No.14 デット・オア・アライヴ
No.14 デット・オア・アライヴ
「────さてと・・・ジル、緊急依頼ご苦労だったな・・・」
「あぁ」
「依頼の概要はザッと目を通した、護衛代をケチったのは上の指導不足な訳だが・・・まぁ、商業ギルドのやつらに貸し1つってな!!」
「・・・それはいつも我々、冒険者ギルド側が言われている嫌味だぞ・・・」
「細けぇ事は良いんだよ!それでだ、そこの威勢の良いフードは、新しいペットか何かか?」
豪快で屈託の無い笑顔から一変、ギラリと威圧のある目がこちらに向けられる。
先程までの雰囲気とは真逆の、背筋を震わせる・・・これは数時間前にも味わった、殺気だ。
これが"得体の知れない何か"を強者が見据えると言う事なのかも知れない。
「ペットな訳無いだろう・・・受付にも軽く伝えたが、今回の依頼にあった正体不明のバケモノが、こいつだ」
「あっ・・・」
被っていたフードを取り払われ、私の目と殺気の籠った目が直にかち合う。
それから相手は瞬きを1度、かたや私は込められる殺気にのまれないように、必死に目を見開く。瞬きなんてする余裕は無い。
「・・・・・・・・・コレが?バケモノ?」
ナイスミドルの問い掛けに、彼は無言で頷く。
「・・・・・・・・・」
「・・・フッ・・・ワハハハハハハハ!!!こんな小さい奴がバケモノと来たか!!!商人も、えらく話を盛ったもんだなぁ!!!」
今日1番の大きな声で笑うナイスミドルからは、殺気はさっぱりと消え失せ、私はその姿に呆気に取られる。
「・・・首の皮繋がって良かったな」
「ひゅっ・・・」
やはり、あの殺気は本気で私が何者なのかを見ていたと言う事だ。
『熊に出会ったら目を逸らさない事、慌てて逃げ出さない事』昔、田舎のお婆ちゃんの家に遊びに行った時に教えられた言葉だ。
目を逸らした瞬間に自分が狩られる立場になる。
それと多分同じ状況だった・・・目を逸らさなくて本当に良かった。
「試して悪かったなぁ!嬢ちゃん!!大概の奴は、殺気飛ばした段階で逃げようかと身構えたり、戦闘体制に入ったり、泡吹く迄はいかねぇも、失神するなんて者も居てな?負けじと睨み返して来るとは中々肝が座ってるな、気に入った!!」
「・・・良いように言ってるが、入室直後のアレで、結構気に入っていたんじゃ無いか?」
「おいおい、余計な事言うんじゃねぇよ!」
未だに脱力したまま、2人のやり取りを眺める。
これが、冒険者同士のファーストコミュニケーションと言う事だろうか?
常識を書き換える必要がありそうだと思ったが、そもそもこの世界の常識は初めから別物なので、書き換えると言うより、旧常識を捨てて新しい物として受け入れた方が早そうだ。
「じゃあ、改めて自己紹介だ。俺の名前はグラン=フェルゼン、レオニア王国西方都市シルビアにて冒険者ギルド『フォートレス』のギルドマスターを任されている。・・・と、まぁ、名前に家名がついてるが、ギルマスになる前に箔付けがてら貰ったもんでな、しっくり来やしねぇから、グランで覚えてくれ!」
「よろしくお願いします!私も改めまして、ヒイラギメグミと言います。私も家名と言いますか、苗字がありますが、メグミと呼んで頂けたらと思います」
「ほー、良いとこの出か?」
「そう言う訳では・・・」
「転生者らしい・・・恐らく異世界からの」
「これは驚いた・・・そう言うやつが稀にやって来るってのは聞いた事はあるが・・・俺も50年生きてて初めて見た」
転生者と言う絶対的な自信は無いが、彼が言うにはそうらしいので、今後の説明でスムーズに進むならばそれでも良いかと考えながら、ふと彼の名前を知ら無い事に気が付いた。
よく考えたら、今の今までお互いに自己紹介をしてい無いのだ。
得体の知れ無い存在に、自己開示を行うつもりが無いと言う話なら仕方が無いが・・・
「あの・・・ジル・・・さんで、良いんですよね?お名前をきちんと聞いても良いですか?」
「・・・あぁ、そうか言われてみれば、俺も今お前の名を知った」
「何だお前達、互いの名を知りもしねぇで帰って来たのか??」
彼と出会ってから、生きた心地がしない時間が続いていたせいもあり、"名前を聞く"と言う初歩的な会話すらしていなかった。
話しかける時も「あの・・・」とかそう言う切り出し方で、事足りていたせいもあるかもしれない。
「あー・・・ジルニード=ヴィクターだ」
「・・・・・・なんだ、それだけか?!」
「他に言う事も無いだろ」
シンプルかつ最低ライン。これは、恐らく今日限りの一見さんの括りに入っている
数時間の道のりを共にしただけの、偶然知り合った行きずりの間柄だ。
このくらいの距離が丁度良いのかも知れない。これで良いのだ、一期一会と割り切る。
「ったく、お前はよぉ・・・で、嬢ちゃん転生者ってのは本当か?」
「恐らく・・・ヴィクターさんが言うにはそうなのでは無いかと・・・」
「話を聞く限りでは、転生者としか考えられない。俺も詳しい訳では無いが・・・」
「その、禍々しい見た目も初めて見たが、転生者ってのは、そう言う人間離れした雰囲気なのが一般的なのかい?」
繁々とこちらを熟視しながら、グランさんは無精髭の生えた顎を片手でなぞる。
禍々しい見た目・・・何の事だろうと首を捻ったが、全身に浴び、赤黒くなった血を思い出した。
「こっ・・・これはアレです!大きな熊を踏み潰してしまいまして、返り血を浴びただけと言いますか!」
「どう言うこったい」
「順を追って説明する・・・」
改めて、私がこの世界に来た時から起こった出来事を、ヴィクターさんに補助して貰いながら伝える。
突然この世界で目覚め、行く当てもなく歩き続け、道すがら変な生き物に襲われるも、何故か無傷。やっと出会えた人を助けたらバケモノだと恐れられ、誤解は解けないなま途方にくれていると、今度は突然斬りかかられ、何とか生き延びたと思ったら、一炊の夢で。逃げれば追われ、対峙すれば相手の裁量次第の命。
言葉にして説明すると自分でも訳が分からない状況だなと再認識した。
「何ともまぁ・・・同情するぜ・・・」
「ありがとうございます・・・」
今の私には、その同情の言葉がひとしおに沁みる。
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