【出土】2 21/39
りんだりんだ~(大騒ぎ)
と
ど~ぶね~ずみ~(しっとり)
↑コレ同じ曲って知らんかったです。世代ギャップをなめるな~~~
一万年前、誰もいないはずの夜中だというのに、ジエの開発室には明かりが点いていた。
ジエがこの時間に活動している事は、おそらく誰にも知られていないだろう。開発室内に、人影は一つだけだった。
――夜な夜なモガシリーズ〇〇四の開発が行なわれている。
ガラスを張った自動ドアの向こうからひっそりとした開発風景を盗み見たモガは、それが公務の作業ではないと一目で分かった。
さては、開発室をプライベートで利用しているな。
ウィンドウに向かって作業を進めるジエの後ろ姿が妙にコソコソしているなと、機械ながらに感想を抱く。
(なぜコイツはいつも一人なんだ……? 普段はほかの職員とキョウリョクして仕事をしている。それがオレたちモガシリーズの事となると…………)
ジガを造りモガを造り、次にオウガを開発した時もそうだ。モガシリーズはすべて徹頭徹尾ジエ一人きりで開発されている。
「四人目か。おツギはダレを造っているのやら」
まぁ、オレには関係の無い事だ。
自分を開発したジエという少女の事も、新しい兄弟機にも興味はない。
戦闘用。
モデル・傭兵。
そうプログラムされた自分には、ただ戦う場があればいい。
プログラムを発揮できる相手がいれば、それだけでいいはずだ。
傭兵としての自覚とは裏腹に、モガは自動ドアをくぐる。静まり返った開発室にドアの開閉音が響くが、画面に熱中するジエには聞こえていない。
「おい」
モガに声をかけられてなお、技術屋の少女は一心不乱にキーボードを叩く。
背中を向けたままのジエに辟易し、モガはため息をついた。
無視された、とは感じていない。オウガの開発期間中に、これと同じ対応をされたことがある。
オウガは名前に「王」の冠するだけあって、人心掌握に長けていた。
敵対国家の侵攻に疲弊した民を前に、守護の象徴として振る舞う彼のおかげで、生活に苦しい人々の心に安息が吹き込む。
「ハッキリ言って気休めだが、たったの気休めでも情勢は変わる」
気休めなどひと時だが、そのひと時の間に敵国の兵器を破壊し尽くす。それでこの国の戦争問題は解決。
「オウガが民の注意を引いている間に、オレがテキの火力を潰す。それが可能にするスペックが、オレたちには備わっている」
だのに、オマエはこれ以上ダレを造ろうっていうんだ?
モガはジエの肩越しに机を見下ろす。すると散らかったメモの一つに目が留まった。
――モガシリーズ〇〇四・アルガ。
「アルガ、か?」
新作の名前が書いてあるだけなら、モガにとって取るに足らない。しかしメモには続きが書きなぐってある。
一人で戦ってきたモガにとって、それは思いもよらない文言だった――――わたしはモガの隣に存りたい。
モガを戦場で一人にしない、共に存って肩を並べて、わたしも戦うの。
そう書いてあった。
「なるほど。在我か」
……………………。
***********************
バクサが鎖で感じ取った実相によると、外苑の安全確認をしていたアーチとオウカは大樹に異常を見つけたらしい。
「アーチ、オウカ。ここでなにがあった?」
バクサの話にあった通り、二人は中庭で立ち往生していた。目の前には城と同じくして生えた氷の大樹が一本あるのみ。
「モガ……ヤバい、あそこに」
「ン……ずいぶん高いな。あそこになにかあるか?」
「アーチ嬢が、あそこにギアニックがいると言って止まないんだよ」
アーチの視力が異常に高いことを、モガも気がついてはいた。
幹を見上げるアーチにつられてモガは目を凝らす。
しかし示された辺りは氷があるようにしか見えず、あそこにギアニックがいるとは思えない。
(単に視力が高いというよりは、見分けるチカラが強いのか)
「いる、いるのよっ! くっ、首だけのギアニックが……ひい~無理っ!」
「ナマクビだと?」
「物資と見間違えているのでしょう。私が樹上まで鎖でお連れします――С《コンスト》」
バクサは怖がるアーチをそっちのけで話を進めていく。
「ちょちょちょ、何してんの」
操る鎖でアーチを巻き取り、彼女の体をあっという間に宙に浮かせてしまう。
大将サイズのユキザル・アニマを締め上げた時とは違い、優しく持ち上げる。
「生首らしき物体の回収をお願いします。このまま上までリフトしますので」
「なんでアタシ!? ムリ無理むりだってあんな気味悪いのに!」
「クレバスが新しくなった際に発生する物資は決まって我々が必要としている物なのです。落とさないようしっかり抱えてきてください」
「いや! せめてモガにやらせなさ……ちょっと、いやだって言ってん――」
生首と思しき物資から少しでも遠ざかろうとして、樹上から顔を背ける。そんな努力も虚しく、アーチは一気に押し上げられた。
「おい。オウカ」
「ホワッツ?」
「バクサが焦っていた。ペガサス・アニマに敗走した過去を引きずっている様子でな」
アーチたちの悶着をよそに、モガはオウカに小声で語りかけた。
なんとなく他二人に聞かれるべきではない気がして、自然と声は密やかになる。
「オマエはどうだ。今回の討伐作戦、銀雪民たちの下山。これらに不安が無いと言えるか。策の練り直しが必要だと感じないか?」
「…………」
オウカは件の樹上を見上げて、モガと目を合わせようとしない。
「白状すると、……」
「ハクジョウすると、なんだ?」
「ワタシの機動力はともかくアーチ嬢の電撃矢が通用するかどうかは、試してみなければ何とも言えないな」
討伐会議の時とは打って変わった、尻込みした台詞。勢い任せに「出来る」と口走らないところが、モガは逆に安心した。
「攻撃の手ごたえが良ければ行けるところまで戦うつもりさ。逆に芳しくなければ即撤退、あるいは下山できる程度に吹雪を引きつける。試してみなければわからないって言ったのは、そういう線引きのハナシさ」
「ほう、冷静だな」
「倒してしまいたいのは山々だよ。伴侶を凍らされているからね」
隣から小さく息を吐いた気配がした。
「それでも、だ。これだけ寒い場所に居続けたら、頭も冷える。冷静にもなるさ」
「そうか。だがまだ猶予はある」
モガが何を言いたいのか気になったか、見上げていたオウカの視線がモガに降りる。
「作戦を考え直したくなったらエンリョするな。オレもアーチも、ユスを連れて帰りたくてここに来たんだからな」
「グラシアス。でも実際どうにかなるものではないよ。
ペガサス・アニマに対しては雪を踏んででも戦闘を離脱できる機動力が必要で、ヘラジカ形態のワタシしか成し得ない。
銀雪民を連れた安全な下山ルート判断には、雪の下まで鎖探知ができるバクサが必要不可欠だ」
オウカとバクサの役割は変えようがない。これはモガにもよく理解できる。
「加えて、ツガイのイエティ・アニマが黙ってないんだったな」
「イエス。それにバクサたちの下山を邪魔しに来ると予想される下位種、ユキザル・アニマの群れも無視できない。
モガ君とアーチ嬢が連携して迅速にイエティ・アニマを討ち取ったのち、ルート判定にかかりっきりで無防備なバクサのフォローに入る」
「バクサたち銀雪民と合流するのはオレの役目だったな」
「イエース。そして遠距離武器を持ったアーチ嬢は、ワタシと共にペガサス・アニマと戦ってもらう。ヒットアンドアウェイなら返り討ちにあって停止させられるリスクも少ないからね」
オウカの筋書きは破綻していない。綱渡りな工程はあるものの、成功は十分現実的ではあると思える。
それにもう一つ。討伐会議の時には伏せられていたほうの問題も解決しそうだ。
「バクサから聞いたぞ。無事に下山できたとして、銀雪民の生存率は一割程度だそうだな」
「ホワッツっ!? どうして、それを……!」
「バクサから聞いた」
バクサが言うに、雪山と下界の違いすぎる環境差に適応しきれず、銀雪民はことごとく停止する恐れがある。
奇跡的に適応できたとしても……それはほんの、全体の一割程度。
「安心しろ、責めるつもりは毛頭ない。むしろオマエを責めてやるなと念を押されたものだ。銀雪民の誰かがオマエを責めることになっても、事情を知っているオレとアーチだけはオマエの決断を責めてくれるな、とな」
バクサは秘密にしておけと言っていたが、都合上モガの言葉は止まらない。
「下山をすると決めたのは、もうクレバスには後がないからか」
「察しがいいね。食料が底を付くのは時間の問題だし、銀雪民の中には発狂し始めている者もいる」
これはユブウの事だな。という独り言は喉元でとどめた。
「苦渋の決断だとか、断腸の思いだとか。そんな言葉では生ぬるい。銀雪民たちを裏切っているようで、目を見れなくなることもしょっちゅうだったよ。……いや、実際に、裏切っているのか」
「それについても安心しろ」
残酷な現実を前にしてなお、モガのやるべきことは変わらない。
氷像にされたユスを、五体満足でロクと再会させる。
マルの、旅への憧れを叶える。そして――。
「銀雪民は全員無事に解放する」
ジエに造られたオレにはそれができる。今の自分は戦うだけの存在ではない事を、宿と平原の一件で知った。
「オレが銀雪民と離れず下山すれば、マントで炎を浴びせ続けられる。オマエのコールドコードとオレの炎を合わせれば、激変する環境にも適応できるやもしれん」
マントが放つ浅紅の炎にはボディの損傷を修復する機能が備わっている。
スクラップにされた宿民たちが皆、壊される前の形状を取り戻し、蘇生した前例もある。
マントはジエからの贈り物だ。
モガの製造三年記念、つまり三歳の誕生日に手ずから贈られたものなのだ。
わざわざ造られたからには意味があるはず。
このマントでギアニックを助けてあげて―――にモガには、ジエがそう言っている気がしてならない。
「ただ……な」
「ただ、なんだい?」
「動ける銀雪民はそれで助かるとして、ユスだけはどうにもならん」
地下に運び込まれた氷像のユスにマントの炎をあてがってみたことがある。
結果は、変化なし。
氷に炎を浴びせて汗一つ書かないなど有り得ない。
ペガサス・アニマの権能で凍らされているとしたら、取るべき手段は一つに思えた。
「今のままではユスは助からない。ペガサス・アニマの息の根を止めるしかない」
「下山のために吹雪を弱らせるだけならヒットアンドアウェイで事足りたけど……アイニュウ甘くないね」
アーチの電撃矢だけでは決定打になり得ない、これが二人で出した結論だった。
当のアーチはちょうどバクサに引き下ろされたところだった。
「うえぇ〜……き……キモすぎるぅ~……!」
ギアニックの生首と思われた謎の物体を指先でつまんでいる。
まるで汚いものでも持つかのようだが、近くで見たそれは生首というには一回り小さい。
気味の悪さに落ち着きを失うアーチを見かねて、バクサが謎の物体を受け取った。
「このタイミングで現れたからには我々への物資なのでしょうが、これは一体……?」
「ふむ、何なんだろうね? 機械端末に見えなくもないが、スイッチもパネルも見当たらないぞ」
謎の物体をバクサがしげしげと掲げる。
一言で表すなら、それはたしかにギアニックの頭に見えた。
ギアニックのロボットフェイスを思わせる目鼻口が然るべき配置を取っており、見れば見るほどアーチが生首だと訴えたのも頷けた。
手のひらに収まるサイズの長方形で、ギアニックの装甲と同種のメタリックを放っている。
モガのアームブレードに似た緑のカメラアイ、赤紫色の聴覚センサー、頭頂部に同色のアンテナが剣のように屹立している。
見覚えのある赤紫の基調色が、モガの目を強く引いた。
「こんなところにいたか――――アルガ」
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