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文明が滅びた10000年後の地上で再会するキカイ傭兵と設計者の少女 原題:メタルエイジのMO-GA  作者: カズト チガサキ
銀雪と結束の第二章 氷獄の統率者・オウガ
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【出土】4 23/39

投稿直後にPVがぴょこんと伸びるとホントに安心します。

あなたです、あなた。ありがとうございます!

一気読み派のYou,そこのYOUもです。センキュー!

「もはや執行猶予はありません」


 夜、城から漏れる明かりが中庭の大樹をぼんやりライトアップする時刻。

 その根元に安置されたユスの氷像前で、モガは日中の報告を思い出す。


 バクサのフィールドワークによると、ペガサス・アニマの出産準備は滞りなく行われているとのことらしい。


 その根拠は、ユキザル・アニマの群れの動向にあった。


 ペガサス・アニマを視認できるギリギリの距離を保ち、ペガサス・アニマを中心に据えて円を描くように点在するユキザル・アニマの群れ。

 その様子はまるで出産に警護を付けるようだとバクサは報告した。


「出産は明日で間違いないでしょう。その証拠は、空にございます」


 バクサの報告通り、天蓋の向こうの空には程よく満ちた月が浮いている。

 明日になれば出産の満月、つまり今宵は決戦前夜だ。


 クレバスに来てから今日までのことを、モガはあらためて思い返していく。

 オウガにこそ逢えなかったが、ジエに近づくための手がかりが手に入ったのだ。

 個人的な目的は充分に果たしたと言える。


 新しいクレバスが発生したあの日、ローとマルから手渡された五冊のテキストチップ。


 『ドラゴンリレーに終止符を』


「アーチが内容を読み上げていた。童話に登場した、巫女服に薙刀を携え、鈴の髪留めを身に着けたヒロイン。アレはおそらくコイネガを指している」


 この時代の文字媒体が読めないのは、これからの旅にも支障をきたすだろう。アーチによる童話の読み聞かせは、モガにとってちょうどいいトレーニングになるかもしれない。


「また読み上げを頼んでみるか。二人して眠れない夜には手頃だろう」


 『無能力者として造られたおかげでメモリ容量無限大です ~能無しだ最弱だなどとおっしゃいますが、それってぜんぶ固有スキル【無我の境地】が発動してるからなんです~』


「強いて言うなら題材はムガか。今のオレではタイトルを追うので精一杯だが、必ず読破しよう」


 一万年前、センガがやたら長いタイトルのテキストチップ(小説)ばかりを読み込んでいたのをふと思い出した。

 童話だろうと読みふけるセンガの姿が、モガの脳裏にありありと浮かぶ。


 著者は物語形式で何かを伝えようとしている。少なくともモガはこれら童話をフィクションだとは思っていない。


 手がかりに違いないと信じるモガは、他三冊についても内容を把握しておきたいところだった。


「普通に読めるならともかく、アーチの読み聞かせではコイネガの一冊を把握するのが限度か。なにせ明日は、もう決行だからな」


 目を通せていない童話は他にも三つ。


 『ブレンドアルガVSピリオドアルガ』

 『センガ、メタルエイジの影』


 そして最後に、もう一冊――――『片角の鮮血』


「…………鮮血、か」


 例によってモガには読み取れないが、著者の欄にはたしかに「ジエ」と記されているらしい。


「アイツがオレに鮮血などと、ブッソウな呼び名を付けるだろうか?」


 アーチと共に今すぐ内容を紐解いていきたいところだが、作戦決行は明日なのだ。

 モガの胸中に謎が残る残らないにかかわらず、戦いは向こうからやって来る。


「ともかく、オレ個人の目的は達成した。あとは……」


 テキストチップの文字列から目を上げると、氷の大樹が目に入る。

 その手前にはユスの氷像か安置されていて。


「氷に封じられたユスをはじめとして、吹雪に捕らわれた銀雪民を解放する。誰一人、欠けることなく、必ず」


 モガの背後で、ざり、と硬いシャーベットを踏みつける音。


「モガ〜? 戻るのおっそい。もう寝たいんだけど」


 振り返ると待ちくたびれた様子のアーチと目が合った。


「ここにいたんだ……けっこう探し回ったわよ」

「? 先に寝ていれば良かったモノを」

「先に寝ちゃったら、戻ってきたアンタの物音でまた起こされちゃうじゃない。アタシイヤよ、寝不足で決戦なんて」

 

 あくび交じりに不満を口にしたのは一瞬のことで、彼女はすぐに表情を引き締めた。

 緊張と決意を乗せた目で、ユスの氷像を仰ぐ。


 いよいよ来るところまで来た。

 モガもアーチも、考えていることはきっと同じだ。


「明日が勝負なのね、ほんとうに」

「ああ」

「明日のうちに、一気に雪の山道を抜け下る。最低でも、ペガサス・アニマが起こす吹雪の範囲外までね」

「そうだ。まずオレとオマエでイエティ・アニマを無力化、その後オレは銀雪民とバクサの護衛に向かい――」


 続く言葉をアーチが引き継ぐ。


「アタシとオウカでペガサス・アニマの気を引く……いや、討伐ね」


 アーチの瞳が揺れた。彼女の目に宿る感情は、戦いを前にした緊張と決意……それだけではない事くらい、モガにも伝わってくる。


「雪のモビルゲレンデを抜け出しただけじゃ、ユスが元通りになる保証がないし……アタシがやらなきゃ」

「フッ、頼もしいな」

「にっしっし、だっしょ~?」

「そう自分を追い詰めるな」


 アーチは力強く言い直す。アタシがペガサス・アニマを仕留めなくちゃ――モガにはそれが言い聞かせるような調子にも聞こえる。


「以前にチュウゲンしたが、自分の()だけは心得ておくんだな。でないと宿民たちのもとへスクラップ姿で帰るハメになるぞ」


 自分が目を離せば、いわゆる「やるかやられるか」の瀬戸際で無茶をしそうな予感がする。


 アタシがやるという決意のセリフの中に、今にも特攻しそうな響きがあった。

 だとすれば到底、無視はできない。言わずにはいられない。


「ちょっと……脅すようなこと言うんじゃないわよ! 自分を追い詰めるな~とかなんとか言っちゃうくせして」


 こういう時、顔を背けてつっけんどんな返事を寄越すのがいつものアーチのスタイルだった。

 今もそうだ。強敵を前にする不安こそあれ、アーチはいつも通り。


 オレの思い過ごしか。アーチが特攻などと。


「スマン。上手く言えない」

「いいっての。アンタの言いたいこと、わかってるつもり」


 本当に理解しているんだろうな、と詰め寄りたくなる自分がいて、しかし普段通りの振る舞いを取り戻したアーチを見ていると、コイツなら大丈夫だ、と思えてくる自分もいた。


 さ、寝るかなー。そうアーチが城へと戻っていくのをモガは目で追う。

 見せつけるように伸びをする後ろ姿は、アンタも冷える前に戻んなさいよ、とでも言いたげだ。


「オマエを頼もしいと評したのは、紛れもないオレのホンネだ」

「んだ。当然ね」


 言いつつモガは城の玄関扉に手を掛けるアーチに追いつく。

 それでもなお。なぜか言葉は止まらない。


「オマエなら平気だと信じる」

「とにかく十分な距離を取って戦えばいいってハナシでしょ? いくらペガサス・アニマが強いからって、常に撤退に移れる間合いを保てば負けはない、って。アンタが考えるには、そういうことなんでしょ?」

「ああ……だと、信じたい」


 先を歩くアーチがふっと振り返った。

 彼女の心底意外そうな顔と目が合う。


「? どうした」

「アンタでもそんな風に言うんだ?」


 一瞬、モガは意味が分からなかった。


「それとも、アンタにそんなこと言わせるレベルで不安そうにしてんの? アタシが?」

「……いや。オマエはいつも通りだろう。少なくとも、不安による錯乱を引き起こしているわけでもない」

「さくらんー? しないしない。じゃあなにか? ハナからアタシが弱いって言いたいワケ?」


 とんでもない。平原の決戦でもモガはアーチに助けられた。

 ※《クロスオーバー》は間違いなくセンガに大打撃を与えていたのだし、戦闘は素人だとしても、モガやオウカと組めば戦力として申し分ない。


「ああもう、じゃあアンタはなんだって弱気なのよ? らしくもない」

「弱気? オレが弱気だと? オマエではなく、か?」

「だって、そうでしょうが」


 キッパリと言い渡され、モガは押し黙ってしまう。


「オレが弱気に見えるというなら、それはおそらく……」

「おそらく、なに?」


 アーチは半目でこちらを窺う。見つめ返すも、そこへなんと返せばよいか、上手い言葉が見つからない。


「スマン。上手く言えない」


 普段から硬いモガの表情パーツに、戸惑いの色はない。

 しかし動じない顔のさらに奥、モガの内心はぐちゃぐちゃだった。

 考えを、思っている事を、いつも通りの言葉で出力(アウトプット)できない。


 自分の中で何かが蟠っているこの現象は処理落ち、未定義、バグ、エラー……いや、いずれでもない。


 ただアーチの指摘、弱気だと言われてハッとした。


「オレは、ただ……」


 不安の正体に気づくと、それまで頭の中をぐるぐる回っていた警告メッセージが消えていく。


 何も言えずにいると、焦れたアーチはモガから視線を切って一人で私室へと入ってしまった。


「アーチ、聞いてくれ」


 アーチのすぐ後に続いて、モガも私室のドアをくぐる。


「んー、寝ながら。寝ながらにしよ。電気消すわよ」


 暗く落ちた私室で、シャーベットの詰まった布団にアーチが横たわる。シャリシャリと布団を引き寄せるアーチの気配を頼りに、モガも同じ布団に身を滑らせた。


「はいじゃあ聞きまーす。どーぞ。ま、いつも通り寝落ちしたらそこで終了だから。話ししたさで起こしたりしたら……わかってるわね?」


 起こしたら寝かしつけてやるんだから、と面白くなさそうにぶつくさする。


 アーチが傍にいる事を確認したモガが、ようやく口を開いた。


「オレは銀雪民全員を助け出すつもりでいた」

「そうね。アタシだってそう」

「銀雪民と表現しているが、その中にはオマエも入っている」

「当たり前。わざわざそんな注釈するのは人でなしだけよ。アタシだけ置いてくつもりかっての」


 無論、モガは人でなしのつもりで言ったわけでないことは、アーチだって分かっている。


「オマエはオレを弱気だと言ったな。……その通りだ」

「……ん。それで?」

「オレは……つまり、オレが言いたかったのは……オマエにも生きていてほしい、ということだ」

「さっきからしきりに上手く言えないって謝ってたのは、それのこと?」


 顔の右側――人を模した方――を枕に擦りながら、モガは頷く。


「ふぅん……そっか」


 眠りに落ちる前のしっとりしたアーチの声はまるで、幼い子供をあやすときのような尋ね方だった。


「戸惑っていた。ジエ以外のヤツに、これほどココロを振り回されたことなど、ありはしない」

「なろほど、そういうこと。やれやれ……」

「ペガサス・アニマを倒すことなどより、オマエのブジばかりを第一に考えている……」


 我ながら情けないことを口にしている自覚はある。

 モガの左頬、固い金属装甲をアーチの指先がつっと撫でた。


「アンタの言いたいことくらい最初からわかってた」

「なに……?」

「ま、さっきもゆったけどね」


 アーチは爪の先で、モガの固い左頬を叩く。可愛がるように、コツコツと音を立てた。


「そんなことだろうと思ってたわよ……ふふ、予想通り」


 アタシがそんなに大切なんだ?

 モガを見つめて、心底愛おしそうに微笑む。


 柔らかい両目がやがて閉じられて、アーチは眠ったんだろうと理解する頃、モガはまた一人きりになった。


 スリープするまでアーチの力を借りず、一人で考え事をするしかない時間。


 明日の作戦は滞りなく進むだろうか――いや、滞りなく遂げてみせる。

 テキストチップで確認したイエティ・アニマの氷牙。アレにはくれぐれも警戒しなければな。


 そしてペガサス・アニマ。いまだ実物を目撃してないが、オレはヤツの存在をこの部屋からでも感じる――それだけ強大な相手に明日、アーチは仕掛けに行く。


 未来が視えたら。

 漠然とそう願った。


(ケッキョク、どうでもいい事だったな――――賊が一体ダレだったのか、などというのは)


 それとも視えるだろうか。明日になれば、全部が。



(evaluationsア~ンドimpressionsお待ちしております)

訳:評価と感想お以下略

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