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第一章 其の五 酒の席と武術と策略

 怪しい診療所の爺さんに嘘がバレて結局は転生者であることを明かしてしまったが、あまり気にしていないらしい。


 しかし、いきなり酒とはこの世界の感覚はよく分からないな。普通なら食事というはずなのだが、皆酒豪なのだろうか…。


 酒場に着くとそこには様々な人たちが食事と酒の様なものを飲んでいる。鎧を着て剣を腰にぶら下げた人や、いわゆる人間とは違う見た目の人?たちもたくさんいた。

 ネコミミと尻尾のウエイトレス。トカゲの様な見た目をした人。犬耳の大男。明らかに魔法使いの様な服装の女性。バニーガールの格好をした剛毛で屈強な男性…。人の趣味をとやかくいうつもりはないが…。


 俺がその賑わいと多種多様な人種?に唖然としているとアラーナが声をかけてくる。そう。この世界のことを右も左も知らないのは俺だけ。頼れるのは彼女だけなのだ。


「ライル君、こっちだ。」

 彼女は席に座り手招きして俺を呼んでいる。

 その顔はニコニコとかなり楽しみなのがまた取れる。

「あ、あぁ。」

「先ずはウールでいいかい?あ、ウールって分かるかな?」

「あ、いや、よく分からないがそれでいい。あー。それと、俺は金を持ってないが大丈夫だろうか?」

「くっ!はははっ!そんなことを気にする奴は初めてだよ!」

「そうなのか?いや、金がなければ飲み食いできないだろう?」

「くっ、クククッ!いや、それはそうだが、誘ったのは私だ。金のことは心配するな。ククッ。」

 笑いを堪えられない様子で説明してくれるが、やはり常識というか笑いのツボがよく分からないな。


「まぁ、それならお言葉に甘えよう。」

 彼女は笑いを堪えながらネコミミのウエイトレスにウールと適当に食べ物を注文していく。

「はいにゃ!少々お待ちくださいにゃ!」

 おぉ。全くの予想通りの話し方。少し安心すら覚えるほどに…。

 あまりにもお約束な話し方でなんだか知ってる店に来たかの様な錯覚すら覚える。これもこの店の営業手法なのだろうか。


「して、キミは先ほど邪神とかいっていたな?そのことについて詳しく聞きたい。」

 俺はギョッとした表情で辺りを見渡す。なんせこんなに大勢がいる中でそんなセンシティブな話題を話せるものかと思ったからだ。

「え、今?ここで?周りがあるけど大丈夫?」

 手を口の横にやり、小声で伝える。


「大丈夫さ。みんな飲んで騒いでいる。誰も他人の話になんか興味を持たないさ。むしろ静かなとこよりも盗み聞きされるリスクはない。まさかこんなところで話す内容だとも思わんだろうからな。」


「なるほど。確かに…」

 そうか。彼女の様に鋭い考えと大胆さがあってこそあの癖の強そうな騎士達を束ねられるのだろう。見た目は20歳そこそこだがかなりの人物だな。俺も見習わなければならんな。


「そうだね。邪神の話だけど、まず、目が覚めた瞬間、石の上に寝かされてた。周りは黒装束の男たちがひざまづいて何か呪文の様なものを唱えていたんだ。目を覚ましたら連中は俺がライルだと思い込んで殺そうとしていた。本来は器だといっていたよ。」


「なるほど。で、そこにいた連中はどうした?どうやって逃げ出したのだ?」

 少しアラーナの目が鋭くなったが、疑いというよりもこちらを測っているかの様な目だった。俺は隠すことなく答えた。

「相手は5人。三人は殺した。一人は自殺。もう一人もおそらく死んでいるが、もしかしたら生きているかもしれない。」


「そうか。素手だったのだろう?キミ、やはり強いな?」

 アラーナは俺に対して興味深々と言った表情で察してくる。

「強いかどうかは分からんが、様々な武術を身につけてきたことは確かだ。」

「ブジュツ?なにかなそれは?」

 俺は一瞬驚いたが、この世界に武術というものが存在しないのだと確信した。

 そうか。黒装束の連中の様に比較的単純な武器での戦いがあるのは間違いないが、奴らは単純な動きでわかりやすかったな。

 騎士団がそうとは限らないが、もしかしたら実戦が多くてあまり武術的なことや体術は研究されていないのかもしれない。


「お待ちどーにゃ!」

 頼んだ酒や食事が運ばれてくる。

 見たことのない肉や魚、パンなどが並ぶ。

 もちろん酒も。酒は琥珀色をしており、その上面には白く細かい泡が乗っていた。

「これは!ビールじゃないか?」

 思わず武術の話から逸れてしまう。


「ほう?キミの世界ではビールというのか?まぁいい。先ずは乾杯と行こうじゃないか?」

 木でできたジョッキを掲げて俺に向ける。前世と同じく乾杯の合図なのだろう。

 ゴンっ!

 鈍い音を立てて互いにジョッキを当てて、胃袋に流し込む。「くっーっ!美味いな!やっぱり、ほぼビールだよ。これ。」

「そうか。口にあったならば何よりだ。」

 アラーナもぐいっと流し込むと軽く料理を突く。

「キミもいける口の様だな?」

「まぁ、ボチボチだけどね。」

「それよりもその、ブジュツとはなんなのだ?」

 まるで子供が早く絵本の続きをせがむ様な目で、武術の話を待ち望んでいる。

「そうだね。武術っていうのは昔の戦で使われた戦い方を戦が無くなった後に研究して作られた戦い方。って感じかな?武器なら刀や槍、弓、杖なんかがあって、素手は幅が広いから一概には言えないけど、打撃系と投げ、関節技系とかにわかれるかな。」


「ぉおおー。」

 アラーナは目を輝かせながら俺の話に聞きいっている。邪神の話はどこへいったのやら。

「それはいいとして、邪神の話はいいのか?奴らは一体何者なんだ?」

 アラーナはハッとした様に表情を引き締めてウールを飲み干すと、おかわりを注文する。注文したウールはすぐに出てきてまた一口飲む。

「そうだったな、すまない。私としたことがつい。」

「邪神は先ほど診療所で話した書物と対になる、別な書物に記載があるのだが、それも2000年前の書物だ。それによるとその書物が書かれる数十年前に邪神が存在し、この世界の神を殺して人々の魂を喰らっていたらしい。だが、ある日現れた人物と仲間の四人によって消滅させられたと書かれている」


 やはりゲームや漫画の様な話。まぁ、今まさに俺はその中にいるんだけどな。

「そうなんだ?それで、黒装束の連中は?」

「奴らは邪神バルドルを祀る邪教徒。その実態は強盗、強姦、殺人、拉致、あらゆる犯罪を犯す犯罪組織だ。」


「なるほど。ならなぜその犯罪組織が邪神の復活を考えてるんだ?本来ならその手の連中は神輿さえあれば勝手に動くんだとおもうけど。」


 アラーナは目をキラリと光らせて何故か嬉しそうに質問に答える。


「さすがだな、キミは。これは騎士団の推測なのだが、数十年前から取り締まりを強化していてね。そのせいで犯罪がやりにくくなって、邪神を復活させれば助けてくれるのだと信じている様なんだ。」


「そうなのか?でも実際にライル君は魂を抜かれて肉体だけにされた。俺が彼の体に入らなければ邪神が入っていたなんてことは無いのか?」

「それについては分からないが、今のところ国の研究者達は邪神などはおとぎ話だろうと考えている。だが、ここに転生者ががいた以上、それももしかしたら実現するかもしれん。」

「それもそうか。じゃぁ、早く手を打たないといけないんじゃ無いか?」


「キミの気持ちもわかるが、先ずは国王に報告だ。キミの存在と、ライル君に、邪神。何か関係関係があるかもしれん。」


「待ってくれ。それは少し考え直してくれないか?まず、第一に俺がライルだと証明できたとして、俺の話が本当だとする証拠は?もしかしたら邪神なのかもしれないだろう?それを疑われたらどうなる?」


 アラーナはハッとした表情で俺の不安に答える。

「なるほど。確かにそれは一理あるな。もしそうなれば…」


 ゴクリと、唾を飲み質問する。

「そうなれば…?」


「おそらく火炙り。死刑だな。」

 血の気が引く様な感覚を抑えつつ話に戻す。


「やっぱり内緒で頼めないかな?俺はライルで記憶喪失。身寄りはないから騎士団に入ることを条件にこの国に置いておく。なんてのはどう?あの爺さんとメイド?にも口止めはいるだろうけど。」


 アラーナは少し考えると口を開く。

「そうだな。そうするしかなさそうだ。ジジイは絶対に患者の話は他人にしないから心配無用だ。それからあの子はメイドではなく看護師だ。ちょっと変わってるが、彼女も問題ない。そもそも極度の人嫌いだからな。特に男には厳しい。」

 なるほど。やたらと睨まれる理由はそれか。爺さんも怪しい見た目でも仮にも医者ということなのだろう。それに今気がついたが、他の兵士に付き添わせなかったり理由ももしかしたら俺が訳ありなのだと察していたからなのだろう。恐るべき、若き騎士団長。


 話に集中しすぎて今気がついたが、奥の方で喧嘩が勃発していて騒ぎになっていた。

 店はひっちゃかめっちゃかになり、ネコミミのウエイトレスはカウンターの奥で震えながら見ていた。


「テメェが先にイチャモンつけたんだろ!」


「何言ってやがる!テメェが俺の鎧がショボいだのって言ったんだろ!」


 バキッ!

 ドゴッ!


「アーン、やめてよぉ!もういや!」

 バニーの格好をした剛毛で屈強な男性が止めに入っているが収集つかずに殴り合っている。


 まぁ、鍛えた男同士だから心配いらないだろうが少し迷惑だな。


 アラーナもいつものことだと言わんばかりに無視して酒を煽っている。俺も構わず酒を飲んでいると鈍い金属の音がした。


 シャキン!

 ぶっ殺してやるよ!


 一人の男が剣を抜き、もう一人に切り掛かっていこうとする。

「やめろ!貴様ら!私は騎士団…」

 アラーナが止めに入ろうとする前に咄嗟に体が動く。


 テーブル三つ分。一瞬にして剣を振り下ろそうとする男の右手に左手を添えて剣の軌道をずらす。これにより相手に剣は当たらず、左下方向に剣が流れる。剣が床面に付く寸前で添えていた左手で小手を掴み体を回転させながら捻りあげて背中から床に落とす。合気道の小手返しの応用だ。


 同時にもう一人の男は剣の柄に手をかけようとするところを、男に小手返しをかけるために回転している途中で空いている右手で鞘から剣を抜き、小手返しを決めた瞬間に左腕とクロスする様に喉元に突きつける。男は喉につけられた剣先と、鞘にあったはずの剣がないことに気がつき動揺して両手を上げる。変わらず小手を決められた男は手首、肘、肩を左手一つで決められて動けずにもがいている。

 小手返しと相手の剣を奪い取り、喉元に付ける動きが同時に決まった瞬間だ。


「やめろ。迷惑だ。」

 ギロリと睨みつけ威嚇する。


 神話の御伽噺の様な美しい少年の見た目と、強烈な威圧と細腕で屈強な男二人を取り押さえたギャップが功を制したのか、二人とも戦意を喪失してギャラリーと一緒に固まったまま動かなくなる。

 パチパチパチ。

「そこまで!さすがだなライル君。」

 アラーナが一部始終を見て驚きと称賛の混ざった表情で場を治る。

周りからも拍手と歓声が上がっている。

なんとも小っ恥ずかしいものだ。

でも俺の武術が役に立ってよかったと心から思っている。悪くないな。肩も肘も痛くないし。


「みな、騒がせたな。二人は騎士団が責任を持って対処する。」

 さすがは騎士団長。この後どうしようか悩んだのだが助かった。手を離して剣を鞘に押し込むが、まだ何が起きたか理解していない様だ。まぁ、怒りがおさまったのならよしとしよう。


 二人は騒ぎを聞きつけた騎士団の兵士に連れられて去っていく。

「あのぉ。お名前は?ボク?かっこよかったわ。よければウチで働かない?」(ウインク)

 バニーの格好をした屈強な男が話しかけてくる

 なんだかウインクにハートが見えた気がする…。

 やめてくれ。俺にそんな趣味はない。

「はは。マスター、こいつはうちの団員なんだ。すまないな。」

 アラーナさんナイス!神です!このご恩は一生忘れません!

 アラーナも困った様子だな。え、マスター?もしかしてこの店のマスターなのか?

「あらぁ、アラーナちゃんとこの子だったの?ざぁんねんね。こんなにか.わ.い.いのに。」

指で頬をなぞられる。

さぶいぼが全身に浮かび上がり硬直して動けない。

この人が最強ではないだろうか?


「流石にアラーナちゃんもこんな子は手放したくないわよねっ?じゃぁ仕方ないからお礼にお代はタダにしちゃうわよ!」

(ウインク)


「あ、ありがとうございます…」

またしてもハートが見えた気がする…。


「そうだな。マスターがそういうなら馳走になろう。しかしキミの武術とやらは素晴らしいな。私では間に合わなかった。それに二人とも怪我一つない状態で取り押さえるとは…これは団員というよりも指南役の方がいいかもしれないな。」


「げっ!いや。指南役とかは勘弁してくれ。俺は教えるのよりも自分の技を磨きたいんだよ。」

「何だと?世の中の役に立つ技術を独り占めする気か?そうか、まぁ無理にとは言わない。ならばここで働くといい。私からマスターに言伝しといてあげようか?」

 悪代官もびっくりの悪どい笑顔でこちらを脅す?アラーナさん。怖いです。これは策略だ。

「あ。はい。ワカリマシタ。」

「おっ!やってくれるか!やはりキミは期待を裏切らない男の様だな!」

 笑顔でよく言うよ。ほんと。


 こうして俺はアラーナに嵌められて騎士員を務める前から指南役へと昇格させられたのだった。
















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