【頓挫】1 17/39
自己肯定が低すぎるってリアルで指摘されたので。今この瞬間から高めていこうと思う。
メタルエイジのMO-GAは神小説!
メタルエイジのMO-GAは神小説!!!!
うおおおお
「こっちで休憩してるじいさんは、クナシってんだ」
昼前になる頃には、約一〇万ほどの抽斗を調べ終えていた。同じ資料室の少し離れたところで、アーチも同じく検索に当たっている。
モガがクナシという銀雪民のもとへ連れられたのは、そろそろアーチと合流して昼休憩にしようか、というタイミングの事だった。
「記憶喪失。キオクナシ。で、便宜的に付けたクナシって名前が定着したんだと。そうだったよなじいさん?」
「おぉ……? そうだったかのぅ。思ん出せんのぉ」
「おいおい、少なくとも銀雪民になってからの記憶はあるだろ?」
ここまでの人生で何かの拍子に記憶領域がイカれてしまったのだろう、記憶喪失らしい老齢のギアニックは、モガも出合ってきたある人物と驚くほど瓜二つだった。
(杖を持ち、ローブを着込んだギアニックか)
ローブは樹氷に溶け込む雪の迷彩色だが、長く白い口髭、仙人のように伸びた眉毛、杖。
シルエットがことごとくチョオローと同じだった。
(センガ曰くオレがいなくなった後の世界では、他国もギアニックをマネ始めたという。ギアニックの量産がジツゲンしていたとしたら、チョオローとクナシは同じ工場で産まれた……か?)
眠りこけていた間に。
自分の知らないところで、如何に時代が進んでいったことか。
世界から置いてけぼりを食らった感覚がモガの胸中をひんやりと満たす。
が、そんな感傷をクナシが知る由もなく、愛想よいシワシワの笑みでモガを迎えた。
「クナシじいさんは急な吹雪に見舞われちまって、遭難したとこをオウカが助けた。まぁなんだ、あんたらがバクサさんに助けられたのと似たような状況だったわけよ」
「ほぅだ、ほぅだった。あぁ……あの日、ここで目を覚ました時」
記憶を失くしたと自覚した日の事を、クナシは遠い目で思い出す。
「ワシは焦っておった。とても大切な用事が、こうしている瞬間にも通りすぎてしまう……そんな気がしたんじゃ」
目が覚めたら自宅でも病院でもなかったとか、クレバスなどという謎の場所に混乱したとか、そういう事で驚いたわけではないと語る。
「寝坊した、寝過ごした! 早く行かなくては……でも、何処へ、何の用事で? 明確な何かが手の平から零れ落ちる、そんな感覚に苛まれたんじゃ」
「なるほどな。その感覚、少しはわかってやれる」
モガが目を覚ました時も、第一にジエの安否に思考を支配された。
加えてクナシと同じく、もしジエの事を忘れてしまっていたとしたら一大事だ。
誰かの無事を案じているのに、その肝心の誰かが分からないというのはかなり据わりが悪い。
「あー、いや。違ったかのぅ?」
「? クナシ、どうした」
「目が覚めたワシの第一声は、呑気にも『腹が減った』だったかのぅ? それとも用事が無くなってむしろ安心したんじゃったかのぅ? 覚えとるかね?」
頭を抱えながら、眼差しは問いたげにモガを向いている。
「いや、オレにはわからん」
「そうか? おまいさんはワシより早く来ていたはずじゃ。当時のワシの事、何か覚えとらんか?」
「なに? オレがクレバスに運び込まれたのはつい先日だが」
「待て待て、ストーップ! じいさん、物忘れってレベルじゃねぇぞ。こっちにいるのはほとんど初めましての……」
「モガだ」
促されて自己紹介をすると、ようやくクナシは頷いた。どうもクナシはモガを銀雪民の誰かと記憶違いを起こしていたらしい。
「おお、ご丁寧な若者よ。ワシの名前は……名前は……なんだったかのう?」
「一応、クナシだ。本名じゃねえけどな。あと丁寧のハードル低くねっすか?」
「イチオウ・クナシですじゃ。よろしうな、モ……モ、」
「モガだ」
額を抑えてあちゃーと漏らすローと丁寧に名乗り直すモガを、クナシは微笑ましく見つめていた。
「ま、ちょっと紹介したかっただけなんだ、ジャマしたなじいさん。飯、ゆっくり食べてな。さ、モガは次のとこ行くぞ」
「ああ、行くのは構わないんだが……」
コレは一体なんだ、何の挨拶回りが始まったんだ?
モガを連れ回すローがさも当たり前のように振る舞うので、なんとなく質問は憚られた。
随意のままにされていると、今度は雪だるまのように丸々と太ったギアニックのもとへ案内される。
何事だろうか、雪だるまギアニックは説教を食らっている真っ最中だった。
「アーチか」
贅肉たっぷりの背中に果物を隠して、もごもごと言い訳をする。その様子をアーチは見咎めた。
「アンタがユブウね。その食い意地、ホントウワサ通りみたいね」
「や、この果物ちゃんたちは元々ボキが目を付けてたんだナ! く、食い意地とか、盗んだとか、人聞きが悪いんだナ!」
往生際の悪いユブウの態度に、肩をすくめるのはアーチだけではない。
「まーたメシちょろまかしてるのか……ちょっと言って来るわ」
「ああ、その方が良さそうだ」
モガは仲裁に入るローのあとをついていく。先ほどのクナシといい、自分は一体なにを見せられているのか。
「ダメだろユブウ。料理長だからって勝手にメシ持ってかれちゃあ困る」
「果物ちゃんはぜんぶボキの……っ、ボキのだ!」
唾を飛ばしてまくし立てる。何が何でも果物を自分のものにするつもりらしい。
「わーかってるって、べつに食べていいって。でもそっちの人はメシのアシスタントだろ、たぶん」
モガはアーチを見る。ローにアシスタント、と呼ばれたアーチの格好は、たしかにこれから料理を作ろうという風体だった。
もっとも料理と言っても冷製料理なので、エプロンではなく霜焼け防止のミトンをはめている程度だ。
「アシスタント? オマエに出来るのか?」
火を通して作る宿民の料理とは逆、銀雪民の冷製料理は霜を通して作っていくらしい。
「色々と勝手がチガウんじゃないか?」
「ずっとご馳走になるってのも落ち着かないしさ。作り方もレクチャーしてくれるっていうから楽しみだった……んだけど」
宿では常に提供する側だったからこそ、ここへ来てもてなされる側になり落ち着かない思いをしていたのだろう。
しかし楽しみ「だった」とは、ずいぶん含みのある言い方だ。
「オマエらしいといえばらしいが、教わる相手……つまり料理長とやらは」
「そ。そこにいるユブウが――」
「果物ちゃんはボキの! ボキのを……返せ、ボキのボキのボキボキボキ……」
あまりの形相にモガは後退った。アーチもユブウの癇癪がただの食い意地からではないことを感じ取っている。
二人の反応は正しい。
ユブウが赤い果実を齧る。付着した氷粒が飛び散り、果汁が飛沫く。
「あーあ、食べちゃったよ……みんなのメシなのに、ひどいぜ」
「コレは……言ってるバアイなのか?」
食事中のユブウのカメラアイには獰猛な光が宿っている。そのせいで、ケダモノの捕食でも見ているのかと錯覚した。
「はぐっ、んむ……ボキのぉ」
視線をモガたちに寄越すや、ユブウは目をギラリと剥いた。
後退る代わりに、モガは左腕を構えた。いつでもアームブレードを換装できる、臨戦態勢に。
周囲からざわめき。昼の休憩をしていたはずの銀雪民も、ただ事ではない事態を察している。
「こりゃ今日はダメだなぁ。わりぃなアーチちゃん、モガのあんちゃんの言う通り、ちょっとクッキングしてる場合じゃないや」
ローになだめられながら、ユブウは資料室から引きずり出されていく。一触即発かと思われた資料室に平穏が戻った。
「結局のところ、ローはわざわざオレを連れ回して何がしたかったていうんだ?」
「はぁ、手伝いはフイんなっちゃった。せっかく気分転換になると思ったのに」
気分転換はモガもしたいところだ。
ジエの手がかり捜索と言っても、やることは検索一覧と題名の照らし合わせばかりで単調だった。
おまけに、ローが自分を多くのギアニックと知り合わせるせいで気疲れもある。
「メシの場所を訊きに行くぞ」
先ほど会ったクナシはすでに昼食をとっていたし、自分たちも昼食にしたい頃合いだ。
アーチは残念がっているが、食事するだけでも気分転換にはなるだろう。
「そうね……あ」
ふと、アーチがモガの背後に目を留めた。
「お疲れ様です。これから昼食でしたら、私もご一緒してよろしいでしょうか」
振り返ると、バクサが控えていた。お疲れ様などと労っているが、一番疲れているのは当のバクサだ。
重い鎧を着こみながらもバクサは背筋よく立っているが、遠隔操作した鎖での避難誘導はかなりの集中力を要する。その疲労度は推して知るべし。
「作戦の日が来る前に、お耳に入れたいことがあります。いかがでしょうか?」
姿勢ではなく、疲労は声に現れていた。
「ま、アタシはぜんぜん平気だけど。モガも良いわよね」
「かまわん。と言いたいところだが、不慣れな文字と向き合ってくたびれている。休みながらでもいいか?」
「もちろん、くつろぎながらで構いませんよ」
「じゃ決まり。一緒に休憩、きゅうけ~い。オウカも呼ぼっか」
地下の別室にいるであろうオウカをアーチが呼びに行く。
「お待ちください」
資料室を出ようとするアーチの背中を、バクサは引き留めた。
「これからする話には守秘義務があります。お二方だけに留めておきたいのです。オウカにも、どうか内密に」
手枷のグレートヘルムに隠れているが、バクサが深刻な表情をしているのが伝わってくる。
「これから私がお伝えする事を、誰にも言わないと約束できますか?」
資料室から遠い空き部屋までモガたちを案内すると、口外禁止を念押ししてから、バクサは話し始めた。
深刻、重大。
衝撃、愕然。
バクサが語った内容は、それらの言葉でも足りないほどに絶望的だった。
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