【第9週】 ■06■
ウズメ一人だけで、倉庫の正面玄関へ向かう。
少し離れた場所から、ディライラとウズメは見守る。
ガラスと鉄枠の大きな玄関ドア。
その正面でウズメは、一旦停止する。
そして、手慣れた風に鍵を取り出すと、正面玄関のカギ穴へ挿入した。
難なく扉は開錠して、ウズメは背丈より高いドアを開き、倉庫のロビーへと入り込む。
ウズメのヒールが床を踏む硬い音だけがロビーに響く。
すると、その音をかき消す様に複数人の足音が響き、ロビーへ警備員達が集結してきた。
あっと言う間にウズメは、警備員達にグルリッと囲まれる。
「…動くなっ!!」
警備員の一人がテーザー銃を構えつつ、ウズメへ声をかける。
「…あらら…??」
場違いな雰囲気の呟きを発して、ウズメは囲んで来た警備員達を見渡す。
「…あら、情報が漏れてましたわ♪」
倉庫の外だが、正面玄関の内側の様子は垣間見える。
一部始終を観ていたディライラは、そっけなく呟いた。
「…リークしたのアンタでしょ?」
棒読みなセリフを聞いたコノハは、深く溜息を吐いた。
「えー♪ そんな酷い事しませんわぁ♪」
「でも…。これで、警備はウズメに集中しますから★」
「手薄になった警備室は、アタクシが制圧してきますわ」
片手をヒラヒラと振りつつ、ディライラは右神と左神を従えて、警備室に向かう。
それを目で追いつつ、コノハは面倒そうにウズメの方へと向かった。
警備室では、不審なタレコミ電話の通りに現れた女をカメラで監視していた。
倉庫を警備しているのは、全員で8人。
女の身柄確保に向かったのは、4人。
警備室で監視しているのが、2人。
倉庫内を巡回しているのは、2人。
「…一体、何なんだあの女?」
「確かに、深夜に倉庫へやってくるなんて、怪しいにも程があるな…?」
警備室で監視業務に従事している二人は、呆れた雰囲気で言葉を交わす。
監視カメラで、包囲されたウズメを凝視する。
「どうする…? 本部に連絡するべきか…?」
「いや…、あの女を尋問してからでも遅くないだろ?」
「あんなヒラヒラしたドレスでやって来るなんて、強盗とかには見えないモンな…。」
「…確かに…。」
そう会話を交わしていると、警備室のドアを大きくノックされた。
「何だ…?誰だっ!?」
警備員が、慌てて室外モニターを確認する。
何者かが、警備室のドアのノブを引っ張っている姿が見えた。
それは、筋肉の塊で、大きな熊の様な巨躯。
ドアノブを数回圧し引きすると、紙細工の様にドアノブが引きちぎれるのが見えた。
そして、爆弾が破裂した様にドア全体がはじけ飛ぶ。
「ひっ!? だ、誰だっ!?」
二人の警備員は、身を低くして飛んできたドアを避ける。
完全にドアを破壊した男は、ゆっくりと警備室へ侵入して来た。
それは、巨大な鬼だった。
黒いスーツを着た。憤怒の鬼。
ご丁寧に、赤鬼と青鬼の1セットが、警備室を強襲してきたのだ。
金髪で短く刈り込んだ髪型の赤鬼。
白髪で肩まで伸びた長髪の青鬼。
身の丈は2mを超え、二の腕は子供の胴体ぐらいある様に見える。
警備員は、目にしている鬼の姿を信じられなかった。
「くそっ!! 女は囮か…っ!!」
警備員は警棒を構え、赤鬼へフルスイングを打ち込んだ。
強化プラスチックにカーボンを織り込んだ警棒。
太さは3cmから4cmもあり、警棒というより棍棒に近い。
単純だが、最も効率的な打撃武器だ。
それを成人男性が目一杯の力で振えば、その打撃は相手を昏倒させてもおかしくない。
頭に当たれば、頭蓋骨を砕き。
肋骨へ当たれば、割れた骨が臓器へ突き刺さる。
だが、そんな打撃を赤鬼・左神は、防御もせずに脇腹へ受けた。
警備員のフルスイングは、硬い巨木を叩いた様な感触がした。
肉体を打った柔らかい感触はなく、硬質な物体へ打ち込んだ感触。
左神は身じろぎもせず、打撃を脇腹で受け止めていた。
そのまま、脇を絞め、ぐるんっと横へ身を振る。
力には、作用と反作用が発生する。
これは全ての物理力に発生し、作用と同じ量の力は反対方向へも発生する。
警備員の放った打撃は、硬い左神の筋肉によって反作用だけが、警備員の握力と腕へダメージを与えていた。
そうして、ダメージで痺れた警備員の手から警棒がすり抜け、脇へ挟んだ警棒を左神は何事もなく自分の手で握った。
軽く左神は警棒で目の前を薙ぎ払う。
それだけで、警備員は壁まで吹き飛んだ。
ぐしゃりっと嫌な音を立て、彼は壁から床へと落ちる。
仕事を完遂した左神は、相棒の右神の方を確認した。
すでにもう一人の警備員は無力化され、右神に両手首を掴まれて吊るされた格好になっていた。
その傍らには、微笑むディライラが尋問を開始している。
「お仕事中、申し訳ないのだけれど…。私達は"金庫"の鍵が欲しいの…♪」
ディライラは、額から流血している警備員の顔へ触れる。
「ここなら、スペアキーがあるでしょ?出来ることなら、穏便にすませたいんですのよっ私達♪」
「…そんな脅しに乗るものかっ!! 向こうへ行った仲間がコッチへやって来るぞっ!!」
ぐっとアゴで警備室のモニターを指し示す。
ウズメを包囲した4人が、強襲されたこの警備室へ来れば、まだ逆転する可能性はある。
そう、彼は想定していた。
だが、モニターを見た彼は、言葉を失うしかなかった。
モニターには、ウズメを包囲している4名の警備員が映っている。
だが、彼等は円陣を組んだ配置のまま、床へ倒れ込んでいた。
その中央には、ウズメだけが立って居る。
明らかに彼女は微動だにしていない。
しかも、包囲して数分間しか経過していない。
「バカなっ!? 何? 何が起きたんだ…っ!?」
成人男性、しかも警備員という体躯に自信がある様な男が4人。
それが、女性一人の前に倒れている。
その女には、何も武器を所持している様子もない。
それどころか、暇そうに体を左右にフラフラと振って、時間を持て余している様子だった。




