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文明が滅びた10000年後の地上で再会するキカイ傭兵と設計者の少女 原題:メタルエイジのMO-GA  作者: カズト チガサキ
銀雪と結束の第二章 氷獄の統率者・オウガ
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【頓挫】2 18/39

一章と合わせて50話目とは……記念すべき!!!!

 本来の討伐作戦の決行日から、二週間が過ぎ去った。

 資料室では相変わらず銀雪民総出の手がかり捜索が続いた。

 ありがたいことに、彼らはずっと協力してくれている。


 当然モガとアーチも、銀雪民に混ざって検索パネルをいじっていた。


「おうあんちゃん、そろそろ休憩にしねぇかい?」


 モガの隣には、アーチの他にローもいる。

 地下生活が始まってからというもの、モガたちは銀雪民と行動を共にする機会が増えた。


「オレはもう少し続けさせてもらおう」

「アーチちゃんは? おれっちとお茶でも」

「アタシももうちょいやるわ。あと十万抽斗(ひきだし)くらい」


 ギアニックの情報処理をもってしても、十万抽斗を調べ終えるのに二時間はかかるだろう。


「マジメだねぇー、でもそれもそうか。おれっちたちと違って、あんちゃんにとっちゃ生みの親だもんなぁ」


 ローの言う通り、銀雪民にとってジエの手がかり捜索などなんのメリットもない作業なのだ。


「んーじゃ、やっぱおれっちもうひと踏ん張りしますよっと」


 一度は置いた検索パネルを再び手に取るロー。

 ロー以外にも、今やモガの周りでは多くの銀雪民が協力してくれている。


「オマエがそこまでするヒツヨウはない。休みたければ休んでいい。誰も責めない」

「コラモガ。そうじゃないでしょ?」


 検索パネルから視線を外さないまま、アーチはモガの発言をたしなめる。


「気を遣ってるつもりかもしれないけど、そこは前に教えたでしょ?」

「? なんの事だ」

「感謝を覚えて、頼るクセを身に付けなさいって」

「そうだったな……おい、ロー」


 んぁー、呼びかけにローは生返事で応える。


「ありがとう」

「な、なんっだよ水クセェ。いいんだよ、どうせ銀雪民一同ヒマしてんだからさ。ホレ、見てみろよ」


 先程のモガの発言は、意図せずローの善意を突っぱねる格好となっていたが、当のローは特に気にしていない。


 彼はそんなことよりと言わんばかりに辺りを見回した。


「そこにいんのは、作業がボケ防止にちょうどいいってぇクナシじいさん、あっちは夕飯の皿洗いを終えたユブウだろ? あとはホラ、お子さまのマル坊」

「アーチ一人だった時より、手を貸してくれるギアニックが増えた」

「みーんなヒマ人だからな。気ぃ使うことネェーの」


 モガの視線の先で、額に汗をかきながら、ユブウが検索パネルと向き合っている。

 汗の原因は不明だが、以前のような異常な興奮と共に果物を食い漁る様子はない。とりあえずは落ち着いているようだった。


「ユブウか。あの時ヤツは、なぜカンシャクを起こしたんだ?」

「あ、それ。アタシ本人から聞いたよ。一昨日、夕飯の手伝い中に」


 ユブウがああ(・・)なるに至ったバックボーンを、アーチには語っていたらしい。

 曰く、果物の木の下で凍死した娘を、果物を食すことで取り戻さんとしているらしい。


 凍死。つまり雪のモビルゲレンデの猛吹雪が、ユブウの出身の果物園にまで及んだそうだ。


「クダモノを食べたところで、ムスメが返って来るわけではない…………」

「そんなの、ユブウさんもわかってるって。銀雪民になるよりずっと前の出来事みたいだけど、いまだに整理を付けられないでいるのよ」


 アーチのユブウに対する呼び方は、一昨日から「さん」付けに変わっている。

 ともに料理支度をする中で、互いに理解を深め合ったか。


「そうさなぁ……銀雪民になったやつってのは大概、どいつも吹雪に運命を翻弄されちまってる」

「ウンメイ、か?」

「ああそうさ。ユブウだってココに来たての頃ぁマトモだったぜ? 避難民はお客じゃねぇ、協力し合ってなんぼだ。誰もが自分に出来る事をするんだってな。ユブウだったら、料理担当」


 「だが……」ローは一拍置いて、包み隠さず呟いた。


「ココで長いこと暮らしてると、ココロの影を浮き彫りにされる」

「! ああ……それは、オレにもわかる」


 一言で言えば、閉塞感が募るのだ。

 吹雪の吹きすさぶクレバスの外に出ることはできない上、ユキザル・アニマの襲撃に晒される事も一度や二度ではない。


「不幸があったっつっても、普通の暮らしができてりゃあユブウだってああはなんネェ」


 地下生活が始まった初日に、モガはユブウが果物をつまみ食いする場面を目撃した。

 あの日以来、今日までの献立に果物は無かった。


 おそらく、食糧庫の果物はそれきり食べ尽くされたのだ。


「クレバスでの生活は、とっくに限界なんだ。ユブウの豹変がそれを証明しちまってる」

「……ああ。今日の夕飯も、ユキザル・アニマの硬い筋肉ばかりだったからな」

「なによモガ。地下での料理にはアタシも携わってるんですけど。文句あったかしら?」


 検索パネルから上がったアーチの視線は、色濃い憤懣(ふんまん)をたたえていた。


「実情を言ったまでだ。オマエは目覚めた日の事を覚えているか?」

「んー、っていうと?」

「たとえば、オレが飲み干したシロップだが……」

「アンタが盛大に非常識をひけらかしたやつね。それが?」

「アレ以来飲めていない」

「なによ、アンタまた飲みたいワケ?」


 食料のレパートリーが減っている、など些細な事だ。

 しかしクレバスの生活が限界を迎えつつある実態とは符合する。


「ああ飲みたい。しかしココにはもう無い。ささやかな不都合だが、不都合が積み重なればやがて破綻となる」

「破綻か、そいつぁ言えてるぜあんちゃん。クナシじいさんの記憶事情も、ある時を境に破綻しちまった」


 アイスコープ現象ってあるだろ? ローは語り始めた。


「あの氷のスクリーンにゃ、どこともわからネェ現在の景色が映ってるんだが……」


 アイスコープ現象は腕時計に目を落とすがごとく、クレバスで過ごす者なら無意識の内に視界に入れる。

 モガも幾度と目にした。だが現在の(・・・)景色とはずいぶん含みのある言い方だ。


「ちょっと前までは、氷で占いが出来たんだよ」

「う、うらないぃ? うさんくさ」

「おっとアーチちゃんソレ以上言うな。バクサがいたら不敬罪で処されるし、なによりあの人の占いはマジだった」


 占いの真偽より、モガは不敬罪というワードが引っかかった。

 オウカの他に、銀雪民の上に立つ人物がいただろうか? 考えてもモガに心当たりはない。


「アイスコープ現象を利用して、クナシのじいさんはしょっちゅう過去を占ってもらっててな、んで記憶もかなり取り戻しつつあったんだ」

「そうなのか? オレと話した時は、かなりあやふやに見えたが……」

「占い師はもう、力を失ってる」


 ローのオオカミ顔がにわかに陰る。眉間に悲痛なシワを寄せていた。

 

 占いの力を失った以外にも、占い師とやらの身に悲劇が起きた事は、ローの辛そうな表情を見れば一目瞭然だった。


 具体的に何があったのかと深入りすることも憚られた。

 占い師が誰か気になったが、それは置いておくことにした。


「それからというのも、無作為に映るアイスコープを見たって当然記憶は戻りゃしネェ。クナシのじいさんはもちろんだが、見守ってたおれっちも悲しみに包まれたもんだ」

「ふむ……その後、どうなった?」

「せっかく取り戻した記憶、また忘れちまったんだ。思い出す手段もネェときた」

「つまり、それがクナシにとっての破綻か」


 アイスコープを前にして、しかし一向に記憶を呼び起こせない当時のクナシを、モガは想像してみた。


 ジエの手がかりがことごとく空振った、自分に置き換えればそんなところか。

 気落ちして再び記憶を失くすのも無理はない。


「なんて言えばいいのかわかんないけど……壮絶なのね、みんなの過去」


 のほほんとしているようでその実、クナシも運命を翻弄された一人だった。

 あの理不尽な吹雪のせいで。


「その点、お子さまはいいよな!」


 聞こえよがしなローの声は資料室によく響く。


「おいロー! おいらもう七〇〇歳だぞっ、お子さまって年じゃないだろ!」


 お子さまの自覚があるのか、誰にともない反抗的な返事が返って来る。


「で、なにがいいんだ!?」

「アイスコープ現象を飽きずに見てられる、夢いっぱいなとこだよぉ!」


 マルはローの声を頼りに、検索作業をする銀雪民の人波をかき分けてこちらへやってくる。


「むぅ~、悪いか! おもしろい所がいっぱい見れるだろっ!?」

「交差点のライブカメラみてぇなモンだろ?ンなもん何百年も見せつけられちゃあゲンナリだぜ……」

「マルボウ。オマエは他の雪ん子ギアニックと違い、中庭で遊ぶよりアイスコープ現象のほうが好きなのか?」

「ほかのヤツと遊ぶのだっておいら大好きだぞ。でもいつも、アイスコープ現象に映ってるような、キレイだったりデッカイ大地で遊びたいって思ってるぞ!」

「ン。いつも思ってる、か……」


 クレバス内に発生する原因不明・謎の現象たるアイスコープ現象。


 決して手の届かない下界の花鳥風月を映し出すあれは、受けての気持ち次第ではかえって世界から疎外された気分にさせる。

 

 疎外感、それは有り体に言い換えれば、孤独。


 閉塞感ばかりが募るクレバスの生活において、アイスコープ現象はむしろネガティブな感情を引き起こす。


 アイスコープ現象に対するモガの所感は、クナシの出来事を聞いた限りでも間違っていないはずだった。


「やっぱり憧れるよなっ!」

「アコガレ……?」


 一瞬、諦めの聞き間違えかとも思ったが、すぐにモガはハッとする。


「砂漠? 砂丘? っていうのか? そことか。あとシロップのにぃちゃん、アレは知ってるか? ここと違って、山なのにマグマがあってドラゴンがいて暑そうなとことかがあって、火山っていうんだぞ、かーざーん!」

「憧れて、それからどうする?」


 ローがアイスコープの見せる景色に無関心なように、ギアニックによってはうんざりさせられているのがアイスコープ現象というものだと思っていた。


 マルにとっては希望だった。


「どうって……んと、う~ん……とりあえず! いつかはぜ~んぶ行ってみたいぞ~、いひひっ」

「道が、吹雪に阻まれているとしてもか?」


 雪のモビルゲレンデを取り巻く猛吹雪を知らないわけではあるまい、しかしマルは興奮を収めようとしなかった。


「おまいさんたち、ずいぶん楽しそうじゃのぉ」

「あっ、クナシじぃちゃん! なぁなぁじぃちゃんも行きたいよな、火山!」

「ほ? 火山じゃと? それはえぇなぁ~ここよりあったかそうじゃ」

「あったかいなんてレベルじゃねーべ……ヤバそうな火竜のアニマを見たって奴もいるしよ……」

「ドラゴンはホントだぞぅ!」


 マルはあっという間にクナシを味方につける。勢いづくマルはローのボヤキを聞かなかった。


 その光景に、さっきまで静かに検索作業をしていた銀雪民たちが、微笑ましそうに肩を揺らす。


 ローとマルのじゃれ合いは、このクレバスでは恒例の光景なのだと、モガは最近知った。


「あの吹雪がジャマな限り、行きたくたってどうしようもないこと、おいらもわかるけど……でも」


 平穏の象徴みたいな二人の応酬。

 そのやり取りは、モガが訪れる前ならば、吹雪が邪魔という結論で終わりを迎えただろう。

 

「でも、シロップのにぃちゃんはジエって人が見つかるって信じてるんだろ?」

「無論だ、見つけ出す。アイツなら必ずどこかで生きている」

「だから、おいらも信じることにするぜ! ギアニックの人生一万年の間に、いつか行く方法を……旅の方法を見つけてなっ!」


 モガがクレバスにいる今、マルの夢は絵空事でも窮屈な暮らしの気休めでもなくなる。


「そのアコガレ……近いうちに叶えてやる。ゼッタイにな」


 無事に下山させてやる。モガがマルと交わしたのは、そういう約束だ。


 その約束がどれほど困難か、本当の意味で理解しているのはモガと、傍から見守っているアーチのみ。


 モガはしれっと途方もない約束を交わしたのだ。

 それを分かっているアーチの表情は、複雑なものに変わっていった。






(記念すべき作品たるメタルエイジのMO-GAへの評価・感想お待ちしております)

不遜だなぁ……(小声)

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