【第10週】 ■13■
玉兎倉庫から少し離れた別のビル。
その非常階段にリンカとコノハは居た。
倉庫の側面に張り付くように設置された、鉄筋造りの非常階段。
その踊場から二人は、赤々と燃える玉兎倉庫を眺めている。
玉兎倉庫は窓から火を吹き、黒煙が濛々と立ち上がっていた。
見飽きた感じで、コノハは燃える倉庫から背を向ける。
そして、踊り場の手すりへ背中からもたれかかった。
「まさか、コンクリートの壁に穴を開けちゃうなんて…。」
リンカは呟きながら、しみじみと燃える倉庫を眺める。
「あんなの簡単だよーっ☆」
「モルタルなんて、1200℃で溶けちゃうもん♪抜け穴を開けるなんて、大したことないよ。」
コノハは自慢げに微笑む。
事も無げに笑うコノハを横目に、リンカは倉庫から脱出した時を思い出していた。
倉庫はモルタル壁で、厚さも5cm位はあったと思う。
そんな、一枚岩のようなコンクリート壁。
空手家の拳でも打ち砕けない。
そもそも、人間の素手で破壊する事は不可能だ。
だが、コノハは易々とモルタル壁を破壊した。
正確には、破壊ではなく溶解した。
爆破を開始して、爆発と爆風が巻き起こる中、コノハは倉庫の壁に触れた。
すると、コノハの触れている壁から、モワッと白い煙が湧き上がる。
そして、コノハの手がモルタル壁へ沈み出す。
ゆっくりと、吸い込まれる様に手が壁を貫く。
それは、倉庫の壁が大きな豆腐で出来ているかの様にも見えた。
ずぶりっとコノハの手が、壁へと吸い込まれ、手の形に穴が開く。
そうしてモルタルの壁へ、人一人が通れる程の穴を開く。
そして、そこからコノハは隣のビルへと飛び移った。
リンカもその後に続く。
数メートルの高さから壁を蹴り
ビルの屋上を飛び越え
ビルとビルの間を跳躍する。
そんなパルクールの様に倉庫ビルを飛び移り、今の場所まで逃げて来た。
こうして、二人は爆発して燃える玉兎倉庫から脱出した。
燃えている玉兎倉庫を背にして、コノハが微笑む。
「リンカ、結構やるジャン♪」
「もう少し慣れれば、よいイザナミになれるよ♪」
「うーんと…っ☆」
「…良かったら、仲間にならない…?」
コノハは、隣に立つリンカへと視線を送った。
リンカは炎が噴き上がる倉庫を眺めつつ、コノハの言葉に応える。
「それって、アマテラスに入れって事?」
「うん、そうだよ♪」
コノハはニヤニヤと笑いながら、無邪気に言い放つ。
「悪いけど、断るわ。」
「…貴女達の理念に賛同できないし…。」
「アタシは、今までアマテラスに騙されてきたんだもの…。」
リンカは即答でコノハの申し出を断った。
「ふーん…、そうなんだ。」
「じゃあ、次に出会ったら…、敵になるのかな…?」
「それなら、ここで決着を着けた方がイイのかなぁ~…っ??」
そう呟くと、コノハはもたれかかっていた手すりから身を起こす。
ぞろりっとした殺気が空気を震わせる。
それに反応して、リンカもコノハの動きを注視しつつ、間合いを開いた。
黙って緩やかな動きでリンカの正面へ立ち、コノハは間合いを取った。
互いにジッと見つめ合い、どう動くのかを推し量る。
フッと張り詰めていた緊張を解き、コノハは脱力して肩を落とした。
「…やーめたっ♪」
「冗談だよっ♪ジョーダンっ♪♪」
両手をプラプラと力なく振って、コノハは笑った。
「ディライラに嫌がらせしてやったし♪」
「ここで、リンカを倒しちゃったら、嫌がらせの意味ないじゃんっ♪」
コノハはニコニコと微笑む。
「じゃあ…、ボク帰るね♪」
そう言うと、片手を上げて挨拶しつつ、コノハは非常階段を降り始めた。
半ばまで階段を降りるとコノハは立ち止まって、階上に居るリンカを見上げた。
「リンカぁ~っ♪」
「もう、ウチらとカチ合っちゃダメだよぉ~♪」
「もし、次に会ったら…、手加減しないから♪」
ニコッと無邪気な笑みを浮かべ、コノハは親し気に片手でバイバイと手を振った。
「じゃあねっ★バイバイ☆」
「陽光に導かれん事を…♪」
そうして、コノハはリンカと別れて階段を下りて行った。