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No.15 24時間働けます!


No.15 24時間働けます!



「嬢ちゃんの身の上は分かった!それよか、分からねぇのがよ、外にいる魔物が弾けるってのは何だ?クローベアを踏み潰したってのも、信じ難い内容なんだが」



これは、私にも原因が分からないので、説明方法も分からない。


「俺の見立てでは、異常に硬いスキル持ちでは無いかと・・・これを見てくれ」


どう伝えたものかと黙っていると、ヴィクターさんがゴトリと何かを応接台に置いた。

私が折ったあのお高いであろう剣だ。


「んー?これは、アレじゃねぇかドワーフの武器屋で譲って貰ったって言うミスリル製の・・・」


「こいつに折られた」


「はあぁぁぁぁ???」


剣と私を見比べて「いやいやありえねぇだろ」の顔を向けられる。


「ドラゴン種を切り裂く程の鋭利さと、硬度を誇ると言われるドワーフの叡智の結晶を、弾き手折ってみせた・・・事実だ」


「信じ難い話だな・・・だが、その話が本当ならモンスターを容易く倒すって内容に信憑性が増すな」


「あぁ、だから口で話すよりも連れ帰った方が良いと判断した。人か魔物の類いかも含めて精査する必要がある」


あ、そうだった、私が人間である事の証明はまだ済んでいないのだ。

敵意は無いと信じて貰えている気はするが、そこはまだ払拭出来ていない。


「そいつは、後で魔導装置で確認すりゃ分かる事だろ!それよか、嬢ちゃん・・・一戦交えてはくれねぇか?」


「・・・え?」


また聞き慣れない“まどうそうち”なる物が何か分からず、不安になった所で、耳を疑う提案をされた。

イッセンマジエテハクレナイカ?一戦?交えては?くれないか?

この人は今、私に何を要求している?


「ギルマス・・・」


「あ?駄目か?折角の逸材だぞ?ミスリルすら砕くその強さと戦える。元冒険者としちゃぁ見逃せねぇだろ!」


「戦うも何も、こいつは丸っきりの素人だぞ?アンタがやったら普通に死ぬ」


「そうかぁ?お前とはやり合えたんだろ?」


「それは・・・」


「戦うなんて無理ですよ!!」


かなり遅れて、2人に割って入る。スゴイカタイだけの私に何が出来ようか?

サンドバック待った無し!戦うなんて絶対に無理である。


「どうしても?」


「どうしてもです」


「そうかー・・・所で嬢ちゃん行く当てはあんのかい?」


「え?いえ、特には・・・これからどうしようかって思って」



突然違う話題を振られた。戦うって件は流れたのだろうか?

脈絡の無い流れに戸惑う。ここ迄死を覚悟していた為、生き残った後の事まで考える余裕が無かった。

再出発するにも、何の後ろ盾も保証も無い。生きていく術を今から探さなければいけないそんな状態の私だ。


「そうさなぁ、もし嬢ちゃんが俺と一戦交えてくれて、実力次第では雇うって事も出来るんだが―――」


「っ!ほ、本当ですか!?雇用して貰えるんですか?正社員ですか!?住み込みとか可能ですか??福利厚生はっ」


「お?即日雇用出来るぞ!住むところも無けりゃ斡旋してやる!どうだ?」


「やります!」


「おいっ!正気か?ギルマスは正直、手加減も手心も加えてくれない事で有名だ、現にギルド内でも手合わせしたやつの殆どが、ポーションで足らず治癒師送りになってる」


「その、ぽーしょんが何で、ちゆし送り?もよく分かりませんが、手合わせしたら即雇用ですよ?!書類とか履歴者とか複数回の面接とか、煩わしい事全て飛ばしてなんてこんなチャンス逃す訳にはいきません!」



兎にも角にも、今の私に必要な物!住む場所!生活の基盤!無一文脱出!これに尽きる。



「止めるだけ無駄か・・・どうなっても知らないぞ・・・」


安定を手に入れるチャンスの到来に闘志をメラメラと燃やす私を見て、ヴィクターさんは説得を早々に諦めたようだ。



「誰が、手加減知らずだ!ちゃんとハンデはやるぞ!そうと決まれば、こっちだ」


グランさんは嬉しそうに立ち上がると、入って来た扉とは別の扉の前に立つ。

おいでおいでと手招かれ、ヴィクターさんと近寄る。




開かれた扉の先には下へと続く階段があった。1番下まで行くぞと促され、先を行くグランさんの後を追う。


2階から1階に降りるにしては、段数がかなり多く、その階段が地下に続いているのでは?と思い始めた所で、グランさんが話し始める。


「言い忘れていたな!この先は俺のまぁ、鍛錬施設になってる地下部屋があるんだが、元々は避難用のシェルターとして造られた空間でな」


「避難ですか?」


「他国が攻めて来た時とか、後はスタンピードが起きた時に街の住人を避難させる用の物だ。とは言え、放ったらかしにして置くには勿体無いからな!俺の鍛錬施設として利用させて貰っている。造りが途轍も無く手が込んでて、ちょっとやそっとでは傷一つ付かない、打って付けの場所だ」


なに、ギルマスの特権ってな!ガハハハと笑う声が階段に響き渡る。

職権濫用の4文字が一瞬浮かんだが、放置され設備の老朽化のせいで使えなくなるよりは、こうして使用している方が、かえって良いのかもしれないなと思い直した。


「さて、着いたぞ」


最下層には一際大きく重厚な扉が待ち構えており、グランさんはゆっくりと押し開ける。


「おぉ・・・」


地下とは思えない広く天井の高い空間。例えるなら、東京の地下にある雨水を一時的溜める地下神殿の様だ。柱は殆ど無いが良く似ていると思った。



「よし、早速やるか!嬢ちゃんはそこに立ってな」


「はい!」


指差された方に向かい、位置に着く。



「さっき言った手加減だが、嬢ちゃんはその場から動かなくて良い」


準備運動をしながら、ハンデの説明を聞く。動かないで良い手合わせとは?



「俺が、嬢ちゃんに渾身の1発打ち込むから、受けてみてくれ」


「え?え?え?渾身の1発を受ける!!??」


「そうだ、俺の拳が嬢ちゃんに打ち勝つか、はたまた俺の拳が負けるか・・・勝負と行こう!」


ハンデ?ハンデとは??全然ハンデ感が無い気がするのだが・・・気のせいだろうか?


「おっと、嬢ちゃんはミスリルより硬ぇんだったな!ちょっと待ってくれ、確か・・・おーあったあった!」


そう言ってグランさんは、太腿にベルトで固定された小さな鞄から、どう考えてもそのサイズの鞄には入らないだろうし、どうやって出したのかと思う大きな小手?を取り出す。


ガチンッと仰々しい装着音が、空間に響く。



「ギルマス、手加減・・・する気があるのか?」


「おうよ!連撃はしねぇ、1発だけ撃ち込んでしまいよ!」


「「それ、手加減か?(ですか?)」」



私とヴィクターさんの声が綺麗に重なる。

そうですよね、雰囲気的にも手加減では無いですよね?


「よし!じゃ、行くぞ!!」


冷や汗が背を伝う私を尻目に、グランさんは床を踏み締め、飛び出す。


気のせいか、床にヒビが入った様な音が聞こえたと同時、もう目の前で振りかぶるグランさんを視界に捉えた。

動かなくて良いと言われたが、さすがにそのまま拳を喰らう訳にもいかないが、ズブの素人が下手に動いた結果、当たり所が悪くてそのままこの世とグッバイしてしまう可能性もある。


むしろ、上手に当てて貰えた方が逆に安全?かもしれない。手加減をするとはそう言う意味合いだったのかも?



僅かな間に導き出した答えは、ヴィクターさんの初撃を耐えた時のように、腕でガードしてーーー・・・


「っ!!!!?」


ガァァァアンッ!!!!


だが腕を持って行く間もなく、グランさんの拳は私の胴を穿ち、私は後ろに吹き飛んだ。


近距離にいたはずのグランさんが、どんどん小さくなる中、今度は背中に衝撃が走ると、私の体は後退を止めた。そこで地下室の壁にぶつかった事で、止まったのだと分かった。



「────ビックリした・・・」


ヴィクターさんに斬りかかられた時とは、比べ物にならない。身体全体を丸ごと吹き飛ばす程の拳。痛みよりも身体を突き抜ける衝撃の方が凄まじい。


当たった所が鳩尾では無かった事が幸いか、この世界に来てから何一つ入れて無い空っぽの胃が苦々しい液を迫り上げる所だった。



「うっ…でも、ちょっとクラクラする…」


ヒビの入った壁を使い、ゆっくりと立ち上がると、衝撃で筋肉が強張っているのか足は覚束ず、三半規管が狂った様で、少し目眩がした。



「・・・・・・・・・」


「いや、驚いた・・・普通なら胴を中心にその場で弾け飛ぶか、壁に叩き付けられて瀕死状態になるくらいの一撃だったんだが・・・」


「えっ!?」


グランさんの発言に耳を疑う。その瀕死間違い無しの力で私は殴られたと言うのか?

しかもその口ぶり、誰かしら何かしらの犠牲が私以外に出ている前提の想定だ。


首の皮繋がったと思わせておいて、気を抜いた所で、再度命を賭けたもうひと勝負・・・

2段構えに用意された企て。

いやもしかすると、もう1段階何か命の危機が用意されているのかもしれない。


「おう?どうしたよ嬢ちゃん、そんな警戒心丸出しの目は」


私の疑う様な視線に、バツの悪そうな反応をされる。


「いえ・・・」


「いやー、しかしあの一撃を喰らって傷一つ無いとは、ジルの言う恐ろしく硬いって話も頷けるな!ますます気に入った!」


「ありがとうございます?・・・あれ?と言う事は」


「おう、嬢ちゃんをウチで雇ってやる!」


「本当ですか!?嬉しいです!!何でも任せて下さい!!雑用・清掃・食堂の皿洗い何でもやります!!24時間働けます!!!」


雇って貰えるなら、何だって良い!前世の仕事のスキルは恐らくここでは役に立たないと踏んで、アルバイト時代に培った裏方業務だったら即戦力になるはずと息巻く。


「その意気だ!!嬢ちゃんにはウチのギルド所属の冒険者になってもらう!!」


「はい!!────・・・はい?」


この世界で生きて行く為の第一歩、就職先が決定した・・・訳なのだが、聞き間違いだろうか?冒険者になってもらう?


「すみません、聞き間違えでしょうか?今、冒険者とか言う単語が」


「ん?合っているぞ?嬢ちゃんを裏方にしとくのは勿体無い!ジルの攻撃を退け、俺のアレを受けて、この程度のダメージ。とんでもねぇ逸材、いや原石だ!」


「しがない社畜サラリーマンの私がいきなり冒険者?なんて無理ですよ!!何の経験も無いんですから!」



雇用先が変わるだけかと思いきや、とんでも無い人員配置だ。未経験歓迎!とかそう言うタイプの配属先では無いと思う。



「なぁに!経験ならこれから積んで行けば良い!誰しも最初は未経験だ!」


「あ、社畜時代に嫌と言う程聞いたセリフだ・・・」



新人が来る度に上司も同僚も言っていたし、私も励ます時とかに使った。当然私が新人の頃にもよく言われた言葉だ。

まさか、異世界でも言われるとは・・・



「そうと決まれば、部屋に戻って手続きするぞ!」



出入り口の扉に向かうグランさんは、後ろ姿からでも分かるくらいに意気揚々としていたし


「お前・・・これから、多忙を極めるぞ」


いつの間にか横に立っていたヴィクターさんは、憐れんだ顔をしていた。





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