【変身】2 25/39
???「変……身ッ!」
モガの背で燃える浅紅の炎が、その色を赤紫へと変えていく。
A⇒B関数に応えたアルガの力が、モガを次のステージに連れて行った。
「グォオオ、ガハァ……!?」
煌々と噴き上がる紫炎がモガのボディを包み込む。
蘇生の力とは異なる、そばに立たれるだけで肺腑すら焦がしそうな勢いの炎熱。
モガを中心に季節が変わった。
雪景色は赤紫に染まり、風に運ばれて来た雪はたちまち融け消える。
融けた舞雪のかわりに、暴風は紫の火の粉を運んでいく。
「……、ハァーッ!!」
モガの雄叫びを境に、辺りはもう雪山ではなくなった。
勢いを増す赤紫の火炎、それを間近で浴びたイエティ・アニマがのけぞる。
「あれがモガだっての!? あんな激しい炎、アタシ見た事無いけど!?」
紫炎の中から、一体のギアニックが姿を現す。
人影はモガの赤と、アルガが持つ赤紫のツートンカラー。
黒かったヘルメットは、アルガを宿して赤紫に。赤のバイザーはそのままに。
右側の頭部には、人を模した目鼻口。モガをモガたらしめる、機械仕掛けの肉眼が鎮座している。
もはやモガではない。紫炎のマントを振って現れたそのギアニックは――――モガ・ブレンドアルガ。
『戦え……目の前ノそいつヲ倒せ。戦え……』
アルガの声がモガの脳裏から響く。
「わかっている。オマエに言われなくともな」
モガのCPUに、アルガの意思が入り込んでいる。
モガは意外なほど、それを不気味とは思わなかった。
むしろアルガと一体になれた証拠だ。
「ジエのメモが思い出されるな」
共に存りたい。モガを一人にしたくない。一緒に戦いたい。
アルガと二人、イエティ・アニマに対峙するこの状況は、奇しくもジエの願い通りだ。
『戦え……我ハ待ちわびた。戦え……』
「そればかりになるのも無理ないな。一万年もの間、クニを留守にしたオレが悪い」
『戦え……我ト共ニ、戦え!』
「わかっていると言っているだろう……キョウドウ戦線、カイシ!」
「グゥゥゥオォォォオオオオオオーーーー!!」
モガがアームブレードを後ろ手に回すと、緑の刃にマントの紫炎が燃え移った。
緑の刃を燃やし尽くし、赤紫の切っ先を紫炎から覗かせる。
空気をも焼く紫の焦熱をまとい、チェーンソーの如くネオンを蠢動させる赤紫のアームブレード。
生まれ変わったアームブレードは、今までとはケタ違いの殺傷能力があると一目見ただけで判る。
「行くぞアルガ……/《スラッシュ》」
剣の風圧に、時空が歪んだかと錯覚するほど濃密な陽炎が乗る――遠距離斬撃の如き熱波が、イエティ・アニマの後ろ飛びを追いかけて捉えた。
「頼むぞ、アーチ!」
「わかってらいっ――――ふッ!」
イエティ・アニマの、極寒に適した性質が裏目に出た。経験のない灼熱感に悶えたところを、アーチのビリビリ矢が刺す。
連続で射抜く、刺し貫く。
麻痺に陥った筋骨にアームブレードを叩きつける。
モガとアルガ、二人の力を乗せた刃が屈強な胴体を裂いた。
「※《クロスオーバー》ッ!」
×と幾多の・を前後から見舞う※。
刻みつけ、電撃をぶつける。
息が続く限り、高熱と高電圧を幾重にも浴びせた。
「オ……オデ」
驚くべきことに、イエティ・アニマの傷が癒えていく。
「イマ アイツラノ カオ ミエタ」
焼き斬ったそばから傷は塞がれ、ビリビリ矢に打たれて間もなく麻痺から立ち直っている。
「オマエタチガ アヤメタ オデノ ハラカラノ カオ……!」
「くっ、コイツ……!? この死に体のどこにそんなチカラがッ!」
恐るべき生命力。
生命と呼ばれるだけはある、という事か。
「オデ シカバネ モッテイク! オマエタチノ シカバネ トムライノ タメナリ!」
「撃ち続けろアーチ、絶対に止まるな!」
「うおおおおぉぉりゃぁっ!」
「グゥゥゥオオオォォォォォオオ――――ッ!!!!」
モガは※《クロスオーバー》の中に数多の関数を織り交ぜて息の根を止めにかかる。
/《スラッシュ》。
÷《ディバイド》。
○《ツイスト》。
さらに/《スラッシュ》。
「この一手で……終わりだ!」
/に見せかけた\。意表を突いたはずの\はしかし空を切る。
火事場力を発揮するイエティ・アニマの対応力が、モガの多彩な関数を上回って回避。
この至近距離でアームブレードの紫炎が熱くないはずがない。
だがどういうわけか、モガの目の前を塞ぐイエティ・アニマは底抜けに健在だ。
今にも反撃の拳が飛んでくる。
「生命力、の一言で片付くとは思えんな……!」
「グハァァアア、パンチィィイッ!」
アルガに引き上げられた動体視力と俊敏性で拳を躱す。
躱した、と思ったのだが。
「モガ……なんで」
アーチの啞然とした声と、イエティ・アニマの拳を防ぎ遮る紫炎。
直前までは躱すつもりでいた。
そんなモガの意思に反して、手が出ていた。
勝手なことに、マントを握る自分の右手は、イエティ・アニマの拳と打ち合っている。
(痛みは無い……マントが盾になっているのか? ブレンドアルガのチカラ、ここまでとは……)
屈強な拳を相手に無謀な力比べを挑んでいる……モガもアーチも、そう思っただろう。
マントを手甲にしたモガのパンチは、比較にならないほど太い剛腕と押し合い、相殺した。それが自分でも信じられない。
『我、再生のトリックヲ見破りたり』
「アルガか! 何を……!?」
『選手交代ダ……引っ込むガいい』
赤かったモガ・ブレンドアルガのバイザーが赤紫に変わる。
それは主導権交代の合図。
アルガの右手がイエティ・アニマの拳を弾き返すと、アルガは悠然と右手を開いた。
紫炎のマントがはらりと手の平から滑り落ちる。
『アルガ……それで戦うつもりか!』
アルガはマントの下に武装バリアブルスピアを隠し持っていた。
アームブレード同様、緑色だった刃は焦熱の宿った赤紫を湛えている。
「≡《スケーライズ》……反撃開始ダ」
「声がちがう……ひょっとしてアンタ、アルガ!?」
「攻撃ヲ続けろ。貴様モ、我ト共に戦え……」
「けっこー上から来るカンジなのね、アンタって――――ふッ!」
バリアブルスピアを握り込み、アルガは次々と閃を放つ。
・《プッシュ》。
:《バッシュ》。
∴《ラッシュ》。
イエティ・アニマを刺突とビリビリ矢の※《クロスオーバー》に嵌める。
屈強な両拳をかいくぐりながら、アルガは何度も穂先を届かせた。
肩に。
首に。
額に傷を与えては、再生。
多少の出血はさせられるものの、数秒と経たないうちに黒い皮膚はキレイに元通りになってしまう。
「グハァァアア、スタンプゥォオアッ!」
耐性が付いたのか、ビリビリ矢による麻痺をものともせず強引に踏みつけ攻撃を繰り出す。
『おいアルガ! タネを見破ったんじゃなかったのかッ!?』
「フン。よく見ていろ、彼奴の動きヲ」
肉厚な足裏が、アルガを踏みつけんと迫る。
「今ニわかる。貴様でもわかるようニ、ゴ覧ニ入れよう」
アルガはバリアブルスピアの持ち手部分で踏みつけを受け太刀し、すぐ横の地面へといなす。
受け太刀の動きから切り返し、穂先がイエティ・アニマの顔面を捉えた。
『狙い目はカオ……か?』
刃が顔に届く寸前、イエティ・アニマはとっさに顔を背ける。
顔を逃がす拍子にイエティ・アニマは鋭い一撃を首筋に受けた。
「顔か、不正解ダ。だが、この違和感ニ気づけぬ貴様でハないだろう?」
「…………!」
首は、多くの生き物にとって弱点のはずだ。再生力が高かったとしても、おいそれと差し出せるものではない。
「我ガ狙っているのはただ一点のみ。いや、二箇所トモ言えるカ。ククク……」
『二箇所……そうか、オマエの考えがわかった。ヤツの――――を破壊するつもりか』
絶命を想起する紫炎の焦熱、穂先に触れるのは死に触れるのと同義。
バリアブルスピアの恐るべき切れ味を、むざむざ首に受けなければならない理由とは何か――――イエティ・アニマには首より守るべき弱点がある、ということに他ならない。
「≡《スケーライズ》……これデ、チャンスヲ作りに行くぞ」
『乗ってやる。いや乗らせてくれ。もはやそれしか突破口は残されていないらしい』
バリアブルスピアを伸長させる。イエティ・アニマの剛腕より長く伸びた槍で、拳やスタンプの範囲外から乱打。
「オデ マケナイ。ムレノ ナカマタチニ アワスカオ ナイママ シネナイ!」
超常的な再生力さえなければ、イエティ・アニマはすでに相当なダメージを負っているはずである。
十や二十の死では足りない傷を浴びながらも、群れの統率者は意地を見せた。
「死ねないダと? つくづくこちらのセリフだな」
「ヌゥゥウオオ、ジャンップゥゥウウァアァッ!」
防戦一方だったイエティ・アニマだが、ここで勝負を決めるつもりか、四肢にありったけの力を込め、地面を掴む。
両の手足で地面を蹴った。
巨躯が爆ぜるような飛びかかり。
「武装型ギアニックとして、我は誰かと共にでしか戦う術を持たぬ――」
槍の向こうに、全身全霊で氷牙を剥くイエティ・アニマ。
「――そんな我が共倒れなどしては、あの女に示しガつかんのでな」
迎え討つ構えを取ったアルガが、脳裏で唱える。
孤独住まいし胸懐は崩壊
他者を享受、願いは成就
混ざり合わん 我が身を賭して
次が決着だと言わんばかりに、自己暗示をそらんじる。
「チャージィィィイイイ――――」
イエティ・アニマにそびえる二振りの氷牙がアルガに突っ込む。
「ファングゥゥウオォォオッ!!!!」
「∵《アクロバットラピッド》」
アルガは跳躍で突進を回避、イエティ・アニマの頭上から雨のような三連撃を降らす。
一発目を目に。
二発目を逆の目に。
最後に首を。どうせ再生のせいで致命傷にはならないだろうが、構わない。
首に刺さった槍は抜かず、あえてそのまま。
再生で両目を取り戻したイエティ・アニマの鬼の形相が、背後のアルガに向き直る。
視界を奪われたコンマ数秒の不利を立て直さんと、イエティ・アニマは死に物狂いで拳を振るった。
しかし拳の先にアルガはいない。
いたのはモガ。
紫炎の渦巻くアームブレードを携えて、モガは懐に滑り込む。
「この身に混ざりし 戦機が勝機
巡り逢う縁 不可思議
彩る紫焔 寒崩す篝火とせん
≠《ディファインブレイク》ァッ!!」
イエティ・アニマは先ほど同様、顔を背けようとする。
しかし首に刺さりっぱなしのバリアブルスピアが、その動きを阻んだ。
アルガの作った最大好機に、必殺の関数を叩き込む。
氷牙を砕き、さらに一方の氷牙を砕く二連撃。
氷河を折ったことで再生力を失ったガラ空きの胴体に、とどめの袈裟斬り。
左肩から右腰にかけて筋肉を裂き、骨を断つ。
勝利の手ごたえと共に≠《ディファインブレイク》が成った。
「やっ……たぁーーーっ! アルガ……モガぁっ!」
へし折れた衝撃で、二本の氷牙が宙を舞っている。アーチの勝鬨ともよく似た、清々しい放物線を描いて。
「カオ……ミエル。 ナカマタチノ カオガ……ギ、ハァッ――――!」
イエティ・アニマが命を落とすと同時、氷牙も谷底へ落ちていった。
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