ストレス
しばらくしてから、暗財はバスから降りた。降りたバス停は、ビルが我々を見下ろすかのように建っている街中にあったため、多くの人が、バスを降りた。
先ほどの静かな場から一変して、車の音、人の喋る音などが、四方八方から聞 こえてきた。暗財が、違う世界に来たのか、と疑問を持つほどだ。
自宅までは、徒歩で移動した。あまりのうるささに苛立ちを感じながらも歩いていた。
人の喋り声は全て同じように聞こえた。別に話に耳をかたむけることもない。だが、ある会話で、暗財は考えた。
「俺の家、空き巣にやられたんだよな」と髪は茶髪で制服を着た、若い男が友人らしき人物に、そんな話題をもちだしていた。
それはまるで自分のことを言われているようだった。
家はマンションだ。最近出来たばかりということもあり、外装も内装も綺麗だった。暗財は玄関の扉を開けて、入った。靴を脱ぎ、リビングに向かった。そして、すぐに上着をぬぎ、ソファに横になった。
暗財は、今日をふりかえる。疲れやストレスはたまったが、金はたまらない。そんな自分に苛立つ。
その直後、携帯電話がブルブルと鳴った。上着から聞こえる。暗財はふらふらしながらも、携帯電話を取りに行った。
携帯電話を耳につけた。
「もしもし」バスで聞いた声が聞こえた。
「伊野達か」
「ええ、そうです」
「なんの用だ」
「どうですか。いっしょに食事でも」
「悪いが断る」
「なぜ?」
「疲れた」
「疲れたというのは残念ながら、正式な答えではないな」
「ストレスがたまった」
「それもダメですよ」伊野達は笑う。
「じゃ、行くよ」暗財は重いため息をついた。
「それが正式な答えです。おめでとう」
「ありがとよ」暗財は苦笑しながらも言った。
「では、どこで?」
「いつものところでいいだろ」
「分かりました。では、また会いましょう」
暗財は、悔しさを胸に、もう一度ため息をついた。なんで行かなきゃいけないんだよ、と自分に聞いた。