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紫暮 ひさな と メランコリー④

 翌日の放課後、俺は昨日の裏門の先へ向かった。ハクサイと紫暮 ひさなに会いに行くのだ。

 休み時間に偶然紫暮の近くを通ったからそのときに「今日もハクサイに会いに行ってもいい?」と聞いたら「は? 死ね」と快くOKしてくれたのだ。

 昨日、紫暮と話している最中『心の音』が全然聞こえてこなかった。つまり裏門の先の森が紫暮の悩みに関係しているわけではない。そうすると、なぜ森にいつも行っているのかと、どうしてホームルームが終わってから『心の音』を出すのかという2つの疑問が生まれる。

 噂によれば森に毎日行っているようだし、紫暮がハクサイを放置しないだろうということから今日も森にに行くはず。

 この出来事をきっかけに紫暮と仲良くならないかな。そうすれば『心の音』の原因がわかるだろうし。

 実はもう紫暮は俺のことを友達だとか思ってくれたりして。

 さすがにそんなわけないか。

 俺は昨日の岩のあるところまでやってきた。

「ハクサイー♡ かわいいでちゅねー!」

 そこで紫暮がハクサイを撫でまわしていた。

 俺は内ポケットからスマホを取り出して、紫暮のじゃれてる写真を撮った。パシャリとシャッター音を出してしまったためか紫暮は俺のほうを向いて睨んできた。

「あんた何私の写真撮ってんの。普通に盗撮だけど。もしかして通報されたいの?」

 紫暮からギューンと少し『心の音』が聞こえてきた。この程度なら無視できる。

「すまん、つい欲に負けて。それにしてもでちゅねって……。……プッ」

「そそそそそれ以上言うようなら、本当に通報するよ!」

「すみませんでした!」

 俺は流れるように土下座した。

「……フフ」

 どこからか女性の声が聞こえた気がした。それはもちろん男の俺やサディストの紫暮でもない。

 俺は辺りを見回したが、特に誰かいたような痕跡もなかった。

 気のせいなのか……?

「それにしてもあんたは今日もここに来たんだ」

「そりゃあ来るよ」

 手や足についた汚れを払いながら答えた。

「だからここに来ないでよ!」

 紫暮は叫んだ。そしてドォーンと大きな『心の音』を出した。

 俺はものすごく吐きそうになったが、どうにか我慢することができた。

「別に来たっていいだろ。ここはお前の土地なのかよ」

「違うけど」

「だったらいいじゃねえかよ」

「もうお願いだからここに来ないで。そして私に構わないで!」

 『心の音』が大きくなった。

「なんでだよ!」

 紫暮は何かに躊躇った。

 少し間が開いてから紫暮は言った。

「あああんたのこと、大っ嫌いだから!」

 さらに『心の音』が大きくなった。

 ずっと我慢していたがもう限界だ。

 俺は小鹿のように足がフラフラして、後ろへと思い切り倒れてしまった。

「はあ、はあ」

 息がどんどん荒くなっていく。

 気持ち悪い。

 何も考えたくない。

「大丈夫?」

 紫暮が俺のそばへやってきて言った。

 まだ紫暮の『心の音』が鳴り止んでくれない。

「大丈夫だから。ちょっとだけ安静にさせて」

「私のせいだったりする?」

「いや、俺の持病みたいなのが今ちょうど来ただけだから」

 もっと『心の音』が大きくなってしまうかもしれないから、紫暮のせいだなんて言えるわけがない。

「ワン?」

 ハクサイも心配してくれているようだ。

 その証拠にハクサイからも『心の音』が聞こえる。

 この状況はすごくまずい。

 このまま俺が寝たままだと紫暮とハクサイの『心の音』が大きくなってしまう。そんな悪循環にならないようにするには俺が早く起きなくてはならない。

 俺は無理をしてゆっくり立ち上がった。

「もう大丈夫だ」

「まだ顔が真っ青だけど?」

「もともとこんな色だろ」

「絶対にそれは違うよ!」

「とにかく大丈夫だから。安心してほしい」

 そうしてくれないと俺の体調がどんどん悪化するから。

「そう。ならいいけど」

 少しだけ紫暮から聞こえる『心の音』が小さくなった気がする。そしてハクサイからのも同じように小さくなったようだ。

「俺が急に倒れたから返事できてなかったけど、お前は俺と関わりたくないようだしもうここには行かないよ。俺のことが嫌いだって言ってたしな」

 俺は紫暮から早く離れられるようにできるような発言をした。

 体調がまだ悪いためゆっくりのペースで帰り始めたときだった。

「待って!」

 紫暮は俺を呼び止めた。

 後ろからギュンと『心の音』が聞こえてきた。

 思わず後ろを振り向くと、紫暮の目からポロポロと涙が出ていた。

 涙が出ている間はしばらく音が鳴ってしまう。止めなくては。

「おい大丈b……、うわっ!」

 俺は紫暮に近づく途中で石に躓いて前に転んだ。

「え、キャッ!」

 そして俺に巻き込まれて紫暮は後ろに転んだ。

 手をついてどうにか頭を打たずに済んだ。

 紫暮からキュゥと『心の音』が小さく聞こえてきた。

 彼女の顔が真っ赤だった。というかめちゃくちゃ近い。

 俺と紫暮の状況を客観的に見ると、たぶん俺が紫暮を押し倒しているように見えるんだろうな。

 なんか俺も顔が熱くなってきた。

「ご、ごめん!」

「む……む……」

「む?」

「胸!」

 急に紫暮が叫んだ。

 胸?

 胸に何かあるってのか?

 そういえば俺の手は何か柔らかいものを掴んでいる気がする。

 俺の手のひらへ視線を向けると、……そこには紫暮の胸部があった。しかもがっしりと掴んでいた。

 ……。

「なあ」

「な、何」

 紫暮はなぜか緊張していた。そしてシュゥッっと『心の音』が小さく聞こえてくる。

「紫暮様って意外と胸部が貧しいのですね」

 俺の目の前にいたサディストは思い切り俺の顔面をぶん殴り、俺は吹っ飛ばされた。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! ……死んでしまえーっ!」

 紫暮は立ち上がり大声で暴言を吐いた。

「俺が一体何をやらかしったっていうんだよ!」

 俺は鼻から血を出しながら言った。

「はあ? あんたが私を押し倒したようにしか見えない状況で、私のむむ胸をままままま貧しいだとか言うなんて最低でしょ!」

「確かに……」

「今納得すんな!」

「だってしょうがないじゃん! あの状況でなんて声かければいいかわからなかったんだもん! どうすればよかったんだよ!」

「『すみませんでした! お詫びに足を舐めさせてください!』って言うとか?」

「それは紫暮様の趣味だろ!」

「え、普通言わないの? 私の読んでる小説にはそういうこと結構書いてあったんだけど」

 ……。

 紫暮の頭はもうダメかもしれないな。

「そういえば、俺を呼び止めた後何か言おうとしてたのか?」

「言おうとしたよ! 本当はあんたのこと嫌いじゃないからって! でも今のであんたのこと嫌いになった!」

 紫暮は大声を出したが、『心の音』が出ていない。

「お前、実はツンデレなんだろ」

「わわ私、ああああんたなんかにデレないしー!」

 俺は近くでずっと見ていたハクサイを抱きかかえ裏声で口を開いた。

「ひさながデレててかわいいワン」

 紫暮は無言で俺に近づいてきた。

「ふざけた声真似しないでくれる!」

 俺は思い切り股間を蹴られた。

 律儀にハクサイを下ろしてから、股間を抑えるようにしながら倒れた。

「……も、もうそんなこと……言っちゃって。本当はデレてるくせn……、ぐぁっ!」

 紫暮は俺の頭の上に足を乗っけてぐりぐりした。

「これ以上言ったら今度はハイヒールのかかとで、あんたの頭をかち割るから」

「すみませんでした。……あと1つよろしいでしょうか」

「何?」

「スカートの中見えてます」

 紫暮は顔を真っ赤にしながら俺の頭を思い切り蹴った。

「ぐぅっ! 超いてぇよ!」

「あんたの辞書にモラルってあるわけ?」

「……フフフ」

 また紫暮ではない別の女の人の声が聞こえたような気がした。

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