マスコミ
伊野達が死んで、1週間がたった。頭部だけは見つかったが、他の部分は見つからなかった。犯人も見つからない。時間は、静かに何事もなかったように早くすぎていった。この1週間は早くも遅くも感じられた。時計の刻む音もゆっくりだったような気もした。早かったような気もした。おかしな1週間だ。
暗財は、今日もとあるマンションに、忍び込んでいた。いつもどおり、金を取り、静かにそのマンションを出た。
前と違い、このマンション付近はうるさかった。街の中心部ということもあって、交通量は多く、人通りも多い。もちろん、たくさんの音が聞こえた。人の喋る声、車が走る音。自然の音はほとんどかき消されていた。
それから数時間がたった。辺りは暗くなった。伊野達が死んだときの暗財の気持ちも暗かった。気持ちの方が暗いかもしれない。暗財は自宅にいた。
自宅に帰ってくれば、静かな時間がすごせる。街中とは大違いだ。そんな甘い考えは間違っていた。伊野達の事件のことについて、マスコミが自宅にやってきたのだ。ということもあり、暗財はかなり苛立っていた。
4日前、相原と暗財はこんな会話をしていた。
「伊野達はさ、いいやつだったよな」相原と暗財は、相原のカフェのカウンターでコーヒーを飲みながら喋っていた。
「そうか?」
「なんだよ。そうか?って」
「そうかはそうかだ」
相原は呆れるようにため息をついた。「よく考えろ。お前に盗みの情報を提供してくれたのはあいつだぞ」
「家の情報を提供されなくても、空き巣なら自分ひとりでできる」
「そうか?盗みをやってて、伊野達は、支えになったと思うぜ」
「まあな」
「だろ?」
「一応残念なことはあるさ」
「だからさ、伊野達に感謝しろよ。盗みの仕事、手伝ってくれてありがとなって」相原は笑顔になる。
「ああ、分かったよ」
「じゃ、これからも盗み頑張れよ」
「盗みって言うな。一応、しっかりとした本職なんだから」
「分かった。分かった」相原は笑う。
それから、少しの間が空いた。するといきなり、相原が、「あ!」と大声をあげた。
「どうしたんだ?」
「マスコミには気をつけろ」
「は?」
「伊野達の事件について、マスコミがお前の家までやってくるぞ」
「え?」暗財は驚いた。
「最悪だろ?」
「ああ」
「もし、マスコミが凄く嫌になったら、俺を呼べ」相原は自信満々に言った。たいしたものだ。
「もともと嫌だな」
「じゃあ、俺がマスコミぶっ飛ばしてやるから」
「やめとけ」
そして案の定、マスコミは自宅の玄関まで来ていた。
暗財は、思った。相原に助けを求めようかな、と。