葛木
コーヒーを飲みながら暗財は何から喋ろうかと、頭を回転させた。そのせいか、数分ぐらい沈黙が続いていた。その状況を、少し悪いと判断したのか、相原は目の前にいる浅川に喋りかけていた。だが、浅川は、簡単な相槌をうつだけで、話は長く続かない。
「あの・・・」と重そうな口をゆっくりと開けた。
彼女は軽くやせ細っている。おそらく、伊野達が死んだことが大きな悲しみだったのだろう。
「どうした」
「死ぬ直前の浩太(伊野達)は、いつもと違いました」
「え?」暗財は耳をかたむける。
「なんか、葛木という男の家に行くだとか・・・。殺されるかもしれないって言っていました」
「じゃ、その葛木が犯人なのか?」
「分かりません。でも事件当日は、葛木という男の家に行っていたことはたしかだと思います」
「マジかよ・・・」相原が驚いた表情で言った。
「警察に言わなきゃな」
「いままで、言ったほうが良かったのか・・・。悩んでいたので」浅川は不安そうな表情で言った。
「暗財の言うとおりだ。言わなきゃ」と相原は言った。
「でもさ・・・」
「な、なんですか?」
「俺、また警察に会わなきゃいけないの?」暗財は苛立ちながらそう言った。
数日後。犯人が葛木だということが発覚した。伊野達の胴体に着せてあった服には、ほんの微量の葛木の指紋が検出された。ちなみに、その服は葛木の服らしい。だが、この捜査により、新たな事件が生まれた。
葛木が犯人だとは分かったが、葛木は死んでいた。誰に殺されたのだろうか、と捜査した。が、その事件はすぐに解決した。葛木は、自殺したのだ。伊野達を殺し、警察に捕まるのが嫌だったのだろう。
首吊りの状態で発見されたらしい。しかも、葛木の足元には、遺書もあった。
『悪を殺し、それで全てが終わる予定だったが、その予定はダメかもしれない。だから死ぬ。』
悪とは警察なのだろうか。それはまだ明らかではない。