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No.24 安定と家


No.24 安定と家





街に戻ると、昨日よりも早い時間だった事もあり、店頭に並ぶ食べ物も存分に揃っていた。

出発したのは朝方で、その時はまだ開いていない店の方が多かったのだ。



屋台の形態をした店からは、串に刺した肉がジュワジュワと音を立てて焼かれている。

そこかしこから漂う良い匂いに思わず立ち止まると、ぐぅ・・・となるお腹。そうか、そう言えば昼ご飯まだだった・・・



「・・・ギルドに戻ってから遅めの昼にしようかと思ったが、それが食いたいのか?」


「あっ、いえ!そう言う訳ではっ・・・」


口の端から危うく漏れ出しそうになった涎を、手の甲で拭う。さすがに、いい歳してみっともない。

前世では、食に惹かれると言う感覚が薄れていた。


無理に時間を割いてまで食べなくても、動ける省エネの体になっていたと思っていたのだが・・・こちらに来てからは、不思議と匂いに惹かれやすく、お腹も素直に空腹を訴えて来る。



「これを昼飯の代わりにしても構わない」


そう言い、店主にお代を渡すと直ぐに焼き立ての串焼きが手渡される。


「ありがとよ!焼きたてだから火傷注意してな!」


「ありがとうございます」


屈託の無い笑顔に会釈しながらお礼を告げ、街の中心に向かって歩くヴィクターさんの後を人混みを避けながら追う。


程なくして噴水のある広場へ着いた。ギルドがある大きな物では無く、地元の子供達が遊ぶような小さな広場。

あいにく、ベンチはお年寄りや子供達で満員互礼。しかし、その様子に目もくれず、ヴィクターさんは真っ直ぐ噴水の淵に腰を下ろす。


そこは座っても良い所なのかと、前世の常識がブレーキを掛けたが、目線で座るように促され、恐る恐る私も横に座った。


「ほら、お前の分だ」


先に自分の串を取り出し、紙袋ごと手渡される。


「あのっ、お金・・・!スライムの核を売却したらお渡ししますので!」


「いや、必要無い。・・・・・・・・・あー・・・"師からの初陣祝い"と言う事にしておけ」


私が何かを言い返す前に先手を打たれた。昨日の晩御飯は"ヴィクターさん"から、この串焼きは"上司から"と言うニュアンスなのだろう。

そう言われてしまうと、受け取らない訳にはいかない。


「うぅ、ありがとうございますっ」



袋から取り出した串を口元に持って行くと、香辛料のピリッとした香りが鼻腔を抜ける。

たまらず頬張ると、表面はカリッと噛み締めれば甘い脂がジュワリと溢れ出す。鶏肉にも似たサッパリとした肉質で、一度も止まる事なく完食した。


「・・・凄い勢いだったな」


「この串焼き物凄く美味しくて、気が付いたら無くなってました・・・!」


昨日のシチューも最高に美味しかったが、こちらのは屋台効果なのか空腹がスパイスとなったのか、この世界に来てから1番美味しく感じた。



「この後なんですが、ギルドに依頼完了の手続きをしたら、それから何か予定を組まれていますか?」


「いや、時間を多分に使う用は特に組んでいないが・・・」


「良かった、あの、今晩から泊まる宿を探しておきたくて・・・良さげな宿だったら連泊とかでそこを拠点にしようかと思っていまして」


「?」


最後の一切れを口に運ぼうとしていた、ヴィクターさんの手が止まる。あれ?噴水の水音で聴き取り辛かったかな?


「私の宿泊先を探したいんですが、良い所知ってたりしませんか?」


短く簡潔に要望を伝えると、表情は先程と変わらず。


「宿をわざわざ探す必要は無いだろう?お前は俺の家を拠点にすれば良い」


「え゛?!」


「宿に毎回泊まっていたら、日中受けた依頼をその日に溶かし続ける生活を送る事になるぞ。効率を考えるなら、依頼をそれなりにこなして、早いうちに装備を整えるべきだ」


「うっ・・・」


「少なくともそう言う事は、D級に上がってから考えた方が良い」


た、確かに・・・ギルドに所属したとはいえ、安定した生活はまだ先。その上、日銭を溶かす生活は現実的では無い。

ここは、素直にご好意を受け取るべきなのだろうか。


「さて、そろそろギルドへ向かうぞ。それから寄りたい所がある」


「はい・・・」


まだまだ一人前への道程は遠い。ギルド迄の道程も比喩では無く、心なしか足が重かった。



「あ!お帰りなさい!」


「あぁ、ただいま」


「た、ただいま戻りました」


ギルドの受付では、朝と変わらず笑顔で迎えてくれるカレンさんに私も自然と口元が綻ぶ。



ここの冒険者は、皆ギルド会館に戻ると必ずカレンさんに「ただいま」と言う。


きっとそれは、優しく迎え入れてくれる安心感をひときわ感じるからかも知れない。

もしかすると、冒険者として長ければ長いほど、きっとこの笑顔に「お帰りなさい」と言って貰える事で、フッと張り詰めた神経が解けるそんな魅力を感じる。

ギルドは冒険者にとっての"家"なのかも知れない・・・そう思えた。


「依頼完了報告を頼む」


「はーい、では先にメグミちゃんからしますね。薬草沢山採れました?」


「は、はい!」


袋から、採取したキュリア草を取り出す。

100本あるので、花束みたいになってしまったが、カウンター横に置く。


「わぁ、依頼より沢山採れたんですね!助かります、余剰分はギルドにて買い取らせて頂きます。隣のカウンターにてお支払い致します」


「あ、後これも・・・」


一緒にスライムの核も袋から出す。と言っても、全部出して転がるといけないので、袋の口を開けて1つだけ取り出して見せる。


「小さい物が102個と、大きめの物が3個あります、これも買取して頂けますか?」


「スライムの核・・・ジルニードさんが?」


「・・・まぁ、そんな所だ。こちらも問題無く終えられた」


私がスライムと戦った事は、伏せて置くようだ。それもそうか、私がカレンさんの立場だったら、新人に危険な任務をさせた事を問題視すると思う。黙っていた方が良い事もある。

心の中でカレンさんに、ごめんなさいと謝った。



「・・・そうですか、お二人ともご無事で何よりです」


「これからは、素材を小まめに換金するつもりだから、その手の依頼は積極的に斡旋してくれると助かる」


カレンさんが優しい笑顔から、貼り付けたような笑顔に変わった。バレている気配がした。

ヴィクターさんもそれに気が付きながら、似た様な任務を希望する辺り、2人の間で『危険な任務を新人にさせたんですか?』『これからも新人教育に協力よろしく』と言う会話が行われているとみた。


「ふぅ・・・では、あちらの換金所へどうぞ」


ため息がちに隣へと誘導されたが、その眼はとても沈痛な色を浮かべていた。カレンさん、私頑張って早く一人前になりますね。



「お待たせしました!こちら、お持込のキュリア草50本に、スライムの核【小】102個、【中】3個で、合計で銀貨6枚と銅貨3枚鉄貨2枚になります」


カルトンに乗せられるこの世界の通貨。そこでようやく、お金の価値が分からない事を思い出した。紙幣が無い所を見ると、硬貨のみなのかも知れない。一つ一つを丁寧に拾い上げ、麻袋へ入れる。


「・・・ありがとうございます!」


「受け取ったな。次は俺の用に付き合って貰うぞ、何時間はそんなに取らない」


何やらヴィクターさんは急いでいる様で、手短にカレンさん達に挨拶を済ませると、ギルドホールを出た。





次の話から第1章の区切りとなるエピソードに入ります

!よろしくお願いします(*´꒳`*)!

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