【再建】 39/39
まだ続きます。
――――次のステージで待ってる。
アンガスは謎とその言葉とを残して去った。
「次のステージか。意味深な物言いだが、行き先などとうに決まっている」
どっぷり日が暮れ、平原と雪原を夜が包む。文明的な照明が一切ないメタルエイジの大地に闇が降りた。
原始的な夜の中心に道標みたいなオレンジの焚火があった。ギアニックの気配は、その周囲にのみ存在している。
考えてみれば、メタルエイジではクニ同士が争っているわけでもない、情勢に先行きの不安もない。センガやサイガのような奴が波乱を起こそうとも、世界の命運を握るには小さな波に過ぎなかった。
かつてモガは世界中を相手取った。戦い続きの一万年前を経たモガの目には、そんなメタルエイジがすべての決着を済ませた後の世界として映る。
ジエのギアニック工学を取り巻いた一万年前の動乱、それはもはや幕を閉じて、あとは終着点まで緩やかに時間が流れるだけの世界。
それでも、やるべき事はあった。
焚火に照らされて浮かび上がる小屋とかまくらを眺めながら、モガは呟いた。
「まだ、宿を建て直していない」
ジエの事も、野放しのサイガも、何も片付いちゃいない。
それに、オウカ。アイツにも生きていてもらわねば寝覚めが悪い。
「*《オーダー》、すなわち指示を出すだけ出しておいて、それで終わりか? いや、オマエというオトコは、そうじゃないだろう」
日中ずっと雪原を捜し歩いたが、ついぞオウカは見当たらなかった。
オウカ以外の銀雪民の無事ばかりをこの目で確認し、全員無事だと分かった頃、アーチから夕飯に招集され、その夕飯をも済ませ、ようやく肩の荷が下りたところだった。
「……冷えてきたな。オレも小屋に戻るとするか」
眼下の焚火に背を向け、アンガスと話をした川べりまで土手を降りていく。
アンガスといえば日中、銀雪民や宿民とやり取りを交わして判明したことがあった。全員が全員、アンガスを覚えていない。
「ヤツ自身の仮実装が効果を発揮しているんだろうが、そうまでして素性をイントクしたい理由、か」
昼間の記憶と同じ川べりに差し掛かって、モガは立ち止まった。
認識改ざんの効果は凄まじく、モガ自身もうアンガスの顔を思い出せない。そもそも仮実装のせいで、最初からアンガスの顔認証が出来ていなかった可能性すらある。
「だが、ヤツの言葉通りなら」
――――次のステージで待ってる。当のアンガスがそう言ったのだ。
「次に会うのは山麓街だ。宿を建て直せる大工集団がいるマチ……そこが、オレの行くべきバショだ」
アンガスが何者で、事情も目的も分からない。それでも、そう遅くない未来で会えるのだろう。
「あくまで味方だというなら、また訊き出せばいい……時が満ちるのを待つだけだ。アイツを気に掛けるよりも、優先すべきモノがある」
アンガスへの疑問に区切りをつけ、これ以上冷える前にと再び歩き出す。
同じく川べりに建つ自分の小屋に帰り着くと、先に眠ろうとする彼女が一番にモガの視界に入った。
「おー、モガおかえり」
アーチを前にすると、疑問に区切りをつけた事は正しかったのだと思える。彼女のためにも、気持ちを宿の再建に切り替える。そこにアンガスがいなくとも、今はいい。
「アンタももう休むっしょ? 目、久々に覚ましたばかりだし」
「ああ。寝かせてもらう。明かりのシマツを頼む」
「ん。りょーかい」
小屋の真ん中に囲われるごく小さな焚火をふつっと消す。そうして真っ暗な小屋の中を、二人分の息遣いだけが占めた。
「で、どすんの?」
「どうする、とは明日からの行動を訊いているのか?」
同じ藁の寝床に体を滑り込ませたアーチが、「ん」と頷く。すぐ耳元の藁が、くしゃと揺れた。
「ジュンビが出来次第、東へ行く。東の山麓街を目指して、また当分は歩き通しだな」
「……ん~……」
アタシはそれでもいいけど、さ。
「アンタは、それでいいの? ジエ……さんのこと。無理して後回しにしてない?」
「山麓『街』というからには、それなりに栄えているのだろう?」
「そりゃあ、まぁここよりは」
「ならジンコウ密度が高い分、ジョウホウも多いと踏んでいる。今まではロクな聞き込みが出来ていなかったからな」
あー、なーんか前にそんなこと言ってたかも。
だろう。宿民たちともリガイは一致している。山麓街に赴くことは、オレとしても不満はない。
あとあれ、アタシバイクってのに乗りたいかも。
突然だな。
だって雪山まで行くのさえしんどすぎたっしょ? 仕方ないとはいえさ。
この時代にバイクなどと。あるとは思えないが。
そーれーは、ここがド辺境すぎせいね。ま、アタシも行商ギアニックからのハナシだけで、実物は見たことないんだけどね。
フッ。行きはともかく帰りなら、あるいは乗れるかもな。なにせマチだからな、なんでもあるんだろう?
うそ、まじ!? ちょっと楽しみ。もちろん本命の目的は大工への依頼だけどさ。
「で。いつ行く?」
「もちろん、明日だ。と言いたいところだが……五日後にしよう」
「あ……、そうね。アタシもロクとユスのこと、見守ってからにしたい」
「! オマエも知っていたか」
で、バイクの続きなんだけどさ……。
……………………。
…………。
他愛無い言葉はやがて寝息に変わって、
五日後の、出発の朝がやって来た。
(二章、書ききりました)
(評価・感想お待ちしております)
(次回更新は未定です。つづき、書きたいです)




