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【接敵】1 9/32

接敵です。エンカウントです。

なにかがはじまる気がします。

「宿民の中からハンニンを探せと頼まれたら断るつもりでいたが……センガが相手なら、オレにもやりようがある」

「ふむぅ、聞かせてくれんか」


 禿げた頭をずいと寄せてくるチョオローに当たらないよう、距離を置いて左手を軽くかざす。


「オレやセンガ含め、モガシリーズは各々で固有の武装(デバイス)関数(メソッド)を備えている」

「ヌシが剣の人と呼ばれるのは、その左腕を丸ごと剣に変えて子らを守ったからぢゃったな」


 宿の子を守ったなど身に覚えがない。と言いかけたが、今その話はしなくていいだろうと思い直す。


 モガが声もなく命じると、左腕の肘パーツから先がひとりでに組み変わっていく。


「ふぉっ、これがそうなんぢゃあなぁ……カッコイイのぅ」


 懐中電灯を引き延ばしたような形の(まばゆ)い剣――左腕を、アームブレードへと換装する。


 川面を跳ねる月の光、凌駕するは科学の輝き。

 刃の電光夜闇を裂きて、その切れ味を知らしめる。


「白兵戦のスペシャリスト、ヨウヘイギアニックとして造られたオレのバアイ、武装(デバイス)アームブレードの他に槍を扱うこともある。それに関数(メソッド)……つまり兵法(ヘイホウ)実装(プログラミング)されている」

「ヌシには戦ったり守ったりするためのプログラムがあり、センガにもそれがあるという事ぢゃな」


 虚空に向かって一振りし、アームブレードを元に戻す。


「オレがヨウヘイであるのと同じように、センガは潜入・内偵(スパイ)を得意とする。これはヨソウだが……ヤツは≒《ニアライズ》の関数(メソッド)を使って宿のダレかに変装している可能性が高い」

「にあらいずとな?」


 ≒《ニアライズ》。『(限りなく近い)』という文字通り、ボディや武装(デバイス)を思い描いた姿形に近づける事ができる関数(メソッド)である。


 立ち上がり、もう一度アームブレードを展開した。


「見ろ……≒《ニアライズ》!」


 アームブレードの剣先がぐにっと曲がり、鎌状に変形する。

 しかし、その差異はわずか赤子の拳一つ分か。先端の先端がちょこんと歪んだ程度である。


「くっ。オレではこんなものか」

「あーむぶれぇど、故障しとるのか?」

「チガウ。要するに≒《ニアライズ》は形状変化。刃の形を変えたり、一本槍を三又槍にするなど、その程度でしかない」


 もっとも、モガは見た通りの不器用ゆえ三又槍すら難しいが。


「だがセンガは違う。ヤツは他のギアニックの九九・九%をマネていた」


 乱暴な言い方をすれば、≒《ニアライズ》による変装は見た目が変化するのみ。その変装を見破りさえすれば、あとは力づくで捕らえるなりすればいい。


 真っ向勝負に持ち込めれば、傭兵とスパイのうち主導権がどちらにあるかは明白だ。


「なるほどのう。よくわかったわい。ぢゃ、捜査方針は二つぢゃな」


 一つ。

 チョオローは宿民に不自然な動きをするものがいないか観察する。センガを直接知らなくとも、宿民の事をよく知っているなら、きっと収穫はある。


「まぁ~今までもつぶさに見とったが、今日に至るまで発見も何もないんぢゃな~、これが」


 二つ。

 モガは宿民にセンガらしき人物がいないか警戒する。宿民と関わって日が浅いモガだが、センガを直接知っているからこそピンとくる事もあるだろう。


「予告文を見ての通り、ゲンドウが滅茶苦茶なヤツだった。すぐに気づきそうなものだが、どうなるか」


 話がまとまり、川原を去る直前。

 モガは最後まで残しておいた質問を投げる。


「オレがその、センガだったらどうする?」

「それはないのぅ。ヌシはテキストチップとタイミングを同じくして運ばれてきたんぢゃから。外も中身もボロボロぢゃった。気も失っとったし、そーいう小細工の余裕はないのぅ」

「そうか。愚問だったな、忘れてくれ」


(ボロボロに、だと。コドモを助けた事といい、オレのサイゴの記憶と異なっている。これは……?)


 チョオローと二人で土手を上り、宿の玄関で解散、それぞれの部屋に戻る。


 モガはすぐさまベッドに横たえたが、眠りに就くまでにはかなりの時間を要した。


 ここは一万年後の世界。

 センガ探し。宿民の中に潜む兄弟機。


 彼が身を隠す理由はなんだ。


(仲良くしろと指示してきたくらいだ。それに何より、ジエのもとで過ごした同志でもある。テキってワケじゃあない……なのになんだ、このジョウキョウは)


 血文字で書かれた『停止』の二文字。

 喰らい尽くすつもりだ、とも記されていた。


(ホンキなのか、センガ。あのフザケた予告文は、ホンキで)


 退屈なほど平和に暮らしてアーチが。

 母親と再会できたばかりのロクが。

 チョオローや他の宿民の(みな)が狙われている。


(だとすればアマい判断は許されん。オレのやることは一つだ)


 飛び交う思考(タスク)をかき分け、モガは成すべき事を見つけた。


 眠る間もなく平原の夜が明ける。




「じゃあ、僕はもう行くよ。お互い、今日も頑張ろう」

「ああ。ジャマをしたな」


(この様子だとアンガスはシロだな。次は……ン。まだ食堂から声が)


 今、食堂には三人と、隅でおっかなびっくりはじめての水(食事)を啜るモガのみ。

 朝の食事を終えて、大人たちはぼちぼち畑仕事に向かった後だけに、食堂はずいぶんガランとしている。


(まずはいつも通りに動くしかない。不穏なジョウキョウだが、オレが探りを入れている事がセンガにバレれば本末転倒だ。あくまでさり気なく様子を窺うとしよう)


 視線の先にいるのは、ロク、ユス、チョオローの三人。食堂の空いた席に並んで座っている。

 センガの≒《ニアライズ》なら、背の低いロクにさえなり替わることも可能だ。


 気は進まないが、ロクやユスさえも見過ごすわけにはいかない。

 自分はセンガを知っている唯一の協力者だ。自分が見過ごせば、宿民はたちまち危険にさらされるのだから。


(なんにせよ、あくまでさり気なく。気取られることなく、だ)


「ロクちゃんって、長老様に付けてもらった名前?」

「う、うん……じゃなくて、はい……!」

「チョオローは呼び名ぢゃな。あと長老ぢゃのうて、ワシゃ言うなればここの宿長ですぢゃ」


 ロクたちもすでに食事を終えている。それでも食堂に残っているのは、ユスの体調を考慮しての事だ。胃袋が落ち着くまで歩き出すのは控えるべき、との事。


(ギアニックに胃袋があるものか)


 ユスは長い間北方の厳しい雪山で暮らしていたらしいが、生き別れた子の気配を感じ取って下山したらしい。

 そしてロクの気配、としか言いようのない予感を辿(たど)ってこの宿に着いたそうだ。


 この世界ではそんな奇跡があり得るのか。ならば自分も、いずれはジエと……。


 モガに詳しい事まで分からないが、ともかく。

 環境が激変したユスの体調は、ロクやチョオローをはじめとして宿民の皆で気にかけてやる必要があった。


「ロクちゃん、宿長様に名前の意味は教わった?」

「ぇ……と」


 ふるふる、と首を横に振った。耳のヒレが申し訳なさそうに揺れている。


「あぢゃぁロクよ、忘れてしもうたのか」


 重ねてぶるぶる首を振り、そうじゃなくてと訴えるロク。


「おぼえてる。でもチョオローおじぃ、いってること、ちがう」

「あら、それは大変。それじゃあ、宿長様はロクちゃんになんて教えてくれたの?」


 チョオローに向けていた顔を、今度はユスへ。二人の間に収まって座るロクの首は右に左にと(せわ)しない。


「おサカナと、シカでロク、だって。でもロクって、おサカナも、シカもぜんぜん、ない」

「サカナの姿をした赤ん坊のヌシが、それは大きな角を持つヤマシカに背負われ、この宿へ来た。だから、サカナとシカでな」

「う~ん……サカナとシカだと、ロクちゃんになるんですか?」


 細い指を頬にあて、たおやかに首を傾げるユス。この淑女っぷりさえ、センガの腹芸かもしれない。


「うむむ、ムズカしい言葉ぢゃからなぁ……」


 好機だな、とモガは胸の内で叫ぶ。


(センガを探し当てる以外にも、もう一つ。オレにはやらなければならない事がある)


 モガは三人のテーブルへと歩み寄り、チビチビ飲んでいたコップの水に人差し指を沈める。

 そして墨汁に浸した筆のように、テーブルに指を押し付ける。


「あの、モガさん? 何をして……」


 書いた一文字は『魚鹿(ロク)』。魚と鹿、おそらくこれが由来だろう。

 一万年前を知るチョオローならではだな、と思う。漢字(カンジ)という諸国の文化が由来のネーミングが、モガは少し懐かしい。


「モガにぃ、これ……絵、なの?」

「文字だ。サカナとシカ……ロクと読む」

「? サカナとシカ……いない、よ……?」

「いる。教えてやる。エンリョはいらない。なにせ――――『ナカヨシ』だからな、オレとオマエは」


 片角の鮮血たるモガは、宿民と仲良くなければならないらしい。


 『片角の鮮血と仲良くしろォ!!!!

 従わないならボロ宿スタッフ停止(ぶっころ)して喰ライ尽くす』


 センガの意図は分からないが、血文字での声明などどう考えても尋常ではない。

 現在のセンガがどの程度気が触れているか知らないが、仲良くしておかないと本当にアーチやロクに手を下す恐れがある。


 少なくとも、センガの正体を掴むまでは『ナカヨク』する必要があった。


(どうだ。カイワの混ざり方は上出来。ダレがどう見ても、今のオレたちは『ナカヨシ』だ)


「モガ、むかしのこと、くわしいっ」

「フッ、まぁな。これでも長く生きた……らしいからな」


 この時代なら、モガは一万プラス三歳だと言い張れなくもない。


「ほんとうっ!? じゃあ、『イカズチのめがみさま』ってほんとにいるのっ? みたことあるっ?」

「い、いや。オレの知り合いにそういうヤツはいない、な」


 もっとも、そのうち一万年は眠っていただけなので、深堀られでもしたらコップの水を飲むなりして誤魔化すしかない。

 ちびちび、口に含み含み……。


「あれ~、ロクってば。アタシが読み聞かせてあげたら『そんなのおとぎ話だ』って言ってなかったっけ~?」

「んむ~……きいてみただけっ。アーチねぇ、いじわる」


 食堂の入り口、アニマ狩りの準備を終えたアーチが立っていた。からかわれたロクはぷいとそっぽを向く。


「そう言うなアーチ。オマエたちも、オレも、『ナカヨク』だ」

「ん? 仲良くって、どこかで……アンタもしかして――――って」


 おもむろにアーチの左手を取って握る。


「『ナカヨシ』のアクシュだ」


 ひとしきり感触を確かめてからアーチの手を離す。

 チョオローの手も取った。


「世話になっている。『ナカヨシ』だからな」

「ヌシ……まずは今日一日、頼むぞい」


 声明文にもあった仲良しの単語に、チョオローはピンと来ているらしい。


(ああ。オオゴトになる前に決着をつけてやる)


 続いてロクへ。


「あのサワがしい子供たちは、オレに守られたと口々に言っていたが……」

「……う、ん」

「ロク。次に何かあれば、オマエの事も守るつもりだ」

「あ……! う、ぅん」


 モガが小さな手を包んでやると、ロクは顔を「ぷしゅっ」と赤らめる。


 今のギアニックには発熱機能もあるのか、とモガはさして驚きもせずに隣のユスへ向く。


「……………………」

「………………あの」

「オレはオマエとも『ナカヨシ』になるだろう。これからな」

「はい。ロク共々、どうぞよろしくお願いいたします。モガさん」


 ユスの方からモガへ左手を差し出して、固く握り合う。


「今の時代のギアニックは、」

「はい? ……なんでしょうか」

「やはり見た目によらない。意外とチカラが強い」

「ふふ、バレちゃいます? 雪山は大変な場所ですから、鍛えられてしまうんですよ~」


 きっとそれだけではない、とモガには分かる。あてもなく娘と巡り合うまでには、きっと修羅場もあったのではないか。


 モガにそう思わせるだけの何かが、ユスの温かい手の平の奥にはある。自分の武力とは異なる強さが潜在している気がした。


「これからは、ゾンブンにロクを抱いてやるといい……この手で」


 食堂で触れ合う三人は、どこにでもいた娘と母親、そして祖父のようでもあった。そして読み聞かせをしたらしいアーチは、血がつながっていなくとも姉といったところか。


「なによコレ」

「行くぞアーチ。狩りの時間だ」

「いや説明しなさいってば。いきなり何の握手よアレ」


 左手に平原、右手には川原を望むいつもの道を通って森に向かう。その道中、モガの頭脳では|スタックオーバーフロー《堂々巡り》が発生していた。


(センガはいただろうか。あの、カゾクのような輪の中に)


 今のところ、モガは宿の誰もを疑いきれないでいる。信じるならまだしも、疑うなら決定的な根拠が欲しい。

 戦い以外の場で今一歩踏み込めないのは、彼の性分的な問題でもある。


(――全員シロだな。宿民同士の関係は深い。いくらヤツが器用でも、そう易々とは為り替われんだろう)


「……って、モガ聞いてる?」


 さっきの三人が白か黒か。


ヤツ(・・)は『魚鹿(ロク)』について言い淀んでいた。自身が名付け親であるにもかかわらず、だ。ならば)

(――チョオローだな。おそらくヤツがクロだ。もう決まりだ)

(だが待て。オレがセンガの立場で考えれば、あえてロクになる手もある。子供ならばユダンを誘いやすい)

(いや、ユスは最近来たばかりだったな。その立場は利用次第で、ある意味一番疑われない。ユスがセンガか。いや)

(やはりチョオローだな。おそらくきっとヤツがクロ。もう決まりだ――)


「難しい顔しちゃって……おらモガ!」


 肘で小突かれ、モガはようやく前を向く。


「何を警戒してるか知らないけど、マジでなんも出ないから、この道。前に教えたっしょ?」

「オマエが、という可能性も捨てきれない……か」

「は? 何がよ」


(たしか……アーチがハンコウ声明テキストチップの第一ハッケン者だったな。マークすべきか)


 結局、狩場に着いても結論を出せずにいた。

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