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#プロローグ①「総司令官」

夢の中の聖水。最初のタイトルです。夢で見た漫画の内容を自分なりに小説に直して肉付けして、書き上げたもの。これでラヴクラフトに近づけたか....?

大いなる自然、生命力に溢れる生き物たち。

少し変わった形の馬車が走り、街は熱気に溢れる。

大きな国がいくつかと、小さな国が沢山。それが三つの大陸にそれぞれ。


ここは、異世界。

もし何かが違っていたら、地球にもあったかもしれない時代。

風景は中世ヨーロッパ風、技術は近未来程。


そんなちぐはぐな景観の中、とある大陸の、とある大国。

その首都、聖都ルナリカの王城の、そのまた一室。

そこに、女性が座っていた。

装いは立派で、軍服に似た見た目である。事実、この服はこの国において軍服である。

しかし、見た目の荘厳さに反するように、彼女は机に腕を投げ出し、全力で疲れたとアピールしている。


同じく、重力に従って流れる髪は妖精でも唸るほどの綺麗な金の糸であり、余程丁寧に手入れされているのか一目でサラサラだと分かる。

少し死んでいる目を持つ顔は、身体の美しさに劣らず、これまた端正な顔立ちをしていた。


そう、これが『あたし』である。


「ランセイガ様!大変です!」

「え、何かあったん?」


あたしを呼んだのは、いかにも文官ですと言わんばかりの服装の男だった。

しかし、その中身は文官ではなく、武官が相応しいと感じる見た目であった。

おっとそこの女の子、怖がらなくていい。こいつよりもあたしの方が何倍も強い。


「少々トラブル、というかミスがありまして。今年使用する聖水が必要量に達していないとかで」

「生水もないの?」

「あ、えーと。それに関しては、今は厳重態勢でして。巫女様が.....その。作られております故」

「おっしゃ、あたし等で覗きにいこうぜ!」

「バカですかあんた!それに私一応男ですが!がりがりですけどね!」


聖水というのは、古代より製造されてきた、伝統のある薬品だ。

現代においては、その作成難易度は昔よりも低くなっている。

そして、その材料の一つに、『生水』(しょうすい)という特殊な水がある。

その作成方法は変わったもので、これまた特殊な水、『反応水』という安易な名の水に、とある能力を保持するものが浸かるというもの。

.....要は。その水でできたお風呂で湯浴みするという訳である。そして、そのとある能力を継ぐのは『巫女』と決まっている。巫は無い。


以上のことがあり、また。

その巫女という人物はあたしの幼馴染というか、友達?知り合い?であるため、ノリと勢いにて、『覗こうぜ!』と発言したのである。


「以上、あたしの完璧な言い訳」

「いや脳内で完結させないでください。それ、前にも会議でやって、陛下が困ってらっしゃいましたよ」

「ん?いや、それは違う。困ってたのは大臣の方だよ。むしろ、陛下は謎の力であたしの脳内を読める」

「.......や、そうですがね。それとは別に、普通に。貴女様の思考を読んだ上で困惑されていたのでは?」


『まあ、そもそも陛下が貴女様の思考を読める、という前提がそもそもおかしいのですが』と彼は呟いた。そんなことは聞いていていない(何、頭で反芻しただろうって?言い方が悪かった、『気に留めていない』だ)あたしは一言。


「お前はバカか?」

「は?」

「今のは聞かなかったことにするとして。陛下は.....あたしが言うのもアレだけど、困惑しないと思う」

「陛下だって人間ですよ?そりゃまあ、何と言いますか、到底私達には理解しえない行動もされますが」

「それなっ!お前知ってるか?陛下ってばね、あ、ヒミツだぞ。でな、確か三年くらい前にあたしと巫女でユニット組ませてアイドルさせようとしてきたんだよ」

「......はあ。アイドル」

「そう。補佐官君も耳に入れてると思うけど、というか自分で言うのもなんだけど、あたしは女の子大好きでしょ?」

「まあ大変返答に困りますけど。一種の宣伝効果になってますよ。そのせいで、最近の新人面接じゃチャラチャラした奴が多くてぶつぶつ.....」


それは知らない。それに、そういう奴らは大抵アフターケアがなってない。

その点、あたしはちゃーんと処理.....ごほんごほん、ケアはしている。

........嘘嘘。記憶なんて消してませんよ本当ですよ。いやマジで。繰り返すところが余計怪しいとか言わないで。


「でまあ陛下も、君の耳に入るくらいだからもちろんご存じなわけでしょ?それもあって百合営業も狙っててね、結構ガチで画策してたみたいなんだ」

「......ああ、そういえば、その頃の大臣。どこからか消えていく予算に嘆いてましたけど、それでしたか」

「や、それはまた別の奴。横領だね。懲らしめたからこの国には二度と入れないけど。....全部私財でやってたんだよ、陛下は」

「......いやもう、慣れてますから分かりますよ。私も陛下が幼少の頃からこの国に務めて来ましたが、その頃にはもう今のような、一部暴君染みた行動をなさいますから」

「君それ不敬罪......て陛下がするはずもないね。むしろ、他国の王に不敬罪にされないか心配だよね」

「ええ、まあ。今しがた否定されたばかりですが、貴女様もご発言にはお気を付けてください。この国の重鎮の一人なのですから」


お、ここで彼の方から説明の前振りが為されてきました。

こほん。ここで少し自己紹介を。


あたしはここ、聖都ルナリカに於いて最高軍司令部総司令官.....面倒くさいな、要するに武力のトップ。

まあ頭を使うのは出来るけど面倒くさいので部下に任せるとして。

そういう地位に居る、それ以外は.....普通?普通か?いや普通....だろう。の、女の子。

パーヴィル・ランセイガ。大体みんなはヴィルとか総司令官とかランセイガ様とか呼ぶ。大体後半が多いな。


「あれ、また何か脳内で語り始めてないですか。....言っときますけどね、あなたは普通ではないです」

「なんだ、心が読めるなら早く言っておけ。通信部に推薦できる」

「......お言葉ですが、役不足かと。ああ、安心してください、私がではなく、『通信部』がです」

「うんうん、国語は満点だ」


目の前のこいつは部下の一人、というか私の前任だった奴。

名前はオルクス・グランド。家名は陛下が『あ、なんか偉大にしておいたら強そうでは?』と決めたもの。


基本的に、というかあたしが例外なんだけど、軍にいる間は仮の名前を使う。理由はいくつかあるけど、本質的には昔からの名残。

どうとでも法改正で変えられるけど、これまた陛下が『そういう昔からの、名残?しきたり?っていうのは意外と大事だよ』とおっしゃったのでそのまま。


「.....私は王ではないですが、もしそうならば即不敬罪にしますね」

「ナンノコトカナオルクス君。あたしはナニモ言って無いヨ?」

「はあ。前にも言いましたが、度々漏れてますよ、心の声。口から」

「おうそうか、なら試してみよう」


おっと、肝心のオルクス君.......さん?だが。......ああ、そうだ、一つ、彼の面白い話をしよう。

この国の軍は、普通に戦果や普段の働き、武力だけでなく特殊技能や書類仕事なんかでも昇進ができる。当たり前だな。まあ中にはコネもあるとか。

そんなホワイティな我が軍だけど、それとは別に、試練枠という昇進枠がある。


なんというか、反骨精神盛んな奴というか、雑頭というか、そういう輩はいつの時代にもいるもので、中には『軍なんだから武力で昇進させろ!』て奴もいる。

大抵は実力も備わっていない雑魚なのだけど、たまーに『あれ、性格強制すれば案外強くない?』というのも混じっている。


そういう輩の為にあるこの試練枠、というのは相手が承諾した場合にのみ試合形式で戦い、勝利すれば勝った相手に応じて昇進できる、という代物である。


「ちょっと待ってください、嫌な予感しますよ」

「ふはは、なんやかんやで巫女ちゃんの覗きをうやむやにされた罰よ」

「いやそれあんたでも不敬罪になるからな!?」


ああ、前振りがとても長くなった。

もうわかる奴らもいると思うが、あたしはその試練枠にて『オルクス最高軍司令部総司令官』を倒して(天才過ぎて)、今の地位に就いた訳である。

当時、彼は数が減ってきたものの未だ多く存在していた、所謂『傲慢』な性格だった人物。今のような真面目キャラに戻ったのは(元は真面目なのだ)あたしのおかげ。


そりゃあもう、恥ずかしいほどに、いかにも雑魚っぽーく、やれ『才だけの小娘』だの『この俺が分からせてやる』だの、とにかく笑える言い分だった。

終いには『俺の女に―――』と(それ以上聞いていない)とほざき始めたので、適当にぼこぼこにして試合を終わらせた。


「......ぁ、だめだ黒歴史が。いいおじさんなのになに粋がっていたんだろう俺ってばもう......」

「ほらほらここに、君が良く足を運ぶ....なんだったかな?君、よく覚えてるよね。最近、稽古場よりも足を運んでいるものね」

「......ば、バー?」

「.......なんの?」

「......女の子が沢山いる、バーです」

「よろしい。君の正直さに対して減給十パーだ」

「何故ですか!?」

「君仮にも軍の人間でしょ。いや、あたしの前任だから分かると思うけど。正直なだけの奴は正直、いらないよね」

「.....分かりましたよ。稽古に行きますよ。まったく書類整理だの領地管理だの妻のご機嫌取りだのそれも知らん遊びだけの小娘がこのどうの....」

「あっれー君は不思議な奴だなぁ奥さんをそんなに怒らせたいか」

「稽古があるのでそれじゃッ!!」


まあもう報告したんだけどね。ガールズバーの件、奥さんに。

あーあ、大変だろうなあ。というか、奥さんがあんなに綺麗で、しかも可愛いと来てるのに、そういうとこ行くかな。

ま、そこは彼の言葉にも一理あり、遊びしか知らない小娘ってことかな。

流石に、遊びだけではないけれどね。


「......クルック―」

「おおクルックス。あんたも女の子ね。おじさんは嫌?」

「.....(呆れた目でこちらを見た後、嘴で自分の足を差す)」


彼女は伝書鳥のクルックス。

謎に長寿だったり、あれ、もしかして話せるんじゃない?とか感じさせたり、不思議な鳥だが、友人と呼べる。


元々城を抜け出して、あたしと巫女と陛下で森を散策中に弱っているところを見つけ、それ以降は三人で面倒を見ている。

.....たまに面倒を見ているのか見られているのか分からない時もあるけど。


そんな彼女だが、あたしたち三人の間を繋ぐ伝書鳥として、現在軍の費用を勝っ....こほん、使用して雇っている。

実態はプライベート用の連絡手段として使用している、秘密感満載のワクドキ生物だ。


「ほいほい、今日はミノタウロスのお肉だよ。勇者が良いの狩ってね。しばらくはこれね」

「........はあ。...あ、く、クルー。(モグモグ」

「んー....?まあいいや。えーと、この色は巫女ちゃんの、と」


綺麗な黒色。主に極東人に見られる髪色かな。

巫女ちゃんはその極東人系の見た目なので、それに合わせた。

確か、名前の本当の読みもこことは違ったはず。

おっと閑話休題。


「何々......ふぅん、陛下が。あ、覗きが本人に制止された」


内容は陛下がまた面白い....こほん、興味深いことをしようとしていること。

追伸、とばかりに添えられた言葉は、『覗きは普通に犯罪なのでやめてください』だった。

となると、前に彼女に覗かれたことがある身としては、是非法廷に立ってほしいものだ。傍聴したい。


.......なにやら、『故意と偶然ではまったく条件が違いますよ、バカ.....』と罵られた気がする。やめて、親しい人に罵られるのはチガウ。

心で泣いていると、クルックスが肩に止まってきた。慰めてくれているのかな?おお、クルックス。優しいのは君だけ.....。


「まあ実際は覗く時間なんてない訳だけど。....あーあ、もう休憩終わりか」


そう呟いた数秒後、形だけのノックにて、部屋の扉は開いた。


「失礼しますッ!あ、ここにいらしたのですか総司令官!」

「.....ふぅ。やあ、済まないね。城を走り回るのは訓練の時だけだろうに」

「い、いえ。あの、先程、補佐官殿が珍しく....いえ、その、熱心に訓練なされていたのですが、何か....」


あたしを呼びに来た、まあ先輩にパシらされた一般兵は、疑問を話した。

ほほう、ま、頑張っても遅い訳だけども。


「何、彼はさっき食事をしたばかりでね。食後の運動がてら、懐かしい訓練にでも精を出しているのではないかな」

「はあ。あ、ええと」

「分かってる。うん、そうだね。今度何か奢ろう。訓練の邪魔をした詫びだよ」

「....はい!ありがたく頂戴させていただきます!では、早速!」


軍人というのは、とても腹の減る仕事なのだ。

何せ、一日中鍛えているわけだからな。ま、ハングリー精神があっていいが。


「ああ行こう」


―――陛下がお呼びだ。

今回はプロローグ其の一、ということで。巫女視点、聖王視点と続けていければいいなと思います。三作品とも完成させたいな、と考えて書いております。今後ともよろしくお願いします。

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