【判決】2 30/39
緊張の本編……
「時にモガさん。裁判所に足を運んだことはございますか?」
サイガが問いかけてくるも、激しい剣戟の最中では返答する気も起きない。
「裁判所には、決まってとある女性の像が建っているのですが、ご覧になった事はありませんか? 右手に剣を持ち、左手に天秤を持ったあの女性像です、有名ですよね」
剣戟を浴びせる張本人サイガは口がよく回った。寡黙にアームブレードを振るうモガとは対照的だが、剣速はほぼ互角か。
「この私の剣型武装・テミスエスパーダは、そんな女性像をモチーフに造っていただいたのですよ。他でもないジエが、私のために。断罪が任務だった私に相応しいと思いませんか?」
依然として喋りを止めない、語る高揚のままテミスエスパーダをモガに振るう。
「/《スラッシュ》ッ!」
「↓《パニッシュ》」
テミスエスパーダが真鍮色の軌跡を描く。鋭い↓をモガは鼻づら間近に躱した。
顔の一寸先に確かな殺傷能力を感じ、危機感で内蔵機器がきゅっと絞られる。
テミスエスパーダが起こす風圧に、サイガの殺意が宿っている。
(だが、ヤツはまだチカラを抑えている。武装テミスエスパーダの鍔に備わっているテンビン……ジエが造ったのなら、アレがただの装飾であるハズがない)
モガは自分たちの戦いとは別、もう一つの戦況を横目に確認する。
アーチ・ブレンドアルガとオウカ・ヘラジカが、ペガサス・マキナと交戦している。
ペガサス・マキナの放つ氷弾とビリビリ矢がぶつかり合い、中空で炸裂。
その炸裂の余波さえ、高みのペガサス・マキナ本体までは届かない。
「傭兵ギアニックとして造られたことはありますね、さすがです」
「?」
「裁判長の私を差し置いて味方の心配とは、誠に恐れ入ります」
「ああ、スネるな。こんなモノはジョウキョウ把握にすぎん。オマエを相手によそ見する余裕などあるモノか。
オレは約束を果たす。
肩を並べて戦うからには、アーチはオレが守る。
それがアイツと取り決めた約束だ。
今度は戦闘の途中で倒れるような無様は見せてやらんぞ、サイガ」
雪のモビルゲレンデでの戦いは、騎乗手・バクサに始まりコイツに終わる。
実に数奇な旅路だ。
そんなことを振り返られるくらい、戦闘の間だけ、モガの頭は格別に冴えた。
冴えた頭で、冷静な思考で、モガは唱えた――――この旅路にも、一区切りつけてやる!
「≠《ディファインブレイク》ァッ!」
「異議あり――――∋§∈《ギガ・スクラッチ》」
サイガが隙を見せた。
しかし三連撃を畳みかけられるだけの隙があったはずなのに、アームブレードが物体を斬った手応えはない。
サイガを斬ったのではない、モガのほうこそが吹き飛んだのだ。
∋から鉄拳、∈からも鉄拳。
金属の塊がモガのボディを二度も打ち付けた。
イエティ・アニマの剛腕ほどある金属塊の正体は、真鍮。
鉱山でもない雪山のただ中に真鍮などと。出どころは……明白だった。
「ジエの工学は素晴らしい」
攻撃の主は一人しかいない。
テミスエスパーダの鍔に付いていたそれも、もはや天秤の形をしていなかった。
「誠に残念ですが、この時代に裁判は無い。
原始的な理が物を言う野蛮なメタルエイジで必要とされるのは、厳格に罪を量る公平無私な天秤ではないのです。
罪を罰することが出来るのは、純然たる力!
私がその真理にたどり着いたとき、テミスエスパーダは姿を変えたのです!
司法の象徴たるこの剣が、私の考えを肯定するかのように変身したのですよ。
他でもないジエが造った剣が、ですよ?
じゃあもうそれが一っ番正しいに決まってますよね!?
そもそも司法って時代とともに変化しなきゃいけないものですしね!
私の想いに応えるように、天秤はメキメキと雄々しさを増していきました。
確固たる正義と培ってきた良心のもと、私は裁くべきを裁くぅっ!」
天秤だった真鍮塊はファイティングポーズを取るかの如く、ゆらゆらとサイガに追従して脇を固める。
(≠《ディファインブレイク》を放つ直前の反撃。アレは視界の外からのフックか)
イエティ・アニマの拳とよく似た、法服に似合わぬ真鍮の両拳。正面にテミスエスパーダ。一見、隙が無い。
ひとりでに浮遊する両拳を従えて、サイガは突撃を仕掛けてくる。
「↓《パニッシュ》です」
普段なら左右に躱すはずの真上からの↓。だが、モガは辛くもバックステップでいなした。
距離を取った直後、モガの眼前を真鍮の拳が通り過ぎた。
近距離で躱していては、また∋§∈《ギガ・スクラッチ》の餌食だったろう。
「フフフフッ! この姿で戦うのは実に数千年ぶりですよ。最後にテミスエスパーダを振るったのは、たしか……フフフ」
「チッ、何が可笑しいっ?」
「フフフフフフフフフフフフ」
戦闘中という極限状態で饒舌になるのは弁論で戦う弁護士、兼検察という仕事柄ゆえか。
「オウガさんと、オウカの奥様ですよ。オウガさんを仕留めたのち、オウカを宿した奥様の、その腹に! テミスエスパーダを突き立てた……あの感触、よく覚えていますとも。あの時の……!」
殺害の快楽を反芻している顔……ではない。
ましてや後悔とも違う。
モガを攻め立てるサイガの表情が苦悶に満ちる。
それは何かを恐れている表情。
畏怖、しているのか?
「あの時……貫いたはずの腹の奥から、逆に剣を掴み返された。何とも不遜で忌々しい感触。
ええ、そうですよその瞬間に私は敗訴したんです!
まだ産まれてすらいなかったオウカに、私の全てを無力化され敗北した。
あの日ぃ……たとえ冤罪だとしても、どうあってもオウカを停止させるべきだった!
今日まで仕留め損ねたせいで、私はついにモガさんと引き合わされてしまった。
本懐を遂げるにおいて、貴方様は最も厄介な兄弟機。
我が本懐、すなわち新たなる司法の樹立がため――――ここで停止まれ、モガさぁん!」
「ふん、さっきまでのシュヒギムはどうした? 目的を漏らしているぞ……」
サイガはオウカを恐れていて、目的のためにモガを目の敵にしている。
だからこそ新しい司法のため、イエティペガサス・アニマを支配下に置いてでも邪魔なモガたちを潰しにかかる、ということか。
「新しい司法とやらが何か、具体的には知らん……が。裁判長がこの調子では、どうせロクなモノじゃあないな」
「何とでも言い給え。貴方は私が始末するとして……」
今度はサイガが、もう一つの戦況を気にしだす。
強大な力を有しているはずのペガサス・マキナが、アーチ・ブレンドアルガたちに対して戦いづらそうに吼え散らかした。
「はぁ。くっそ~ペガサス・マキナ! 早くそこのシカ畜生を討ち取りなさい! 貴方の赤子は常に私の手中だという事をゆめゆめ忘れるてくれるな!」
なるほど。ペガサス・マキナがサイガに従う理屈はそこにあるのか。
(いわばヤツは、子供たるイエティペガサス・アニマを人質にして、母親たるペガサス・マキナを脅して従えているワケか)
そこに付け入る隙はないだろうか。
(はじめてバクサとまみえたとき、大将サイズのユキザル・アニマは強制的に従えられていた。おそらくは、バクサの鎧に内蔵された鎖型武装の機能によって)
あの時と同様、鎖を断ち切ってやればイエティペガサス・アニマをサイガの支配から解き放つことが出来るのではないか?
それが出来れば、ペガサス・マキナがサイガの指示で攻撃を仕掛けてくることは無くなる。
もっとも、元から銀雪民を追い込んでいたペガサス・マキナのことだ、サイガの指示など無くとも、今度は自分の意思でこちらを攻撃してくる可能性は大きい。
「直感的な一手だが、やるしかあるまい……炎よ!」
サイガの制御下にあるイエティペガサス・アニマを見据えて、モガは浅紅を滾らせる。
「オマエは何もわかっていない……」
「ほう? この私が法廷で見落とし、ですか? それはそれは、是非ともご教授願いたいで――――」
「キサマには言っていない。この場で何もわからずに戦っているヤツといえば……」
イエティペガサス・アニマが善悪のモラルや、自身の生みの親が誰かを理解するより先にサイガに取り上げられた新生児だとしたら。
産まれたばかりで何も知らないイエティペガサス・アニマは、サイガについていくしかなかった。
それしか選べる選択肢が、イエティペガサス・アニマにはなかったとしたら?
「オマエだ、イエティペガサス・アニマ……!」
もっと本能的な部分に訴えてやればいい。
オマエの親はソイツではないと。
「我が焦熱よ、無垢なる獣のキズを癒せ!」
「モガさん? 何のつもりですか、それ?」
ソイツについていくべきじゃない。
オマエの親はこっちだ。
「イエティペガサス・アニマ……親譲りの見事な再生力だな。オレの炎などなくとも、与えたキズがすでに直りつつある」
モガが蘇生機能のある浅紅の炎をあてがうより先、モガが追い付いた時すでに、折れた氷牙や角をイエティペガサス・アニマは自力で修復していた。
「ジエがオレにくれた炎とそのチカラは、よく似ている……この炎を浴びて、なにも感じないのか、イエティペガサス・アニマっ!?」
「敵に塩を送るような真似をして……クククッ、血迷いましたか?」
モガとて無意識レベルで判断を下していた。
苦し紛れと言ってもいい、戦術とも呼べない突飛な行動だと自分でも思う。
それでもこうするべきだと直感が告げていた。
ペガサス・マキナとイエティペガサス・アニマ二体をサイガに利用されるより、脅迫を解いて暴れさせた方がマシだ。
「ああ~なるほど、読めましたよモガさんのお考え。そこの赤子を情に絆すおつもりですね? ハッキリお伝えしますが、それ全くもって無駄です」
「ムダかどうかは……判決が下るまで誰にもわからん」
「いいえ無駄ですよ! なにも根拠なく断じているわけではありません。こちら側には確固たる証拠がありましてね……フフフフッ!」
「フィィィイイン!」
「グゥゥオォォォォォオオオ!」
浅紅の炎による蘇生で完全回復したイエティペガサス・アニマは、モガの期待とは裏腹にサイガのもとへ駆け寄った。
「チッ。あくまで自分の意思でサイガに付き従うつもりか!?」
「フフフ……いい子ですよ、愛しきイエティペガサス」
頭を低く屈み込み、サイガを自身の背に騎乗させる。
イエティペガサス・アニマの所作は、傍目にもサイガと意思を交わし合っているように見える。
両者の間には確かな意思疎通があった。
「これが、貴方のしでかした失策に対する判決です。満足ですか?」
「……」
「納得いかない、そんな顔ですね」
「………………」
「”刷り込み”ですよ。ペガサス・アニマから産まれたばかりのこの子を取り上げ、私こそが親だと認識させる……アニマ、いえ動物の習性を利用したに過ぎませんが、ご覧くださいよ――――親子が織りなすコンビネーションを!」
サイガの号令でイエティペガサス・アニマは足下の新雪を散らす。
「! 目眩ましかっ」
雪の粉塵が視界を覆う。
目に頼っていては次の一手に対応できそうにない。
「今です。吼えなさい!」
「フィィィイイーーーーーーーン!!!!」
「グゥゥオォォォォォオオオーーーー!!!!」
「ぐっ!? 目の次は耳を潰しに来たか……っ!」
視界と聴覚を完全に遮断……されたかに思えた。
イエティペガサス・アニマの巨体ゆえに、モガは捉えることができた。
雪のブラインド越しに、大きな影が雄々しく奮っているのを。
巨体の影を見上げて目を凝らす。注意深く影を睨むと、その場に踏ん張りながら翼を羽ばたかせているとわかった。
ラーニング済みの予備動作だ。あの技が来る!
「氷のミサイル……か。来るなら来い」
「お伝えしたでしょう、コンビネーションだと――――Х《ギルティ》」
巨体ばかりを見上げるモガに、雪の下から躍り出たサイガが罰を与える。
「ぐ……っ、コレが狙いか」
視覚外からの二連撃をもろに喰らってよろめく。
体勢を立て直す前に、氷のミサイルがさらにモガを攻め立てる――――これは、マズい。
「死刑執行ですよ、今こそ――――↓《パニッシュ》、∋§∈《ギガ・スクラッチ》!!」
モガの正面をテミスエスパーダ、左右を鉄拳が襲う。
距離を置こうにも、氷のミサイル郡が意思を持ったような軌道で背後に回り込んでいた。
こうなれば剣と両拳と氷弾の波状攻撃すべて、叩き斬るしかあるまい。
「オマエのチカラを貸せ……センガ!」
「はぁ? センガさんが、なんですって?」
「いくぞ……×%《バイパー》ッ!」
「な、……なんです!?」
アームブレードがバイブレーション。
刃を形作る電光が、威力を迸らせて膨張。
「は、ははっ、笑止。≒《ニアライズ》だけはまともに扱えない貴方様が×%《バイパー》ですって? センガさん専用レベルの関数など……」
しなやかに伸縮し、ムチのような鋭さで縦横無尽に斬り尽くす×%《バイパー》関数。その難易度は≒《ニアライズ》の応用どころではない。
「あ、……扱えるわけが」
かつてモガをコピーしたセンガの、黒い蛇腹剣を強くイメージする。
「ハアアァァッ、っ」
モガ渾身の関数は果たして、失敗に終わった。
アームブレードがうねり、蛇腹状に変化する兆しを見せたと思った途端に、刃は粒子となって霧散してしまった。
とっさに右手で浅紅のマントを掴み、自身を包む。
アームブレードを失った左腕も、みっともなく引き攣った顔面も、炎の盾で覆い隠した。
(失敗したからには、受け切るしかない……!)
この猛攻を。
しかし、いつまで経っても波状攻撃の衝撃は訪れない。
堪らずと陽炎の隙間からサイガとイエティペガサス・アニマを盗み見た。
「コレは……フッ、オマエの仕業か」
氷のミサイルは、一つ残らず吹き飛んだ。
天秤の両拳は、赤黒く凍結させられ威力を失っていた。
両拳と同じく赤い霜が走り、切れ味など見る影もなくなったテミスエスパーダ。
それを握ったサイガが、信じられないものでも見た顔で後ずさる。
サイガの驚愕はモガに向けられたものではなかった。
モガのすぐ背後に、イエティペガサス・アニマより巨大で圧倒的な気配が佇んでいた。
「立ち上がるのが遅いぞ……ペガサス・マキナ」
「どういうことです!? おいコラ、失礼ですがペガサス・マキナぁ、貴方ちゃんと理解してらっしゃいます!? 貴方様のご子息は私の手中だと言って……」
「フン、サイガ。さっきのセリフだ。今度こそイエティペガサス・アニマにではなく、オマエに向けて言ってやる」
「何を……!」
うろたえるサイガに、形勢逆転の狼煙を見せてやる。
「オマエは何もわかっていない」
「い、異議ありぃ~~~……!」
「ふん、今に反論の余地もなくなるだろう。オレの後ろにいるコイツが何よりの証拠だ」
赤黒いオイルをじっとり蓄えたペガサス・マキナの双翼が悠然と開かれる。
瞬間、吹雪に冷やされたオイルがいくつもの氷柱となるや、ペガサス・マキナは一気に翼を閉じてはためかせた。
イエティペガサス・アニマが見せたのと同じ、氷のミサイルを放つ技。
赤黒い氷柱の、無数の氷弾。ペガサス・マキナから放たれたそれは、イエティペガサス・アニマがどう回避しようとも、背に騎乗するサイガのみを追尾した。
「コレが答えだ、サイガ」
赤黒い氷弾は決してイエティペガサス・アニマを傷つけず、まるで体に止まった虫けらを追い払うような軌道だ。
「たしかにイエティペガサス・アニマは親を見間違えているかもしれん。が、ペガサス・マキナの方はどうだ? 子を取り返そうと必死になるのは、習性よりも当たり前の行動だと思わないか?」
「フフ、フフフフッ。やってくれましたね、やってしまいましたねペガサス・マキナ……! 私に逆らえばどうなるか、脅して判らないのならこの子の身をもって教えて差し上げます……よっ!!」
テミスエスパーダを逆手に握り、乗っていた背中の中心に突き立てた。
赤黒い霜が付着した、切れ味の無い刀身。
刺さりにくくなった刃をむしろ力押しに刺されてしまい、鋭利な刃物よりかえって激しく痛むのだろう、イエティペガサス・アニマの巨躯を支える四肢が苦悶に押されてくずおれる。
「文字通り赤子の手をひねるも同然なんですよね! 貴方様が敵意剝き出しな限り、私はご子息を刺し続けてやりますよぉいいんですか!?」
脅迫を叫びながら二度、三度と刺突を繰り返す。
苦しさで巨体をよじる我が子をそばに、ペガサス・マキナが怒り濃く吼えた。
母の激情が増すのに伴い、吹雪も勢いを強めていく。
「させん! 我が焦熱よ、猛ろ!」
サイガが四発目を振り下ろしたとき、一陣の熱風がテミスエスパーダを遮った。
ペガサス・マキナの起こす吹雪に、モガの浅紅の炎が乗る。
風に乗った蘇生の炎は奔流となってイエティペガサス・アニマに届き、テミスエスパーダによる刺し傷を覆い包んだ。
「FIIIIIII-----n!!!!」
風が運んだのは蘇生の力だけではない。ペガサス・マキナの容赦ない吹雪がサイガを凍てつかし尽くさんと吹き付ける。
「雪とも違う、赤黒い粒子の吹雪……これはいけない、我ながら不覚ですね。マキナの電磁波を帯びた吹雪など、コールドコードで適応出来るはずもなし、ですか……はぁ。仕方ありません」
撤退もやむなし、ですかね。
そう言うやサイガは、あっさりイエティペガサス・アニマを翻らせる。
「キサマは決して逃がさん。ペガサス・マキナよ……オレに風を寄越せ!」
「Fiii……Fiii……! FIIIIIII---------n!!!!」
ペガサス・マキナが、吹雪をモガの足下に集中させる。
激しく燃える浅紅の炎が、モガの周囲に上昇気流を発生させる。
浅紅が激しくなるにつれて、モガの身体能力が高まっていく……!
「次の法廷で会いましょう、モガさん。私と成長したこの子の力で、今度こそ勝訴して見せますよ……!」
「オレはまだ判決を下していないぞ、サイガッ!」
大気の流れが上空までの道を作り、その道の真ん中を極限のフィジカルで一跳びする。
空へ羽ばたき始めたイエティペガサス・アニマを追い越し、モガが頭上から迎え撃つ一触即発の図。
「コレで決める……÷《ディバイド》ッ!」
断ち切る事に念頭を置いた剛の刃に、自由落下の威力が上乗る。
「テミスエスパーダが重い……!? ぐうっ!」
∋§∈《ギガ・スクラッチ》で猛威を振るった両拳は、その重さゆえに対空攻撃が難しい。ペガサス・マキナの赤黒い氷で凍結させられては、なおさら重たそうだ。
「だからって……黙って喰らうわけにいかないんですよ、モガさん!」
刃に走る赤黒い霜の影響か、サイガはテミスエスパーダに関数を呼び出せないでいる。
「くそっ、なぜです!? 説明しろ……どんな物証があって、こんな――――」
「FyIIIIIII-----n!!!!」
テミスエスパーダの切れ味をかき消す赤黒い霜が、両拳を地に堕とす赤黒い氷が、ペガサス・マキナの嘶きに応えて禍々しい光沢を増していく。
「忌々しい光だ……全て御前の犯行か、ペガサス・マキナぁ!!」
テミスエスパーダの受け太刀をモガの÷《ディバイド》が押し破り、サイガの右肩を大破させた。
配線剝き出しとなった肩の断面から、サイガのオイルブラッドが迸る。
早急に戦闘を離脱しなくては。
サイガにそう思わせるに充分、決定的な一撃だった。
「グゥゥオォォォォォオオオォァァアアアーーーーーーー!!!!」
「いけません……イエティ!」
イエティペガサス・アニマの下の首、イエティの眼前にサイガのオイルブラッドが跳ねる。
「ありがとうございます。しかし私のことはいいのです、撤退しましょう……っ、イエティ!」
イエティペガサス・アニマがサイガを自分の主、あるいは親と思っているのは明白で。
サイガの血を浴びたイエティペガサス・アニマ、とりわけ二首のうちイエティの逆上が止まらない。
「チッ、オレもここまでか」
イエティペガサス・アニマの背に着地したモガも、このままでは暴れのままに振り落とされる。
へし折れたテミスエスパーダとサイガの右腕が谷底へ吹っ飛んだ。
同じ目に遭うより先、モガは跳躍で新雪の上に着地。
暴れるイエティペガサス・アニマをなだめながら逃げていくバクサの背を目で追った。
「これで終わりだと思わない事ですモガさん! 必ず控訴します――――クレバスシステム以外にも、ジエの遺産は残っている。私はそれを利用してでも、新司法を立ち上げてみせる。
貴方様がジエを追う限り、私とは何度も裁判になるでしょう」
バクサの姿がもうじき吹雪の向こうへと消える。
「ジエとは、いわば拘置所の鍵です。
一万年前の地上に蔓延った罪深い人類、その全てを! 地上から永遠に追放する……そうすることで、今のメタルエイジは辛うじて平和を保っているのです」
それが分からないうちは、貴方様をジエに会わせるわけにはいかないのですよ。
そう言い残して、吹雪の向こうへサイガは消えた。
「何度も裁判に、か。次はオレもタダでは済まないかもな」
まだ赤子のイエティペガサス・アニマは時間が経てば経つほど成長し、やがて力をつけるだろう。
「ジエを目指す限り、対立する運命にある、か。だとしてもオレは、オレが信じたジエを信じる」
サイガが語ったあれが、たとえ事実だとしても。
「人類を追放することで手に入れた平和だと? 冗談だな。ジエの目指した平和が、そこで終わりなハズはない。
アイツが平和を目指すからには、その先があるハズなんだ。一万年経った今でも、アイツは道半ばで戦っているハズ」
ふと、アルガを製作していたジエのメモ書きの一言が、モガの脳裏を通り過ぎた――――モガを戦場で一人にしない。
共に存って肩を並べて、わたしも戦うの。
「アルガを造ったジエも、オレと同じ気持ちだったのかもしれない……」
アイツを一人にするものか。道の途中で足掻いているなら、オレも共に抗ってやるまでだ。
「オマエがアルガに願いを込めたように――」
吹雪の色がますます赤黒く染まっていったのは、サイガが姿を眩ました直後からだった。
「――オレも、オレの信念をアームブレードに乗せてやる」
ペガサス・マキナの怒りが、吹雪に色濃く噴き出ている。
「ジエに会うにしても、まずはオマエを鎮めなくてはな」
産んだ子どもを奪い返せない苛立ちからだろう、吹雪はいっそう強さを増してしまった。
これでは銀雪民を下界に下ろせない――――共闘は終わりだ。
(評価・感想お待ちしております)




