第7話 長距離レースの日の出来事
次の日の事である。
今日はいよいよ、セピア公国ゼム市内のハイスクール対抗長距離レースの日だ。
ハイスクールに入る前はいつも、ベルメリはこういった学校の外での行事には出ないのだった。ところが今朝、休むつもりで寛ぐベルメリに、パパは言った。
「噂では、もう魔の国の俺ら一族と敵対していた一族は、すでに没落したらしい。これも噂だが、どうやらベルメリのクラスの、例のヤコと言う名の子だが、どうやったか誰も知らんようだが彼が始末したらしいぞ。彼を良く知っているんだろう、ベルメリ。彼に会ってみたいものだとパパは思っているんだ。だから今日のレースにベルメリも出て構わない様だな。パパも時間が有ったら、後でレースの見物に行こうかな」
「げっ、あたし、今日出る訳、とほほ。来なくて良いよ。だって去年は町内だけだったけど、ブービー賞2番で、図書券貰ったの。きっとこれ以上の成績にはならないと思うの。他の町のハイスクールの子は早い子が多いって評判だし」
「おやおや一番遅いわけじゃなかったのか、じゃあ、パパは行ってみたいな。ヤコ君も出るだろう。会ってみたいし」
すると、ベルメリのポケットの中に居たヤッヤモ君が顔を覗かせ、2人にお知らせする。
「ヤコはセーンの使い魔のヤモって言う今では使い魔一の強者が、魔力でカスタマイズし卵で産んだんです。古のドラゴンに似せてカスタマイズしました。恐らくドラゴンとしては最強でしょう」
ベルメリと、パパは驚いてヤッヤモを見た。
「ほう、そんなの強いのか」
「はい」
パパはヤッヤモの情報に驚いて、感心していた。
一方、ベルメリは、
「えぇー、たったまごぅ。産んだってー。だれがー。あ、ヤモ?きゃー、たまごっ、あたしも卵で産みたーい。そして赤ちゃんが卵から孵ってー、一番初めに見た存在を、親だってー認識するのー。あたしがママよってー言うの」
「おいおい、ベルメリ、朝から変な想像しないで、さっさと準備して学校へ行くんだよ」
「はーい」
ベルメリはさっきまで呑気に寛いでいたので、少し遅めで、せっせと学校へ急いだ。
「たまごー、たまごぅ」
ベルメリは小さな子供のころから、卵にこだわりがあった。つまり、卵から孵る生き物が好きで、鳥や爬虫類、ドラゴンだって気に入った生きもので、前世はきっとその中の何かだったと、勝手に決めている。内心『お魚じゃないよね』とか思ったりしていて、この空想については、ベルメリは気付いてないが、チーセンラーセン、ヤコ及びショウカも知っている事実だった。
ポケットのヤッヤモも、『ベルメリさん、卵の子がすごく好きなんだねー。僕、なんだか嬉しいな』
『そうかぁ。ヤッヤモちゃんだって卵から孵ったころは、きっともっと可愛かったでしょーねー。その頃にも会いたかったなー、小さなヤモリさん風の子、見たかった-』
『僕、大きくなったら卵産んだらベルメリさんに絶対お見せする。孵るときはきっとお知らせする』
「ええっ、ヤッヤモ君は男の子じゃなかったの」
大声を出して、ベルメリは慌てて周囲を見回すが、ベルメリに構う人は居なかった。ベルメリは気付いた。『きっとあたし、今までも独り言、言っていたんでしょうね。皆気にしていないもの』
ヤッヤモはそんなベルメリの葛藤は気付かないのか、気にして居ないのか、構わず返事する。
「ううん、僕ら魔物は、男とか女とかの区別はないんだ。魔物だから。卵は自分のコピーだよ。そうやって卵で増えていくんだ」
ベルメリ、念のために聞いてみる。
『ヤッヤモの仲間はみーんな、そうなの』
『みーんなだよ』
『ヤコも』
『もちろんヤコも、みーんな』
『ヤコって男の子じゃないって?』
『男でも女でもない、魔物でーす』
『ひぇー、ショックかも。あたし今日、走り通せるかな』
『ショックなんだー、ベルメリさんは、ヤコと、彼と彼女みたいになりたかったとか?』
ヤッヤモに知られてしまったが、ベルメリとしてはこの件はきっと無理と分かっていたから、そこの所は良いのだが、ヤコが卵を産むというのにはちょっとショックだった。
『僕はショックじゃないの』
ヤッヤモが言うので、
『あ、ヤッヤモだってー、ショックかも』
「・・・気にしてないな」
呟くヤッヤモ。仕方なく、
「キャー、ショックゥ」
と言ってサービスしておくベルメリだ。
後ろに居たショウカとリリに、
「ベルメリ、今朝も発狂ね」
と言われながら追い抜かれた。いつもの事だと思われている。
『反省しなけりゃ』
ベルメリは気を引き締める。
『レースに集中よっ』
ヤッヤモには、
『がんばれベルメリ』
激励された。
レースに参加の生徒のうち一年の女の子はこのハイスクールが出発地だ。自分の学校から出発とは、ラッキーだと思いながら、クラスの子が集まっている所に居る事にするベルメリ。校庭に居ればどこから走り出しても良いのだが、知っている子の居る所に同じように居るのが、常識と言うものだろう。しかし見ると、上位狙いのリリが居るのは校門前だ。
「リリ、ヤル気だねー。でも、100mも差は無いけど、でも終盤になったらこの差が勝敗を分けるのかな」
ベルメリは推察する。出発地点は学年や男女の違いで距離が違うので、それぞれ違うけれど、ゴールは同じ今年の世話役校がゴールになっている。今年はゼム町の南側の隣町サザスタンのハイスクールがゴールだ。ぼんやり考えていてたベルメリは、肝心な事と言える事実を思い出した。あの高校は坂の上に有るのだ。ベルメリとしては、ヘロヘロになった挙句の急な坂道の先がゴールなんて、『あんまりだ』と思えてくる。
『きっと、あたしみたいなのがいくら頑張っても、あの坂は棄権の原因になり得る。なり得るじゃなかった、きっとそうなる、きっとベルメリには危険。ベルメリと坂道―。坂道がーベルメリの危険地帯。あと一歩のところでベルメリのーきけん。ク-ッ』
そこで、出発の空砲の音が後ろの方から聞こえ、仕方なく人波に逆らえず出発する事となるベルメリだ。
ベルメリの体操服のポケットは胸ポケットしかないので、その中に入って至福の居眠りをしていたヤッヤモはベルメリのスイッチを切ってのコンタクトの嬌声には、強い絆が出来ていた所為なのか、強制的に目覚めさせられた。内心『良い事ばかりじゃないな』としみじみ思う。こちらもスイッチを切って呟いたつもりだったが、『ヤッヤモ、何が良い事で何がそうでない事か具体的に言ってみてくれる』さっきの呟き方では、ベルメリには聞こえると分かったヤッヤモだが、後の祭りだ。
「んーと、えーと何の事?」
仕方なく惚けてみるヤッヤモだが、『惚けてもダメ』と追及される。そこで、『サザスタンハイスクール坂道下のアイス売り場前にさしかかると、危険になり棄権で決まりだと思います』、『お店があるんだ・・・アイス売っているんだ・・・危険だ・・・棄権で決まり、はぁはぁ』
早くも息切れし始めたベルメリに驚くヤッヤモ。『ベルメリさん、ひょっとして何かの病では・・・』
『違うの、コンタクトで魔力と言うか、体力使うの』とヤッヤモが心配しないように解説したのだが、『そうかなー』と心配気に言うヤッヤモ。何だか可愛くなってベルメリは、
『平気、平気、ほら、いっちに、いっちに』から元気で走り出すが、から元気なのでどんどん抜かれて行く。『ハイスクールのブービー賞ってきっと豪華になっているんじゃないかな。図書券も高額になるかも。金券ショップで売ればそこそこお金が手に入るとか?』
気分はそちら方面に向き直るベルメリ。機嫌よく走りだす。ヤッヤモは今度こそきっちりスイッチを切った後、『やれ、やれ。大丈夫かな』と思うのだった。




