第一章 其の七 異世界の武具と東の大陸
異世界転生して数日。あれよあれよと騎士団の指南役に就任してしまった。
今日からは騎士団の寮で暮らすことになる。
家族持ちの殆どは家から、いわゆる通勤をして騎士団で働いているが、一人暮らしの一部や若年層は寮組が結構いる。
まぁ、生活費が安いからね。ここは異世界といえども現代と同じなんだな。
「コンコン、私だ、アラーナだ。ライル君いるか?」
「開いてますよ。」
返事をするとカチャリと、ドアが開く。普段の重厚な鎧と違い。改装だが金属の胸当てと手甲を身につけ、きちんとした装備をしているようだ。髪型も一つにまとめてポニーテールになっている。
うーん、それにしても美人だ。この人が騎士団の団長だとは初見では誰も気がつくまい。
「どうかしましたか?」
「ライル君、少し時間あるかな?暇なら武具を見に行かないかと思ってな。」
「武具!?行く行く!行きますとも!」
俺用の武器や防具はまだない。訓練用の木でできたものしか使ってはいなかったから、いよいよ真剣を使えるのかと思うと年甲斐もなくワクワクが止まらない。
「そんなに喜ばれるとなんだかこちらまで嬉しくなるな。」
言葉通り。にこやかな表情をしていて嬉しそうだ。
「近くにあるの?」
「あぁ。それほど遠くはない。徒歩で20分位だろうか。騎士団お抱えの鍛治師がいる店があるんだ。」
「へぇ。お抱えか。やっぱり騎士団というだけはあってこだわりがあるんだね。」
「そうだな。それに君は指南役だ。量産品のブロードソードやクレイモアを持たせるわけにも行かんだろう。だからとびっきりの特注品を打ってもらおうと思う。それに何より邪教徒の残党と戦う時にも助けてもらいたいからね。支払いは騎士団で持つよ。」
「いや、なんかそれは申し訳ないから俺の給料から引いてもらいたいけど…」
「いや、半ば強引に指南役を受けてくれたお礼だとでも思ってくれると助かる。」
「うーん。わかったよ。じゃあお言葉に甘えて。」
そう言いつつ相場もなにもわからないんじゃ自分で支払うも何もないよな。
「そうか。それならよかった。では早速行こうか。」
生まれて初めて鍛冶屋に出向くな。
前世では刀剣屋か刀鍛冶の所にしか行ったことなかったし、江戸時代とかの甲冑はあったけど、実際に着て戦ったこともなかったな。
西洋風の美しい街並みを見ながら街を歩いていく。
美男と美女の二人が並んで歩いているのを多くの人が眺めてくる。いや、アラーナのことは知っている人も多いだろうが。俺が珍しいのだろう。
慣れない目線に晒されてかなり恥ずかしい。
「どうした?何か困り事か?」
俺の表情に気がついたアラーナが心配するように声をかけてくる。
「あ、いや、なんでもない。ただ、少しだけまだ街に馴染めてないだけだよ。」
嘘は言っていない。馴染んでないのは本当だ。うん。
「そうか、それならばいいんだ。もし何かあったら遠慮なく言ってくれ。」
「もちろん。その時は相談するよ。」
そうこうしていると鍛冶屋に到着した。
木でできた大きな看板が掛かっている。
「鍛冶ダフネ」
中からは鉄が焼けるような匂いと金槌の音が聞こえてくる。武具を鍛えているのだろう。
「さぁ。入ろうか。」
アラーナが扉を開けるとそこには美しい武具が壁にかけられ、商人が品定めをしていた。仕入れだろうか。
「ダリル!いるか?」
アラーナが叫ぶと、しばらくしておくから背は低いが筋骨隆々で、髭のおっさん?が出てきた。もしかするとドワーフとか?
「おぅ、アラーナじゃぁねぇかよ。なんだ?また剣を折ったのか?お前は使い方が荒すぎるんだよ。普通の鋼じゃぁお前に打ってやってもまたすぐに折っちまう。」
「あ、いや、違うんだダリル。今日はこの青年の武具を打って欲しくてきたんだ。」
「ほぅ?新入りか?見た感じ、顔つきも、体もきゃしゃで騎士には見えんがな。」
「彼はライル。騎士団の指南役だ。」
改めて他人に紹介されると恥ずかしい役職だ。
「彼はダリル、この鍛冶場のオーナーで国1番の鍛治師匠だ。」
国1番とは人間国宝級ということだろうか。
「初めまして、ダリル殿。ライルと申します。」
ダリルは日替わり触りながらじっとこちらを見てくる。何か思うところがあるのだろうか。
「それで、どんな武具がいいんだ?」
ぶっきらぼうな感じだがその目には何かが見えているかのようにこちらを見ている。
「先ずは武器ですが、刀が欲しいですが今並んでる中にはないみたいなんです。」
「刀?あぁ、剣の類で反りのある片刃の剣か。俺らは湾刀って言ってるよ。」
「本当に!できるんですか!?」
「あぁ、80年くらい前に東の大陸から来た奴が待ってた。初めて見るからな。俺は頼み込んで見せてもらったのよ。んで、何度か試行錯誤して打ったが中々いいものは出来なかった…俺は満足できるものしか売らん。いつになるかは約束できんぞ?」
「もちろんですよ。それでお願いします。」
よし!これで刀が扱える。剣も悪くないけど反りがないと使いにくいんだよね。
「次は防具ですが、できるだけ動きやすくて軽いものが希望です。手甲や脚半は体術も使うので武器になるくらい硬いものが良いですかね。」
「ほぅ。そのきゃしゃな体で体術も使うのか。騎士団の指南役にしては異色だな。」
ダリルはアラーナに目をやり何かいいたそうだ。
アラーナは気にせず剣をまじまじと眺めている。
「まぁ、わかった。じゃ、刀の寸法はこれに書いてくれ。あとはそっちで体の測定だ。ウチの弟子が測る。」
「ありがとうございます!」
頭を下げ。礼をする。
「!お前、東の大陸出身か?」
驚いたようにこちらに質問を投げる。
「いや、違うんだダリル。彼は東の大陸に影響されてるだけでこの国出身だよ。」
東の大陸か。刀に似た武器もあるみたいだし一度行ってみたいな。
「まぁ、いい。また連絡してやるから待ってろ。防具の方が早いだろうがな。」
「ありがとう。」
そう言い残すと武具を心待ちにしながら店を後にした。
「ところでアラーナ、東の大陸出身だと何かまずいのか?」
帰り際にアラーナにふと気になることを聞いた。
「あぁ。その事か…東の大陸から人が来ること自体珍しいのだが、その人に紛れてオニと呼ばれるものが紛れている事があるらしい。私も見たことはないがな。」
「オニ?もしかして鬼か?角とか牙とかある?」
日本の鬼と発音が一緒で混同する。
「知っているのか?そうだ。人だと思っていたら突然姿を表して人を食い殺すらしい。だから東の大陸から来る人間は警戒される。」
「なるほど。では俺が頭を下げて礼をした時に皆驚いていたのは東の国の礼と、同じかあるいは似ていたからか?」
「ふふ。さすがだな。もう言わなくても理解しているようだな。」
「なるほど。では頭を下げるのはやめておくか、騎士のみんなと同じようにやろう。」
東の大陸と刀、そしてオニ。何も起きなければ良いが。




