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文明が滅びた10000年後の地上で再会するキカイ傭兵と設計者の少女 原題:メタルエイジのMO-GA  作者: カズト チガサキ
銀雪と結束の第二章 氷獄の統率者・オウガ
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【変身】1 24/39

???「変身ッ!!」

 モガたちはエレベーターを待っていた。


「ア・ユー・レッディ? 最終確認と行こうかな」


 クレバスから地表へと通ずるエレベーターの直下で、最後の討伐会議が行われている。

 もっとも、作戦の手筈はすでに全員の頭に叩き込まれているはずなので、この会議は決起集会の意味合いに近い。


「アタシとモガでイエティ・アニマを戦闘不能に追い込む」

「そんなキミたち二人の交戦中に、ワタシはペガサス・アニマに接近し注意を引きつける」

「ペガサス・アニマの注意がオウカに向いている間、吹雪の勢いは弱まるでしょう。ワタシはその間隙(かんげき)を突き、銀雪民を弁護し(まもり)ながら下山する」


 作戦のおさらいは、その後も滞りなかった。

 吹雪の主であるペガサス・アニマは、まず間違いなく下山グループの存在に感づく。

 下山を阻止せんと傘下のユキザル・アニマに群れを成させ、バクサたちのもとへ刺客として送り込むだろう。


「イエティ・アニマを倒し終えたオレが下山グループに追いつき、助太刀する」

「同じくイエティ・アニマをやっつけたアタシは、引き続きペガサス・アニマを引き受けてるオウカのフォロー。いけるとこまでペガサス・アニマとやり合って、あわよくば、討伐」


 ペガサス・アニマさえ倒せれば、あとは無事に下山するだけだ。指揮を失ったユキザル・アニマの群れもどこかへ散ってくれるだろう。


「うんうん。皆、作戦概要をしっかり把握しているようで。ベリーよろしい」


 エレベーターが降りてくる。

 モガは、アーチは、昨夜からこの時を待ちわびていた。

 オウカやバクサなど、何千年という単位でチャンスに(かつ)えていただろう。


「吹雪を払うその時は近い……皆の者、期待しているぞ!」


 エレベーターにモガ、アーチ、そしてオウカの三人が乗り込む。


「では皆様。法廷で会いましょう」


 バクサは銀雪民を呼びに一旦クレバス内部に引き返した。

 次に会えるとしたら、イエティ・アニマを挫いた後だ。

 オウカやアーチなどは、ひょっとすると無事に下山しきった後でないと会えないかも知れなかった。


「お三方とも、健闘を祈ります」


 エレベーターのドアが閉まる。

 地底に残したバクサを置き去りにして、地表がぐんぐん近づいてくる。


 外界にはあっという間に到達した。


「ワタシたちも別行動だな」


 猛烈な吹雪の地表に這い出るなり、オウカはモガたちに別れを告げた。


 作戦対象であるペガサス・アニマとイエティ・アニマ。その二頭が互いに距離を保って生息していることは、バクサのフィールドワークから判明している。


 ゆえにここからは別動隊だ。


「諸君、グッドラック!」


 バクサに叩き込まれたルートをもとに、二人は山道の雪を踏み分けていく。


 歩き出したモガはすでに浅紅のマントを展開していた。風雪に煽られて、ショッキングピンクが音を上げてたなびく。


 アーチはしきりに左手を握っては、握り拳を解いている。左腕内部に格納されたクロスボウの感触を確かめるように、何度も掌に力を込めた。


 モガたちは終始無言で歩き続けた。もはや言葉を交わさずとも、お互いやるべきことは分かっているから。


 長く続いたそんな沈黙を、モガが破った。


「アーチ、見えたぞ」


 二人とも、戦う準備はとっくに出来ている。


「目標カクニン……イエティ・アニマだ」


 新雪の下に大岩でも隠れているのだろうか、小高く盛り上がった雪に巨体を預け、イエティ・アニマは眠っている。


「さすがに、ボスザルともなるとデカいわね。わかっちゃいたけどさ」

「ヤツはオレたちに気づいていない。奇襲を仕掛けるぞ」

「ん。りょーかい」


 一言二言交わして即座、二人は別々の方向に散った。眠るイエティ・アニマを円の中心に、ぐるっと囲う形に歩き、奇襲にちょうど良いポジションを探る。


 接近しながら、モガはイエティ・アニマの様子を窺った。


 モガのボディを上回って太いイエティ・アニマの剛腕。上背もモガの二、三倍はあろうかというほどだ。

 背中側に回り込んでいる今は確認できないが、正面の顎には氷の双牙を携えているはず。


 モガから視認できる対象の背中は、真っ白。

 雪に溶け込める白い体毛が全身を覆っていた。


 手足と顔面から見え隠れする皮膚は黒色。その黒と体毛の白とが合わさると、遠目では樹木と見紛ってしまう。


(体表が迷彩柄に進化しているところから推察するに、ヤツは単純なチカラに加えて、ズル賢さも兼ね備えているハズだ。)


 皮膚の黒と体毛の白、そのコントラストはまさに雪迷彩。

 体躯と馬力ばかりが脅威かと思えばドツボ、その印象すら欺くための材料かもしれない。


(少なくとも下位種のユキザル・アニマどもはハラゲイが得意だったな)


 群れの仲間がやられ、逃げる素振りを見せたあのユキザル・アニマの事を忌々しく思い出す。

 一芝居打たれ、モガは危うく寝首をかかれるところだったのだ。


(雪景色をカモフラージュに使うつもりか知らんが……フンッ、構うモノか)


 斬り返すまでだ。あらかじめ、タネは割れているのだから。


 モガは引き続きイエティ・アニマの背後に身を潜める。


 目の前には小高く積もった雪の壁。

 積もった雪の向こう側に、背を(もた)れて眠るイエティ・アニマ。


 そして、イエティ・アニマを挟んでさらに向こう――――岩場の影から、左腕(クロスボウ)を構えたアーチ。


 アーチのクロスボウに(つが)えるのは、矢ではなくプラズマ。武器と化した腕の中で電光が明滅する。

 

 激しく迸る光に突き刺すような闘志を乗せて、アーチはプラズマを射出――それが奇襲開始の合図。


「いけぇっ……ビリビリ矢っ!」


 一条の雷が吹雪を裂いて突き進む。

 モガが雪壁の向こうにビリつく気配を感じ取ったのと同時。

 野生の勘か、イエティ・アニマが目を覚ます。


「ングォ……」


 コンマ数秒で雷光の餌食、その刹那。


「グォォォオオオオオオ!!」


 新雪に深々と両足を差し込み、バタフライキックを放つ。雪の塊を舞い上げて盾にし、間一髪でビリビリ矢を凌いだ。


「せっかくの初撃が決まらない……なんてのは、織り込み済みよっ!」


 二射目を射出せんと、アーチは再度プラズマを滾らせた。

 必殺の矢が、燦然と光る。


 風雪をかいくぐって届く電光に向かって、イエティ・アニマは敵意と怒りの咆哮を上げる。

 眠りを妨げられた猛獣の形相は、この上なく恐ろしい。そこにアーチは立ち向かう。


 アーチとイエティ・アニマが対峙して一対一の図が完成、したかに見えた。


(――――獲る!)


 イエティ・アニマの背後にファイアボール。


 浅紅を纏って火の玉と化したモガが斬りかかった。


(狙うは首……/《スラッシュ》!)


 雪壁を乗り越えて急襲する火球。

 浅紅の炎から飛び出すアームブレード。

 首に届いてサドンデス(奇襲成功)


 奇襲の本命はアーチのビリビリ矢ではなく、矢に気を取られた隙を突く事。


 敵は一人だと思わせたところに、モガの斬撃()を首筋に見舞う。


 マントの炎で身体能力を飛躍的に向上させた上で放つ、モガ必殺の関数(メソッド)、/《スラッシュ》。


 一撃で、的確に、急所を切断するはずだった。


「……!」


 テキストチップで見ただけでは気づくはずもなかった。

 イエティ・アニマの驚異的な柔軟性に。


 イエティ・アニマは脚も胴体も一切ぶらさず、首から上だけがぐりんと回る。

 顔面だけが一八〇度逆を向き、アームブレードを氷牙で食い止めた。


 下顎から生えた二本の氷牙に、/《スラッシュ》が押し負ける。


「チッ。見た目によらない柔軟さと、見た目以上の筋骨だな」


 驚くべき体勢から防御を成立させてのけた。一体どれだけのフィジカルがあれば、そんな芸当が可能なのか。


「測り知れないが……こんな所で時間は食うつもりはない」

「グォォオ――パンチィィィイ!!」


 /《スラッシュ》、÷《ディバイド》、=《オーバーラップ》。イエティ・アニマの拳の風圧をミリ先に感じながら、次々に関数(メソッド)を叩き込んでいく。


 そのいずれもが、切断不可能の剛腕に阻まれる。断ち切る事に念頭を置いた剛の刃、÷《ディバイド》関数(メソッド)でさえ筋骨にヒビを入れられない。


 歯が立たない……ほんの一瞬、モガは自身の負けを予感する。


(正面からカチ合えば終わりかねない……か)


 モガによぎる敗北のイメージを、アーチのプラズマが消し飛ばす。


「――命中っ!」


 モガと逆位置にいるアーチが射った。

 イエティ・アニマの無防備な背中に、ビリビリ矢が痛烈にヒットする。


 雪と体毛に隠れた皮膚、堅い筋肉。

 それらを貫き通って、高電圧が脊椎を揺るがす。


「手応えバッチリ。さぁやっちゃえ、モガぁっ!!」


 イエティ・アニマの弛緩しきったカラダに、渾身の真一文字(÷)を炸裂……これが良くなかった。


 刃が思うように入らない。

 決定打どころか、むしろイエティ・アニマは一太刀の衝撃をきっかけに電気ショックから立ち直ってしまう。


「チィ……時間を食い過ぎだっ」


 イエティ・アニマのフィジカルを押し切るには、さらなる力、さらなる連携が必要。


 イエティ・アニマは体躯を存分に振りかぶり、モガに反撃せんと拳を振りかざす。


 見上げるほどデカい体格を実際に見上げると、力不足の三文字を突きつけられたような錯覚に陥る。


 よりにもよって。

 こんな土壇場で。

 圧倒的な力の差を突き付けられて――――それで絶望するモガではない。


「恐怖は錯覚だ。弱気になるな。情けなかったジブンは……昨日だけでたくさんだ」


 イエティ・アニマを強大だと感じるのは、一人で戦っていた時の感覚が抜けきっていないからだ。


 一万年前とは違う。

 オレはもう、一人で立ち向かっているわけじゃない。


「もう一発、何発でも当ててやるわよ――フッ!!」


 物理的な攻撃は通りづらいが、アーチのビリビリ矢はその限りではない。


 電気伝導にイエティ・アニマの防御態勢は関係ない。

 矢に触れたら最後、高電圧が身体中を傷つけ駆け巡る。


(よもや仲間が、こんなにも頼もしいものだとは)


 たった一人だったはずの戦場に今、手を貸してくれる存在が二人(・・)もいる。


 アーチと、もう一人。

 モガの右手、アームブレードとは逆の手に握られている、眩い赤紫のモガシリーズ〇〇五・アルガ。


「ブレンドアルガ……、A⇒Bアルガ・ブレンド!」








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