第6話 ベルメリは使い魔を得る事になる。原因は愛を疑う子等
ベルメリは午後からは、ずっとこの教室での授業だったので、あの涙目の子をポケットに入れたまま過ごした。
少しポケットが重くて暖かい。ベルメリの心も暖かくなってきている。不思議だ。
授業が終わると急いで家に帰る。車庫にパパの車が有るので、パパは今日も早いお帰りの日だ。
「ただいま」
と言いながら、ベルメリは機嫌良くパパが寛いでいる居間に入った。
「お帰り、おや、ベルメリ。ポケットに不思議な子を入れているね」
ママは何処かにお出かけらしいので、パパとは普通に会話した。
「そうなの、この子、チーセンリーセンのニールに居るパパの使い魔なんだけど、何故かチーセンリーセンの弟たちが・・・その子達も双子なんだけどね。その子たちがこの使い魔の子をひどく虐めていてね。ヤコのお兄さんらしい人が学校にこの子を連れて来て、ヤコに預かってって言ったんだけど、彼、その弟の方とも使い魔だから、御主人に逆らえない雰囲気で、揉めていたから、それならって思って、あたしが預かる事にしたの。だって、何度もいろんな所ちぎられているそうなのよ。痛々しくて、可愛そうだったの。あたしが面倒見ようと思ったの。きっとできると思うの。此処に居たらもう泣かないで良いし、この子はきっと安心して眠れるわ。話によると、眠っている間にちぎるんだって、だからよく眠れていないって言う事だから、まだ若い子だものきっと眠くて困っているようだったし」
「ずいぶん熱心な説明だね。あの双子と言えば魔人と獣人のハーフだったな。幼い方の双子はきっと、まだ獣の気が強いんだろうな。そういう子は大人にならないとまともじゃないからな。ベルメリは優しいね。ひょっとしたらその子はお前の使い魔になる気かも知れないな。使い魔は恩を感じる人に付くからな」
「えっ、あたし預かるだけのつもりだったけど・・・きゃっ、使い魔って?あたしのっ」
「ベルメリ、今日はやけにご機嫌だね。ポケットにその子を入れているのが、そんなにゴキゲンな気分なのかな」
「そうなの、ちょっと浮かれそう。うふ。着替えてくる」
「じゃあ、その子をここに出してみてくれないか。パパも会ってみたいし、女の子は着替えの時は使い魔を部屋から出すんだぞ。ケジメは必要だよ」
「そうね、じゃ、ここに居てね。ヤッヤモ。ヤッヤモって言う名前よ。人型じゃない時はヤモリみたいな風貌なの。可愛いのよ、ほら。ヤッヤモちゃんここに居てね。パパとお話していて、嫌な話はまだ辞めていても良いわ。話すならニールお友達のお話とかねっ。あたしもすぐ戻るからね」
ベルメリはポケットから小さなヤモリを出して、テーブルの上に置いて出て行った。
「ヤッヤモか、人型になって見ろ」
ベルメリのパパに命じられ、少し怖くなったヤッヤモだが、それでも優しそうなベルメリの親だしと思って、人型になった。
「ほう、人型は意外と大きかったな」
「お世話になります、ヤッヤモです。セーンに名付けられています。ベルメリさんには恩が有りますから、セーンが使い魔の契約切ってくれたら、ベルメリさんの使い魔になれるんですけど・・・」
「なるほど、セーンと言えばあの有名人のセーンだろう。水晶を真っ黒に変えたと聞いている」
「そうです。あのセーンです。今調子悪くて。双子も魔の国の瘴気に当たっていて、普通じゃないので。本当はこんな事になるはずじゃなかったんですけど。予想より酷い状態で、殺されそうだと使い魔仲間のヤーモが逃がしてくれました。僕より傍から見ているヤーモや、他の仲間の方が参ってしまって、僕は出て行く事にしました。よろしくお願いします」
「ほう、事情はそういう事なのか。じゃあ、しばらくここにいなさい。ベルメリが浮かれているが、どういう事かな。分かるか」
「ベルメリさん、今まで学校では一人ぼっちで、長く孤独のようでしたから・・・僕はペット代わりです」
「孤独だったか、お前に分かるのか」
「俺ら。実は魔物で魔力があるから、察します。時には主人よりも主人の事が分かります。僕、きっとベルメリさんの使い魔になりそうです。当分、ペット代わりになりますけど」
「あれー、ヤッヤモちゃんは、あたしのペット代わりなのー。本人の方よりも状況をよく見ているわね」
ベルメリは、ヤッヤモの利口さに驚いた。
「はい、僕当分は、可愛くしているつもりです。でも、後後は、セーンとの契約は切ってもらい、ベルメリさんの使い魔になりたく思っています」
「へー、そうなんだ。じゃ、あたしもそのペットからで、後は使い魔ってつもりでいるわね。えーと、じゃ。ポケットに入って見て。パパ、ヤッヤモのヤモリ姿、可愛いのよぅ、すっごく」
「はいはい、良かったねぇ」
ヤッヤモは、『予想通り優しいベルメリの親はやはり優しい』と思った。それにしても、母親は何処へ?ヤッヤモは辺りを探った。
だが、ベルメリの母親は近所には居なかった。
ここはニールのニキ爺さん宅。
最近は手が付けられないほどの暴れようのニーセンユーセンを見ながら、頭痛のこめかみ辺りを揉みつつ、ため息をつくセーン。
大怪我をしたヤッヤモを連れて、瞬間移動して出て行ったヤーモはまだ帰ってこない。何処へ行った事やら、帰りが遅すぎないだろうか。悪い魔の国の奴らはヴァンパイアのヴァンちゃんが始末したので、まさか誰かにさらわれる事は無いと思える。しかし気がかりだ。
ニーセンユーセンはパパに居間に連れて来られた。
今朝もヤッヤモを虐めたのできっと絞られると知ってはいたのだが、最初は神妙にしていたが、段々退屈になったのか、今にも部屋から出て、走ってどこかへ逃げそうだ。
「お前ら、どうしてヤッヤモをひどい目に合わせるんだ。いくらやめろと言っても何度も痛めつけるのは何故なんだ。お前ら、獣帰りって噂だぞ。それも狂った獣だそうだ。最近の獣は賢くて、躾ければダメと言えば禁止されたことは、しないらしいからな。お前らが俺が言っても、言っても、ヤッヤモいじめをやめないのは、狂獣だからとか言っていたな。ヤモ達が。躾けないと狂ってしまうらしいと言っていた。獣人はな。どうする、獣人国ではそういう出来損ないは、いつの間にか、川で遊んでいると、流されて行方不明になったり、山で遊んでいる内に、戻ってこなくなったり、海に連れて行くと、深みにはまって上がってこないとか、そんな話を聞くなぁ。何故そうなるかな」
その時、走って行きドアを開けようとしている双子、ドアは開かないようにしているセーンだ。
「獣は(お前らの事だぞ)、もう野に放つのは辞めにしたんだよ。近所の農家からも苦情が来たしね。俺は小さな子を痛い目に合わすのは性に合わなくてね。生憎、獣は体罰で躾けるそうだ。俺はペットも殴ったりした事は無いんだがな。飼っていたペットは賢くて、言えば分かって、痛い目に合わせる必要は無かった。これから、どうするかなお前らは」
どうやら、ニーセンユーセンは、セーンの話など聞いてはおらず、ドアが開かないので、バシバシドアをたたき続けている。
セーンは二人の首根っこを掴み、外へ行こうとしていると、
「セーン、その子達をどこへ連れて行くの」
憔悴しきったチーラが自室から出て来て、聞き糾すのだった。
「女神様の神殿近くにある、滝つぼに捨てる。あそこは死体が上がってこないそうなんだ。俺ら一族は葬式で死体をあそこに捨てる」
「どうしてそんな事言うの。セーンがちゃんと躾ける義務があるでしょ。それをしなかったあなたの責任じゃないの」
「俺はちゃんと言ったよ。悪い事をするたびに、だめだと言って来た。体罰は生憎、俺の主義と言うかスタンスじゃないからな」
「自分の子を滝壺に捨てるのはあなたの主義には反しないの」
「あ、俺も一緒だから」
「何てこと言うの。本気?そんな風に言わないで、ちゃんと躾けて」
「だから躾けようとしたし。こいつらが、狂獣らしいってわかったから、始末しないと。親の役目だろう。始末もな」
「そんな事ないわ。ちゃんと教えたら分かるはずよ」
「どうだかな。あの王の孫でもあるって事、チーラは忘れてしまったようだな」
「そんな・・・、その前に、あたし達の子供でしょう」
そんな言い合いの間に、どうやらヤーモは戻って来たようだ。気になっていたので、セーンは、ヤーモを玄関で出迎えてみるとヤッヤモを連れていない。
「おや、ヤーモ。ヤッヤモはどうしたんだ」
「それが、ヤコにしばらくヤッヤモの面倒を見てほしくて、連れて行ったら、あいつ、ニーやユーの使い魔でもあるって言って、嫌そうに居するから困ったなと思っていたら。何と、驚きの話。聞きたいか?」
「聞くよ、聞くに決まっているじゃないか。だからさっきから聞いているじゃないか」
「それが、ヤコとコンタクトとかできる女の子が同じクラスに居てね、その子が俺らが揉めているとやって来て、自分が預かるって言い出して、ヤッヤモにポケットに入れ、みたいなこと言って誘うんだ。ご飯は自分達と同じで良いだろうとか、夜は壁で寝るんだろうとか。家で着る服はポケットが有るのを着るからとか言うし、ヤッヤモもその気になって、その子の家に行くとか言い出して、俺としちゃ止める理由も無いし、預けて来た。どうやら昔魔の国の内戦で負けてセピアに逃げてきた一族らしい。魔力があるけど優しいんだ。驚いたな」
「そうか、と言う事はヤッヤモはその子の使い魔になる気なのか」
「そうだと思う。その子は只預かるつもりだけど、ヤッヤモは乗り気だった」
「そうか、そういう事ならその子の使い魔で決まりだろうな」
セーンはそう言いながら、ニーセンユーセンをちらっと見た。様子を見ると先ほどとは違って見える。
「こいつら、俺がヤッヤモを自分らよりも可愛がっていると思って、妬いていたんだろうな。どうやら居なくなったから、気が済んだようだ。そうだろう、お前ら。呆れたな。もう乱暴は辞める事にしたのか」
「うん、もうしないパパが困る」
「パパが滝壺から上がってこないとママが困るし」
双子の奇妙な話に、ヤーモが、
「どういう事」
と聞くが、セーンは、
「良いんだ、もう片が付いた」
と言って、居間に戻った。二人がもうしないと言った事は事実だったようで、それからは大人しくなった。




