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【邂逅】8 8/32

サブタイトルの邂逅とは:思いがけなくめぐり会うこと


らしいです。良い言葉だと思います。

読者様とどなたかがめぐり会って、その場でひっそりと息を潜める。

そうしてはじめて、居場所が出来上がるものです。

 ジビエ狩りもといアニマ狩り、宿の子供たちとの川釣り。そして大人たちとの畑仕事と、モガは方々(ほうぼう)の仕事にその身を駆り出した。


 宿賃のツケを精算し一刻も早くジエを捜索したい。

 その一心で働いた数日の間、宿に良いニュースと不穏な気配が一つずつ舞い降りた。


「お名前は?」

「えっ……あの、え……?」


 まずは、褐色の鱗とヒレを持つ引っ込み思案な魚タイプの幼児型、ロクにまつわる話だ。


 モガとアーチ、見学のロクとでアニマ狩りに出る日の朝だった。

 ユスと名乗る魚人型のギアニックが、宿の入り口で準備を進めるロクを見つけるなり声をかけてきたのは。


 一口で表すなら、ユスはロボットタイプの魚人型ギアニックだった。ロクと同じく腰や耳を赤褐色のヒレ、いやヒレパーツが覆っている。またユスの装甲は、鱗というよりもウロコパーツという方が正しい。


 ロクのヒレや腹部が本物の生物的質感なのに対し、彼女のボディは機械然としていた。


 何より特筆すべきは、淑女というべき慎ましい雰囲気のユスと控えめな振る舞いのロクは、言葉にできない部分でよく似ていること。


 二人には生まれながらの共通項があって、モガとアーチは不思議とそれを無視できなかった。


「そう……ロクちゃんっていうの。こちらの二人はお友達?」

「……アーチねぇと、モガ、にぃ。アーチねぇは、おねぇちゃん。で、モガにぃは……その、なに?」

「! オレは……」


 モガは応答に窮した。自分は宿民にとって何者なのだろう。連れられてからこの方、立位置を気にしたことなどなかった。


「まぁ、客だ」


 ロクたちの受け答えをユスは嬉しそうに、丁寧に頷いて聞いていた。


「お姉さんと旅の人、でしたか……そうですか」


 ユスは「おいで」とゆっくりと腕を開いた。ロボットフェイス特有の信号機のような瞳に、流れ落ちる涙のようなLEDが点滅する。


「怖がらないで。私は貴方の――」


 突然の訪問者がロクの実の母親だと聞いたときは驚いたが、ユスの姿を見れば宿の誰もが納得した。それほどまでに二人は母娘(おやこ)だった。


 再会を祝してその日は宴を起こした。

 もちろん、ここまでは良いニュースだ。


「ボソッ……片角(かたづの)の鮮血が……ボソッ」

「ン。誰だ?」


 アンガスを代表とした宿の大人たちと畑仕事に勤しんでいた時のこと。大人たちとのすれ違いざまに、モガの聴覚センサーが「鮮血」と物騒なワードを聞きつけた。


 そして片角とは――――すなわち自分の事かと仕事の傍らで勘繰る。

 左側頭部にしかないヘッドギアの赤いアンテナは、片側のみに生えた血濡れの角に見えなくもない。


 片角の鮮血という呼び名は、モガの特徴と一致していた。


「シゴトに戻るか」


 アーチ曰く三百年もの間、宿には事件も事故もない。平和すぎて自分には退屈だと言っていた。

 反してモガの聴覚センサーは、穏やかな畑にそぐわない敵意をたしかにキャッチする。


 宿の穏やかな生活の中、気づかないうちに致命的な見落としをしている気がする……。




 不穏な影を感じたその日の夜、モガはチョオローに呼び出された。


「夜の散歩に付き()うてくれ。間違っても徘徊などと申してくれるなかれ」


 モガとチョオローはすっかり明かりの消えた宿をぐるりと歩いてから、やがて宿の裏手にある土手を降りていく。


 土手を最後まで降りて、宿の裏を流れる川原に座り込んだ。


 川の向こうに深い森がある。木々の闇を黙って眺めていると、チョオローから口を開いた。


「本題の話をする前に……今夜は明るいのぅ。流れる時間の(おもむき)ってモンをひしひし感じるのぉ~」


 ぽすんと地面に背を預け、見てみぃと杖の底を宙に向ける。真円の月が虹を帯びていて、夜なのに辺りはぼんやりと明るい。


「オモムキ……? あれは月だろう」

「ぢゃ。ほん~に、よく見える。電気の灯りも、遮蔽物となるびるでぃんぐもなし。おまけに空気も透明になって――――一万年前とは違うな?」

「………………」


 モガは一万年前という具体的な数字の意味を掴み兼ねた。あるいは、気づかないフリを取っただけかもしれない。


「目を覚ましたヌシは、借りてきたネコぢゃった。どこから来たか知らんが、生活のセの字も知らんような戸惑いようでのぅ。しかし肉を食いたがらないと知って、その理由もピンときたわい」


 よく見れば。否、よく見なくても星が見える。満月と星が同居するなど、モガが知る時代ではあり得なかった。夜でも眩しい地上と、膜を張ったような現代社会のほこりっぽい大気のせいで。


 それが今はどうだ。文明はまるっと平原と川に置き換わってしまった。

 一万年も経った事が頷けるほどの大自然の成長を、モガはあらためて目の当たりにする。


「ワシも肉はキライなんぢゃ。ヌシと同じでな」


 重い荷物をそっと置くような声だった。もしやこの老人は、モガと違って一万年間稼働し続けたのだろうか。ともすれば途轍(とてつ)もない年の功だ。


「どこに行けばニンゲンと会える?」

「難しいぢゃろうな。逢いたいニンゲンがおるのか?」

「オレを造った、ジエという人物に」


 チョオローは禿げた額を押さえつける。質問したこと自体を後悔している様子。

 ジエの名前を聞いて「難しいぢゃろう」と重苦しげに押し出すと、堪らず長い髭をさすった。


「すまんな。力になれんくて」

「いい。それでチョオロー、本題というのは? こんな川原まで連れてきたのもワケがあるんだろう」


 話を切り替えると、チョオローはいつも着ている深緑のローブの懐からテキストチップを取り出した。


「それはオレの時代でも見たことがあるな」


 チップのスイッチを入れると、空間にディスプレイが浮かび上がる。

 ディスプレイに映ったのは一枚の画像。荒々しい血文字による狂気めいたメッセージが表示された。


「ヌシが運び込まれたのと同日、ワシの書斎に置いてあったこれをアーチがコッソリ持ってきたんぢゃ。まだアーチとヌシ以外には見せておらん。ところで……」


 一応訊くが、とチョオローがモガに向き直る。


「ヌシ、この時代の文字は読めるかの?」

「いや、何もわからん。だが言葉はわかる。読み上げてくれ」

「むぅ、あまり気持ちのいいものでもないが……コホン。『メタルエイジの愚か者共へ――』」


 メタルエイジの愚か者共へ。


 後ほど、片角の鮮血をお送りいたします。いえ、どういたしまして。

 片角の鮮血と仲良くしろォ!!!!

 従わないならボロ宿スタッフ停止(ぶっ殺)して喰ライ尽くすだけだ、ZE~~~~~~!!!!


 センガ様より、犯行☆予告(笑)


「なんだそれは。巫山戯(ふざけ)ているのか」

「ふ、ふざけているとしたらワシぢゃないぞい……原文ママぢゃよ」


 支離滅裂な犯行予告とやらの中で、モガが気になった事は三つ。


「片角の鮮血、か。今日は誰かに囁かれたが、やはりオレの事だったか」

「この声明文がウワサにでもなってたんか?」

「ああ。すれ違った時に、ちょっとな。オレへのイヤミのようでもあった」

「そうか……嗚呼(ああ)、ワシとアーチだけで抱えてて良い状況ではないかもしれんな」


 モガは読めない文字を何となく目で追いかけていく。

 次に気になった事といえば。


「仲良くしろ、とはどういうイミだ? オレに敵意があるならば、シマツしろと迫りそうなものだが」

「ぢゃな。アーチとも話したが、このセンガ様とやらの目的が土台わからん。むしろヌシの方こそ心当たりはないかの?」


 モガは首を横に振る。難しい言葉は一つもないのに、主張をまるで理解できない。


「だが……センガという名前にはココロ当たりがある。コイツは――」


 チョオローと同じくらい生き長らえているギアニックはおそらく稀有(けう)だろう。

 そして一万年前を知っているという事は、モガが凍結されてからの世界情勢を知っている可能性がある。


(ようやく見つけたぞ。ジエ)


 センガはジエの手がかりになるやもしれない。モガは唯一の足掛かりを見つけた。


 モガ。

 チョオロー。

 そしてここにもう一人、なんとしても話を訊きだしたいギアニックの名前があった。


「モガシリーズ・〇一一……センガはオレの兄弟機だ」


 

(サブタイ【邂逅】は今話がラスト。評価・感想お待ちしております)

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