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文明が滅びた10000年後の地上で再会するキカイ傭兵と設計者の少女 原題:メタルエイジのMO-GA  作者: カズト チガサキ
銀雪と結束の第二章 氷獄の統率者・オウガ
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【人狼】2 36/39

前話が記念すべき四月最後の投稿でした(2023/04/30)

と、いうことは――――?

今話は記念すべき五月最初の投稿でござ(2023/05/01)

「お、オマエは……」


 銀雪民は無事だろうか。

 その答えを、モガは自分の目で順番に確かめていく。

 安否確認、一人目。


「ダレだ? オレの知る限り、銀雪民にオマエのようなヤツはいなかった」


 痩せ型のギアニックが調理の手を止める。彼は糸目を心外そうに歪めて、訝しむモガを見つめ返した。


「イヤなんだナー、人でなしなんだナー。ボキだよ、ボキボキ! ユブウだよ」

キョギ(虚偽)はよせ。ユブウはボール型ギアニックだった」

「モガも失礼なんだナ。たしかにボキはちょこっと太ってたけど、辛く過酷な下山をみんなで乗り切ってダイエットに成功したんだな。それなのに、モガはギアニックを何だとおも……あっ、その疑いの目、本気で信じてくれないんだナ!」

「………………」

「いいんだもんナ、ボキは料理人。ボキが本当にユブウかどうか、真実は料理で語るんだナ。ずっと眠ってたし、お昼ご飯まだだよナ? だったらたーんと召し上がるんだナ!」


 瘦せ型のギアニックはひときわ大きなカマクラに帰っていく。この大きさの施設、さては調理場だろうか。


「あ、モガ。いたいた」

「アーチか。今ここにユブウを名乗るギアニックが」

「はいみんなー、モガはっけんー!」

「おい、今度は一体ダレを」


 アーチの手招きで、調理場の裏手から銀雪民は続々と続いた。


「シロップがぶ飲みにぃちゃん、久しぶりだぞぅ!」

「マル坊。……ああ、待たせたな」


 興奮を抑えようともせず、マルはモガの膝に全身で抱きつく。モガの再起動を相当待ちかねていたらしい。


「おいら、おまえがあんまり目を覚まさないから、シロップ探しの旅に出るとこだったぞっ」

「シロップを? なぜ、また」


 旅、と単語を口にするマルの目はこれでもかと輝いている。


「シロップ飲みたさで目を覚ますかもーって、どうだ!」

「……フッ、ソイツはまた発送が冒険テキだ。オマエらしくていい」

「いひひぃ、笑うなぁーっ!」


 木登りの要領でモガのボディを這い上って来る。はしゃぐマルをモガが支え、おんぶの格好になったとき、次の声がかかった。


「モガよ。おまいさんらがここまで連れて来てくれたおかげで、ワシは思い出したんじゃが」

「! クナシ。なにを思い出した?」


 マルをおぶさりながら固唾を呑んだのは、モガだけではなかった。背中のマルも、モガを順番待ちするローも、さらにその後ろに控えるモガに感謝を伝えたい数多の銀雪民たちも、クナシの表明を見守った。


「ワシには、弟機がおったそうじゃ」

「兄弟機か。オレといっしょで……」

「全っ然、違わーーーい!」


 彼方からクナシとよく似た叫び声が割り込む。


「ワシに血のつながった兄弟機はおらんと何度も言うたがなー!」


 宿民たちの集落からチョオローの訴えが届いた。雪原地帯と草地の境目で叫ぶので、チョオローの声は遠い。

 寒さが体に堪えるのか、チョオローをはじめ基本的に宿民は雪原に足を踏み入れないらしかった。


「んむむぅ……そうだったかのぅ」

「クナシ。相変わらずのようだな、オマエも」


 落胆のクナシに声をかけるも、目が合わない。彼の視線はひどくさまよっている。

 虚空を撫でるクナシのカメラアイは胡乱で、記憶を頼りなく探っている。

 そんな心細げな挙動を目にしておいて放っておくのも忍びない。モガは言葉を続けた。


「クナシよ。オマエが相変わらずで良かったと、オレは思う。失くしたキオクのこと、今スグには助けてやれん。今はただ、なんと言うべきか……」


 何かを伝えようと言葉を探るモガを前にして、それまでさまよっていたクナシのピントが合った。


「オマエがブジで良かった。オレは、それが誇らしい」


 今ならわかる。

 この感情をどう表すべきか。

 モガの胸の内は、意外なほどすんなり言葉になった。


「オレを、誇りにしてくれてありがとう」

「おまいさん、なかなか良い笑顔するのぅ。ワシの記憶にない、スッキリした表情じゃあなぁ」


 大皿を持ったユブウが調理場から出て来るのに誰かが気づく。それを合図に、宿民も銀雪民も集落の境目に集結した。どうやら両集落の交わる地点が新たな食事場所だと、モガが眠っている間に取り決められていたらしい。


「あ、そだモガ。ロクを連れて来てくれる? アンガスと一緒に小屋にいるからはずだから」

「ああ、それはかまわんが」

「ありがと。アタシも配膳手伝ってこよーっと」


 ロクと会うのは、じつに平原を発ってからぶりだ。別れ際のロクの姿は痛ましく、思い出すだけで辛いものがある。

 周りに心配かけまいと振る舞いながらも、喪失感のあまり発作的に寝込んでしまうことが、しばしばあった。


 ただ、アイスコープ現象で覗いたロクは何だったのだろう。宿民たちに何かを訴えるような、それとも懇願しているような。


「なんであれオレたちが出発したあと、ロクに何かがあったのは間違いない、か」


 本人に会って話せばわかるだろうか。

 先に目覚めて現状を知っているはずのアーチは、特に何も言ってはくれなかった。


「ココにいるのか」


 周りと同じ丸太の小屋。ロクはここに、アンガスと一緒にいるという。


「ジャマするぞ。いるか?」

「あっ……モガにぃ。おかえり、なさい」


 人の小屋に入るなりキョロキョロと様子をうかがうモガを、幼魚型のギアニックがたどたどしく迎え入れる。生白い腹と赤褐色に光るウロコ肌の背中。未発達の背ビレや腰ビレが、たしかにユスの娘たらしめている。


「よかった。目、さめたんだ」


 ロクは安心した笑顔を作って、ぽてぽてと歩み寄る。


「ああ、どうにかな。オマエこそムリをしていないか?」

「だいじょうぶ、お母さんが、みまもってる」


 普段俯きがちなロクが、晴れ晴れした面持ちで外を見る。

 お母さん、と口にした瞬間、ロクの瞳に明かりが差した。

 満ち足りた表情で雪原の向こうを指差している。


「アレは――――ユス」


 雪原の一角に、未だ氷の融けないままのユスが屹立していた。


「わたし、わかる。わかるようになった、んです。お母さんは今も生きてて、あと五回寝たら、ぎゅーってしあえる、ようになるって」

「五回眠る? 何のことだ?」

「五日、夜を越したらって意味さ」

「!」


 部屋の奥、光の差さない暗がりにもう一人、顔の見えないギアニックがいる。


「モガ君が無事に目を覚ましてホッとした……なーんて。ほんとは全部わかってたんだけどね」

「……アンガス、か?」


 暗がりで顔を隠したまま、アンガスは実際に見てきたみたいにこれまでの経緯を語る。


「出発から三日後に吹雪に見舞われて、銀雪民の仲間入りを果たしてから何日か後に下山作戦を決行して、ついにはあの道でチカラ果てる。そして今日、目を覚ますことまで全部、ね」


 語りが止まらないアンガスはしかし、一向に暗がりを出ようとしない。


「ま、センガ君の時も君は復活を遂げてたことだし、心配ってほどでもなかったかな、正直なところ」

「五日後にユスが快復するのか。ずいぶんと具体的にわかっているんだな?」


 目の前にいるのがアンガスかどうか、声を聞いてもよくわからない。なぜか自信がない。

 突然、知らない誰かに声をかけられたと錯覚さえする。


「ほんとう、凄いよね――――占い師の予知って」

「占い師……予知だと?」


 占い。予知。たしかに昔は占い師がいて助かった、という話をクレバスの中で聞いた気がする。

 クレバスに占い師がいたのはあくまで昔だ。氷像のユスが快復に向かい、五日後に目覚めることとは、今さら関係あるはずはない。


「見せてあげた方が早いよね。さぁロク」

「アーチねぇが、おこる。はやく、たべにきなさいー、って」


 そこから来るよと言わんばかりに、ロクは小屋の出口を指差した。


「まさかとは思うが……ロク。オマエは、」

「しーっ、モガ君。しーっだよ」

「……」

「…………」

「………………」

「………………おい、これは一体なんの」


 その時だった。

 モガが痺れを切らしたのと同時、いきり立った足音が近づいてくる。


「ちょっと! モガおっそい!! みんな食べずに待ってるんだから早く来るっ、アンガスもよ、なんでアンタまで一緒になってモタモタしてんのっ! んじゃーロク、おねぇちゃんと一緒に行こっか。肩車する?」

「ううん。もう、ひとりで歩く。もう子どもじゃない、ってお母さんが」

「おお? さすが、おねぇちゃんがちょっと見ない間にたくましくなって。小さくても男の子ねー、やっぱし」


 目の前で起こった偶然に説明もないまま、ロクはアーチに連れられてしまった。


「ん? おい、……行ってしまった」


 モガとアンガスは完全に取り残された。さっさと移動せねば、またアーチに叱られるのは目に見える。


「アイツ、ロクをオトコだとカン違いしているのか……」

「いーや、あの時期あのタイプの子って、まだ性別が決まってないんだ。アーチ的には男の子に育ってほしいみたいだね。英才教育がさりげない」

()まれつき設定されていないのか? ……これも時代か」


 モガは小屋を出るが、アーチにアンガスと呼ばれたギアニックはなかなか動こうとしない。

 小屋の中に佇むギアニックのシルエットをモガは外から窺い見る。しかし、もはや誰かわからなかった。


 そろそろ本当にアンガスではなくなってしまうかもしれない。


「オマエは行かなくていいのか」

「このままじゃ行けない。行きたいけど、みんなの前に出られない」

「? アンガス――――っ! じゃない、オマエは」


 出られないと言いつつ、小屋から這い出るようにして姿を現した。

 それでモガは事情を理解する。

 たしかに、このままでは混乱は免れないだろう。


「ローだったのか。さっきまで銀雪民の集落にいただろう」


 先回りしたはずはない。そうわかっていても野暮な質問をする。


「それは銀雪民のローだね。僕はあくまで宿民のアンガスだよ」


 そう、まったく同じ姿のギアニックが二人。クナシやチョオローがそっくり、という次元の話ではない。


 唯一の差異は、右腕がまるごと失われていることくらいか。センガに押し付けられた義椀と、右肩の接合部を隠す赤いスカーフがなくなっている。


 それ以外は、不気味なほど銀雪民のローと一致していた。


「みんな食卓に集まってるらしいから、人目を避けるには丁度良いや。お昼ご飯を待たせるのは申し訳ないけど」


 食事場所である集落の境目とは反対側、アンガスは土手の向こうへ歩き出した。


「ついて来てほしい。大事な話をしたいんだ」






(あ、アンガスぅ……?)

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