第3話 三人が戻って来て、ゴキゲンなベルメリ
三学期である。
ハイスクールに着くと、とぼとぼと教室へ向かうベルメリ。
ベルメリはあの当時、事件のあった翌週から学校に通い出したのだが、双子とヤコは二学期中ハイスクールに来る事は無かった。噂ではヤコ・オーカーは留学を辞めるのかもしれないと皆が言いあっていて、ベルメリは悲しくて涙があふれそうになる事がよく有り、困っていたが、意外にもショウカが、
「ベルメリちゃん、気持ち分かるわ。あたしも寂しくなっちゃう。でもきっと皆戻って来てくれるって、あたし、信じているの。リリもよ。このまま彼らが居なくなるなんて事、有りっこないと思うの。あたし、内緒だけど、大事な事は予感がするの。内緒よ。あなただって内緒にしている事あるでしょ、あたし知っているの。でも内緒だろうと思って、黙っているのよ。あら、意外だったの?誰にも勘付かれていないと思っていたの?あなた、ちょっと呑気ね。うふ」
と、言われたことがあった。そんなショウカとリリが前の方を移動していた。ベルメリは彼女たちを追う形だ。先にクラスのドアを開けた二人は、ベルメリを振りかえり、
「ベルメリ。チーセンとラーセンが来ているわ」
と言ってにっこりした。どうやらショウカとリリそしてベルメリはいつの間にか、お友達風になって居たようである。
ベルメリは急いで教室に行くと、皆に囲まれた双子は、大怪我だったけれど、すっかり治ったと話している。リリが、
「オーカーさんはどうなったの」
と聞いている。リリはなんだか事情を知っている気がするベルメリ。そういえば、リリのパパは警察署で事務的な部署で働いていると以前聞いていた。
リリに聞かれたチーセンが、
「ええっ、オーカーってこのクラスに居たかなー」
ラーセンが、
「パパが養子にした奴の前の姓が、確かオーカーじゃなかったかー。チー」
なんだか奇妙な会話だ。
「どういう事?」
ベルメリが聞かなくても、ショウカが問い質す。
「あ、この前パパが物好きにも使い魔の子を養子にしたんだった。苗字が無いとハイスクールじゃあ都合がわりーそうだったなぁ」
チーセンが言うと、
「うん、そうらしかった」
ラーセンも相槌を打つ。
『じゃぁ、じゃぁ。ヤコも来るんだ。でも一緒に来なかったの?』と、ベルメリが思っていると、チーセンが、『一緒に来たよ。で、今職員室で手続きし直している。苗字替える手続きな、』とコンタクトしてきた。思わず気持ちを漏らしていたらしい。
ベルメリはすっかり有頂天になり。
「キャー」
思わず嬌声を上げる。
「あら、ベルメリ。発狂?」
リリが呆れている。説明する間は無く、担任がヤコと部屋へ入って来た。後れて他の女子達も嬌声を上げる。
担任のカーリー先生は『相変わらずこいつが来たら騒ぎ出す。やれやれ』と思っていて、それでも皆に元気が出たので機嫌よく。
「静かに。話が出来ないじゃないか」
と注意する。先生の声はかき消されていたのだが、そんな大騒ぎよりももっと大声が隣のクラスから聞こえて来た。驚きの声量である。
「よろしくお願いしますっ」
先生から紹介してもらっての、挨拶らしいが、閉め切っているはずの隣の教室にまで聞こえるとはどれだけの大声だろう。
呆れた皆が黙ったところで担任カーリー先生は、
「一言話しておこう。彼は事情があって苗字が変わった。ダブルグルードの家に養子に入って、ヤコ・グルードになったから、皆そのつもりでな。もうオーカ-さんと呼ばれても、返事しないんだよな、ヤコは。グルードが多くなったし。ヤコと呼ぼう。皆もそうしろ。グルードさんと呼んだら、三人返事するからな。この三人は名前で呼ぼうな。ヤコは席に行け。授業しよう」
ヤコが席に着くと、授業が始まる。ヤコはリリやショウカに愛想よく笑いかけている。ベルメリはあの頃、この三人に何があったのだろうかと少し気になった。そんな時、また隣から大声が聞こえる。
「隣にオーカーは居ないからな。言っておくけど。オーカーは俺だけだからな」
どうやら、隣にはオーカーさんが留学してきたようだ。『ヤコとはどういう関係なのだろう』とベルメリが思っていると。
『隣の奴は、オーカーさんの実の息子。僕もオーカー家の者かと思われていたけど違ったから籍を抜いたんだ。苗字が無いとハイスクールに行けないから、グルード家のパパが養子にしてくれたんだ。僕、使い魔の生まれだから苗字は無いんだ。と言うか、人じゃないから、ニールには戸籍が無いからね』
『そうだったの。そう言えばあたしの家だって魔の国から逃げて来たから、この国に戸籍は無かったの。でもパパを雇ってくれた親切な人が、こっそり戸籍を作ってくれたそうなの。言って無かったけど。べネルさんのお店の前の店主が、パパが世話になった人なの。べネルさんのお店、あたしが小さい頃は遊びに行ったりしていたの。べネルさんとパパはお友達なんだって言っていたわ。べネルさんや奥さんのルーナさん、いい人よね。あたしも小さい頃は可愛がってもらっていたわ。今は、あそこは魔の国の人が来ることがあるから、あたし達はもう行かなくなっているの』
先生の授業はそっちのけで、コンタクトしているベルネリだが、ヤコは、
『でも、最近はあの店に魔の国の奴らは来ないんじゃないかな』
と、かなり興味深い事を言い出した。
『どういう事』
何故か、ショウカまでコンタクトしてきた。ぎょっとするベルメリだ。ショウカまでコンタクトできるなんて気付かなかった。少しショックだ。ひょっとしたら、何か不味い事考えていなかっただろうか。
『あたしは、最近能力が出て来たの。心配要らないわ』
ショウカの言い様に又不思議な気分になるベルメリ。
するとヤコは、
『魔の国の奴らの影響が無くなって、皆自由に過ごせているんだな』
と、感慨深げに言いだした。ベルメリは意外な気がして、ショウカを振りかえり、
『ショウカも、魔の国が故郷だったりするの?』
と言っていると、授業をしていた先生が、
「何だか今日は、俺の授業聞いてくれない子がいて、先生少し悲しい気分なんだー。自習にしようかな」
と眉を下げてしょげている。
「あ、すみません。分かりましたか」
思わず謝ってしまうベルメリ。くすくす笑う周囲の女の子達だ。男の子は、
「自習だ、自習だ。それが良いよ」
と先生のぽろりとこぼした言葉に賛成し出し、結局先生もフンッとか言いながら職員室に帰ってしまった。皆が浮ついた気分なのが分かっての事だろう。後は皆口々に、双子に喧嘩の成り行きを聞いたり、ヤコが何をしでかしたのか聞きたがったが、そこの所はヤコは全く口を開かなかった。皆はもう聞き出そうと思っても無理だと悟ったころ、やっと一時間目が終わった。
次の時間は長距離レースの練習がある。この時期、この町と近隣の町一帯のハイスクールでは学校対抗の長距離レースが開催される。負けず嫌いの面々は、練習をしたがり、ベルメリの様なやる気のない子にとってはさぼりの時間でもある。
皆急いで着替えて校庭に出ようとするのだが、ベルメリは皆のやる気にはしらけるばかりである。『負けず嫌いって、不思議ね。負けてどうだって言うのかしら。あたしは大概ビりだけど、気にしないけど』いつも、そう思いながら、後ろから適当に走るのだ。熱心な子よりだいぶ走る距離が少ないまま、授業時間を終わるのが常のべルメリで、他の子より少ない距離しか走っていないのでお得感まで感じていた。
準備体操をしながら、ヤコはさっきのベルメリのひとりごとに答える。どうやら又、スイッチを切り忘れていたと分かったベルメリだ。
『僕たちは一番が好きだなあ。自分が一番優れていたって言う事実には何か心地よい物が体中に流れるんだ。あれは何かな。陶酔感?自分の力に酔う感じ?やり遂げた満足感かな。あの感覚は病みつきになるな』
『へー、そうなんだ』ベルメリはそもそもそうゆう事になりっこないせいで、自分とは全く縁のない事ととらえている。一方、リリは縁がありそうで、かなり気合を入れて練習するつもりらしい。内心『ご苦労様』と思ってしまうベルメリ。ショウカはこういった運動には関心が無いらしい。だが、ベルメリの様にマイナス思考でも無く、リリの様にヤル気も無く、恐らく一般人の感覚と言う物だろう。皆が走るから同じことを淡々とするだけのようである。
ショウカを見ていて、さっきの疑問を思い出したベルメリだ。どういう事なのか聞いてみようかと思う。
皆が一斉に走り出した。学校の周りの道路を男の子は8回、女の子は5回、周る事になっている。
さほどまだ距離に開きが無いうちに、ベルメリはショウカの側に必死で寄り、『ねえ、ショウカって魔の国出身とかじゃないでしょ。でもコンタクトとかできるし、魔力だって有るみたいね。でも人で間違いないよね』
『気になるの?分からない?あたしの一家は魔法使いって言われているの。人には違いないけど、特殊な能力も有るのよ。人が進化したのかな。あたしの家はパパが一番魔力があるけど、女の人で魔力のある人は魔女って言うの。あたしも成人したら魔女って呼ばれるでしょうね。卒業したら、親せきの家にいろんな技を習いに行くの。あなた達みたいに初めから魔力で色々出来る訳じゃないの。練習が必要だから、あなたみたいに何気なくコンタクトできるのはちょっと妬ける。彼が転校して来て、すぐ仲良くなるんだもの。リリは魔力は無くて、でも勘は良いから。あなたとヤコが仲が良いのは勘付いているわ。あの子を怒らせないように気を付けてね。知っているかもしれないけど、リリのパパは警察署の所長よ。出世したんだってよ。不味い事、勘付かれないようにしないとね』
『そうなんだ。それはちょっと気を付けないと。教えてくれてありがとう』
そんなコンタクトをしていたベルメリだが、これ以上並走できず、コンタクトも割と体力を使うらしいのが分かったところで、ショウカにどんどん引き離された。
『ショウカって、魔力それほどないような口ぶりだったのに、走るの早いわね。あ、こういうのは体力かー』
呑気に考えながら適当に走っていると、後ろから、
『おーい、ベルメリおっそーい。周回遅れだよぅ』ヤコのコンタクトでおどろいて振り返ってもう追い抜かれそうな距離に居るのが分かった。こんな事は初めての経験だ。
『げっ、ヤコ早すぎ。やだ、追い抜かれちゃう』
『早すぎじゃないよ、じきオーカーに追いつかれそうで、必死なんだから、振り向くの癪だから振り向かないけど、後ろ、後どのくらいあるか教えてよ』
『え、あの黒髪で目の赤い人の事。今20メートルくらいの差だけど、あ、19かな、スピード上げだした』
『げっ』ヤコは多分、分かっていると思ったベルメリだ。構ってやらない言い訳をして、立ち去った感じである。直ぐに赤い目の転校生が横に並ぶ。
『ベルメリちゃんって言うんだー。僕、土ドラゴンの家にいるけど、ココモドラゴンとのハーフだから、茶色くはなくて、黒いドラゴンなんだ。でも名前はオーカーで、有名ドラゴンの実の息子でー、ヤコより僕と付き合った方が、良いんじゃなーい』
『でも、あたし内緒だけど魔人なの。ドラゴンとは御法度じゃないの』
『わー、もう失恋かー』
きっと冗談なのだろうと思うベルメリがくすくす笑うと、転校生はため息をついて走り去った。
「皆早いのね。あ、あたしが遅いんだ。今更だけどね、なぜか速く走れないのよねー」
今年の男の子たちは足の速い子が多くて、また追いつかれそうだ。双子のチーセンとラーセンだ。
「ベルメリちゃん、周回遅れだよー」
「知ってる」
「だろうねー。な、ラーセン。俺らベルメリちゃんをこの走りで何回追い越せると思うか」
「まっ、失礼ね」
「あは、堪えてないかと思ったら、気にしてんだー。多分3,4回じゃないか」
「そんなもんかな。俺は6回ぐらいかと思ったのに」
チーセンの予想に腹が立って来たベルメリは、
「言っておくけど女の子は5周なの。6回は有り得ないから」
二人は笑いながら立ち去った。




