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No.10 死人では無い?


No.10 死人では無い?





歩き始めて早々に荷台の場所に着いた。その間終始無言。

背後に人が居る安心感と、いつ彼の気が変わって斬りかかられるか分からない眉唾関係に生きた心地がしなかった。



「ここで、おじさんが熊に襲われていたんです」


無言のまま彼は荷台をグルリと一周。

熊の死体が無い事をどう説明したものか・・・踏ん付けたら四散したので跡形も残っていません。は、やはり苦しいか・・・。でも本当にこれしか言えない。


「信じられないと思いますが・・・」


「いや、信じる」


「そうですよね、信じられないですよねーーー・・・・・・え?」



今何と言った?聞き間違いだろうか?



「もう一度良いですか?」


「ここにクローベアが居たと言う言い分を、信じようと言ったんだ」


「信じて貰えるんですか!?何で!?」


「クローベアの生息地はもっと北の・・・ドワーフの領地の更に奥。本当ならここには居ない筈なんだが、ただ、ここを見てみろ」


荷台の車輪部分を指差され、目線を向ける。壊れて外れかかっている車輪。


「ここの車輪部分に大きな爪痕がある。このサイズと爪痕の本数を見るに、クローベアに間違い無いだろう・・・あの商人クローベアの話はしていなかったが・・・」


「おじさん・・・私が怖過ぎて、熊の事忘れちゃった・・・?」



そうだよね、あの時のおじさんの絶叫ぶりは、熊より私の方が数段大きかったもんね・・・

命を狙われていた熊を踏ん付けて倒した、謎の存在・・・バケモノと叫ばれても致し方無いのかも・・・



「所で、クローベアーをどうやって倒した?」


「あーー・・・えっと、そこの崖からジャンプして、本当なら地面に着地するつもりが、勢い余って熊の頭の上に降りてしまって・・・・・・踏ん付けたら熊は弾け飛びました・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・聞き間違いか?」



眉を寄せ怪訝な表情。目付きも心なしか厳しくなっている。やはり、ここの説明が1番の難所か。



「私の体重で、熊は死にました・・・」


「すまない、意味が分からない・・・」



眉間に指を当てて、私の言葉を理解しようと努めてくれているのが分かる。

だが、捻りようも、大袈裟に伝えようも、嘘を並べようも何も出来ない、これが確固たる事実なのだ。



「私の少ない経験則からお話すると、この世に来てから様々な生き物に出会いました。半透明で色とりどりのプルプルに、大きな蜂、鋭利な鎌のカマキリ・・・それから大きな角の鹿・・・」


「・・・半透明のプルプル?スライムの事か?大きな蜂はキラービーで、鎌はシックルマンティス・・・大きな角の鹿はーーー…」


「出会った生き物達は、何かと私に向かって敵意を向けて来るんです」


「街の外は彼ら魔物の縄張りが多いからな、街道以外は基本人を見ると襲って来るのは常識だろう?」



なるほど、“街道以外の場所は生き物の縄張り”はこの世の常識。覚えておこう。



「その生物達なんですが、私とぶつかると当たり負けするみたいで・・・ここ迄かなりの数を粉砕してしまいました・・・」


「は?」


「この世の生物は、とても脆く儚い存在なんですね・・・・・・生態系を壊さない様に、以後気を付けます・・・・・・」



私のここ2日のしでかしを懺悔し、ここの生き物と上手く共存する術を教えて頂けたら有り難い。



「・・・・・・何から言えば良いのか・・・・・・まず、この世界の生物は別段脆くも儚くも無い」


「え?そんな筈は・・・だって私がぶつかったくらいで、その・・・死んじゃうんですよ?」


「その前提が間違っている可能性は?・・・お前自身が規格外に堅固だとは考えられないか?」


どう言う意味だろう・・・私は残業続きエナドリ漬けのただの不摂生人間だ。

死んでこの世に来たからと言って、そう身体の強さは変わらないと思うが。



「納得いかない、そう言いたげだな。さっきお前が砕いたこの剣だが、ミスリルを用いたドワーフ製の特注品だ」


「・・・?それは、お高いんですか?」


「価格は・・・まぁそれなりだが・・・問題はそこでは無い。ミスリルと言う鉱石は、ドワーフ独自の鍛造技術でしか加工が出来ない代物で、そうそう壊れる物では無いが・・・それを素手で破壊した」



ミスリルやドワーフと言った単語はよく分からないが、壊れ難い剣を私が壊してしまった。ここだけは理解出来た。


「付け加えるなら、コレはドラゴン種すら傷を負わせられる。そのレベルの物なのだが・・・・・・再び聞こう。お前は本物に人間か?」


「ドラゴン!?ドラゴンが居るんですか!ここ!!」


「質問を質問で返すなと言われた事は?はぁ・・・かつては居たらしい。一説では、まだ何処かに存在しているとも言い伝えられている」



「すみません・・・ドラゴン見た事無くて・・・生前はおとぎ話とか絵本でしか・・・」


「いや、実際に見た者と言う者を俺は知らないし、国内でも信仰・・・伝承の類いだ」



この世は、見た事の無い生物が溢れ、かなり現実離れした世界らしい。

そう言えば、まだマトモな動物とか見てないな・・・フワフワの可愛い兎ちゃんとか居てもおかしく無い景色なのに・・・


「ちなみに、兎とか居ますか?こう・・・フワフワした・・・」


「ウサギ?いるぞ、フワフワしていると言う表現が正しいか分から無いが、額に大きな角が生えていて、かなり好戦的かつ凶暴。ギルドの依頼によく上がって来る、畑の厄介者。だがアレは焼くと美味い」


あ、多分私の知っている兎じゃ無さそう。

そうか、もう知っている動物は居ないと思った方が良さそうだ。



「・・・さっきから、意味不明な発言が多いが、やはり人間に擬態した魔物は、その辺りの知識も疎いのか?」


「あ、えっと・・・すみません、私のせいで脱線してました。話を戻しますね。まず、私は人間ですーーー・・・いや・・・“人間でした”が正しいのかな?」


「“人間でした”とは?」


私は今日この時までの経緯を彼に話した。


生前、私は人間で、おそらく過労が原因で死に、気が付いたら此処に居た事。

私が思うに此処は死後の世界で所謂、あの世ではないかと言う事。

全く知らない景色の中、私以外の死人が何処かに住んでいるのでは無いかと思い、彷徨って居る事。

彷徨っている最中に変な生き物に襲われつつも、何とか生き延びて居る事。


説明しながら自分で現状を一つ一つ確認して行くと、本当に何で生きて居るんだ?

と言う感想しか出て来ない。

死んで、ここで意識を取り戻して、また死ぬなんて事・・・ならば、ここで死んでしまったら次は何処へ辿り着くのか。



「成る程な・・・大体の経緯は分かった、取り敢えず言わせて貰うが、俺達からすればここは死後の世界では無い。お前の世界では死後の世界が存在するのかもしれないが、俺達の世界は違う。死んだ後は一度大地のに還り、数年或いは数十年いや数百年の間、眠りに付き順番が来たら転生し、この世界に再び生を受ける」


「転生・・・」


「そうだ。もしもお前が自分の世界で死んだ後、ここに転生と言う形で産まれ落ちたのだとして、そちらの価値観に合わせるなら、死後の世界=転生世界と定義しても良いのかもしれないが・・・」


別に確固たる理屈がある訳では無い。漠然と“死んだらあの世へ行く“と言う風潮を踏襲しただけの考え方だ。

だって、死んだ後どうなるかなんて、誰も知らないし答えられないのだから。



「少なくとも俺達は、ここで赤子として産まれ、歳を重ね老いて死んだ後、またこの大地を踏む。そこにお前が何らかの形で割り込んで、死後の世界としてここに転生した・・・と考える方が自然だと思うが・・・どちらにせよ、死人として暮らしている訳では無い」


そうか、ここは死んだ後のあの世なんかじゃなくて、私は何かしらの理由で別世界に転生した。

見た事の無い物ばかりなのは、全くの別世界なのだからと納得する。



「それでだ、繰り返しになるが転生したとして、魔物達を最も簡単に屠り、俺の剣を砕いて見せた・・・お前は何者だ?」



「えー・・・あー・・・うーーーん・・・・・・分かりません」


「・・・・・・・・・」


分からないものは分からないのだ。





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