No.23 手加減
No.23 手加減
「わぁ・・・ウジャウジャ居ますね・・・」
少し歩いた先に、一帯の草が無くなり剥き出しの地肌が露わになっている場所があった。
原因はそこに大量発生したスライムだ。
スライムは、数体がバラけて各地に住み着いている分には問題無いらしい。むしろ死んだ他の生物や人が落としたゴミなどを食べ、自然を守る役割りを果たす存在として。
しかし、何かしらの影響を受け大量発生すると、この草原の様に草木や岩を食べ尽くし、植物の生態系を狂わせてしまうそうで・・・
そのような事態を放置する訳に行かず、今回のように駆除の依頼がギルドに持ち込まれたと言う事らしい。
「大量発生が確認されて数日は経っているからな、予定よりも数が多いが、問題無いだろう」
「問題無いですか?あの数・・・」
「一斉に飛び掛かられたら厄介だが・・・」
「何か策があるんですね!」
安全に倒す方法を期待して、次の言葉を待つ。
「今回はあくまでお前の訓練だからな。それが行いやすいように、とは考えてある」
一歩前に出たヴィクターさんは、先程の大きめのスライムの時と同様に風の壁で広範囲を囲い込み、それからその囲いをキュっと縮める。
草原にいた沢山のスライムは、小さく窄められた檻の中にギュウギュウに閉じ込められた。
「今からスライムが1体ずつ通れる穴を開ける。お前はこの檻の前に立ち、出て来たスライムを順に倒していけ」
「は、はい・・・!」
指示された通り、檻の前に立ちスライムが出て来るのを待つ。
「行くぞ」
檻の真ん中辺りにヴィクターさんが穴を開けると、圧迫感から解放された1体がポヨンと飛び出て来た。
急な出来事に腹を立てているのか、地面に落ちた後勢い良く飛び上がり、反動を付け私に向かって飛んで来る。
「わっ・・・!!」
慌てて、顔を背け体を捻った。結果は分かると思うが、私に体当たりしたスライムは、体に当たった瞬間弾け飛んだ。
「あ・・・」
「なるほどな・・・お前の防御力が高過ぎて、スライム自身の体が、ぶつかった時の反動に耐えられていないから、そのまま破裂するんだな。ギルマスのガントレットにもヒビが入っていたから、スライム程度の硬度では話になら無い」
「え?グランさんの小手の話ですか?!私壊してしまったんですか??」
その話は初聞きである。グランさんの一撃を耐えた時はそんな話はしなかった。
あの高そうな武器にヒビを・・・弁償するべき物がどんどん増えている。弁償は不要と言われたが、ヴィクターさんの剣に続いてグランさんの小手・・・
「チラッと見えただけだがな。それより、スライムの方に集中しろ、次が出て来るぞ」
ハッと、振り返ると顔面にスライムが勢い良くぶつかる。
「ぶっ・・・わっ」
パンっとまた弾け飛び、顔に掛かった体液を手で拭う。この感覚は、アレに似ている。子供の頃に水を入れた風船をぶつけ合う、あの遊びに。水と違い若干の粘度がある分不快感は数段上だが。
「スライムはお前にとって、かなり脆い。だからこそ、お前が加減して叩き落とせ。体当たりをさせてしまうと、防御力の数値で反映されて核ごと砕けるぞ」
「はい・・・!」
「どこまで力を落とせば、弾き飛ばさずにダメージだけ与えられるかを感覚で身に付けろ」
成る程、叩く力を調整して上手い事”倒す”と言う訳だ。理屈は分かるのだがそう簡単に行か無いのが世の中の常。
新しいスライムが出て来る度に試すが一向に上手く行か無い。
あれ程沢山いたスライムは、半分くらいまで減ってしまった。そして、減った分は全て弾け飛んでしまった。
初めはバレーボールを叩くくらいの感覚だった。それを順々に力を弱めて行き、今弾けた分は蚊を叩くくらいの力だ。
攻撃態勢を取り飛び掛かって来なければ、スライム自身のパワーは乗って来無いので、あくまでただ飛び上がっただけの所を横から叩いている。
そもそも、叩く事自体が強いと言う事だろうか?例えば、指先でデコピンの要領で少しだけ弾くとかはどうだろう。
また1体出て来た所を狙いゆっくりと近付く。地面に落ちた所で、手を近づけて少し弾く。
「わっ!」
プルルンスライムの体が揺れ、パチンと弾けた。先程までと違い、弾け飛ばずに、シャボン玉が風で自然にパッと自壊するするような、そんな僅かな弾け方。
ふと見ると、土の上に何か光る小さな球が転がっていた。もしかして、これがヴィクターさんの言っていた核なのではないだろうか?
壊さ無いようにゆっくりと摘み上げ、掌に乗せてから急いでヴィクターさんの元へ戻る。
「ヴィクターさん、あの!これでしょうか?!」
落ち無いように、空洞を開けて握る掌をゆっくりと開いて、拾った球を見せる。
「あぁ、間違い無くスライムの核だ」
「やっっったーー!!」
「加減が分かったのか?」
どうやら、私が背を向けてしゃがんでいたので、どうやったのかは見えなかったらしく、不思議そうな顔をしている。
「はい!多分!ちょっと待っていて下さいね!」
檻まで戻り、次のスライムが出て来るのを待ち、穴の下で手をスタンバイさせる。
ムニュリと出て来たスライムは、穴に沿わせた掌に転がった。すかさず、ヴィクターさんの所迄乗せたまま走る。
「見ていて下さい!こうして・・・」
目の前で、またデコピンを軽く当てる。
先程と同様に弾け、核がコロリところがる。
「・・・・・・・・・」
「このくらいなら、弾け飛ばずに済みそうです!」
「良かったな・・・その僅かな衝撃でスライムが弾ける事にかなり驚いたが、いや、他の中型の魔物が体当たりで弾け飛ぶのなら、そのくらいが丁度良いと言う事か」
「はい!残りのスライムも同じ感じでやって来ます!なので、核沢山持ち帰れますよ!」
やり方さえ分かってしまえば、残りのスライムは最早宝の山にしか見えない。
核一つ辺りが幾らくらいになるのかは分からないが、今日の宿代と夕食代くらいは賄える事を願って。
───10分後、私は両手からこぼれ落ちそうな程の核を乗せて、ヴィクターさんの元へ戻ったのだった。
「こんなに採れましたよ!これ全部買い取って貰えますかね?」
「あ、あぁ・・・」
「良かった!・・・そう言えば、向こうで閉じ込めた大きなスライムにも核ってあるんでしょうか?」
両手の核をマジックバッグに入れるのを手伝って貰いながら、ふと檻に入れられたままの5体のスライムの存在を思い出す。そして、まだ5体分の核があるのでは?と。
「どのスライムでも核は体を形成する為に存在している、大きさは多少変わるが・・・」
「この後はあのスライムはどうなりますか?」
「依頼の対象としては、ここのスライムのみで、あちらのスライムは完全に予定外。依頼の邪魔にならない様に閉じ込めただけだ」
閉じ込めただけ・・・そこで、ヴィクターさんの声は止まり、まさかと言う懐疑的な表情に変わる。
「私、大きさが変わっても加減出来るかどうか、試したいです」
ここで狩ったスライムは、言わば基礎編だ。そして、基礎がミス無く連続して行える様になれば、次は応用編になる。
運良く、私は応用編を直ぐに試す事が出来る状況にある訳だ。
「───構わないが・・・」
「では、早速行きましょう!」
若干引かれている気がしないでもないが、気が付かなかった事にしよう。
来た道を戻ると、その場を離れた時から檻もスライムも状況変わらず、風の壁に体当たりを続けていた。
「ヴィクターさーん!すみませんが、一体ずつお願いしますー!」
少し離れた所で、見守ってくれているヴィクターさんに届くように声を掛ける。
軽く左手が上がったので、聞こえたと言う返事と始めるぞの合図両方の意味だろう。
直ぐに風の壁に穴が開き、ドスンっと穴の直ぐ近くに居たスライムが飛び出て来た。
先程の掌サイズのスライムと比べると、やはり大きい。さすがに力加減が同じくらいだと、私の指先が押し負けて折れてしまうかもしれない。
ひとまずは、バレーボールを叩くくらいの力加減で───・・・
バチンッ!!
「わっぷ!!!?」
掌が触れた瞬間、中くらいのスライムは弾け飛んだ。強過ぎたらしい。
全身に飛び散ったスライムの体液を篩い落とす。目元も手で拭い、這い出して来た次のスライムを見据える。
「もっと弱く・・・後4体しか試せない・・・慎重に・・・」
ハエを手で払い退けるくらいの力で・・・今度は下から手の甲を使って払う。
「ん??」
ドムリ・・・と聞いた事の無い重く鈍い音。
触れた場所から衝撃を吸収された。蜂を払い除けた時はこの感じで粉砕したと思う。このサイズのプルプルとした体にはインパクトが足りなかった様だ。
「もう少し強く・・・」
ドアを叩く・・・出張先で寝坊した同僚を起こす為に、大きめに叩くあのくらいなら・・・
拳を握り、鈍い音を響かせる強さで────・・・
ドッ・・・と、打ち当てる。すると、スライムの体がブルブルと揺れ、パチンっと体が霧散した。
「あ・・・やった!」
成功した。2回目の修正で出来たのは、かなり上出来なのでは無いだろうか?
嬉しさあまって、ヴィクターさんの方に顔を向けると、指がチョイチョイと私の後を指す。
「次が来るぞ」口元が動き、そう聞こえた。
振り返ると、真後ろに3体目のスライムがブルブルと酸を飛ばす仕草を始めている。
これ以上かけられてなるものかと、すかさずドムッと表面を叩き3体目も問題無く倒した。
後2体が出て来るのを待っていると、スライムを閉じ込めていた風が掻き消え、2体が同時に解放される。
「最後は2体同時だ。敵が同時に複数体襲って来たとして、それぞれに注意を払いながら、手加減して倒してみろ」
「は、はいっ!!」
解き放たれたスライムは、連携を取る事も無く各々がこちらに向かって来る。
内一体が飛び上がったがこのまま落下地点にいると、私を踏み潰そうとしたスライムは、確実に弾け飛ぶ。それでは困るのだ。
横にすかさず避けた。地面に落ちてバウンドしたのを確認して、スライムの背後に回り込む。
ヨシ、このまま軽くー・・・
飛び跳ねた方のスライムに気を取られ、もう一体が真後ろまで迫っていた事に気付くのが遅れた。
体を捻り接触を回避しようとしたのだが、間隔を見誤った。体重分勢いに乗った右肘が当たり、片方のスライムは当然弾け飛んだ。
また全身を体液で汚しながら、情け無いやら恥ずかしいやらで、無言で裏拳を最後のスライムに当てる。
「どうだ?力の加減は身に付いたか?」
「はい・・・今日の分はなんとか・・・もっと、周りを俯瞰で見れる様にならないと、いけませんね・・・」
回り込まずに後ろに飛べば、背後を取られる事も無かっただろう。更にそのまま順番に倒せたと思う。
「そうだな、だが経験が無い内はそんな物だ。訓練次第でどうとでもなる」
「経験則ですか?」
「まぁ、そうだ。さて、今日の依頼はこれで完了だ。ギルドに戻るぞ」
「はい、あっ、核拾って来ますね・・・」
上手くいったけど上手くいかなかった。両方の感情を同時味わってしまい、ションボリとしてしまう。
そんなに簡単に行く訳は無いと、分かっていながらも少しだけ肩を落としながら、転がる核を3つ拾い集め、ヴィクターさんと街に戻ったのだ。
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