表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/71

【第7週】 ■05■

「我々は、それを…、」


「"ヨモツヘグイ"。」


「…と呼んでいますの。」

ディライラは誇らしげに胸を張り、リンカの問いへ応える。


「そして、貴女の様にヨモツヘグイを妊娠している女性。」


「我々は彼女達を"イザナミ"と称しています。」


「リンカさん。」

「貴女のお腹に居るのは、人間では無いの。」

「何と言ったら良いのかしら…?」

「"寄生"?」

「"器官"という方が、近い印象かしらねぇ~っ♪」

頬に手を当て、ディライラは他人事の様に呟く。


「"器官"…?」

「ナニ言ってるの?」

「人じゃないって…、何なのよっ!!」

「アタシの子宮へ、何を詰めたのっ!?」

リンカの肉体の内側に黒く冷たい液体が、どぉっと流し込まれた気がした。

不安。

恐怖。

怒り。

そんな、黒々とした冷たさと重みが、急速に体内へ満ちて染み込んで行く。


「"ヨモツヘグイ"を成長させるには…、」

「それに適した適合者が必要なの♪」

「女性なら、誰でも良いって訳じゃないのよ~♪」

嬉しそうにディライラは微笑み、自慢げに語る。


「アレルギーってあるでしょう?」


「アレを引き起こす原因物質は、"アレルゲン"って呼ぶのだけど…。」

くるくると宙へ人差し指を回し、ディライラは思い出す様に宙を見上げた。


「男性に気持ちよく中出しを決められて…、」

宙を指していた人差し指、それに親指とでOKマークを形作った。

もう片方の人差し指でその輪を突くゼスチャーをして見せる。

それは、セックスを表すゼスチャー。


「ご懐妊っ★」


「…て、言うのが普通なんですけど。」

「その精子が、アレルゲンになる事もあるのよぉ♪」

卑猥な行為を表すゼスチャーを解き、両手を合わせる。


「"ヨモツヘグイ"は、アレルギーを引き起こしやすくってぇ。」

「適合しない女性は、強いアレルギー反応を引き起こしてしまいますのっ。」

「でも、"安定期"に入れば、誰にでも移植可能になりますのよっ♪」

両手でディライラは自分のお腹を囲み、妊娠したゼスチャーを見せた。


「だから、適合者の子宮で育成して…。」

ディライラはリンカのお腹を指差した。


「安定したら、ヨモツヘグイを摘出させていただいて…。」

「それで、改めて適合させたい別の女性に移植しますの♪」


「…まさか、そんなっ!?」

リンカはディライラに指し示された自分のお腹へ触れた。


「アタシは…、」

「今まで3回…、妊娠治療を受けたわ…っ」

「じゃあ、それは…!?」

「まさか、嘘でしょ…っ!?」

リンカの体内には、黒々とした気持ちと感覚が溢れ出すほどに満ち、

その重く暗い感覚が、彼女の動きを封じた。


自分のお腹に居る"子供"。

それは、子供じゃない"異物"。

今まで行ってきてた妊娠治療。


全て嘘だった…?

そして、脳裏に浮かんだ一番の疑問。


「た。た。タニヤは…?」

「当然、タニヤもこの事は知らなかったでしょ…?」

リンカはゆっくりと呟いた。


「…。」

きょとんとした顔をして、ディライラはリンカを見た。


「彼女?」

「あぁ…、物部(もののべ)タニヤの事?」

「…ごめんなさいねぇ~っ♪」

わざとらしく、ディライラはリンカを拝む様に両手を合わせた。


「この事をご存じないのは…、」

「貴女だけですの…っ★」

ペロリッと舌を出し、小馬鹿にするような笑みを浮かべる。


「我々が必要としたのは、適応する"容器"ですわ。」

「"ヨモツヘグイ"が安全に"着床"と"育成"出来る"容器"。」

「それがアナタなのよ、リンカさん♪」


「本当、申し訳ございません。」

呆然としているリンカへ、形式的に軽く頭を下げる。


「今まで騙して妊娠治療を受けさせて…。」

「でも、前回の2回行った治療でも、立派な"イザナミ"が誕生していますわ♪」


「…イザナミ…?」

「何?それは…?」

ディライラの言葉にショックを受けて、蒼白になりながらもリンカは問う。


「"ヨモツヘグイ"の驚異的な能力は、生存本能の強さですの」

「その強さは、受胎した女性を超人化させる。」

「リンカさんも心当たりございますでしょ?」


「"ヨモツヘグイ"で、人よりも優れた能力を得られた女性。」

「そんな女性を我々は"イザナミ"と呼んでいますのよ♪」

得意げに、

自慢げに、

嬉しそうに、

ディライラは胸を張りつつ、呆然としたリンカへ告げた。


「今までアタクシが行ったご無礼は、ホント…、」

「申し訳ございません、謝罪いたします♪」


「だから、今度は一緒に頑張りましょう…!!」

そう告げると、ディライラは片手をリンカへ差し出した。


「ぜひ、アナタにはアマテラスに入っていただきたいの…っ!!」


「ヨモツヘグイを安定して妊娠出来る女性を失う事…。」

「それは、我々アマテラスとしては、大変な損失ですわっ!!」

ディライラは立ち上がり、リンカの片手を強引に握った。


「貴女のその能力。」

「これからも、女性の権利向上に役立てていただきたいと思っておりますのっ!!」

握ったリンカの手を包む様に、両手で掴む。


「この世界は、男尊女卑で成り立っていましてよっ!!」

「でも、少しずつだけど変化はしていますの…。」


「例えば…」


「医大入試の男女差別が発覚してから、女医が増えた。」

「男女均等法によって、様々な分野の職業で女性は増えた。」


「でも、そんな遅々とした歩みでは、駄目ですわっ!!」

ブンブンと、リンカを掴んだ手をディライラは振る。


「こうしている間にも、女性達は虐げられ、搾取されていますのよっ。」


「男どもは勝手に戦争を引き起こし、民族浄化と称して、」

「敗けた国の女性へ集団レイプを公然と行う。」

「女性の身体に商業価値を付け、その姿や肉体を販売している。」


「何故、女性だけが金と体を搾取されないといけませんの…?」


「男が主役の世界には、終止符を打たなくちゃいけませんわっ!!」

カッとハイヒールで床を踏み鳴らし、

立ち上がったディライラは、力強く声を上げた。


「"イザナミ"は、そんな新世界を造り出しますのっ!!」

「超人な力を奮って、男達を駆逐するのよっ!!」

希望に満ち溢れ、嬉々とした表情でディライラは振り返る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ