No.12 いざ、入国!
No.12 いざ、入国!
「そろそろ、国境検問所だぞ」
「っ!」
荷車と共に街へ歩みを進める間、私はずっと面接のシミュレーションをしていた。ブツブツと独り言を言い続ける様はさぞ不気味だっただろう・・・現に彼は、今の今まで話し掛けて来る事は無かった。
完全に自分の世界に入っていたが、上から聞こえて来た声に顔を上げる。
「凄い・・・壁がずっと続いてる・・・」
「まぁ、国と国の境目だからな。この検問所を過ぎれば、レオニア王国に入る」
道の先にある大きな扉を中心として、左右に大きな壁が走っている。
登って国境を越えるのは不可能なくらいに、壁は空に向かっても伸びている。
「検問所では身分証が必要になって来るが、お前は無いだろうから捕虜として扱わせて貰うぞ。その方が話が通し易い」
「構いませんけど・・・捕虜って具体的にどうしたら良いんですか?」
「少し準備をするから、こっちの木の影で馬を降りる」
手綱を引き、右に行くように指示すると、馬の進行方向が街道から右に逸れた。
木の後ろ側、壁から見えない角度で馬を降りると、彼は鞍に付けていたバックを漁り始めた。
「取り敢えず、この拘束具を装着してくれるか?・・・・・・本来なら装着後、ここに魔力を込めて服従状態にするんだが、そこ迄は必要無いからな。そのフリだけしていろ。大人しく着いて来れば、そう言う風に見える」
そう言って、私に半円の形をした金属を手渡して来た。
鎖も何も付いていないソレの付け方が分からずに首を傾げていると、彼は自分の首の辺りをトントンと指差す。
あ、首輪か・・・・・・何だか犬みたいだな…と思いながら首に近付け肌に触れた瞬間、半円だった金属がガチンッと音を立て後ろ側が閉まり、輪っかになった。
どう言う仕組みかは分からないが、何も無かった残りの半円が中から出て来たみたいで、急な圧迫感と重みが首に伸し掛かる。
「検問を通過したら外して良い。少しの間違和感はあるだろうが・・・」
ここ迄拘束具無しで来れたのは、彼なりの配慮だったのか。
第一印象が出会い頭に切り殺されそうになった為、容赦の無い無頼漢かと思ったが、案外と温情のある人なんだなと思い直した。
「準備が出来たから、検問所に行くぞ。フードはちゃんと被っておけよ?」
ここからは馬を降りたまま歩いて行くらしい。コクリと頷き、馬を引く彼の後を追う。
次第に近付く検問所に心臓が早鐘を打つ。
彼は何も言わなかったが、ここで私が疑われて攻撃されるなんて事はあるのだろうか?
そもそも、ぎるどに着く前にジ・エンドなんてパターンも全然あり得るのでは?
前を歩く後ろ姿を見つめ、捕虜ってどう言う扱いを受けるんですか?と、そう先に聞いておけば良かったと後悔した。
目と鼻の先に着てしまった今、それも叶わない。変な動きをして疑われるのは避けたい。
せめてもと、体を丸め彼の後ろにピタリと付く。
「止まれ」
閉ざされた扉の前で、左の門番が私達を制止する。
「昼前に依頼の関係でここを通った。ギルド・フォートレスト所属の冒険者。ジルニード=ヴィクターだ。依頼を終えて帰還する」
「これは!ヴィクターさんでしたか!依頼お疲れ様です!すみません、交代時間の関係で、あなたが出られた時と門番が変わっていまして!」
馬の影で彼の顔が見えなかったのか、名前を伝えると向かって右側の門番が、慌てて態度を和らげる。
「こいつ新顔なもんで、ヴィクターさんと分からなかったんですよ・・・!よく言っておきますので!」
「いや、構わない」
そう言い、左の新人の頭を押し下げる。新人営業マンの外回りの研修みたいな・・・
常連や顔馴染みの取引先相手に紹介するアレだ・・・
「これから先、依頼の度何度も会う事になる。今後ともよろしく」
「はいっ・・・!よろしくお願いします!」
どこかキラキラとした眼差しで、元気に挨拶をする様子をフード越しに覗きみる。
とても若い、まだ10代くらいに見えた。そう言えば、ぎるども16歳からなれると言っていたから、この門番もそのくらいなのかもしれない。
こんなに若くして・・・立派だ・・・!30歳手前の私からすればひと回りも違う訳で、何とも感慨深い気持ちになる。
「所で、身分証の提示が必要だろう?」
彼は左手を門番に翳す。背後からは見えないが、何かを見せているらしい。
「あーいやいや!大丈夫ですよ!本来なら、身分証を魔導装置に翳さないと駄目ですが、ヴィクターさんを今更確認なんて要りませんって!」
あ、それで良いんだ。国境だって言うからどれ程厳しい物かと想像していたが、要らぬ心配だったようだ。
これなら、私もすんなりーーーー・・・
「それより、だ・・・後のお前。それで隠れているつもりか?」
明るく気前の言い声が一転。殺気漂う怒気を孕んだ声にビクリと肩を揺らす。
「妙な臭いがするな・・・獣の類いの・・・・・・お前、ヴィクターさんの後ろにくっ付いて国境超えとか企んでるんじゃねぇよな?」
先程迄の穏やかな雰囲気は何処へやら、私への当たりがおそらく門番たる職務を全うする姿なのだろう。
駅の改札で前の人にくっ付いて強行突破する、犯罪行為に似た容疑を掛けられてしまった。
「ちがっーーーー「いや、こいつは俺の連れだ」
あらぬ容疑を掛けられ、思わず否定しようとした瞬間止められた。
“大人しく付いて来い“・・・・・・そうだ、私は捕虜と言う立場なのだから、黙って静かにしておかねば・・・。
「ヴィクターさんのお連れで・・・?」
「いや、正確には捕虜だな。任務の過程で捕縛した。ギルドに連れ帰って、報告するついでにギルマスに引き渡す予定だ」
「そう、でしたか・・・・・・」
門番は剣の柄に手を添えたまま、訝しげに目線を私と彼とで行き来させている。
「あぁ、従属の拘束も施してある。コレがある限りは下手な事は出来ない」
「ーーーっ!」
ツイっと振り返り、彼は俯き気味だった私の顎を掴み上げる。
露わになった首元で鈍く光る首輪。
「これは従属の首輪っ・・・・・・そうですか・・・それでしたら、我々が手を下す必要もありませんね」
「すまないな、当然だが身分証も無い。俺の連れと言う事で目を瞑ってくれ。何かあれば俺が全責任取る」
「ふーーー・・・仕方ありませんな・・・・・・今回だけですよ」
長いため息の後、頭をガリガリと掻きながら悪い笑みを浮かべる門番を見て、そこでようやく私に対する敵意は解けたのだと分かった。
「助かるよ。そうだ・・・これ良かったら皆で、仕事終わりにでも飲んでくれ」
首輪を出した時と同じバッグから、大きめのボトルが3本門番に手渡される。
お酒の類いだろうか、見逃してくれる賄賂・・・いや、お礼としてか・・・・・・
「よし、入国するぞ。着いて来い」
扉の開いた門を潜る彼の声に頷いて、追い掛ける。私の後に続いて、風で浮いたままの荷車も無事国境を越えた。
我々が少し遠ざかった頃合いで、後から歓喜の声が聞こえる。きっと良いお酒だったんだろうな・・・前に上司に良いお酒を振る舞われた同期が、似た様な盛り上がり方をしていたなぁ・・・フードの中で、ふふっと笑う。
「あの丘を越えたら門から見えなくなる、そこから馬に乗る」
門を潜った先は、上手くは言えないけれど、外と違う空気の気配がした。
それ迄感じていた四方八方から何かに見られていたり、狙われている感覚が離散し、肩を撫で下ろす。
彼と合流した後に、実は1人で居た時に無意識に感じていたらしい、その何とも言えない感覚が大幅に減った事に気が付いたが、それが更にだ。国が変わるとこうも違うのか、門の中は更により安全だと思えたのだ。
「何だか、ザワザワしていた感覚が減りました・・・これって、この国が安全って事ですかね・・・?」
「・・・違いが分かるのか・・・?確かに、現国王の国における政が安定して国民に受け入れられている。加えて領主との連携が機能している面と・・・後はまぁ、ギルドにかなりの自由が与えられているからな、治安も悪く無い。危険度の高い魔物も街道付近にそうそう現れない。何かあれば直ぐに冒険者が対処するからな」
「良い事尽くめじゃないですか!」
変な生き物は沢山いて、しかも攻撃的。かなり住み難い世界なのかと思ったが、話を聴く限り、この国は住みやすい環境が整っているようだ。
これで、私が面接を上手い事切り抜けられれば、待ちに待った新生活が始まるはず。
「そろそろ良いだろう。馬に乗れ、街に向かう」
話し込んでいたから気が付かなかったが、門からもうこんなに離れた所まで来ていた。
門に来るまでの時もそうだったが、鞍に付いている鐙の位置が結構高く、上手く馬に乗れない。前回同様、モタつく私の腕を掴んで上まで引き上げられる。
「度々すみません」
「構わない。行くぞ」
彼が軽くブーツの踵を馬の腹に添わせると、ゆっくりと馬が歩き出し、合図をすると次第に速歩に変わった。未だに慣れない、馬の上下する揺れに同調する様に身を委ねる。
「街まで、20キロ程だ。馬の状態次第だが、夕暮れ前には着く」
「分かりました」
いよいよ、私は生死をかけた面接に挑むのだ。
この数時間は1秒たりとも無駄に出来ない・・・
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ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
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引き続き頑張って行きます( ´ ▽ ` )




