第4話 ある魔女達の話
このエピソードは、この話に今後登場する、ある人物の母親の出来事です。
前のシリーズから読み続けている人へ、前主役的登場人物であるセーンの生まれる前の家族の出来事でもあります
ここは魔の国、魔法使い一族の住まう地区である。魔法使いたちは何処の国にも自分たちの居場所を作っていて、この魔の国にはとある一族が多く住んでいた。魔国の恐怖の一族と言うのが通り名だが、別に怖がる者などは居ない。他の種族に恐怖を与えていた栄華の一時期はとうに過ぎ、今は目立たぬように細々と生きているそんな魔女の一家の血筋だけとなっている。泡の魔女と呼ばれたこともある一家の魔女の長ルバルは、それでも一応水を操るのが得意な女だ。そのルバルの母親は彼女よりも、もっと魔力があり、その魔力を使い海で他国の船を沈めるほどの大技を使えた。また、陸上なのに頼まれた相手をおぼれさせることも出来た。しかしルバルにはそんな力は無い。隠しているが、せいぜい、魚を陸で生かしておくことができる程度だ。魔力の少なさは秘密ではあるが、他の一族の魔女たちはおそらく察しているはずだ。ルバルには姉が居て、本当は姉が一族の長になるはずだったのだが、古いしきたりの多い魔女の長を嫌って長女バールは家出した。おかげでルバルがこの一族の長になるしかなくて、少し家出した姉バールを恨んでみたりしていた。
そんな彼女には、これも秘密だが、男の子を先日産んでいて、その子はかなり魔力があるのではないかと思っていた。そのいきさつは信じられないような出来事だった。
一年程前、何故かヴァンパイアの男が、ルバルに興味を盛ったらしく、付きまとうので、しばらく付き合っていると、急に居なくなった。ヴァンパイアの男性は殆どハンサムばかりだし、女性も絶世の美女が多い。冷静に考えるとルバルの普通顔では、つり合いが取れない。
その後、ルバルの予想どうりに捨てられた後、妊娠したのが分かった。青天の霹靂である。ヴァンパイアにそんな能力が有るとは知らなかった。と言うより有り得ないだろう。
しかしよく考えてみると、魔法使い、名は『狂宴の主』の仕業だと思えた。以前付き合った事があるが、その狂い方に付き合いきれず分かれていた。イカレタ男はあんな魔法をヴァンパイアに施していたのかと呆れる。証拠があった訳ではないが、やり口はあの魔法使いのやり口そのものである。
どうやらルバルの元カレ的魔法使いは、ヴァンパイアの男に術をかけ、本当に妊娠するかどうかルバルで確かめたと思える。と言うのも、ヴァンパイアの男が居なくなった後、『狂宴の主』が自らルバルの所へやって来て、じろじろ観察していた。何しに来たかと問い詰めると、誤魔化して直ぐに立ち去ったが、その後しばらくしてルバルは自分が妊娠している事を知った。
不愉快な出来事ではあったが、産んだ子は可愛かった。そして相当な魔力だと分かった。魔法使いの世界でも、魔人の世界でも、出る杭は打たれるのが世間の理だ。
この魔力量の子供は、この魔の国に居ては危険だと思い、セピア公国に住んでいた姉を頼って、姉の住処の近所に移り住むことにした。
ルバルは、息子ガーレンが生まれて、まだ誰にも出産した事を知られない内に、すぐに行動したのだった。
急に尋ねて来た妹を訝しげに見る姉、バール。
「久しぶりね、バール。随分景気良さそうじゃない」
ルバルがお世辞を言うと、嫌そうな顔のバール。姉とはさほど仲良くしていたわけではないので無理もない。
バールはセピア公国の繁華街で占いの店を開いており、今どきの人は占い好きで、良い暮らしをしているのは、住んでいる小奇麗な家を見れば察せられた。流行っているのだろう。
「あら、それほどでもないのよ。それよりその子、あなたが生んだの?随分魔力があって、ハンサムになりそうだし、将来は安泰みたいじゃないの」
直ぐに息子を見てそう判断した姉、心なしか羨ましげだ。
「あら、バールだって二人も坊やが居るじゃない」
「ふん、普通の男と普通の子達よ。父親はあたしの稼ぎを当てにして、働かないごろつきよ」
「あら、どうしてそんな男を相手にしているの。バールらしくもない」
「ふん、あの子たちが、パパ、パパって懐いているの」
「へぇ、優しい男ね。それも良いわ。あたしなんか男運が無くて、いつもロクな事ないんだから」
「そうなの、じゃ、今日は大方逃げて来たって事ね」
「察しが良い事、しばらくこの辺りで暮らしてもいいかしら。占いって儲かりそうね」
「ちょっと、あたしの客たちを取るんじゃないよ」
「まっ、そんなこと出来るわけ無いでしょ。あたしにはバールほどの魔力は無いよ」
「あのね、この世界は魔力はそれほど関係ないの。占いが当たるか当たらないかより、客に気に入られるかどうかよ。愛想よくなさいな。あんたに客商売が出来るかしら」
「そういう事なら、あたしだって少しは見込みがありそうね。あたしは個性的な占いでやってみるわ。愛想の良い占い師じゃ、キャラが被るんじゃない」
「それもそうね。じゃあ、この辺りに顔が聞く奴に紹介してやるわ。どこかにお店を出させてくれるように頼んでみたら。この場合は、愛想よくした方が良いわね。ふふん」
以前のバールより随分ルバルに好意的なので、逃げて来てよかったと思う反面、彼女には少し違和感を感じているルバル。そんなルバルが抱いている息子のガーレンをしばらく見つめているバール。ルバルは段々不審に思って来ていると、唐突に、
「その子の父親はヴァンパイアでしょ。以前なら考えられない現象ね。でも魔法使いの中にはヴァンパイアでさえ妊娠できる術を考え出して、今では魔力の多い魔法使いはその術を使ってヴァンパイアから礼金をむしり取っているんだってね。儲かっている魔法使いが割と大勢、魔の国に居るんだってね。以前レンが言っていたの。魔の国に潜入していた時に分かったって言っていたわ。そしてあいつ、ヴァンパイアの女と浮気していたわ。あたしが知らないとでも思っているのかしら。フン」
バールはルバルが話さなくても、息子の素性は見通していた。それにしても、彼とはうまくいっていないのだろうか。それとも前の相手の話なのだろうか。少し気がかりだったが、バールはバール、あたしはあたしだ。ここで何があってもガーレンを育てて行くつもりのルバルだった。
その後、バール達と出かけ、近隣に住むある男を紹介されたルバル。バールは人と言っていたが、ルバルにはその男は魔人だと分かった。それもかなりの魔力量、このセピア公国のジンジー市一帯の繁華街を仕切っているそうだ。名を聞いて首を傾げるルバル。レン・グルードと言い北ニール出身だ。この事を会ってすぐに察したルバルだが、それは魔女の能力である。どうやら、姉バールは何故か彼を普通の人間と思っているし、元カレではないだろうか。ルバルにグルードさんを紹介し終わったら、バールは子供たちをルバルに預けて、どこかへ行ってしまった。いったいどこへ?首を傾げるルバルだが、レンはにっこりルバルを見て、
「あいつは彼氏に呼ばれたようだ。ところで、君って魔女だろ。それも魔の国のな。と言う事は姉と言っているバールもそうなんだろうな」
「あら、今気づいたような言い方ね。どういう事かしら」
「うむ、どういう事だろうな」
グルードさんも首を傾げて考えている。
バールの家に戻ってみると、バールが居たので子供たちを戻し、ガーレンも預かってもらった後、ルバルはグルードさんから案内されて、近隣のショッピングセンターに行くことになる。その中の二階の一角が少し広いので、
「ここに何か小さな店があるとだだっ広くて白けたように見えないんじゃないかと思っていたんだ。此処に気の利いたカーテンでもかけて、占いの一角にすると言い」
「まあ、ありがとうございます。此処なら人通りが有って、きっと流行りますわ」
良い所を紹介してもらい、すっかり安心したルバル。グルードさんはルバルが住むところ、安価で治安もよさそうな部屋の有るビルにも連れて行ってくれ、すっかり世話になってしまった。
そこで、引っ越して落ち着けば、お礼に食事を作って招待すると言ってみるルバルだが、何故かその申し出にはあまり乗り気ではなさそうな、グルードさんだ。首を傾げながらバールの家に戻ったルバル。
丁度、バールの相手も滞在していて、直ぐに立ち去るつもりだが、一応会って挨拶をしようと思うルバルだった。しかし会ってみると、その相手の普通の人とやらは、魔法使いだった。それもかなりの魔力がある。そしてその男は、北ニール地下の魔の国出身と思えた。
ルバルは、勘付いた事は知られぬように気を付けて、どうせ息子を連れて引っ越すのだし、
「どうも、お世話になりました」
と、幾分すまして挨拶して出て行った。こういう場合、姉バールは嫉妬深い事を知っていたので、この態度はバールにとって不自然ではなかっただろうと思う。
少し焦りながら、新しい住処に行くと、何故か近所を歩いていたグルードさんが、
「今晩は、ルバルさん」
等と声をかけて来た。少し意外に思ったが、この際この懸念を誰かに言っておきたかったルバルは、
「まぁ、グルードさん、丁度良かったわ。あたし困っていて、実はね、姉の彼氏って言うのにさっき会ったんですけど。北ニールの地下に魔の国が有るでしょう。あそこの魔法使いが姉の彼氏だったんですよう。あたしはこういう事は分かるんです、姉と違って。あたしにはどうにもできなくて、慌てて逃げてきました。勘付かれてはいないと思うんですけど、あんな人と付き合って姉はどうなるんでしょう。まともな暮らしなんてできるのかしら。それで心配で困ってしまって」
と、言うと、グルードさん、意外ときりっとした顔になって、
「そうでしたか。なるほど。あの男がですねぇ、これは私がルバルさんにしたこと以上の、恩を感じますね。教えてくれてありがとうございます。この国の人ではないのなら対処できますから、どうぞご安心ください」
そう言ってきりっと立ち去ったグルードさんだった。ルバルは、『どういう事』と思ったが、どうしようもないので、新しい部屋に入って寛ぐしかないのだった。
その翌日、ルバルがバールの所へ忘れ物を取りに行くと、昨日居た地下の魔の国出の彼は居なくなっており、代わりと言っては何だが、グルードさんが居座っているようだった。
「あら、グルードさん。この子達はひょっとしてグルードさんのお子さんだとか?」
よく見ると男の子二人は、何だかグルードさんに似ている気がして言ってみるルバル。
「そうですよ。出張から帰って来たらこいつが男と暮らしていて、すっかり家族っぽくなって、息子たちは奴を父親と思っていたし、困ったことになったと思っていたら、ルバルさんが、あいつは地下の魔の国の奴だと言ってくれたので、始末できました。セピア人だったらこちらが犯罪者になりそうで、どうしたものかと思っていたんです。助かりましたよ。こいつら、あの魔法使いに操られて奴を俺と思わされていたんですが、外で会うと俺の事はグルードさんだとか言っていて、おかしな催眠術の様なものでした」
グルードさんの説明には、驚かされたが、姉やグルードさんを無意識に助けていたルバル。その為にグルードさんには続けて世話になりながら、セピア公国で何とか息子と二人で生活できるようになったのだった。
しばらくすると、バールはもう一人男の子を生んで、今度は本当に機嫌良く暮らしだした。
そして月日は流れた。




