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黒澤

 暗財はマンションから出ていた。今日の収入はゼロ。暗財は沈んでいた。

 相変わらず、人の姿は確認できない。確認できるのは、田と畑とかかしだけだ。静かにこちらを見ているかかしは奇妙だった。生きてはいなだろうが、今にも襲い掛かってくるかもしれない。そんなことを暗財は想像していた。

 早く家にも帰りたいが、この静かな場所にずっといたかった。静かな場所にいると心が落ち着き、精神的にも癒してくれる。だからこそ、暗財は静かなところが好きなのだ。

 そして、もう一つの理由は、泥棒をやっているからだ。泥棒をやっていれば自然に、静かな場所に慣れてくる。たとえ、静かな場所とは無縁であっても、そうなる。

 仕方が無く、暗財は自宅に帰ることにした。若干、肩を落とす。今の天気の良さとは、裏腹に、暗財の心は曇っていた。


 帰りは、バスを使った。それほど混んでいることはなく、簡単に座席につくことが出来た。そして、外をずっと眺めていた。

 すると、携帯電話がなった。着信音はいたって普通だ。暗財は、着信音にはこだわっていなかった。暗財は、携帯電話を耳につけた。

「もしもし」暗財は、暗く、小さい声で言った。

「伊野達です。暗財さん、盗みはどうでしたか?」と明るい声で、伊野達いのたちは言ってきた。

「盗みじゃない。ちゃんとした、仕事だ」暗財は、伊野達の発言に苛立った。

「すいません。で、どうでしたか?」

「0だ」暗財は自慢するでも、卑下するでも、どちらにもつかない言い方で言った。

「結果としては、悪いですね」

「ああ、残念だが」暗財は軽く頷く。

「ま、今度は頑張ってくださいよ」

「ああ」

「あっ。そうだ」伊野達はひらめいたように言った。

「なんだ?」

「黒澤さん、今日はホームレスの人となんか、喋ってましたけど」

 黒澤くろさわという名前を聞くたびに、暗財は、興奮する。黒澤は空き巣に関してはプロだ。ただ、よく分からないのは、金を盗んだときに、金を盗む額をいちいち紙に書いて、その紙を残していくところだ。

「見たのか?」

「ええ、マンションの近くで」

「ホームレスから、金を取るなんてことも、考えにくい」暗財は、黒澤の行動を想像してみた。

「金をホームレスに渡したとか?」

「かもな」暗財は鼻で笑う。

「暗財さんも、やったら?そういうこと。暗財さん、感情無いし」

「感情が無くて悪かったな」

「では、またあとで会いましょう」伊野達は明るい声で、電話を切った。

 暗財は、携帯電話をポケットにしまう。そして、再び、窓の外を眺めていた。

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