No.19 新しい服に身を包み
No.19 新しい服に身を包み
「お待たせ致しました!」
30分後私は、エリスさんとギルドの制服に身を包みグランさんの部屋に戻った。
白と黒を基調としたデザインで、襟や袖には赤いライン、ダブルの金釦が良く映える非常に格式の感じられるジャケット。
エリスさんの着ているスカートタイプを勧められたのだが、パンツスタイルを選択した。
スカートだと、いざと言う時に動きづらいからだ。
そう言えば、着替えの際鏡を通して分かった事なのだが、長時間魔物の血を浴びた弊害として、どうやら髪の色が赤く染まったままで・・・もう一度浄化魔法をかけて貰ったが、元の色に戻らなかった。
エリスさんいわく「私の魔法レベルでは出来ないのかも知れません・・・もっと上の、高位の光属性魔法でしたら、もしかしたら・・・」との事だ。
ちなみに光属性が使える人はかなり少ない上に、基本的に国の中枢である王都にしか居ないそうで、お力になれず・・・と。
前の髪の色に拘りは無く、単純に驚いただけだったので、過度に気を遣わせてしまった。
「おぉ!戻ったか!どうだーー・・・・・・嬢ちゃん、アレだな。身なり整えると普通の女の子だな。安心した」
「魔物とかバケモノと言う枠から出られて良かったです。お見苦しい姿をお見せしました」
丸数日水浴び、髪も整える方法が無いまま荒れ放題。鏡を見て初めて、かなり酷い状態だった事も分かった。
服も予想外に損傷していて、正直脱ぐ時にかなり苦労したし、ちょっと裂けたりもして、ギリギリ服の程を保っていただけの布は、エリスさんにお願いして処分の方向にした。
「いやいや、良く似合ってる!暫くは貸したままで良いからな!新しい服・・・装備関係を買うにも元手が必要になる。依頼を受けて、ある程度稼げるようになる迄は着ておくといい」
「良いんですか!!?助かります!!!」
無一文生活スタートで、このまま依頼を受けてお金を稼いだとしても、服を買いに行く服が無い状態。
腹を括って買いに行く日まで、外套を着たままずっと生活すると言うのも現実的では無い。
だが、これで心置きなく街の通りを歩ける。
衣食住の衣の問題が、皆さんのおかげで何とかなった。
「えっと、ちなみなのですが、今から行ける依頼とかはありますか?」
「え?今からですか・・・?!」
そう、日銭を稼がないと今日の晩御飯も寝る場所も確保が出来ない。
晩御飯代と、素泊まりの宿が飛び込みで行けるのなら、その料金分は何としても確保したい所。
「嬢ちゃん、それはやめておいた方が良い。じきに日が落ちる。夜は国内と言えど魔物の類は徘徊している、薬草集めすら一気に危険度が増す。今日の所は休んで明日から冒険者としての活動をするべきだな」
「えっ・・・でも、私本当に無一文で・・・せめて・・・あ!ギルドに倉庫のような場所はありませんか?!」
「倉庫?」
「はい!せめて屋根の下で休ませて欲しくて・・・木の上は安全は確保出来るんですが、寝心地はあまりよく無くて・・・地面で寝た方がまだマシな気がして」
「待て待て待て、倉庫を寝床にすんのか?!任務中に野宿するなら分かるが・・・宿ならギルの所に泊まれば問題無いだろ」
白羽の矢がまたしてもヴィクターさんに立つ。
ここ迄来ると流石にキレられてもおかしく無い。
「グランさんっ・・・流石にもうこれ以上ご迷惑をかける訳にはっ!私、雨さえ凌げれば床でも地面でも寝られますので!!」
床で寝られる、これは本当だ。
会社から家まで数分、追い込み時期はシャワーを一度浴びに家に帰ったが、玄関で倒れ込み、5分だけ・・・と目を閉じたら余裕で普段の起床時間だった事が割とある。
慌ててシャワーを浴びて、出社してまた仕事をするブラック労働生活の私からすれば、床はとはや布団と変わらないくらいには寝られる。
会社の硬いフロアタイルの上で仮眠した事もあった。
もはや床も地面も変わらないだろう。
「・・・そうだな・・・今から新人研修をするつもりは無い。任務は明日から行う。部屋は貸してやるから今日は休息を取れ」
「え゛?!」
「何だ不満か?俺の借りてる所は、手広い造りになっているから、1人泊めるくらいは可能だ」
「不満とかではっ・・・!ただその、良いんですか・・・?」
ほんの1時間くらい前迄は、私とこれ以上関わる事自体億劫そうだったにも関わらず、気が付いたら一晩の宿をお借りすると言う、目紛しい展開に脳が追い付いていない。
「まぁ、後見人に加えて師従関係の契約を交わした手前、お前に何かあったり、揉め事に巻き込まれた時の方が面倒そうだからな。早い話、目の届く範囲に居てくれた方がこちらも動きやすい」
「なるほど」
つまり要約すると『私の尻拭いする方が面倒くさいから、余計なトラブルを引き起こさずに、さっさと一人前になって巣立ってくれ』と言う事。
なるほど、簡潔明瞭で分かりやすい。
「では、ご親切に甘えさせて頂きます」
「あぁ」
今夜泊まる所も、とんとん拍子に決まってしまった。
「宿泊先も決まった所で、もうそろそろお開きに致しましょうか。分からない事や困った事がありましたら、また明日以降にいつでもいらして下さい」
満面の笑みで、エリスさんが告げたタイミングで、大きな鐘の音が外から響いた。
カランカランと鳴る音に驚いていると、グランさんが「もうそんな時間かー、ありゃ夕刻を教えてくれる鐘だ。ぼちぼちギルド館も閉めるか」
定刻通りに閉まる業務。なんてホワイト。
「ギルド自体は閉めるが、一階の食堂は暫く空いている。晩飯もそこで食えるがー・・・ジルはどうする予定だ?」
「いや、俺はレオノラに帰ってそこで夕食にしようと思う。マリーにも紹介しておかないといけないだろう」
「そうだなそれが良い!マリーによろしく伝えといてくれ!近々飲みに行くってな!」
「あぁ、伝えておこう。ほら、行くぞ」
「えっ!あ、はい!!えっと、本日は色々とありがとうございました!今後ともよろしくお願い致します!それでは、お先に失礼致します!!」
グランさんとの会話を終えたヴィクターさんは、あっという間に退室。慌ててドアの前で、残るお二人に一礼と挨拶をしてから、急いで追いかけた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「───嬢ちゃん、やっぱ良いとこの出なんだろうなぁ。若ぇ割にちゃんとしてやがる」
「ふふっ、かなり気に入られたようですね、お爺様」
「ギル以来の大型新人だ、大事に育ててやらんとな」
「そうですね」
鐘の音も終わり、2人の会話を静かな部屋だけが聞いていた。
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