10、瑠璃の風は月に少女の叫びを徹す
「母様」
翠花は真剣な顔をしていた。炊事をしていた瑠璃葉は手を止め包丁を置いて翠花に向き直る。瑠璃葉は大人びているが、目元と口元は変わらない。
「どうしたの? 翠花」
「母様は、いつ、父様を迎えにいったのですか?」
んー、と瑠璃葉は上を見る。真剣な問いだと言うことはわかる。それを急く理由も、なぜなら自分もかつてそうだったから。多分、里で一番、今の翠花を理解できるのは自分だ、と瑠璃葉は思う。母として、女として、そして、何よりも瑠璃葉が瑠璃葉であるから。
「そうね、今の翠花じゃあ、まだよ」
は、と、翠花は小さく息を吐いてその感情は落胆。対し、ふふ、と瑠璃葉は笑う。
「時間を貰ったのよ、幸運と思いなさい」
「――でも」
翠花の唇に人差し指を当て続きを封じる。
「その時間はいい女になるための時間よ、そしていい女は『でも』なんて言わないの」
ふふ、と笑う。
「待ちなさい、翠花、時間は魂を美しく。人を素敵に変えるわ。――そして、貴方も誰かも互いを思えば出会えない筈がない」
それは経験則から来る言葉。
故に確信がある。だから、翠花も言い返しがたい。
「良い子ね、翠花」
――そういわれて翠花は何も出来ない。
・
母の作った夕食を食べた翠花は秘密の場所に行った。風は少し冷たい。
空を見る。
天は遠い。
まだ遠い。
星が満ちても遠い。
翠花は空を見て、里に満ちた深い森の香りを肺臓の奥まで吸い込んだ。ゆっくりとはき出す。もう一度、空気を深く呑み込んで。
――待ってなさいよ!
――絶対行くんだからぁ!
普段は表に出さない感情を思いっきりの大声にのせて、叫んだ。
月は天に、星を連れて、木々の影を怪しく映す――。
風が吹く。森の匂いをかき混ぜて、瑠璃色の葉が揺れた――。
終わりです、感想とか解らないところとかいただけると嬉しいです、第何部に関してでも大丈夫です。




