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No.22 力加減を身に付けよう


No.22 力加減を身に付けよう




土地勘など無い為、ひたすらヴィクターさんについて行く。

街を出て1時間半くらい歩くと目的の場所に着いた。

高低差のほぼ無い平原、一面に茂る青草が風に揺られて何とも気持ちの良い所だ。



「依頼書の内容だが、今回はキュリア草を採取して貰う。キュリア草は回復薬の原料となる為に慢性的に不足し易い。多ければ多いほど良いが、依頼書が最低50本とあるから、そのつもりで」


「キュリア草とは、どんな見た目でしょうか?」


初めて聞く名前で、当然見た目も分からない。

見本があれば助かるのだが・・・そう思い、質問をすると、ヴィクターさんは何やら、腰に付けたバッグを少し漁ると試験管の様なケースを取り出す。



「これがキュリア草だ。このまま渡しておくからこれを参考に探すと良い」


「ありがとうございます!」


試験管の中のキュリア草は青々としていて、まるで今詰んだかの様に瑞々しい。

笹の様な緑の長い葉が下から生え、茎の上部分には花の様に鈴生りに実の様な物が付いている。その形は鈴蘭の様にも見えた。


「それと、これも使え」


手渡されたのは麻で編まれた様な袋で、サイズとしてはA4くらいのものだ。


「これは?」


「簡易のマジックバッグだ」


「マジックバッグ・・・?」


知らない言葉に、首を傾げる。


「俺の持っているこのバッグの簡易版だ。魔法が施されていて、見た目以上に物が収納出来る上、重さや大きさに関わらず大体の物は入れる事が可能だ」


何て便利なバッグだ・・・これが前世であったならどれ程便利だろう。旅行に重い大荷物を抱えて行く必要も、引越しの荷物も箱詰めして業者に依頼する必要も無い。革命的過ぎるアイテムに「は――凄い・・・」と感嘆の声が漏れる。



「簡易ではあるが、中に入れた薬草などの劣化を防ぐ造りになっている。枯れてしまうと回復薬に向かない、採取した物はその中に入れるように。」


鮮度と保つ機能まで備わっているとは。このサイズに込められた機能性に感謝である。


「分かりました」


「キュリア草はこの辺り一体に無作為に自生しているから、探すのはそれなりに大変だが、頑張るといい。俺はもう1つの依頼の様子見をして来る」


「え!?私1人になってしまうんですか?!」


「?この辺りの生物は、国境外の物より大人しい。仮に何かに出会したとしても、お前なら1人で十分だろう?」


何故そんな不可解な事を聞いて来るんだ?と言う曇りの無い目。

確かに、国境外で生き抜いた事を考えると、何でも無い事に思えるかもしれないが、一応新人の私としては、先輩が側で見ていてくれるだけで、心強いと言う物。

プレッシャーになる事もあるが、安心感を得られる私としては、急に放り出されるのは些か不安である。



「・・・なら、1つ目を見つける迄だな。以降は1人で。良いな?」


「ありがとうございます!」


頑張って見つけなければ・・・!そう思い草原に目を凝らす。


膝辺りまで長く伸びた草に比べて、見本のキュリア草は半分程の長さしか無い。つまり、その長い草に隠れて、目視ではかなり見つけ辛いのでは無いだろうか・・・

丁寧に草をかき分け、目当ての物を探す。10分後にやっと1つ目を見付けた。



嬉しくて、ヴィクターさんに確認して貰うと間違い無くキュリア草。1つ見つかった事で、やる気が漲って来る。目標100本!!気合いを入れる私に「後は頑張れよ」と告げ、当初の予定通り別の依頼に行ってしまった。


1つ目10分だとしたら2本目もそのくらい掛かるかと思ったが、そこからは面白いようにドンドン見つかる。

コツを掴んだのか、直ぐに10本集まった。このペースなら数時間もあれば集め切れる気がする。鼻歌混じりに、ドンドン草を広げて進む。



無心で探し続け目標の50本を超えた辺りから、気のせいだろうか?広い広い草原の緑の絨毯、がキラリとする瞬間がごく稀にある事に気付いた。


初めは野生生物かと警戒したが、何も飛び出して来る事も無く恐る恐る近寄ると、その光った場所にはキュリア草が生えている・・・と言うとても不思議な現象が起き始めた。


不思議ではあるがこの現象、利用しない手は無い。採取スピードが上がりあっという間に100本に到達した。



「こんな感じ良いかな?」


休憩も挟まず延々と続けていたが、丁度切りの良い数になった所で手を止める。


「ヴィクターさんどこまで行かれたんだろう?別の任務って結構時間が掛かるのかな?」


草の間からたまに飛び出している岩に座り、帰りを待つ。朝日だった日は丁度真上に登っている。


ヴィクターさんが、歩いて行かれた方をジッと見つめていたせいで、後ろに忍び寄る存在に気が付かなかった。

急に背中にベショっと言う感覚がした。けれどその感覚には覚えがあり、ゆっくりと振り返る。



「わっ!!」


振り返った先には、大きめのスライムが数体。私に向かって、またしても何かを飛ばしている。



以前着ていたスーツは、この液体で見る見るうちに溶けて穴が空いたが、今はギルド支給の制服。どうやら、服の素材がしっかりしている様で、溶け出す事も、布に染み込む事も無い。液体を球体状に弾き落とす様子はまるで撥水加工だ。


「また、スライム!・・・あ、ギルド受付で2人がスライムがどうとか言っていたな・・・」



コレの事だろうか?

数日前のスライムは両手で持ち上げられそうなサイズ感だったが、目の前のスライムは羊くらいの大きさがある。

それが複数体、こちらに向かってブルブルと震えている。もしかすると、このブルブルは威嚇行動なのかもしれない。となれば、次の動きは・・・



「わっ!危なかった・・・」


反射的に立っていた所から飛び退く。

予想通り、スライム達は私に向かって何かを飛ばして来た。座っていた岩にそれは当たり、シュワシュワと溶け、煙を出している。おそらく、また酸の様な物だろう。


「1体なら何とか出来るかもしれないけど、流石に5体は・・・無理!ヴィクターさん助けて下さいー!!」


取り敢えずこの先にヴィクターさんが居ると信じて、全力でそちらに向かって走る。




続く平原、全力で走る私、に着いて来る大きなスライム。その状態で走る事15分、向こうに人影が見えた。


「ヴィクターさーーーーーん!!!!これっどうにか出来ませんかーーーーーー!!!?」


私の背後の存在に気付いたヴィクターさんは、私が隣を駆け抜けた直後、スライムに向かって左手を差し出す。


風籠コルビス



そのまま何かを唱えた瞬間、私達とスライムの間に障壁が出来た。

四方を壁が囲み、閉じ込められ、囲いの外に出られなくなった事に腹を立てたのか、スライムは狭いその空間から脱するべく、体当たりを試みている。



「凄い・・・檻みたいですね・・・」


「・・・お前、このスライムどうした?」


「え、えっと・・・薬草を100本採取しまして、休憩していた所背後から襲われました」


「100本・・・まだかかるかと思ったが、そうか」



驚いた顔をするヴィクターさん。正直あの不思議な光る現象が無ければ、テンポ良く見付けられずにまだまだ掛かっていただろう。


「なら丁度良い。今からもう1つの任務を行う」


「・・・?はい、どうぞ」


「・・・・・・・・・受注したのは俺だが、やるのはお前だ」


「え?!」


寝耳に水だ。確か、ヴィクターさんの受けられた方は私の級より上の物だったはず。受付での2人の会話からそんな雰囲気を受け取った。


私はあくまでも、新人としての初めての依頼をこなすべく出発した筈で。


「俺が受けたのは、スライムが大量発生している区画で、数を減らして欲しいと言う依頼だ。俺がそのまま依頼達成しても良いんだが―――それより、お前の実力を正確に把握しておきたい」


「私の実力ですか?」


「あぁ、防御力は俺やギルマスの一撃を受け止める強靭と言う事は分かった。なら他はどうだ?今後のお前の新人教育も踏まえ、その辺りも知っておく必要がある」


言われてみれば、後輩教育するにあたり相手の情報は多い方が良い。向き不向きでどう言った教育が適切かを、早い段階に見極めて置く必要がある。



「昨日、防御力については触れたが、その他のステータスについては聞いていない・・・が、おそらく他も似た様な物だろう?」


「・・・はい。他も全体的に+が似たような数値でついています」


「なるほど、そのバフが効果を切らす事なく、今も続いていると言う事で良いか?」


「はい」


「お前の場合レベルとしてはEで間違いなが、基礎ステータスに加算されたバフの数値が実際の能力になっていると考えられる。それは俺やギルマスと同等か・・・いやそれ以上と考えておくのが良いか・・・」


腕組をするヴィクターさんの指が、自身の二の腕を時折りトントンと拍子を取る。

異質な私の状況が、かなり彼の頭を悩ませている様で本当に申し訳ない。



「何から手を付けようかと思っていたが、取り敢えず昨日スライムを手で弾いたと言っていただろう?」


「はい、向かって来るのでどうするのが正解か分からずに、こう・・・」


目の前の空を切る様に軽く手を振る。



「スライムの体力は小型の物で1200くらいになる。仮にバフ分が加算されたお前が叩けば、一撃で粉々だろう。倒すだけならそれでも良いが、スライムには体を形成する核が存在している。これは素材として売却も可能だ」


「え?売れるんですか!?」


「そうだ、加えて素材集めの依頼もある。それを加味してお前は力の使い方を覚える必要がある。要は、手加減だ」


「て、手加減ですか?」


「毎回その攻撃力で対抗していたら、魔物の素材が確定で丸ごと吹き飛び、損をする羽目になるぞ」


それは困る!大変非常に困る!少しでも換金して、生きていく為のお金を稼がなければならないのだ。

あの道すがら倒した魔物達が、全て売る事の出来るとしたら既に大損である。



「手加減覚えます!早急に!」


「よし、この先に小型のスライムが大量発生している場所がある。そこで練習を行う」


「はい!あ、このスライムはどうしますか?」


「一先ず置いておく。その中に入れて置けば誰かに襲い掛かる事も無い。行くぞ」


未だに檻の壁に向かって酸を飛ばしたり、体当たりするスライム達をそのままに、私達は大量発生したスライムのもとへ向かう。






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