代なら物流の概念が吹き飛ぶ便利さ。買わない選択肢は正直無い。
「うっ・・・ぶ、分割支払いは可能でしょうか?」
「分割支払い?」
カイルさんの反応を見るに、当たり前だがニコニコ一括現金払いが常識の様だ。
「すみません、お金貯めてからまた買いに来ます」
「・・・?買うのは俺だが、なぜお前が買う事になっている?」
「えっ?」
どう言う事だろう、私が使う物を購入すると言う話で進んでいたと思うのだが。
「俺が購入所有して、お前に貸し出す。所有権は俺にあるから、あくまでも"貸す"だけだ」
金貨を5枚重ねてカイルさんに渡し、私の手にバッグを乗せられたのたが、理解が追い付かずバッグとヴィクターさんの顔を何度も往復した。
「装備してみろ」
促されるがまま腰と太もも辺りに巻き、サイズはベルトで調節するタイプでピッタリと足に収まった。
「良いんじゃない?師匠さんお買い上げありがとうございまーす」
「揶揄うな。一先ず直ぐに必要だから誂えただけだ。先々に自分用が欲しくなった時に好きな形を買うと良い。返却はその時で良い」
「・・・・・・ありがとうございます、お借りします」
凄い理論で説き伏せられた気がしている。
無料のレンタルシステムにする事で、こちらの手出しは無く、貸し出された物を使用して後々に返却と言う、メリットの一切無い口約束。
・・・これ迄の行動や発言が、出会い頭に首を刎ねようとされた事以外、人として出来過ぎて、最早若干怖い。
いや、あれは私が魔物だと誤解させてしまった故に起きた事故なので、ヴィクターさんの本質はこちらの方と言う事だろう。
絶対にお金を貯めて、このバッグを買い取らせて頂こう。
「───で?ジル、他に何か用があるんじゃない?ジルが先に何かを買う時は、僕に頼み事がある時だよね?」
「・・・・・・まぁ、そう言う事だ」
目を細め、薄ら笑いを浮かべるカイルさんに対して、バツの悪そうな顔をするヴィクターさん。そして、ゆっくりと腰のバッグに手を伸ばし中から取り出されたのは───・・・
「・・・・・・・・・うわ、派手に壊したね」
「すまない」
私が昨日、折った剣だった。
.




