【約束】1 31/39
音楽聞きながら勉強って好きなんですよね。
集中力とかは置いといて、「あと一曲分がんばろっ」ってなるう。
学生諸君におっ勧める。
ペガサス・マキナの嘶きに呼応して、吹雪の影は一層強く赤と黒に染まる。
子を奪われた母の怒りが吹雪に乗り、辺りに充満していく。
「赤と黒の粒子か。この粒子はマキナが持つ特殊な電磁波を帯びていると、サイガが言っていたな……?」
電磁波は電子機器をひどく狂わせる。ただでさえ危険な代物な上、この禍々しさだ。
今のところボディに変調はないが、黙って浴び続けるわけにはいかない。
赤と黒のコントラストをじっと見つめていると、無性に逃げ出したくなった。
「逃げるなどと言ってるバアイではないが、な」
マキナの粒子から視線を上げる。
はるか頭上、ずっと上まで視線を上げると。
「FIIIIIII-----n!!!!」
「狙いは……角だ。いくぞッ!」
浅紅を焚いて跳躍。ペガサス・マキナの腿に生えたハリガネ――アニマの姿では体毛だった――を掴み、頭頂部の角を目指してよじ登る。
「下山しようって作戦だったが、こうも登らされるハメになるとは。想定外だな」
針山のようなたてがみを蹴り上がる。
振り落とされないよう注意し、頭頂部まで登頂。
ペガサス・マキナの頭のてっぺんには鉄パイプが突き立っていた。
「これだな――――吹雪の発生源」
先をすぼめた鉄パイプは、元は角だったものだ。
マキナの金属と化した角の周囲を赤黒い粒子が渦巻いている。
ペガサス・アニマの角は吹雪を操る力の源だったはずだが、もはや雪粒は見る影もない。
「まるで……っ、磁気嵐、だな……ッ!」
早く壊さなければ。そう思うのに、禍々しい鉄パイプと同じ高さに立った瞬間、モガの脚がくずおれる。
濃度の高い粒子を間近に浴びたせいだろうか。
ボディ中の麻痺が止まらない。
浅紅の炎は燃え続けているにもかかわらず、回復が追い付いていない。
上から押し付けられるようにして、モガはとうとう四つん這いになる。
(チカラが入らないこの感覚は……。センガのクナイに刺されたときと、よく似ている……っ)
麻痺は脚に始まり、四肢へ頭へと広がっていく。
このまま症状が進行すれば、センガに敗北したときと同じ道を辿ることになる――――そうなってはたまらん。
「オレは全員無事に下山させると誓った。アコガレを叶える、そうマルと約束しただから! ……、」
辛うじて動くカメラアイが、ペガサス・マキナの歪な角を捉えた。
壊すべき対象を認識すると、振るうことさえ困難なはずの左腕が、自然に突き動く。
麻痺の回ったボディでアームブレードを振るうのは不可能。しかしノーモーションで攻撃することは出来る。
「貫け……、≡《スケーライズ》ッ!」
アームブレードがひとりでに≡。レーザーに匹敵する速度で角に刃渡りを届かせる。
ひしゃげた金属音を響かせて角にヒビが入った。
「くっ……いかん、このままでは振り落とされるっ」
しかし断ち折るにはもうひと押し足りない、途方もなく硬い。
ペガサス・マキナの頭頂部まで、痺れたボディでもう一度登るのは無理だ。角が硬かろうとボディがきつく軋もうと、今、ぶち抜くしかない。
「ここで終わらせる……っ、テェアアァッ!!」
痺れたままの全身を使ってペガサス・マキナにしがみつき、信念と全霊を左腕に籠める。
モガの想いその全てがアームブレードの剣先を伝い、ペガサス・マキナの角に衝突する。
「FU……FU……Foooo----!?」
バギン! ……。
ペガサス・マキナが苦悶の声を上げると同時、金属の破砕音が大気を震わせた。
「ぜぇ……はぁ、っ見ているか、サイガ……折ってやったぞ。コレで下山ルートを遮る吹雪もジキに止むハズだ――――ぐっ!?」
「Fuu……! Fuu……! FIIIIIII-----n!!!!」
込み上げる怒りのままに暴れ、ペガサス・マキナはモガを振り落とす。
深く積もった新雪にモガのボディはずぶと埋まった。
冷やりとした真綿に包まれ、思わぬ寒さがモガを襲う。
(!? マズい。サイガの言っていたコールドコードの機能不全が、オレにも……!)
これまではコールドコードのおかげで、周囲の環境がいくら極寒だろうと何ともなかった。それが今では劣悪に寒い。
マキナの粒子を浴びた影響だ、急速に体温が奪われていく。
雪に触れている箇所が刺されたように冷たい。
(我が焦熱よ、もっと滾れ!)
以前、平原で雨に降られたとき、浅紅の炎は雨粒の冷たさに立ち消えてしまった。
雨粒で消えてしまう炎が、この雪の冷たさに耐えられるはずもない。
(マント、オフ。………………)
これもコールドコードが効かなくなったせいだろう、雪に触れた浅紅はあっけなく立ち消えた。
嗚呼、地面が壊れそうなほど震動している。
もはや金属音と変わらないペガサス・マキナの嘶きもうるさい。
外の状況が目視できない雪の下からでも、ペガサス・マキナが荒ぶりが伝わってくる。
危機感が募る。だがそれ以上に、モガの意識は遠のいていく。
コレが雪のモビルゲレンデか。
雪のモビルゲレンデがオレの意識を奪おうとしている。
そしてモガもまた、自ずから意識を手放そうとしている。
寒さのせいで判断が鈍っているのか。
敵は寒さだけではない。
いつまでも雪中で眠りこけていたら、そのうちアイツの蹄に潰されるのがオチだ。
(そうなる前に……やらねばなるまい)
マントはオフのまま、浅紅の炎を起動。
そんな使い方が出来るかどうか知りもしない。
(雪に触れていない内側なら気温は関係ない、な)
自分の胸に炎を灯すイメージ。浅紅の炎が外気温で消えてしまうなら、自分の内側で焚けばいいだけだ。
(ニンゲンでいうところの心臓を思い描け。炎を全身に行き渡らせろ!)
ギアニックの回路は血流のようにモガの全身を巡っている。
その回路が今、導火線に変わった。
赤のバイザーが浅紅色に。
赤と黒のツートンボディは、浅紅と紅を基調とした統一色に。
モガを埋める雪の塊を、アーマーの隙間から漏れる噴煙が融かし尽くす。
みるみるうちに薄くなる雪の天井に、地上の光景が透けて見えてきた。
アーマー内部で浅紅が燃えているからか、ボディの痺れはとっくに取れている――――戦う準備はできた。
「アレは……ダレだ?」
見覚えの無い人影が、たった一人でペガサス・マキナと戦っている。
オウカと似た細身の長身だが、身につけているタキシード型のアーマーはいつもの真っ白なそれではない。
赤紫色ベースのアーマー、刺繡を模した黄金のライン。
アルガの変身者と思われる赤紫色の人影は、地表に這い出ようともがくモガに気がついた。
「ピンクの火の粉……まさか、そこに居るのかい!? なら早く手を伸ばしたまえ!」
「その声。オウカか。その姿は」
薄い雪の上で、オウカがこちらに近寄る気配がする。
「手を伸ばす体力も残されてないのかい……!? なら、Θ《シールドライン》!」
網目のように広がる棒状の物体が雪中に深々と差し込まれ、埋まっているモガを雪ごと持ち上げた。
雪から解放されると同時、モガの形態が元の赤色に戻る。
マントが自動でオンになる。布地に浅紅の炎が燃え広がった。
「無事かい!? 無事なら急いでエレベーターホールへ向かいたまえ、ここはもう危険だ!」
「キケンは承知だ。この赤黒い粒子のことを言って……!?」
ようやく雪から這い出て確保された視界にオウカの姿が飛び込んでくる。
「………………オマエは」
「? 呆けてないで、さぁ! ……早く!」
目の前のオウカ・ブレンドアルガの、正確には彼の両手に握られた武装が、モガの目を引きつけて離さない。
「ソレは……! オウガの双槍か」
ヘラジカ形態のときは頭に生えていた二振りの幅広な盾角が、さながら武装として握られている。
Θ《シールドライン》状態を解除した盾角が元の形状に戻ると、モガの見覚えは確信になる。
幅広の角は黄金の双槍に。オウガが振るっていた槍が、なぜ今オウカの手元にあるのか。
『血だ』
「血? オイルブラッドがどうしたっていうんだ?」
『͡此奴のオイルブラッドヲ参照した。此奴のオイルブラッドには両親ノチカラがしかと潜在している。我はそれヲ引き出したまで』
オウカもといオウカ・ブレンドアルガの頭頂部に、王冠型のキャップが燦然と輝いている。
アルガの変身者たらしめる赤紫色の宝石と銀雪民の統率者に相応しい堂々たる黄金の光沢が、赤黒い吹雪に塗りつぶされることなくそこに存った。
「先代オウガはワタシと共に在る。ペガサス・マキナと白黒つけて先代……パパ上の分まで雪辱を晴らすよ。だから……」
モガに語りかけながら、≡《スケーライズ》と≒《ニアライズ》の合わせ技で双槍の形状を自在に変化させる。
オウカ自身は身動き一つない。ただオウガの双槍が、四方から飛来する赤黒い氷弾に向けて勢い良く枝分かれを繰り返し、一つ残らず貫き崩していった。
「モガくんはエレベーターを目指せ! 赤黒い粒子にやられたアーチ嬢もそこに避難させた、キミも粒子に倒れる前に、早く!」
「バカを言うな、一人で挑むつもりか?」
モガの問いにオウカは背を向けた。
自然、ペガサス・マキナと対峙する格好になる。
それがオウカの答えだった。
「キミがいても足手まといになってしまうんだ。ワタシのコールドコードが不甲斐ないせいで!」
オウカはモガを振り返らず続きを叫ぶ。
「粒子のせいで、コールドコードがバグを起こしているんだ。同じなんだよ、あの日ユスに起こった原因不明の機能不全と!」
「! ユスが氷漬けになった原因はマキナの粒子によるバグだった……だと? ということは……!」
アニマをマキナに変えたり、マキナを使役しようと画策したり。
そんな風にマキナというブラックボックスのテクノロジーを扱うギアニック。
雪のモビルゲレンデに、そんな容疑者は一人しか浮上しない。
「サイガかっ! ヤツは……そんな以前から目論んでいたのか」
「このままキミまで凍るわけにはいかないだろう、早く――――」
「置いていくものか」
マントから浅紅の炎が激しく猛る。
迸る火花がモガの覚悟を代弁する。
「ここはワタシ一人でいい、勝算はある!」
「コレほどの敵を目の前にして、まだそんなことを言うか」
オウカがA⇒Bしたとはいえ、一人でどうにか出来る相手でないのは明白だ。
もしどうにか出来てしまうとしたら、ソイツはもはやギアニックではない。
(プロトタイプだった頃のオウガなら、あるいは……)
考えても詮のない話で、そんなもしもを考えている場合でもない。
モガを見つめるオウカの目は戸惑いで滲んでいる。そんな彼の横を通り過ぎて、オウカはペガサス・マキナと相対する。
「ありがとう、ではないか?」
「モガくん、何を……」
左腕を組み換え、アームブレードを繰り出す。電光の刃を眼前にかざし、切れ味をイメージする。
ペガサス・マキナの首を落とせるだけの切れ味が、確かにこの剣には宿っている。
ジエならそう出来るように造っているハズだと信じて、ペガサス・マキナへと間合いを詰めた。
「今、オマエが言うべきはありがとうだ。この盤面をホンキでどうにかしようと思うなら、オレを頼れ。頼りづらいなら、忍びなく思う以上のカンシャをしろ――――アーチから教わった事だ」
「! アイニュー……退く気はないみたいだね」
モガのアームブレードとオウカの双槍が、揃ってペガサス・マキナに向いた。
「グラシアス――――行こう、ア・ユー・レッディ!」
「ニンム……カイシ!」
『共ニ戦エ……戦エ!』
赤黒い吹雪のただ中に狼煙が上がる
浅紅の炎、黄金の光沢、変身者たる赤紫。
(カラダから痺れがカンゼンに消えた。マントの炎の――――ジエのおかげか)
アームブレードが放つ緑の電光が、赤黒い粒子を押し返していく……!
「パパ上が果たせなかった責務だとしても。ワタシは成し遂げる。ワタシと、モガくんとで!」
――――FIIIIIII-----n!!!!
マキナの粒子が渦を巻く中心で、ペガサス・マキナは金属塊と化した声帯を擦り合わす。
戦意十分に響く嘶きが戦闘開始の合図だった。
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