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No.21 素晴らしい朝が来た


No.21 素晴らしい朝が来た



カーンコーンカラーン



「わぁっ!!?」


鳴り響く大きな鐘の音で飛び起きる様に目を覚ます。

夕方の鐘より数倍大きく長くなるそれは、泥の様に眠っていた私の意識を容易に引っ張り上げた。


眩しい日の光と、鳥の鳴く声が鐘の鳴り止んだ部屋に朝を告げる。


「あれ?私の部屋じゃ無い・・・どこ?」


寝惚けた頭は、目の前の景色を正しく認識出来ない。




「えっと・・・待ってよ、昨日は・・・昨日・・・あ!そうだ私、異世界に来たんだった!!」


スロースターターな脳は数分掛かって漸く現状を把握する。

異世界に来て、変な生き物と出会い、バケモノと誤解されたり、知らない人に首を刎ねられそうになったり、就職先が決まったりと怒涛の日々だった。



「それで、晩御飯を食べて、先に寝ようとして・・・あれ?私ベッドで寝たっけ?」


そう、昨日は先に寝て良いと言われ、お言葉に甘える形で寝室へと入った。

綺麗に整えられたベッドと対峙した時に、ふと思ったのだ。やはり人様のベッドを使うのは厚顔無恥過ぎやしないか?と言う事。


家主であるヴィクターさんは、使って良いと言ってくれたが、どうしても自分の中で踏ん切りが付かず、床で寝るを選択した。はずだった。


寝惚けて床から這い上がったのだろうか・・・無意下の行動に身慄いしていると、扉がノックされた。



「起きてるか?準備が出来次第ギルドに向かうぞ」


「はい!今起きました、直ぐに準備します!」



ヴィクターさんの声に思考は離散し、慌てて支度を始める。

ギルドの制服に袖を通し、寝室に誂えられた洗面台で顔をあらい、次いでカゴの中に入れられていた櫛で髪を溶かす。

髪を結っていたゴムはヴィクターさんと対峙した時に無くした為、垂れ流したままになるが、やむを得ない。


最速で身支度を整え「お待たせしました!おはようございます!」とリビングへ飛び出た。


「あぁ、おはよう。出られるか?」


「はい、大丈夫です!」


階段を降り、昨日の様に左側の扉を開けるのかと思っていたが、反対の右側に進行を変える。

あれ?っと思いつつも着いていくと、突き当たりを左にもう一度曲がる。



「朝は店側の扉は施錠してある。ここの住民はこちらの扉から基本出入りする」


曲がった先には外へと続く扉。

そうか、昨日は事情をマリーさんに伝える為に店側から入ったが、本来ならこちらの扉が玄関となる訳で。次回訪れた時に間違えない様に覚えておこう。



扉を開けると昨日夕陽に照らされた街が、今日は朝日でキラキラと輝いている。


街の中心部に向かう最中、階段を駆け降りる子供たちや、洗濯物をベランダに伝う紐に掛け干しする女性や、煙突から朝ご飯を作る良い匂いが漂ったりと、この街の有り様を感じ、新生活が始まるにふさわしい希望に満ちた朝だと思わず頬がゆるむ。



「昨日来た時は、時間も夕方前でしたので気付きませんでしたが、とても活気に溢れた街ですね」


「来訪者目線からもそう見えるか?」


「はい!皆さん表情が素敵です」


「そうだな、この街は国境から最初の街になる。もし敵対する存在が侵攻をした場合、最初に火の粉を浴びるのはこの街だ。幸い周辺の情勢が最近安定しているが故に、災禍の不安も無く皆安心して暮らせている。そう見えたのは平和の証拠だ」



国境最初で最後のシルビアそしてそこに創設されたギルド《フォートレス》この街は国を護る砦の役割を担っているのだろう。

もしかしたら、その重要な責務を掲げ暮らす人々は、その誇りを胸に日々を送っているのかも知れない。



「ギルドに着くぞ。予定は昨日伝えた通りだが、体調面は問題無いか?」


「はい!よろしくお願いします!」


自分に気合を入れながらギルドに入る他の冒険者に続いて入館する。



「お早うございます」


入り口入って直ぐにあるカウンターには女性が数名。挨拶をするその声はとても明瞭で、自然と声の持ち主に視線を送ってしまう。


「おはようご・・・あっ!ジルニードさん!」


「おはよう」


「おはようございます!」


「あら?貴女もしかして!ギルマスに伺っております、ようこそギルド《フォートレス》へ」



昨日はフード越しに対面しただけで、顔を見せて話すのは初めてである。


「メグミと言います、よろしくお願いします!」


こちらでフルネームを名乗ると、出自に誤解を与えてしまうと分かったので、今後は名前だけで行こうと思う。

ギルド登録も名前だけで行っていたので、これを機に苗字は一先ず置いておこう。



「私はギルドにて受付業務をしております、カレン=ワグナーと申します。ギルドに寄せられた依頼を冒険者に斡旋、受注・依頼完了の手続き・成功報酬の支払いと言った仕事がメインです。今後ともよろしくお願いしますね」


「はい!」


「ハンドラー、すまないが先に食堂で朝食をすませる。その後に、E級の中でも初心者向けの依頼を斡旋して貰いたい」


「お任せ下さい!」



自己紹介を終えると、一呼吸置いてヴィクターさんは直ぐに依頼の手筈を整え、食堂へ行くぞと言うニュアンスなのだろう、顎をしゃくり私に合図する。


受付の横を通り開いた扉を潜ると、直ぐ右側に人だかりがあり、受付の背後の壁を皆一様に眺めている。指で何かを探す動きをする人、顎に手を当てて何かを考える人、隣の人と何か話している人と様々。


「受付の壁の後側は依頼書の貼り出される掲示板になっている。ここで自分に合った依頼を見つけ、貼り紙を剥がして受付迄持って行く。受付が妥当だと判断すれば、承認され依頼の任務開始となる」


立ち止まって眺めていると、ヴィクターさんが説明をくれる。



「沢山貼ってあるんですね・・・壁一面左側迄ずっと続いている」


「各ランクごとに貼り出し場所が変わるからな、左端の方はA級になる。冒険者はB級からC級が多いからな、必然的にあの辺りに人集りが出来易い」


「へぇー、そうなんですね」


「因みにE級は、扉を潜って左側だ」


人集りの反対側を指差され、顔を向けると畳一畳分くらいのスペースだろうか、こじんまりと儲けられた掲示板には、数枚の貼り紙が並びそれを4.5人が眺めている状態だ。


「少ない、ですね・・・依頼の紙も、見ている人も」


「駆け出しの冒険者は毎日では無いが、新規登録が割とある。だが、見ての通り依頼も少ない。したがって受けられる人数も限られて来る。早くD級に上がりたくとも、依頼をこなして行かなければ一生E級のままだ」


「厳しい世界ですね」


「そうだな。さ、朝食にするぞ。冒険者初日の最初の教えだ。"何も食べずにフィールドに出る事は認めない"」


「あ、待って下さいっ」


踵を返しテーブルの並ぶ間を進み、注文カウンターへ向かう。



何が食べたいか聞かれたが、この世界の朝ご飯が何か分からなので、おまかせにした所、柔らかめのパンとスライスされたチーズとハム、ドリンクに温かい紅茶が2人分。

テーブルを挟み座り、食べ始める。半分まで食べた所で、先に食べ終わったヴィクターさんが、口を開く。



「今後は、今日のように必ず朝食を摂る事。空腹のまま出発する事は厳禁だ、良いな?」


「?」


「・・・今までの生活がどうだったかは知らないが、先々命に関わる任務も出て来る。空腹は集中力や思考を鈍らせ、判断力や反初速度にも影響が如実に現れる。それは冒険者にとって死に直結する。必ず守る事だ」



朝食をまともに食べ生活なんて何年もしていない。食べる暇も惜しかったし、ギリギリまで寝ていたかった。下手したら、晩御飯も食べずに寝落ちした事すらあった。

食事にあまり重きを置いていなかったせいでいまいちピンと来ていない私は、咀嚼をしつつ首を傾けた。


その行動から何となく察したヴィクターさんに、溜め息混じりに再度釘を刺される。



朝食が命を守る為の重要な存在だと言われれば、守らない訳にはいかない。

また不摂生が原因で死ぬのはご免である。


そもそも朝食が1日を送る上での重要性は、前世でもよく言われていた事ではあったが、仕事漬けの毎日だった私はその常識を完全に忘れ去っていたようだ。


残りの朝食を一気に口に詰め込み、紅茶で流し込む。


「心に刻みます」


「あぁ、食べ終わったな。行くぞ」



空の食器を返却し、入口の方へ歩く。

掲示板の前で立ち止まると思っていたが、ヴィクターさんは通り過ぎ受付へを向かう。


「待たせた、何か良い案件はありそうか?」


「いえいえ、所でヴィクターさんも同行されますよね?」


「そのつもりだ」


「そうですよね!でしたら、こちらはいかがでしょうか?」


カレンさんが1枚の依頼書を手渡す。


「そちら、一昨日発行されたE級向けの依頼になるのですが・・・」


「薬草の採取。定番の依頼だな」


「はい、ですが一件懸念事項が。場所を見て頂けるとお分かりになると思いますが、薬草の群生地がそちらスライムの棲息圏とかなり密接している関係で、D級の依頼との境が曖昧のままギルド預かりになっていまして」


「なるほどな、初心者向けの依頼内容に対しては危険度がD級と言う事か」


「ヴィクターさんが同行されるのでしたら、その条件であってもメグミ様の受注が可能になります」



何やら、初心者の私には難しそうな依頼の気配がしている。

あれ?スライムって、あれ?



「よし、受けよう。ついでにスライムの方の依頼があったりするか?」


「えっと・・・あ!あります。増え過ぎたスライムの駆除要請。ただ、これは集団で襲われた場合の危険が伴う為、C級案件になっております」


「構わない、そちらは俺が引き受けよう。スライムは報酬が割安で、受ける冒険者が少ないだろう?」


「そうなんです・・・引き受けて頂けると助かります。ただ、ジルニードさんもご存知の通り、上位の方が下位の依頼を受けるとなると」


「あぁ、報酬が半分になる件だな?いつも通りだから問題無い」



私が会話に入れずにいる中、2人の間で何かが決定したらしい。


「この依頼を受ける。お前の腕輪をこの依頼書に近付けろ」


「えっ?あ、はい!」


カレンさんの持つ依頼書に左手をゆっくり近付けると、腕輪に収まる空色の魔法石が光り、依頼書に何かが印字される。


「はい、これでこちらの依頼はメグミ様が現在の受注者となりました、この依頼の期限は受注後丸一日経過しますと、取り消しとなりますので、それまでに依頼を完了させて再度受付までお越し下さい」


「こちらも受注して置いた、2枚ともよろしく頼む」


「はい!こちらにて管理させて頂きます。それでは、お2人共お気を付けて!」


依頼書を重ねながら笑顔で手を振り、見送られる。


「冒険者初の依頼だ。気を抜くなよ」


「はい!!」



こうして、私の冒険者としての人生スタートした。





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