【人狼】3 37/39
ロー……?
「おっっっそーーーーーーいッ!!!! いぃつまで油売ってるわけあの二人!! いっつもボーっとしてるモガはともかくアンガスまでって! まともな奴だと思ってたのに!」
「ま、まぁ落ち着けやアーチちゃん。おれっちが様子見てくっからさ?」
銀雪民と宿民それぞれの集落が、雪原と平原の境目で料理を出し合う。
食卓にはクレバス発祥の冷製料理が、そして宿民発祥のシカ肉ステーキがすでに並んでいて、常温になってしまってはもったいない。
せっかくのバイキングが台無しではあんまりだと、銀雪民も宿民も思い思いに手を付け始めた。
「ほんっと、仕方ない奴。じゃあロー、悪いんだけど……」
「二人の様子見てこいってんだろ? アーチちゃんのためなら仰せつかりますとも。あーあとあれ、シカ肉ステーキな! おれっちの分も確保しといてくれや。雪塩ダレで」
その言葉を最後に、ローはモガを迎えに行く。モガと一緒にいるアンガスが自分と同じ姿を持っていることを、知ってか知らずか。
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食卓からは決して窺えない離れの土手。
土手を降りた川べりに二体のギアニックが並んで座っている。
「フム――――つまるところ、下山が成功したのも、大体はロクのおかげだったというワケか」
モガはアンガスから、自分が倒れて以降のあらましを聞いた。
モガがエネルギー切れを起こしたことで銀雪民たちは遭難寸前にまで追い込まれるはずだった。しかしそこへ駆けつけたチョオローをはじめとした宿民たちが、隊列を誘導して事なきを得た。
下山後は、銀雪民たちが下界の環境に適応できるよう、雪山に住まうアニマのカラダの一部を利用して平原に雪を再現した事。
「環境に適応できなかったギアニックは停止する……それは、オウカが隠していた生存条件だ。それさえクリアしてしまうとは、一体何をしたら平原がああなるのか……」
雪山から持ち込んだアニマの部位を利用し今の雪原を形成した、ということらしい。
そして銀雪民の救助に行くよう宿民に働きかけたのも、そのすべての指揮を執ったのもロクだったという。
(今になって思えば、アイスコープ越しに見たロクは、オレたちを助けたくて自身の占いケッカを宿民に訴えていたのか)
モガの知らないところで、たくさんの仲間が動いてくれていたようだ。
「オレはアーチから、ヒトを頼れと教わった」
「モガ君? というと?」
「一万年前なら、一人で戦線を駆け抜けた自負があった。だが実際には自惚れも甚だしい。オマエたちの助けがなければ……銀雪民はどうなっていたか」
「そうでもないだろう? だってほら、倒れたモガ君を運んだのはたしかに僕ら宿民だけど、銀雪民が下界の環境に平気なのはさ――――、あ」
「どうした?」
後ろから近づいてくる誰かの気配で、アンガスが振り向く。
同じ方を向いたとき、モガはしまったと思う。
よりによって、オマエが様子を見に来るか。
「おうっ、あんちゃん」
モガはつい、やって来たローとローの姿をしたアンガスとを見比べた。
似姿はあまりにも一致しすぎていて、もはや誤魔化しようがない。
いや誤魔化す以前に、何を誤魔化せばいいのかすら分からなかった。
なにせモガは、まだアンガスの容姿がーローそっくりになってしまった事情を一つも知らされていない。
「銀雪民がどうやってここまで来れたかについては、これくらいでいいよね? モガ君にとっては、もっと気になる事があるはずだしね」
ローは大した驚きも見せず、ローの姿をしたアンガスが並び立つ。
「僕とローはただの似た者同士じゃあない」
そう言ったのがアンガスなのか、ローなのか。それすら分からなくなっていた。
「おれっちたちぁ元々、同一のギアニックだったんだよ。へへっ、全っ然気づかなかっただろ?」
「同一? それはつまり同じモデルのギアニック、というイミか?」
二人のローの間にノイズが走る。ノイズはじらじらと広がりを見せていき、二人のシルエットを食らい、ぼやけさせ……ついには完全に姿を覆い隠してしまう。
「二人が、一体のギアニックになっていくだと……、いや。これは」
二人が一つになるといっても、A⇒Bの合体とはどこかが違う。
アンガスと◆%の言うように、ただ元に戻っているだけだ。
「自分自身を二つに切り離していたとでも言うのか。ほんとうに……」
ノイズが晴れると、二人のホッキョクオオカミ型ギアニックは完全に一体のアンガスになっていた。
義手の右手に、義手の結合部たる右肩の赤っかなスカーフ。彫りの深いオオカミのフェイス。
「その姿は、】@の」
と言いかけたところで、モガは困惑のあまり言葉に詰まった。
「¥Ψ……とは、ダレのことだったか……」
自分でもわからない。ホッキョクオオカミ型ギアニックといえば、アンガスだ。目の前の獰猛なオオカミ顔をみ間違うはずもない。
それなのに、さっきまで別の誰かがいたような。
「モガ君。混乱させたね。でもそれが正しい反応だよ。この僕アンガスに備わっている認識改ざんの仮実装が正しく機能している証拠だから」
「ニンシキ、カイザン……オマエが?」
本能的に左拳をグッと握りしめる。あとはただシグナルを送るだけで、左腕はアームブレードへと換装される。
「あっ、ストップだモガ君、違うんだ。わざわざ正体を隠すのにも色々と事情がね……たとえばサイガなんかに見つかると厄介な未来が待ってるから」
「…………」
「って言って、納得してくれると助かるんだけどなぁ。やっぱり僕のこと、警戒する?」
ホッキョクオオカミ型のギアニックが、自身を「僕」と称するのを聞くと、どうも顔をしかめてしまう。警戒もそうだが、それ以上にしっくりこない感覚がある。
(べつに、コイツは出会った頃からこうだったハズだ。今さら何をソワソワする必要があるんだ……)
アンガスを見ていると、自分の記憶に自身が持てなくなる。
どこかに見落としがあるような気がしてならない。むずがゆさがどうしようもなく無視できない。
「怪しむのも仕方ない。じゃあとりあえず信用してもらうためには……あ、そうか。通信をつなげた事もあったね」
「! 通信といえば、雪山では∩e/が――――」
またも、なぜか言葉に詰まる。困惑するモガに気づいているのだろうが、留めておく程度にしてアンガスは話を続けた。
「センガ君が暴走した、あの平原の夜もそうだ。あの通信が君を再起動させるきっかけになることは、未来をも見通す予測演算から確信してた」
「あの通信システムはサーバー・モアを利用したモノだろう!?」
「安心した。一万年経っても、そこはちゃんと覚えてるね。つまり僕が言いたいのは……」
人差し指を立てて結論を述べる姿が、ワイルドなシルエットかつアウトローな印象の風貌に似合わない。仕草に違和感があるものの、それは一旦置いておく。
「僕は君たちサイドのギアニックってことだ。なんたって、ジエが認めたギアニックのみが利用できるサーバー・モアとつながれるんだから」
「それは……その通りだが、」
「くそぅ、少々頑固なところも変わらないな。ま、わかってたことだけど」
「まるで昔のオレを知っている口ぶりだな」
「そりゃあさ、旧知の仲だからね。サイガたちを警戒しなければいけないせいで、正体を教えてあげられないのが口惜しい。この分だと、これからも目一杯サポートして信頼を勝ち取るしかないかもなぁ」
アンガスは唐突にモガを通り過ぎる。背中を向けて歩く後ろ姿で、もう行くのだとモガは察した。
「ドコへ?」
「次のステージで待ってる」
アンガスがこちらを振り返る。
モガはその時になって、はじめてアンガスと顔を合わせた気がした。
記憶が欠如した感覚はいまだ拭えないが、アンガスは「それで正しい」と言った。ならば焦りを感じる必要もないと、話した後なら素直にそう思える。
「忘れないでね。君がやるべき事を見失わない限り、僕は君を助け続けるから……あっ」
「? どうした」
アンガスが土手の上を指差して、さらに告げた。
「君を助けてあげられるのは、もう僕だけじゃないね。あそこにも、ほら」
「モガぁぁぁぁぁああああ!!!! コラァァァぁぁああああ!!!!」
「君は色んなギアニックの助けを借りて良いんだ。そんな通じ合いもまた、ジエの言う平和のモデルケースだろ?」
もう少し詳しく訊きたいところだったが、昼食をすっぽかしたままのモガを、ご立腹のアーチが許すはずもなかった。
「遅い! 遅い、遅いおそいおっそぉぉぉ~~~いっ!!!! もうみんな食べ終わっちゃったからね! それともなによ、ひとり時間ずらしていただきます~って? カンジわっる!」
「スマン。大事な話をしていた」
「は? …………誰とよ」
「アンガスとだ」
「はぁ。だから誰だっつのよ」
食事場所に戻ると、アーチの言う通り宿民も銀雪民もあらかた昼食を終えていた。
そしてその誰もがアンガスを知らなかった。
当然、■№を覚えているギアニックもいなかった。
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