第8話 校医バルンさんの災難、そして・・・
そして、ベルメリ、ついにゴール前の坂道までたどり着いた。びりは確実と思えた。追い抜いて行った最後の一人らしき子の後、誰もベルメリを抜く子は居ない。
「あっ、ヤッヤモ君推薦のアイス売り場だっ。本当にあるんだ。さすが使い魔候補、やるときゃやるねぇ」
ベルメリは道路の向かい側にある小さなお店まで、自動操縦で移動することにした。ここで、ふらついて車なんかに引かれるのは避けたい。自分の歩みには自信がない。ふらふら横断歩道前に移動し、青になってまたふらふら売り場へ向かっていると、自動操縦設定が台無しになるような・・・
キキ-ッ 耳をつんざく急ブレーキの音だ。直後誰かの悲鳴と、泣き声。
『事故だ』ベルメリは自動設定が切れて、ふらつきながら辺りを見回した。ざわつく周囲の話で、車は危機一髪だったがブレーキが間に合い、十字路大通りの横断歩道の渡り始めの女の子二人が転んでいるのが分かったが、車はまだ50㎝程は間があった。ベルメリは十字路の小道側を移動していたので、瞬間は見逃している。小道の行先は坂道で登り切ればゴールだ。車はその坂道を下って来ていた。レースの関係者ではないだろうか。見ていると車から出て来たのは、なんとうちのハイスクールの校医バルンさんだ。
ベルメリがぼうっと見ていると、転んだどこかのハイスクールの制服姿の女の子二人を車に乗せて送って行くつもりらしい。まぁ、普通はそういう成り行きの場面だ。
『バルンさんも、あと一歩で不味い展開になるところだったけど、何とかあの子達を引かずに済んで良かったわね』と、何とはなしにヤッヤモとコンタクトした。しかしヤッヤモの見解は違った。『不味い展開は今からだよ。ベルメリさん。あの転んだ子達は、わざとだな。見てごらんよ。膝から血があんなに出て来た。あれで車に乗せておそらく病院に連れて行くんだろうな。バルン、ちゃんとやり切れるのかな』
『え、やっぱりあの人はあれの人、でも昼間っからうろつけるの』
『あの一般的な伝説は嘘っぱちだよ。血の欲求は事実だけどね』
『そうだったの、でも、わざとってどういう事。引かれたかったって事?』
『引かれりゃ痛いからねぇ、今の様子が目的だろうな、血、わざと出しているんじゃないか。転んだくらいであんなに出るかな』
『わざと出すって事は魔物かしら』
『そうだね。それか、ヴァンパイアかもしれない。ヴァンパイアも割と派閥とか有るらしいし』
車は立ち去り、ベルメリ達にはどうしようもないしで、取りあえず目的だったアイスを求めてお店に行こうと思うベルメリだ。
『アイスの予定は変えないんだね』
『え、予定変える必要とか有るの』
『無かったね。失礼しました』
喉が渇いていたので、棒にソーダ水の氷が色々、色違いでくっついている、パパが居れば絶対買えない手のを買い、ぺろぺろ舐めながら、坂道を上がるベルメリ。歩道を歩いている。車には気を付けるべきだと思う。
『やっぱり、ゴールまで行くんだ』
ヤッヤモに感心されながら、歩くベルメリ、何故かヤッヤモに不審に思われている気が
したベルメリは、『ブービー賞狙いなの』と言っておく。ヤッヤモは、『それはー、どうだかなー』妙な言い様である。歩道を呑気に歩いていると、横を走っている2年生らしい女の子達が坂の上に消えて行った。そこで、ヤッヤモの懸念を知った。
『あ、1年は終わってるかも』『当たり』『番号札、もう片付けたとか』『大当たりッ』
「ふぇーん、」泣きマネするベルメリだが、アイスを買って歩道を歩けばもうアウトで決まりと言えるだろう。そんな場面で、ヤコがすでにやって来た。
『ベルメリちゃん、なんで泣きまねしてるのー。あ、ブービー賞取りそこなったのか、あは』
慌てて走りあがるようなので、後ろを見ると、ココモ君が来ている。
『ベルメリちゃーん、安心しなよ。ハイスクールではブービー賞なんか無いよ。世間は厳しいからねー。ところで、校医のバルンさん、どうやら不味い事になったな。俺、セーンに言っておいたんだ。あの先生あほでねー、病院の血液パック頂いた上に、ぐびぐび飲んでんだから。まぁ、あの生徒達の首に嚙みつかなかったから、良しとしなきゃならないかな。セーンが保証人で学校に紹介していたそうだよ。べネルさんじゃなくね。なんだかこんな日が来ると予感していたのかな。べネルさんじゃ、ずっとここいらに住むから不味い事が有ったら困るからな。病院に行ってなんか口止めするみたいだけど、噂にならなきゃいいけどなー。多分口止めとか無理じゃないかな』
随分入り込んだ内容の話をベルメリに聞かせると思っていると、聞かせていたのはヤッヤモにだったと分かったベルメリ。
ヤッヤモがポケットから顔を出し、『目撃者は居なかったんだろう。女の子達は治療が終わって親が迎えに来ていたろう』とコンタクトし出した。すると、ココモは、
「それがな、別の生徒がバルンの所に近づいて来たんだ。俺らのとこの奴、送ってもらうつもりだったらしい。その子も怪我で病院に来ていてな。モテるとこれだからな。で、ぐびぐびを見たらしい。そして驚いてね。逃げて行った。セーンがさっきこっちに来てこの事を察したな。もみ消せるかな、セーン」
『それ、無理だと思う。ルバルママんとこにきっと逃げ帰るな。やれやれ』
関係ないベルメリだが、気になって聞いてみる。
『ルバルママって?』
『バルンさんのママ。『レンもどき』のママが世話になったそうなの。ベルメリは知らないだろうけど、誰も頼れなかったレンもどきのママをルバルママが看病して看取ってくれたそうだよ。だから、レンもどきがバルンのママをルバルママって言っていた。それで、バルンの事も少し知っていたんだ、俺らニールの館に居た奴はね。レンもどきが二人を慕っていたからな』
『レンもどきさんって、使い魔さんなの?変わったお名前ね。』
『もう死んじゃったけどね。セーンの使い魔はほとんど死んだんだ。ココモドラゴンの襲撃でね。このココモ君にとっても、敵のドラゴンだよ。名があれで誤解されそうだけど。セーンのあれでね』
それを聞いてベルメリは一応確かめる。
『あれって名前の付け方がいい加減って言う話?』
『そうそう、知っているんだね』
ヤッヤモはうなずいた。
ココモは、
『ニーセンユーセンも適当に付けたのに、ヤッヤモはセーンが三日三晩考えて付けたそうだけど、それ、セーンが言ったって聞くけど、嘘くさいな。あいつ等は妬いていたんだろうな。だけど、本来のセーンってのが身内には察せられないんだろうな。いい加減で嘘もつく奴だってのに』
『そうだな。それに、まだセーンは使い魔が死んだ時の事を悔やんで、引きずっているけど、それもニーやユーは分からなくて、誤解しているからな。構ってくれない原因が分からないんだ』
よく分からなかったベルメリだが、深刻な話だとは理解している。と言う事は、ヤッヤモって体は小さいけれど、意外と話しぶりから年食っていそうな気もしてきて、ココモが三番のチーセンラーセンが見えて来て慌てて立ち去った後、
『ねぇ、ヤッヤモ君。魔物って割と歳食っているんでしょ。ヤッヤモ君の歳っていくつ?』
『えっ、えーと、ベルメリさんにそれ言ったら、可愛くないって言われそうで・・・』
『まっ、可愛いのはそのお目目と尻尾よ。何歳かじゃないけどー』
『僕は、数字はよく分からないけど、僕が生まれた頃に北ニールが魔の空洞にやられて、その騒動で、僕は早く卵から孵ったそうで、セーンが言うには、多分自然に孵ったんじゃなくて卵が割れて仕方なく生まれて来たらしいです。言わば未熟児で・・・』
『未熟児で大きくなれなかったって事。でも、魔の空洞の被害は割と前だったけど、見かけ通りのハイスクール入学前の歳頃に見えるけど、違うの』
『俺ら魔物は地下じゃ敵が多かったし、人に比べたらある程度は直ぐに大きくなるけど。赤ちゃんのままじゃすぐ殺されるか、食われるかになるから。逃げ足が速くないとすぐ絶滅するだろな。その後はぼちぼち、大きくなって、栄養は知恵の方に行く育ち方だな。と言う訳で、僕、小さめだけどヤコより歳食ってまーす。というか、ヤコの成長が早すぎなんだけど。彼にはココモドラゴンとの戦いの役目があったから、あっという間に大人仕様のドラゴン風になったです。ヤモの未来予測によるカスタマイズなのです』
『へー、人ならまだまだハイスクールに通う歳じゃないって事ね』
『そういう事です。だからヤコが僕を預かるのをためらったのは無理もないです。それに獣人は絆が強いし、チーセンラーセンの弟の不始末ってことになると、そう言うのは兄弟だから、弟の気持ちは自分の事のように思うし。そう言う訳で兄が、弟の気持ちを察して、もしも将来弟が罪をおかす事にならないように、自分らで前もって僕を始末する事をおもいつくかも。世間の噂とかで聞くところでは獣人の兄弟にはありがちな事で、チーセンラーセンは正常に育っているから、可能性は低いけど。基本、使い魔は主人には逆らえないから、ヤコにはこの責任は重いかもしれない。この前、最初に会った感じでは、ヤコは学校での二人を守る使い魔役だけで、手一杯感、感じたです』
『そうなの、よく分からないけど。まだ若いのに頑張っているって事なの』
『そういう事です。だから、ベルメリさんが僕を預かるって言ってくれて、ヤーモも感激していたでしょ。もしかしたらお館様んちに残っている小さい奴らは、ベルメリさんの事をベルメリママって言い出すかも』
「うそッ」
まだアイスが残っていたのに、口を開けてしゃべり棒を落としてしまったベルメリ。ため息をつきながら拾い上げた。
奇妙な冗談を言い出すヤッヤモをポケットの中なので、睨みたいけど睨める位置でもない。『ヤッヤモの所為でアイス落としたよっ』と言っておいた。
『ごめんねー、ベルメリさん。ニールの館にはまだ小さい親無しっ子が沢山居るから、つい思っちゃって、会えばベルメリさんは、きっとみんなから慕われるようになるだろうなって』
ヤッヤモは、ベルメリに彼女が興味を持ちすぎる事を言ってしまったと分かった。何につけても、言い過ぎ、やりすぎは禁物である。
『小さいのが、まだいっぱいいるんだ。そのニールの館ってのに・・・あたし、行ってみたい』




