【第4週】 ■04■
「本来、リンカさんはウチの病院で…、」
「大事な精密検査をお受けになる予定だったじゃないですか♪」
「ですから、アタクシがお迎えにあがりましたの…っ☆」
「大丈夫です、すでに転院の手続きは済んでますから。」
ディライラは営業スマイルを崩さず、リンカへ近づいた。
とすんっと、無遠慮にリンカのベッドに腰かける。
「タニヤさんの事は…、心中お察しします。」
「ですが、心配しないでください。」
「これからは、大己貴命大学病院で、ご静養なさってください。」
しゃべり続けるディライラの息が吹きかかる。
「右神っ!」
「リンカさんのお荷物をお纏めしてっ!!」
ディライラがそう命令すると、白髪の屈強な青鬼は素早く行動を開始した。
リンカの私物を棚から持ち出し、大きなバッグへと放り込む。
「え?えっ??」
「ちょっ…、ちょっとっ!?」
「止めてくださいっ!!勝手に…っ!?」
リンカは片足が骨折した体を何とか動かして、右神の動きを制止させようともがいた。
「心配しないでぇ~」
「コチラに全てお任せくださってっ♪」
リンカの抵抗を皇ディライラは、上から覆い被さる様にして圧し留める。
「いやっ!?やだっ!!離して…っ!!」
「何なのっ??こんなのアタシっ、知らないっ!!」
リンカは必死に身をよじり、ディライラの抱擁から抜け出そうともがく。
「まあまあ♪そんなに暴れないでっ☆」
「いやよっ!!行かないわっ!!」
最初に感じたリンカの悪寒は、益々増大して彼女の中で警報を鳴らす。
その本能的な感覚に従って、リンカは必死に抵抗した。
すると、突然に激しいスパークがリンカの身体を突き抜ける。
視界が激しく点滅し、頭の中が真っ白にふっ飛んだ。
再び、独特の乾いた電撃音が響くと、リンカの身体はびんっと硬直して反り返った。
「まったく…、あんまり手間をかけさせないでぇ。」
「貴女は大人しく、我々に従えばよろしいのよっ♪」
ディライラは、スタンガンをベッドに突っ伏したリンカの頬へ圧し当てる。
「そうすれば、こんな物使わなくて済んだのにぃ…。」
「左神っ!!」
「リンカさんを連れて行ってっ!!」
ディライラは短髪の赤鬼へ命令する。
すると、筋骨隆々とした左神は、リンカを両腕で軽々と抱え上げた。
そのまま"お姫様抱っこ"の体勢でリンカを抱え、のっしのっしと歩き出す。
「いやぁっ!!離してっ!!!」
「離してよぉっ!!」
リンカは出せる全力で、左神の抱擁から逃れようともがいた。
だが、彼女を抱きかかえる左神の腕は、岩の様に硬く、びくともしない。
異常を察した他の患者達が、廊下へ出ると運ばれるリンカを見る。
「右神と左神は、頑強で絶対無敵ですの☆」
「アナタみたいな、か弱い女性に解ける程、ヤワじゃありませんことよ♪」
2mを超える鬼の仮面を着けたふたりの男。
それに抱きかかえられた、病衣を着ている若い女性。
ニコニコと周囲に愛想笑いをしている美女ディライラ。
あまりに異様な光景に、誰も行動を起こせない。
看護婦も怯えた様子で、彼等が立ち去るのを見ているだけだった。
「…こっ、のぉ~っ!!」
「離してっ!!誰かっ!!」
「助けて…っ!!」
リンカは周囲で見物している人々に声をかける。
「あら、いやだぁ、リンカさんったら…♪」
「我々は、ただのお迎えですのよっ★」
「ちゃんと、この病院にも話は通してあるんですから♪」
皇ディライラは微笑み、おどける様に周囲の見物客へ手を振ってみせた。
抵抗空しくリンカは三人によって、エレベーターへと載せられる。
リンカをエレベーターに載せた事を確認すると、皇・ディライラは病棟の方へ向き直った。
そして、礼儀正しく深々と一礼すると、エレベーターへ乗り込んで扉を閉めた。
病院のロビーを抜け、エントランスには大きな黒塗りのリムジンが停車している。
自動で後部ドアが開くと、リンカを抱えたままで左神はリムジンへ乗り込んだ。
その後をディライラが続き、トランクへリンカの荷物を積んだ右神が乗り込む。
静かにリムジンは、病院を後にして動き出す。
リムジンの座席は対面式で、前方の運転手に背を向けた座席に左神と右神が座った。
最後尾の座席にリンカとディライラが座している。
ジリジリと焼け付くような、痺れる様な感覚が腕やわき腹を這い回る。
脳みそ自体に鳥肌が立つような感覚に、リンカは意識がクラクラとした。
小さな個室へ圧し込められ、リンカの身体に感じる"悪寒"の圧は増した気がした。
「いったい…、どうするつもりっ??」
観念したリンカは、憮然とした表情で隣に座ったディライラへ問う。
対してディライラは、問いに応えずに営業スマイルを浮かべている。
「まずは…、何かお飲みになります…?」
「リンカさんは…、まだ療養中ですから…。」
「ノンアルコールの方がよろしいかしら…?」
ディライラが目配せすると、察した右神が動く。
座席下に収納されたクーラーボックスから、サイダーの瓶とグラスを取り出す。
そして、サイダーを注いだグラスを簡易テーブルの上へ丁寧に置く。
「どうして…、アタシを誘拐したの…?」
「誘拐? とんでもないですわ☆」
右神から差し出されたグラスをディライラは受け取り、グラスへ口を付けた。
「ちゃんと、転院の許可は取っていますし…。」
「元々、リンカさんは、大己貴命大学病院へ来院のご予定でしょう?」
「まさか、あんな事故に巻き込まれるなんて…。」
「ウチ共も大変心配していましたのよ…。」
ディライラはスラリッとした細い脚と腕を組む。
その姿はファッションモデルの様で、高級なリムジンの内装と似合っていた。
「あ。」
何かを思い出し、ディライラは小さく声を上げた。
「今回の事故でパートナーのお方…。」
「物部タニヤさんでしたっけ?」
「改めて、謹んでお悔やみ申しあげます。」
脚を組んだ体勢から姿勢を正す。
キチンと椅子へ座り、最大限身体をリンカの方へ向ける。
そして、ディライラは太ももに顔がつく位に深く一礼した。




