【童話】3 13/39
はじまるぞぉ~~~~~~~~
「違う。次は……、これも違うわね」
朝食後からモガと別行動を取っていたアーチは、ひっきりなしに検索をかけては蔵書が格納された抽斗を手元に呼び出している。
「一六〇五三……違う、次。一六〇五四」
抽斗の番号を検索にかけ、ラインナップを吟味しては×ボタンを押す。朝からずっと手を休めずに童話を探すも、求めている題名は表示されてくれない。
「一六〇五五……。一六〇五六……はぁ、ないわねー」
「一六〇五七! どれどれ~……うーんむぅ」
元気のいい男の子の声はすぐ隣から聞こえてきた。
抽斗の中身に集中していたアーチはびっくりと肩を跳ねさせる。
「マル坊! アンタいつの間に?」
「いひひ~、しらがのねぇちゃんのおてつだいだぞ!」
って、しまった。いま何番まで調べてたんだっけ。
「一六〇五七にはシロップのにぃちゃんの童話ないぞ! つぎは……」
「あストップ、ストーップ! 二人で探したんじゃ混乱しちゃうでしょ。マル坊は反対側から。番号を降順で」
「こーじゅんってなんだ?」
降順ってのは、番号の大きい方から小さい方へって意味。と説明しつつ最後の番号を確かめた。
げ。資料室の大きさ的に分かってた事なんだけど、最後ともなると番号の桁がえげつない。
「じゃ、マル坊は二○○五五九三三一八三一四番から降順で見てってくれる」
「ぅおう! まかせろー!」
もどかしいことに、今日の時点では一万そこらしか検閲出来ていない。二兆ある抽斗のうち、一万。一千万分の一だ。
ほんとに終わんのかしら、この作業。
普段のアーチなら気だるげに独り言ちるところだった。
「モガのためだもん。世話が焼けるんだから、ったく」
だるいなんてとんでもない。面倒とも思わない。
むしろモガの世話を焼いていると思うと、妙に満ち足りたような自覚がある。
あー、アタシってば今どんな表情してんだ?
少なくとも本人がいる場では恥ずかしくてとてもできないような顔なんだろうな。頬は甘ったるく緩む、口角も上がる。
モガを見つめてるわけでもないのに、自分の目元が愛おしく細まるのが分かる。
くぅ~ダメだダメだ、今は検閲に集中せんと。
「うわぁ……アーチのねぇちゃんどうしちゃったんだ?」
「一六〇七七、一六〇七八。一六〇七九一六〇八〇一六〇八一…………」
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「――――とまぁこんな感じで。モガくんのプリティーなマントに蘇生のチカラが秘められていたように、センガくんも吹雪を越えられるだけのチカラを持っていたんじゃないかな?」
「じゃあ、センガが吹雪を出入りした方法まではわからないのか」
吹雪は山をすっぽりと囲うような円形に形成されていて、その猛威は何人の行き来も許さないほどだ。
もしやセンガは、あの闇色の姿に変身でもしたのか。
戦闘用ではないセンガのボディは決して頑丈とは言えない。
だが心当たりがあるとすれば、センガがモガをコピーした際に発現させたどす黒い形態だ。
あれほどに不吉で激しいチカラであれば、ペガサス・アニマが起こす吹雪にも対抗できたかもしれない。
(いや、チガウな。センガのヤツが雪のモビルゲレンデを訪れたのは、この時代のオレと出会う以前でなければありえない)
センガがユスのフリをするには、一度でもユスと会う必要がある。
センガが何の目的でクレバスの中に足を踏み入れたかは分からないが、オウカから聞いた限りでは少なくとも当時のセンガは自我を失っているようには見えなかったとのこと。
強大なチカラを持っていない当時のセンガが如何にして吹雪を越えたのか、いくら熟考してもハッキリした答えは分からずじまいで応接室に沈黙が下りる。
「モガくん、そろそろ本題に入っても?」
「ああ、かまわん。結局のところ、ペガサス・アニマを討つしか道は無いらしいからな」
「吹雪を越えるために、ペガサス・アニマの持つ天候を操る権能を抑える。可能なら討つに越したことはないんだけどね、でも――――」
オウカの視線が自然とユスを向く。
ペガサス・アニマが山全体に冷気を充満させた。ユスはロク出産の折に凍り付けにされてしまい、常に氷点下である雪のモビルゲレンデにいる限り彼女の呪縛が融けることもない。
「実を言うとね。もし討伐が厳しいなら、弱らせるなり気を引くなりってだけで構わないんだ」
「なに?」
「私達も伊達に苦しめられてきたわけではないのです。ペガサス・アニマと交戦する間に限り、風速は落ち、降る雪は柔らかくなる」
「ほう? 確かめたのか」
「無論、実況見分済みです。私とオウカが攻め込み、銀雪民たちに観測して頂いた。裁判でも通用するデータにございます」
モガにすれば、にわかに信じがたい話だ。はじめて吹雪と遭遇したあの日、たった数体のアニマと騎乗手を相手に戦闘していた。
その間わずか十分程度だったはずだが、あの吹雪はたったそれだけの時間にさしものモガを強制的にシャットダウンへと追い込んでしまったのだ。
それだけの猛威を振るう吹雪が弱まりを見せるとは、簡単には想像できない。
「ならユスの容態はどうだ? ペガサス・アニマとの戦闘を経て、少しでも氷は融けだしたか?」
「ユスがこうなってしまったあの日から、様々に手を尽くしたが…………残念ながら」
伏し目がちに語るオウカだが、少しの沈黙を経て顔が持ち上がる。その表情に、オウカなりの覚悟が湛えて。
「だが諦めたわけじゃあないさ。暖かい下界にまで逃げれば、自然と融解するやもしれないからね」
「いや、ソレだけでは足りん」
覚悟の乗ったオウカの両眼を、傭兵ギアニックの自負で押し返した。
「あくまでオレの直感だが、逃げおおせるだけでカイケツ出来るほど、この氷はぬるくない」
――――フィィィイイィィィン。臓物の底から警戒心が湧くような嘶きが、ずっとモガの脳裏で鳴っている。
たとえこのまま下山できたとしても、嘶きの主を打倒せねば刷り込まれた恐怖は鳴り止まないだろう。
同じように、ユスの氷も融けない気がした。
「ただ図体がデカいだけではない。あのアニマはどこかトクベツだ」
「そ、そうかい……?」
「ペガサス・アニマは討伐する――――ロクにはユスが必要だ。やもしれない、などという不安定なコトではいけない。
オレには宿を焼失させたセキニン…………否、宿民の平和を蘇らせる期待がかかっている」
「そうかい……フフ」
オウカは呆気に取られている。
無理もない、相手はペガサス・アニマ。
大自然をも手中に収める相手だ。いくらモガが白兵戦最強を謳われていても、その宣言は身の程知らずもいいところで――――。
「そう言ってくれるのかい!」
「オマエだって本心では倒したいハズだろう」
自分にとってのジエと、オウカにとってのユスは同じ場所にいるのだ。
もしジエが氷像に変えられ、何年と助けを求めているとしたら……障害が何だろうと斬り伏せる。
「グラシアス。ワタシとしたことが、気が引けていたみたいだ」
「相手が相手なだけに、そうなるのも仕方ない。だが回りくどいのはこれっきりにしてもらおう。オレは最初から、討伐カイギをしに来たんだからな」
今日はここまでだぞ~~~~~~~~~
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