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文明が滅びた10000年後の地上で再会するキカイ傭兵と設計者の少女 原題:メタルエイジのMO-GA  作者: カズト チガサキ
銀雪と結束の第二章 氷獄の統率者・オウガ
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【離反】3 28/39

ろ、60話目ェ……週刊連載だったら一周年ですよ!!!!!!!!!!!!!!(週刊連載ではない)

「アタシ、鎧が砕けるところ、視えた。爆発する前に、ほんの一瞬だったけど」


 変身(A⇒B)を解くまで放心しきりだったアーチが、ようやく一言目を発する。


 破滅的な威力のѦ《プラズマフィスト》を放ってからずっと、ショックのあまり言葉さえ発せないまま、アーチはオウカ・ヘラジカの背にまたがり、彼の走るがままに任せていた。


 目にしたバクサの凄絶な最期を、やるせなさと共に吐き出す。


「鎧の内側は、意外と華奢な身体してたわ、アイツ。付き合い長そうだし、アンタは知ってたかもだけど。アタシが力任せに撃ったせいで……あんな細っこい身体じゃあ、生きてるわけないじゃないっ」

「…………アーチ嬢、」


 オウカ・ヘラジカが疾走するほど、バクサの存在が過去になっていく。

 左腕には、まだѦ《プラズマフィスト》を放った反動が残っていて、少し痺れてる。


 痺れが残っている限り、オウカ・ヘラジカがどれだけ遠く速くあの場を離れようとも、この無力感を、この悲しみを置き去りにすることはできない。


「アーチ嬢、作戦行動中だ。同情とか後悔はあとでにしよう」


 自分に、オウカ以上に悲しむ資格が無いことくらい、アーチは理解している。


「自分のチカラが、あんな風になるなんて思わなかった。加減なんて、ビリビリ矢でさえ、ちゃんとできたことないけど」

「ワタシだって居合わせたんだ、キミだけの責にするつもりはないよ。お通夜にしたいところだけど……、まずは無事に、山を下りよう」


 ペガサス・アニマの住処へ疾走する二人の後方で、アルガは凧のように浮遊していた。

 変身者と認めたアーチとは不可視の力で結びついていて、一定の距離を付かず離れず漂っている。


『視えた、カ……ふん。なるほど』


 変身解除後、直方体の金属塊に戻ったアルガの独り言に合わせて、眼の部分が明滅する。


『我、正体ヲ見たり』


 明滅するアルガの眼は、じっとアーチの背中を差している。


『貴様ハギアニックではない……ユガの"仮実装(レプリクロス)"カ』


***************************


 モガの聴覚センサーに爆発音が刺さった。


「! こっちからか!」


 破滅を想起させる轟音が吹雪を貫いて響き渡る。


 モガは音の出どころへ疾走した。弾かれるまま駆け付けたが、事態はすでに決着していた。

 アーチたちとバクサがここで戦闘を行っていたことは明白、と言いたいところだが、断定はできなかった。

 戦闘の痕跡にしては、あまりにも凄まじすぎるのだ。


「これは……一体何が起こったら、こんなジョウキョウになる?」


 モガの一歩先で雪景色はぷつりと途切れている。

 雪のかわりに焼け野原があった。巨大なスプーンでくり抜いたように地面が抉られ、雪の下に隠れていたはずの砂利や岩場、辺り一帯が焦土と化している。


 アーチかオウカ、あるいはバクサにこれほどの殺傷能力が備わっているとは思えない。

 息を呑んで数瞬思考を巡らすと、はたと気付いた。


「潜在能力を引き上げるアルガのチカラなら、あるいは……?」

「ご明察ですね。さすがは我らが兄弟機」


 見下ろすほど深い焦土の中心から()の声が昇って来る。


「ここが法廷なら、貴方様のロジックで被告人を有罪にも無罪にもできるでしょうが、惜しいですね。生憎と現代は無法地帯のメタルエイジであり、もはや司法に法的効力はない」


 落ち着き払った口調と裁判長めかした言い回しは、たしかにバクサの特徴と一致する。


 だが、焦土の中心で語る声の主は、明らかに今までのバクサとは異なる。


 アーマーは真鍮色で固められていて、裁きに携わる厳格者の法服を模している。


 腰横まで伸びる紺の長髪は、大胆なアシンメトリー。片耳から逆側の腰にかけて斜めに切りそろえられている。

 ミリのズレなく断たれた毛先は、左右不均等でありながらスタイリッシュ。あるいは神経質そうにも見えた。


 そんな女髪があまりに印象的で、モガもよく覚えている。


「モガシリーズ〇〇九・……サイガ」


 覚えているどころか、懐かしいとすら感じる――――今が作戦行動中じゃなければ、だが。


「フフフ……一万年ぶりの開廷ですね、モガさん……」


 落ち着いた口調とは裏腹に、不敵な響きを宿した声音――――敵か味方かで二分するならば、ヤツは敵だ。


「おっといけない。少し訂正を」


 焦土の中心で女は屈む。長い髪を地面に付かせながら、何か黒い塊を拾い上げた。


「すでに会っていたんでしたね……この姿で!」


 拾った黒い塊を、サイガはモガの足下に投げて寄越す。

 塊のシルエットには面影があった。


 この黒くて重たそうな、巨大な手枷型のグレートヘルムをバクサはいつも被っていた。


「キサマがバクサをスクラップに変えた……というニンシキで合っているか?」

「いいえ……答えはノーです。むしろ私は本件の被害者なんですよ……もう少し、証言を加えて差し上げましょう」

「ショウゲン……?」


 呆れの仕草で両の手のひらを中空に挙げ、サイガはやれやれと息を吐く。


「モガシリーズのモガさんにしては鈍いですね……長く眠っていた後遺症でしょうか?」

「余計なお世話だ……無駄話をするつもりならオレは……押し通る!」

「おっと失礼。私としたことが、証言台で私語とは……コホン。オウカにはいつも言っていた事があります」


 紺色をした切れ長の(カメラアイ)を閉じ、居丈高に立てた人差し指をくるくると彷徨わせるのは、彼女がズバリ言い放つときの手ぐせだ。


「事あるごとに誤解していたようなんで、言わせて頂いたんです――『紳士のつもりはない』とね」

「! それは……つまり」


 クレバスで暮らす間、モガもそんな一幕を目にしたことがあった。


「たしかに、やり取りをしていたな…………、そうか、オマエは最初からっ」

「ええ、ええ。そうですとも。貴方様のお足下に転がっている物証(グレートヘルム)と今の証言(セリフ)が出揃えば、判決は明白でしょう?」

「ずっと、オレたちを……っ」


 オレたちを、なんだ? 騙していたとでもいうのか?

 ずっとオウカの斜め後ろに居付き、モガたちを見守って、いや見張っていた?


 討伐会議に参加し、作戦を筒抜けにしていたとでも?

 実際は筒抜けどころか、今回の作戦工程のほとんどはバクサのフィールドワークを基に立案していた。


 その事実が、モガに最悪を想定させる。

 この作戦のどこを切り取っても、悪い意味でサイガの手のひらの上なのだ。


「単刀直入にハンケツとやらを言い渡されてやる。オマエの目的はなんだ?」

「ペガサス・アニマの胎児を略奪し、従えることを本旨としております」

「ふん。ヤケにスナオな自白だな?」

「裁判長兼、弁護人兼、検察兼、裁判官という仕事柄、嘘や誤魔化しが嫌いでして。あの欺瞞に塗れた仮実装(レプリクロス)・バクサの鎧を着る必要がなくなり非常に清々しているのですよ」


 鎧を脱ぎ去ったサイガは、モガもよく知っている一万年前と同じ姿。そのサイガからは、なおも不敵な気配が消えない。


「大将サイズのユキザル・アニマを騎乗し、貴方様と一戦交えたでしょう? 私の目的は、あれと同じように従える事にあります」

「従えるだと? あのペガサス・アニマを、か?」


 サイガは余裕の微笑みで返す。


「惜しいですね。検察官さえ務まる察しの良さですが、真相にたどり着くにはあと一歩先、といったところですか」


 一万年前なら露知らず、対峙する今となっては、言い聞かせるような微笑みにさえ神経を逆撫でさせられる。


「確かに、バクサの鎧と私の法的拘束力を以ってすれば、掌握も容易いでしょうが……ヤァッ!」

「! ……なんのマネだ?」


 鎖をぐるぐる巻きにしたサイガの右手が、唐突に掲げられる。

 まるで幼子がするこの指止まれだ。自分を目印にでもするかのように。


「目的は娘ですよ、娘ぇ。産まれたてのイエティペガサス・アニマですよ、私が頂いていくのはねぇっ!!」

「バカな……シュッサンはまだのハズ、」

「では立証して見せましょう、今!」


 立証宣言に呼応して吹雪が強まる。

 いや、吹雪だと思われたそれは、気配が近づくにつれてリズムを持ち始めた。


「この風圧は……くっ」


 吹雪は何者かの羽ばたきに合わせて、モガのボディを押し付けて来る。

 抗い難い風力と何人の命も挫く寒風吹きすさぶ。


「うおおおぉぉぉぉォッ、これでキュー.イー.ディー.ですよォォォオオッ!」


 物証が、その姿を現した。


「見てますかーモガさん!? 私の言ってることめっちゃ正しいですよね、ねぇ!? もはや反論の余地なしぃっ!」


 サイガの背後から、この作戦内で最もイレギュラーな敵が降臨する。

 魔力でも帯びたような氷の一本角と、樹氷で構成された玲瓏(れいろう)な両翼。


 まさにペガサスといって差し支えない。


「くっ、やはり……何から何まで、キサマの仕込みだったワケかッ、サイガぁっ!」

 

 イエティペガサス・アニマの全体像を目の当たりにして、狂い叫ばずにはいられなかった。


 たくましい両前脚は、ペガサスではありえない太さだった。


「一体何をすれば、こんなヤツが産まれてくるんだ……?」


 馬の首元に、牙獣の胸筋がきれいに繋がっている。

 首から上にペガサス・アニマの頭部、そして胸筋を割り裂いてイエティ・アニマの顔面が居座っていた。


 比喩でもなんでもなく、ペガサスの頭とは別にイエティの頭が生えているのだ。


 ≠《ディファインブレイク》でへし折ったものと同じ二振りの氷牙、そしてイエティ・アニマと瓜二つの双眸がモガを睨み下ろしている。


 ペガサスの下半身に馬の四肢は無かった。

 かわりに、イエティ・アニマの剛腕健脚が接合されていた。


「何を考えている……」


 見る者にキメラ、合成獣という単語を想起させる。もし、サイガの手によって意図的に配合させられ産み出されたものなら、吐き気を催す。


 サイガのどす黒い内面が、イエティペガサス・アニマの歪なる姿を通して伝わってくる。


「オレは目覚めてこの方、ずっとジエを捜し歩いている」

「伺っていました。バクサを演らせていただいてる間にね」

「ならばキサマはどうだ? こんな事をしてどうしようっていうんだ、サイガ!?」

「やれやれ、貴方様も気が短くなったものです、ねっ……と」


 ため息混じりに鎖を放り、イエティの首に輪を作る。

 物理法則を無視した鎖に引き上げられたサイガは、イエティペガサス・アニマの背に悠々と寝転びモガを見下ろす。


「目的なら先ほどの証言から判る通りですよ……それ以上は、たとえ法廷でもプライバシー保護の対象になります」

「ジエはどこにいる?」


 どんな相手であれ貴重な情報源だ。それもモガシリーズとなればなおさら重要な情報が期待できる。


「さぁ、どうでしょうね……私の口からは、なんとも言えません。守秘義務というものがありまして」

「プライバシーホゴとやらの次はシュヒギムか。つまりオマエは、オレに隠すべき秘密を握っているワケか」


 開示するはずもないか。

 ならば力づくで訊き出す他ない。


「キサマの背後にシンソウがあるなら……押し通るまでだ」




















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