表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/71

【第3週】 ■03■

スッキリとした会議室。

競技場のトラックの様に配置された白いテーブル。

大きな窓からは、東京湾が一望できる。

清潔で生活感の無い空間。


その中心となる席、いわゆる"上座"にひとりの男が座っている。

ビジネススーツに身を包み、明らかに会社上司然とした中年男性。

そんな彼はテーブルに両肘を付き、物思いに耽る様にそこへ頭を乗せて、テーブルへ視線を落としていた。

そのすぐ隣に立っている男は、誰か別の人と電話で会話をしている。


「えー…、そぅっ、そうかあ…はいっ。ハイッ。」


その男は、上座に座る上司と違い、上着は着ていない白いワイシャツ姿。

スマホ片手に、その向こうにいるであろう相手に頭をペコペコと下げていた。

その彼の対面には、もう一人の男が苦虫を潰した様な顔で、腕を組んで座って居る。


この場所は、お台場にあるTV局の会議室。

上座に座る上司は、報道番組制作の長である報道室長。

スマホで通話している男は、番組プロデューサー。

腕組して座る男は、室長の次に偉い次長。


「ええ、はいっ。」

「わっかりましたあ、失礼しますぅ」

「はいっ、はいぃっ。」


大仰に頭を下げ、スマホの通話を終えたプロデューサーは、二人へと向き直った。

彼は、そのまま滑り込む様に会議室の椅子へと座る。


「TBSの知り合いに聞いてみました。」

「やはり、同じものが郵送されてる様子です…。」

「今の電話から聞いた感じだと…」

「同じ内容の動画ファイルみたいです…。」


プロデューサーは、それだけ言うと室長と次長へ頭を下げた。


「これで、民放全部に郵送されている事がわかりましたな…。」

「うーん…、そうかぁ…っ。」

次長は自分の局以外にも届いている事を再確認し、それを聞いた室長は扱いに困って唸った。

大きく椅子の背もたれに身を任せ、室長は天を仰ぐ。


「その動画…。」

「悪戯…、という可能性は…?」


思いついたように身を戻し、室長はプロデューサーに確認する。


「それも確かにありますが…。」

「キー局全てに送りますかねぇ…?」

「小包みの消印は…っ?」

「何処から発送されているのかね…?」

次長は机を軽く叩きつつ、プロデューサーへ詰め寄った。


「ウチに来たヤツは、消印が沖縄でした。」

「TBSは、中国からのエアメールです。」

「こんな広範囲からの投函…」

「悪戯でやる事ですかね…?」


「う~ん…っ」

次長は諦めた様子で、室長と同じ体勢で天を見上げる。


「…どうしたモンかなぁ~っ」

「他よりも先に報道したい…」

ポツリと室長は誰に言い聞かせるでなく呟く。


「でも、ガセだったら大変な事になりますよぉ~」

身を乗り出して次長は室長に問いかけた。

「誤報なんて事になったら、クビですよっ室長…っ!!」


「それに…青鞜党と何らかの繋がりがあったりとか…?」


室長はチラリッと次長を見る。

「今のところ…、関連は見られないし…」

「政党を敵に回すのは、良い事とは思えんねぇ…」


ゆっくりと室長は、視線はそのままに身体を次長へと向けた。

「確かに、青鞜党と求める理念は通ずる所はあるが、」

「最近のこうした運動は、従来よりも活発になっているからねぇ~」

「青鞜党のやり方では、納得出来ない別団体の可能性もある。」


「…とは言え…」

大きく息を吐き、室長は再び天井を見上げる。


「他のキー局に出し抜かれたら、どうする…っ!!」

「速報…いや…っ」

「夕方のニュースに差し込めるか…??」

室長は軽く拳でテーブルを叩いた。


「はい、スタッフにはすでに編集作業に出しています。」

不意に話を振られたプロデューサーは慌てて応えた。


「警察…」

「警察は…?」

「何と言っているっ???」

室長の言葉を制する様に次長が問いかける。


「へあっ!?」

「は、はいっ、警視庁に詰めている記者に確認しましたけど…」

プロデューサーは、バサバサとテーブルに置いていた資料を漁る。

「"特に何も無い"との事でした…っ!!」


「マスコミにしかコレは届いてないのか…?」

「それとも、警察は知らんふりをしているだけか…?」

次長は眉を顰め、思い悩む素振りを見せた。

室長も彼の仕草を真似る様に、腕を組み、ギュッと眼を瞑って思案に暮れている。


「でもぉ…」

プロデューサーが恐る恐る声を上げた。


「このまま放置して、何か大事件でも起こったら…」

「マスメディア全体の責任問題になりません…?」


三人はそれ以降、椅子に座って頭を抱え込んだ。

お通夜の様に、静かに静まり返った会議室。

不意にドアが開くと、スーツ姿の老年男性が入室してきた。

彼が会議室に入った事に気が付いた三人は、慌てて起立してピシッと身を引き締める。


「これは社長…っ!!」

「ご足労いただき有難うございます…っ!!」


老齢の男性に三人は深々と一礼した。

それを睥睨しつつ、社長は会議室の上座へと移動する。

慌てて室長は上座を避け、社長へ椅子を薦めた。

促されるままに社長は椅子に座り、片手でテーブルをコンコンッと小突く。


「…話は聞いているよ。」


「はいっ! 大変申し訳ありませんっ!!」

「我々が判断するには、荷が重く…っ」


室長は大きな声をあげ、今にも床に土下座する勢いで応える。

社長は、片手を軽くあげて室長の勢いを制した。


「私の所に警察から電話が来たよ。」

「警視庁も事を把握している様子だった。」

「具体的な情報は教えてくれなかったがね…。」

「あと、ご丁寧に共同通信社からも連絡があったよ。」


「…本当ですか…???」

淡々と報告する社長の言葉に、室長は息を呑みつつ答えた。


「ああ、事は重大だ…。」

「直接、キー局の重役同士で話をつけたよ」

「フライングはなし。」

「マスコミは連携して、この件を同時刻で報道する事にする。」


毅然とした態度で社長はそう告げた。

これは業務命令であり、その場に居た三人は平伏した気持ちで受け止める。


「さて、では…」

「その動画を見せてくれたまえ。」


社長は椅子に座り直し、室長へ指示を出した。

室長はプロデューサーに無言で目配せする。

プロデューサーは、慌ててノートPCから、その動画を呼び出し

会議室のプロジェクターに問題となった動画の再生を開始した。


■■■続■■■

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ