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文明が滅びた10000年後の地上で再会するキカイ傭兵と設計者の少女 原題:メタルエイジのMO-GA  作者: カズト チガサキ
銀雪と結束の第二章 氷獄の統率者・オウガ
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【離反】1 26/39

ドラゴンス○インのBGMを聴くなどしながら投稿準備を……する!

 イエティ・アニマを打倒しても、戦いはまだ終わっていない。


 一刻も早くバクサ率いる下山グループに追いつき、護衛に当たらねばならなかった。


「オマエもやるべきをやれ」

「当ったり前。ペガサス・アニマにもキッチリとどめ刺して、オウカと一緒に帰って来るわよ」

「スクラップになるなよ」

「ヘーキヘーキ。そうよねアルガ?」


 モガに力を貸したアルガは、今はアーチの手に握られている。

 次はアーチが戦う番だ。


「共倒れできないんだもんね、アタシたち?」

『無駄口ヲ叩くな……早ク行くゾ……戦え……』

「だってさ。じゃ、アンタもしっかりやんなさいよ」


 あっさりと別れを告げ、アーチはその場を後にする。


 群れのトップを倒されたとて、ユキザル・アニマたちはペガサス・アニマが出産を果たすまでは止まらないだろう。


 ユキザル・アニマは今までも群れを成してクレバスを襲撃してきた。

 オウカやバクサが食料調達や地形調査を行った際もだ。ひとたび遭遇した日には、倒すか追い払うかするまで執拗に追いかけ回してきたという。


「機械たるギアニックなど、ヤツらにとって食料になりもしないハズだ。そうまでしてちょっかいを掛けて来るのはナゾだが、わかっていることもある」


 モガや銀雪民は、とっくにアニマたちから恨みを買っていた、という事実。


 イエティ・アニマとしのぎを削ったモガだからこそ、アニマたちが抱く怒りの根深さがわかるというもの。


「雪のモビルゲレンデと銀雪民、そしてアニマどもの関係性は、少し不自然なところがある……か?」


 雪道を突っ切る途中で、クレバスに通じるエレベーターを見つけた。

 作戦通りなら、バクサたち銀雪民はここをスタート地点にして、すでに下山を開始しているはず。


「事前にすり合わせた下山ルートをたどれば、必ずどこかで追いつけるだろう。それまでやられてくれるなよ……!」


 エレベーターを横目に確認し、通り過ぎる。


 アルガとのA⇒B(変身)を解いてしばらくの時間が経った。

 モガのマントも元のショッキングピンクに戻っている。


 赤紫の炎熱が消えたからか、考えながら雪道をひた走るうち、ペガサス・アニマが作り出す忌々しい吹雪も辺りに舞い戻ってきていた。


「……風雪のせいで視界が悪いな」


 ずっと。

 ずっと、何かを隠されている気がする。


 モガは吹雪の向こうに続いているはずの下山ルートの正誤を疑いながら進んでいく。


「……ほんとうにこっちを進んだんだろうな、バクサたちは」


 酷い吹雪だと、あらためてそう思う。

 ホワイトアウトを目前にすると、不安感が拭えなくなる。


 一応、モガはバクサたちが通ったはずの下山ルートを正しくたどれている。

 少なくとも、イエティ・アニマとの戦場からエレベーターがある地点まで自力で戻って来れたのだから、モガが全く見当違いにさまよっている、というはずはない。


 下山に使うルートのラーニングを間違えたわけもない。


 それでもこの違和感を無視できない、一体なぜか?


 下山ルートは、バクサがフィールドワークによって調べ上げた安全かつ短時間な道が共有されていた。

 だが実際はどうだろうか。


 下山グループは、ほんとうに予定通りの道を下ったのか?

 なにかトラブルがあってルート変更を余儀なくしたんじゃないのか?

 辺りを渦巻く吹雪の絶望的なホワイトアウトのせいか、疑念は止まらなかった。


「チッ……分かれ道まで引き返してみるか」


 仕方ない、来た道を戻る。

 と決めて、後ろを振り返ったとき。

 違和感の正体を突き付けられた。


「ッ!? これは……まさか」


 バカな、と自身に吐き捨てた。

 モガが通った雪道には当然、跡が残っている。

 新雪を踏んだ足跡、積もった雪をかき分けて進んだ痕跡。


 雪道には、モガの行軍がハッキリと刻まれていた。


「アイツらはココを通ってはいない……!」


 モガ一人分の痕跡が目に見えて残っているのに、九十人余りにもなる下山グループの足跡は一切見当たらない。


 常に吹雪いているとはいえ百人近くの痕跡が、たかだか数十分程度で消えてしまうはずはない。


「あの規模のギアニックが一斉に移動したとなれば、後を追うのは容易だったハズだ! エレベーターを見つけた時点で、そこから痕跡をたどれば……!」


 ドクン。エレベーターを横目に確認したときの情景を思い出すと、モガのありもしない心臓が震えた。


 あのとき、エレベーターの周りはどうだったか。

 大人数で行軍した跡はあっただろうか――――あったなら、今さら不安感になど襲われていない。


「くっ、炎よ!」


 マントを点火(オン)、エンジンをかける勢いで浅紅の炎を吹かした。

 エネルギー切れを起こさないボリュームで力を注ぎ、炎の勢力を調整して疾走。


「やはり、どこかでトラブルがあったか」


 ペガサス・アニマを討伐しに向かったアーチとオウカは無事だろうか。吹雪の勢いから察するに、まだ戦闘は始まっていないと推測できる。


 まだ、始まっていないのか。

 モガたちがイエティ・アニマと戦い始めた時点で、オウカは一足先にイエティ・アニマと対峙する手筈だった。


 いまだ吹雪の強さが衰えないところをみると、アーチはともかくオウカは何かしら足止めを食っていると考えるのが妥当か。


「だとすれば野放し状態のユキザル・アニマどもは、バクサではなくオウカの方に向かったか」


 ユキザル・アニマの群れがバクサたちの下山を阻止に来るだろう、というのが、モガたちが立てた事前の想定だった。


「何はともあれ、急ぐしかない……!」


 考えるうち、分厚い吹雪の向こうにエレベーターの上端が見えてくる。

 近くまで駆け寄ってよく分かった。エレベーター周囲の雪はどれも新雪で、モガたち三人以外に出入りがないことは明白だ。


「何も分かっていない段階で焦るヒツヨウはない。まずはジョウキョウをリカイするところからだ……!」


 クレバスに通ずるエレベーターで下へ。


 エレベーターに長く揺られた後、開いたドアの向こうに縦長のハシゴが現れる。


 ハシゴを使い、さらに底深くへ下っていく間、モガはバクサと交わしたあるやり取りを思い浮かべていた。


***************************


「先ほども申した通り、私がこれから伝える内容は他言無用でお願いします」


 バクサはモガたちに何度目かの念を押した。


「それは何度も聞いたって。で、なによ? こんな人気のない部屋まで移動して」

「オウカの前でもできない話とはなんだ?」


 地下の空き部屋は上階の貴族屋敷のような装飾もなければ、透明感あふれる氷の一粒もありはしない。


 むしろホコリ臭さで鬱屈とするくらいだ。人気が無いのも分かる。


「こたびの作戦についてです。とりわけ下山について、お二方のお耳に入れておきたいことがございまして」

「部屋のさびれ具合を見るに、相当ヒトに聞かれたくないようだが……」


 キョロキョロと周囲を見回すモガだったが、バクサの次の言葉を聞くや硬直した。


「下山作戦がすべて上手くいったとして……。大きく見積もっても、下界に降りた銀雪民が生きていける確率は一〇%でしょう」


 もとより低いバクサの声音が、内容のせいでさらに重たく響いて聞こえた。


「銀雪民が全員一様に下山したとしても、判決までが同じとは限りません。隣人が死に、逆側の隣人も停止する……」


 ならば、オウカと話し合ったペガサス・アニマ討伐会議や下山作戦は何のために。

 モガやアーチがそう抗議するより先に、バクサの重大告白が続いた。


「銀雪民は良くも悪くも雪山の環境に慣れきっています。気温をはじめとした激しい環境の変化に耐えて平原まで生きていられれば、それはまさに九死に一生です。しかし生き残ったとして、五体満足とはいかないでしょう。機能不全や内部破損が気づかないうちに発生し、後遺症となる……バグとして残る可能性が大きいと思われます」

「そんな……っ、じゃあどうすんのよっ、」

「…………どうも致しません。私はただ事実をお耳に入れたかっただけです。下山作戦自体は、チャンスが訪れ次第行うものとして……」


 モガより先、アーチが声を荒げた。


「問題があるまま作戦決行ってわけいかないでしょ!? 生存者が一割予想って!」

「アーチさんが仰りたいことは分かります。責めるなら私を」

「責任うんぬんじゃなくて、何とかならないの!? アタシたちも一緒に考えるから、何か、こう、無事に下りられる方法をさ!」

「バクサよ」


 息巻くアーチの肩に手を置いて、モガが進み出る。


「オレからもいいか?」

「……どうぞ」

「まずは、アーチ。オマエは少し落ち着け……気持ちはわからんでもないがな。それからバクサ」


 バクサは口を固く閉ざして待っている。グレートヘルムで隠れているが、(そし)りを受け止めるつもりなのだと、佇まいから伝わってくる。


「銀雪民全員が確実に生き残る方法を見つける」

「……! モガ、じゃあ!」


 横から期待の眼差しを受けるも、それには応えられない。


「――だけの時間が、もうクレバスには残されていない。そうだろう?」

「……お察しの通りです。食料をはじめとして、百人近い銀雪民を抱えられるだけの備えが尽きつつあるのです」

「っ、そんなのって……」


 訴えに走ったアーチも理解しただろう。

 やはりかと呟いて、モガはアーチの肩から手を下ろした。


「それに加えて近年、ペガサス・アニマの吹雪が強まりつつあるのです。手遅れになる前に、早く決断した方がいい。それが私とオウカの判決でした」

「山を下りたとき、ほとんどの銀雪民が、その……死ぬ、としても?」

「………………」


 バクサは何も言わないが、否定もしない。


 どうにもならない沈黙を破って、バクサは話を再開する。


「私が本当に伝えたいのは、その先の事です」

「先、か?」


 ほとんどの銀雪民にとって生存は絶望的で、その先に何があるというのか。モガはともかく、アーチは内心で毒づいているに違いない。


「この決断の先に何があっても、お二方だけはどうか、オウカを責めないでください」

「! バクサ……」


 重たげなグレートヘルムが固く、低く床を見た。

 大柄なギアニックがぐっと懇願する様子に、アーチは思わず気圧される。


「有罪判決が下されるべきは、私だけです。


 そもそもオウカが産まれたとき、すでにクレバスは手遅れでした。

 罪深いのは、そんな状況で父君と母君を死なせ、追いやられたこんなクレバスしか残せなかった私です。

 オウカに残酷な決断を迫ったのは私です、オウカに罪は無い!」


 バクサは罪を告白するかのように、過去の下山作戦を語った。


 先代、つまりオウカの両親とペガサス・アニマの討伐に向かい、敗走した事。

 その際母親の腹から胎児だったオウカを取り上げ、自分だけが生きて帰った事。

 父たるオウガを失って以来、コールドコードがたびたび機能不全を起こし始めた事。


「幼い頃よりオウカは強く、カリスマも持ち合わせていました……そうなるしかなかったのです」


 オウカはモガシリーズならではのコールドコードを、解析の末に身につけた事。オウガがかつて銀雪民に服用させたコールドコードを、まだ幼かった彼は同じレベルで再現してのけた事。


 語る間、手枷を模したグレートヘルムはずっと下げられたままだった。


「銀雪民には、ずいぶんと難儀なヤツが多いな」

「ちょ……モガもそう思う?」


 ああと首肯して、指折り数えて名前を列挙する。


「ローにクナシ、それにユブウといったか。誰も彼もが、雪のモビルゲレンデに翻弄されている」

「最初は怒っちゃったけど、アンタもその一人なんだなって。ハナシ聞きゃイヤでもわかるわよ」

「お二人とも……っ、罪人には、勿体ないお言葉です」


 バクサの顔がゆっくりと上がる。


「それにオウカもだな。アイツの生い立ちもかなり厳しいだろう」


 クレバスに生きる銀雪民のバックボーンを、作戦決行より先に聞けて良かった。彼らの苦しみを知ったことで――――戦う覚悟が。

 助けたい闘志が。

 段違いに引き上げられていく。


「生き残るのは一割だという話だが……ナシだ。オレがいるからには銀雪民全員、無事に下山させてやる。


 ジエに造られたオレを信じろ」


 モガの胸に決意の浅紅が灯った。


***************************


 地の底まで続くハシゴを降りきり、細長い連絡通路を駆け抜ける間、バクサとのやり取りが頭から離れなかった。


 下山作戦にトラブルがあったらしい現状と、事前にバクサから聞かされた生存の望み薄な事実。

 モガはその二間に関連があると考えているわけではない。


 しかしトラブルに感づいてからというもの、バクサの言葉が脳裏にこびりついて拭えない。


「このまま丸く収まるハズはない」


 センサーやプログラムなどよりも深い部分、直感の領域がモガに危険を報せていた。


「そうだろうオウカ、バクサ……オウガ!」


 経験上、有事にこれほどの危惧を抱けば大抵、杞憂では済まない事態に発展している。


 一体誰が、何が、モガをそこまで駆り立てるのか。

 その元凶を、モガはすぐに知ることになった。


 クレバス内部に通ずる自動ドアをくぐり抜け、中庭に足を踏み入れたとき。


「――! オマエたち……なにをしている!」


 中庭に(そび)える大樹のふもとで、銀雪民たちが総出で待機していた――――予定にあったはずの下山は、まるで行われていない。


「早く外へ出ろ! バクサについて山を降りなくてどうする!? でなければ、その荷物はなんの為に……――――」


 銀雪民たちの足下に目をやると、携行品や氷像のユスを背負う専用装備など、たしかに下山の準備は整っているようだった。

 だというのに、銀雪民たちはいまだに下山を始めようとしない。


「モガのあんちゃん。良い所に帰ってきた……」

「ロー。オマエまでなにをしている? 作戦ガイヨウはバクサから聞いているだろう?」

「ああ、そうさ。そのバクサだがよぉ……どうやらマズいようだぜ」


 見な、とローがはるか上方を指差した。

 そこにあったのは、貴族屋敷を打ち捨ててひとりでに建立したオウカキャッスルのステンドグラス。


 氷で構成されていることを除けば、これといって特別なステンドグラスではない。

 しかしハッと気づいた。銀雪民たちは、誰もが一様にステンドグラスを見上げている。


 この非常時に、作戦を投げてまでステンドグラスに釘付けになる理由とは。


「これは――――アイスコープ現象……!」

「って、こっからじゃよく見えねぇな。あんちゃん、もっとこっち来てくれ!」


 大樹のふもとに駆け寄って、銀雪民たちと肩を並べたとき。

 


「くっ、まさかあのオトコ……!」


 アイスコープに突きつけられ、モガのカメラアイは真の敵を捉えた。

 ペガサス・アニマの討伐に向かったはずの、オウカとアーチ。

 その二人の前に立ちはだかる、拘束具を(よろ)う大柄なギアニック。


「なんのマネだ――――バクサ!」


 灰色の雪原でひときわ存在感を放つ、黒い鎖。

 手枷を模したグレートヘルム。

 臨戦態勢を取るバクサ。

 見間違えるはずはない。


 裏切り者は、アーチとオウカの行く手を阻むように対峙していた。







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