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三題噺もどき3

晴れ散歩

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくよんじゅうきゅう。

 


 気持ちのいい晴れ間がのぞいた。


 久方ぶりの晴れの日だ。

 ここ数日、雨は降らなかったが、ずっと雲が覆っていたばかりだったから。

 いい洗濯日和という感じだ。

「……」

 おかげで、好調に戻りつつある体調も、上向きを維持している。

 妹が家に駆け付けたあの日から、少しずつではあったが色々と回復している。

 過去最高とは言わずとも、久ぶりのあの感覚はそれなりに堪えた。

 あの状況をどこかで望んでしまう何かがまだあったと言うことに嫌気がさしてはいるが、まぁ、そう簡単に人は変われないと言うことなんだろう。

 ましてや、人格形成に大きくかかわった幼い頃に埋め込まれたものなど、そうそう掘り起こせまい。

「……」

 それでも何とか、今の状況まで回復しているのだから。

 その点は変わったのかもしれない。

 変わったと、褒めた方がいいのかもしれない。

 自分を愛せるのは、自分だけなんて、どこかで聞くし。

「……」

 まぁ、その一環でもないのだけど。

 久しぶりの晴れ間に、何もせず家に引きこもっているのも勿体ない。

 と、珍しく思いついたので。

 そう思ったのなら、さっさと出てしまおうと。

「……」

 最低限の荷物だけ持って、外出していた。

 この時期にしては、少々暑すぎるくらいの日差し。

 すれ違う人々の中には、半そでを着ている人も居る。

「……」

 かく言う私も、半そでを着ている。

 その上に、薄手のものを羽織ってはいるが、ここまでいらなかったかもしれない。

 ま、でも、覆われていた方が安心はする。

「……」

 歩行者信号に引っかかったので、立ち止まる。

 人混みから少し離れたところで。

「……」

 この辺りは、桜の木が植わっていたはずだが。

 さすがにもう、散ってしまっているらしい。

 青々とした、葉っぱがその身を覆っている。

「……」

 地面にはまだ、こびり付いた桜の花びらが踏まれている。

 茶色に変色してしまった淡い色。

 誰も、地面には目もくれず、それぞれの歩を進めている。

「……」

 まぁ、どうということもないが。

 私も、知らぬうちに花びらを踏んでいるし。

 視界に入らないものは、ないも同然なんだから。

「……」

 ぼうっと、地面の桜を見ていると。

 ふ―と、影が横切った。

 人通りはあるから、当たり前なのだけど。

「……」

 なんとなく気になって、はたと、顔を上げてみる。

 時刻は、昼過ぎ。

 ここら辺を歩くのは、昼休憩の人とか、買い物帰りのご婦人とか。

「……」

 なのだが。

 横切った影は、この辺りの学校の制服を着ていた。

 カバンひとつだけを持ち、携帯をいじりながら信号待ちをしている。

「……」

 前髪を綺麗に切りそろえ、髪は1つに束ねて。

 眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな見た目の少女だった。

 時間的に、学生がこんな所を歩いているのは少々目をひく。

「……」

 時期的に、中間テストとか、何か他の行事とかで、午前で終わったのかもしれないが。

 それにしては、周囲に他の学生が見当たらないのはおかしい。

 ―ずる休み、とまでは言うまいが。

「……」

 眼鏡をかけて、いかにも真面目そうな見た目の子なものだから。

 尚更、気になってしまうのかもしれない。

 人は見かけによらないから、こういう偏見じみたものはよくないのだけど。

「……」

 過去に、散々、そういう偏見で見られた人間は。

 無意識にそういう意識をしてしまうから、よくないんだよな。

 私も、彼女みたいに、眼鏡をかけていかにも真面目で、大人しくて、何も問題を起こさないようなやつだと思われていたらしいから。

「……」

 ま、最初はそうだったし、今でも、そういうフリをするのが得意になっているが。

 今でこそ、偏見にたいして厳しかったり、男だ女だと言うのもどうかと言われたりしているが。なんというか……かなり昔から根付いたものをどうこうするのは骨が折れるのだなぁと、ぼんやりと思わなくもないのだ。

「……」

 自分自身が、女だから男だから、姉だから妹だから、と、言われるのは嫌いな癖に。

 変な色眼鏡で見てしまうのだから……。

 何もかもがままならないと言う感じなんだろうか。

「……」

 信号が変わり、人々が歩き出す。

 青信号は進め、赤は止まれ。

 これも、偏見だと言い出す奴が出てきたりするんだろうか。

 そうなったら、この世の終わりな気がするな。






 お題:桜・眼鏡・ずる休み

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