【童話】4 14/39
思い切って自分で創作すると。
小説書いた以前と以後で色んなエンタメをよりおもろく感じるようになった。
リスペクトが生まれるし、作り手の意図を考えながら読んだり観たりできるし。
う~ん、おもろいぞぉ。
「次の満月に仕掛ける」
アイスコープ現象が見せるどこそこの砂丘や火山の夜もふけて、貴族屋敷にある照明もほとんどが落とされる時刻。
モガとアーチの部屋も例に漏れず、暗い部屋のベッドから二人分の息遣いが聞こえるのみになる頃、モガはポツリと報告した。
「ペガサス・アニマは出産が近いらしい。そのタイミングが来たら攻撃カイシ、同時に銀雪民全員をユウドウし雪のモビルゲレンデを下山する」
それが討伐会議で出た基本方針だった。誰がペガサス・アニマの出産に攻め込むべきか、そして誰が下山の誘導をするべきか。細かい役割分担はアーチを含めて後日、というのが今日の運びだ。
「ちょっとまって」
アーチの声は驚きとも非難とも汲み取れた。
例によってベッドは一つしかないので、声に含まれた複雑な気持ちがほど近い距離でモガに伝わってくる。
「タイミングが来たら攻撃って……つまり、出産のタイミングを狙うってこと!?」
「そう言ったつもりだが。非道だと思うか?」
「非道いかどうかは……べつに。やるにしてもお互い様だし」
その通り。ユスの出産を突かれたオウカからすれば、図らずも意趣返しになる。
「聞け。オウカはなにも個人的な復讐のためにやるわけじゃない、ただ出産時が好条件なだけだ。攻撃はあくまで雪のモビルゲレンデを脱出するために必要な工程に過ぎない。そしてペガサス・アニマがいかに強大といえど、出産ともなれば付け入るスキが必ずある」
「言いたいことはわかる。理屈は通ってるわよ。でも……やっぱり、モガが行かなきゃいけないの?」
出産の負担は大きい。それこそコールドコードを機能不全に陥らせ、ユスを氷像に変えてしまうほどに。
喪失の渦中にいたオウカだからこそ気づけたチャンス。仕掛けるには絶好の機会に思えた。
「危険よ。大概のアニマは出産が近づけば警戒心が増す。気性は荒くなるし、父親のアニマが黙って見てるワケない。そりゃあアタシはペガサス・アニマに詳しくないけど、アニマって付いてるからにはそこらへん似たようなもんでしょ」
流石はかつてアニマ狩りで食料調達をこなしていた者の見解だ。狩人であるアーチの危惧する事は十中八九正しいだろう。
モガもそう思えた。
「オウカも同じ事をキケン視していた。危機と機会が紙一重になる作戦はケネンが残る、とも」
だから、とモガは本題に入る。
「アイツらもオマエの意見を聞きたがっていた。明日の討伐カイギに来い」
「アタシはいいけど……いいの?」
シャーベット布団の内側で、アーチの指先が左手に触れてきた。モガの意向を確かめるような圧迫感。
大方ジエの手がかりになる童話の捜索をしなくていいのかと、アーチはそんな心配をしている事だろう。
「脱出が上手くいかなければ元も子もないからな。そこまで我を忘れるつもりはない」
「じゃあ……そういうなら」
童話探しを一時断念することにためらいながらも、討伐会議の参席に了承。
「アンタたちだけじゃ無茶しそうだしね。モガは責任セキニンで突っ走っちゃうし、オウカは周りが見えてるような、そうでもないような未知数だし」
「ほう。バクサはどう見る?」
業務連絡もそこそこに話題はだんだんと与太話へ逸れていった。
「あいつは落ち着いてるけど、オウカが黒って言えば黒って言いそうなタイプじゃん? ついて参れって指示されちゃった日にゃ一緒に無茶すんのよ、きっと」
「フッ、頼もしいヤツばかりだ」
たわいない会話が一段落つくと、アーチの声にあくびが混じり始める。
「それよりオマエの方でシンチョクはあったか?」
もうそっとしておいて寝かせてやるべきかと思いつつも、何となしに訊いてみた。
「順調、ぜったい見つけてみせる……って言いたいところだけどダメね。まだウン百万分の一も探せてないわ」
資料室の大きさからして、芳しくないだろうと予想はしていた。
「ありがとう」
捜索が難航しているのは想像に難くない。アーチの受け答えから芳しくない現状がありありと読み取れた。
「どういたしまして」
自分がアーチに多大な面倒を押し付けているのは言うまでもない。申し訳なさからスマン、と口をつきそうになるのを精一杯こらえ、代わりに出た言葉がありがとうだった。
「言わなきゃいけない事、ちゃんとわかってるじゃん。それでいいのよ」
そうだ、これでいいのだ。
モガの中にある大昔の記憶が灯る。
似たような道徳を、かつてジエが教えてくれていたはずだった。
当時は雲を掴むような感覚で教わっていたものだ。「助けてもらったらゴメンじゃなくてありがとう、でしょ?」などと言われてもピンと来なかった。
「今ならわかるぞ。なぜなら、この現状で手がかりを見つけることが出来れば、それはキセキとしか言いようがないからな」
モガ一人でここを訪れていたら、ペガサス・アニマ以外の物事には手が回らなかっただろう。
ジエの手がかりを捜索する事すら、一人では不可能だったのだ。
一万年前の戦場では常に孤軍奮闘だったモガにとって、今回のように手分けする必要がある不可能は、もはや当たり前のものとして受け入れてきた。
それがどうしてか、アーチがいる今、不可能はいとも簡単に変わっていく。
「そのキセキをありがたく受け取れるか申し訳なく享受するか、か……。前者のほうがスイシン力があるのは言うまでもないと、ジエはそう言いたかったわけか」
ジエに施されたラーニングと。
いつも思いがけず始まる、アーチの説教。
アーチと時間を共有していると、回路が繋がるみたいにジエとの思い出が蘇る。
「これこそが、タニンに期待する、という感覚なのか」
いつの間にかアーチは眠りに落ちていて、先ほどから続くモガの発言は言うまでもなく独り言だった。
モガの左手にずっと添えられていたアーチの指先が優しく応えるように握り直された気がしたが、多分、寝入りばなによくある錯覚か。
眠ろうとするモガの瞼に二人分の面影が映り込む。
人を模した右瞼の裏にジエがいた。
かつてと変わらない姿で、しかし何もかもが一変してしまった今の世界で孤独にさらされている。
一方で、機械のカラダをした左半身のカメラアイ、その瞼の裏にアーチがいた。
アーチと過ごす時間には思いがけない収穫がある。この時代で倒れたのち、拾ってくれたのがアーチで良かったとモガは思う。
(…………? オレは今、どっちに向かって歩いているんだ……)
ジエを探すのは当たり前として、しかしそれだけでは、何かを置き去りにしている心地が残る。
夢現の意識では、自分が何に戸惑っているのかすら言語化できないが、ネガティブになる必要はない。
なにせあの日にスリープしてから、すでに一万年が経ってしまったのだから。この気持の正体を探るのにもう少しくらい時間を要したところで、ジエは腹を立てたりはしない。
もっとも、彼女の事だ。
怒らずともへそを曲げるくらいなら、あってもおかしくはないな。
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