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文明が滅びた10000年後の地上で再会するキカイ傭兵と設計者の少女 原題:メタルエイジのMO-GA  作者: カズト チガサキ
銀雪と結束の第二章 氷獄の統率者・オウガ
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【童話】2 12/39

最近はASMRを聞きながら投稿準備をするなどしております

「ふぃーサッパリしたー! おまたせモガ、お風呂空いたわよ」


 モガはモガ、アーチはアーチでそれぞれの役割に当たり、時刻は夜になる。アーチが風呂を上がる頃といえば、夕方と夜中の中間あたりか。


 モガたちには今朝目覚めたときと同じ寝室が与えられていた。壁や天井の氷面が食事会場で目にしたのと同じくアイスコープ現象を放っている。


「浴槽。なんか氷張ってたし、見た目はちょっと肌寒いけど……案外気持ちよかったわよ。コールドコードのおかげね〜、完っ全に銀雪民になっちゃったわ、アタシの身体」

「オレはいい。面倒だ。明日に備えてスリープする」


 モガにとっては寝るに十分な頃合いだった。天井のアイスコープを覗き見れば、モガの知らない夜の砂丘が空に月を抱いている。


「ふぅん……クレバスの外は雪のモビルゲレンデで、今もすっごく吹雪いているはずよね?」

「オウカの話を聞くに、そのようだな」

「だっていうのに、アイスコープとかいうのはずいぶん遠くまで移すのね。雪山と砂丘じゃ相当距離あるんじゃない?」

「そこまで深くは訊かなかったが……確かに、ミョウな現象ではある」


 妙だ、と言いつつもモガには心当たりがあった。


「この不可思議さこそ、雪のモビルゲレンデなどと呼ばれるユエンか」


 常軌を逸した風雪量、絶えることない吹雪。モビルゲレンデという異名は、そんな極限状態の地帯に与えられるものだとオウカは教えた。


 クレバスシステムの保護がない豪雪の中、モガたちが震えずに戦えたのはコールドコードの恩恵があったからだとも言っていた。


「フブキはとっくにジョウシキの埒外だ……天然氷の望遠鏡があったとしても、今さらなコトか」


 クレバスシステムや吹雪く地表で何が起ころうと、それはモビルゲレンデだからだ、で納得してしまいそうになる。


「今の地上には雪意外にも砂のモビルゲレンデ、島のモビルゲレンデ……と各地に異常地帯があるらしいな」

「今見えてる砂丘も、ひょっとしたら?」


 アイスコープを通した景色ではわかるはずもない。

 あの砂丘でも吹雪に負けず劣らずの不可思議現象が起こっているのだろうか。だとしたらなんだ、砂嵐か何かだろうか。


 モガは自身の思考が取り留めなくなってきたのを静かに自覚する。考え疲れたか、思わず細い息が漏れた。


「やはり風呂を頂いてくる。氷風呂、頭を冷やすにもちょうど良さそうだ」

「やはりもなにも、アタシと同じベッドなんだから入らないって選択肢は最初からナシでしょーが。いってらっしゃい」


 入浴中、モガは氷風呂の心地良さもほどほどに今日の出来事を整理する。

 目まぐるしい一日だった。目が覚めたらクレバスの中で、見知らぬ土地に慣れる間もなくユキザル・アニマの大群を追い返して、目前にジエの手がかりがあると思うとらしくもなく居ても立っても居られず、アーチやオウカを振り回した。


 その後、資料室から帰ったモガにオウカが聞かせた話は、大方モガの予想通りだった。


「『夫婦』アニマの討伐、か」


 雪のモビルゲレンデの元凶であるペガサス・アニマは雌。そのペガサス・アニマと(つがい)になって生息している雄は、ユキザル・アニマの上位種であるイエティ・アニマ。


 雪山に閉ざされた銀雪民を下界に解放するためにも、討伐は必要なことだ。強張った顔で告げるバクサの拳は、『夫婦』アニマに立ち向かう重圧からか震えるほど固く握られていた。


 下山する際、山を覆う吹雪の勢いを止める、あるいは弱らせる必要があるのだ。


 吹雪が一段と激しくなる暴風域にさらされれば、コールドコードがあるとはいえどうなるか分からない。寒さ意外にも滑落やホワイトアウト――――視界を奪われる事による遭難など、死に至る危険を上げればキリがない。


 そうならないための『夫婦』アニマ討伐。


(ショウサイな事は明日の討伐カイギで訊くとして……討伐か)


 氷風呂を出て、シャーベットの詰まったベッドにボディを横たえてもモガの考え事は止まない。


(討伐するとなれば当然、戦闘は避けられない)


 ペガサス・アニマについてモガが知っている情報は少ない。

 分かっている事と言えば二つだ。

 ユキザル・アニマとの戦闘後、山々を渡る咆哮を耳にした。ペガサス・アニマのものであろう()え声から察するに、その体躯は規格外に大きいということ。


 そしてフィジカルだけでなく、ペガサス・アニマが大自然を自身のモノとし、気候をも操る不可思議な権能を有しているのは、クレバスの外の吹雪を見れば自明だ。


 まるで関数(メソッド)のような権能だが、モガシリーズ以外に関数(メソッド)を呼べるなどありえない。


(バクサという例外を除いて、ではあるがな)


 関数(メソッド)でありえないなら、(くだん)の風雪はさながら魔力だった。


 このクレバス内に、そんな強大な相手と渡り合えるギアニックがいるだろうか。戦いの心得があるギアニックなど数える程度だ。


 ともすればモガの答えは決まっていた。

 その日モガは、覚悟を決める心地で眠りに就く。


 翌日の朝、目覚めた傭兵ギアニックは標的の事のみに集中していた。


「そういえばモガ、手がかりの童話を探しながら気になったことがあるんだけど……」


 それは集中が散ってしまうので、一旦置いておこうと思っていたトピックだった。ジエの事を思うと、どうしたって気が乱れる。


「童話を盗んだって賊は、吹雪の向こう側に自力で行ったり来たり出来たのかしら?」

「そんなことがおいそれと可能ならば、オウカやバクサが苦悩する必要もない……」


 何を言いだすかと思えば、あの猛吹雪を行き来などと笑止。

 そう思ったのはほんの一瞬だった。次の言葉で、モガは自分の見落としに気づく。


「よね? でも吹雪を越えられないとすると……賊ってのは、まだクレバス内に潜伏してるかも?」


 アーチの疑問はもっともだった。

 賊の存在に関して迂闊だったのはモガの方で、警戒心はだんだんと胸に登ってくる。


「銀雪民にヨウギシャがいないか、オレの方でもそれと無く探りを入れるとしよう」


 賊は何らかの形でクレバスシステムに侵入した。資料室から童話を盗み出したのは確かだが、賊がその後どうなったかは聞かされていない。


 吹雪を越えるのは容易ではない。となれば吹雪の内側に来てしまった以上、銀雪民としてクレバス内部に身を潜めるしかなくなる。


「アタシもまさかとは思うけど、まったくないとは言い切れないっしょ。実は裏切り者がいる、みたいな」


 少なくとも宿民には潜伏者がいた。

 ロクの母親になりすましたセンガ。

 このクレバス内部でも、水面下では似たような問題を抱えていると言える。


「銀雪民の中にハンニン、か。いると思いたくはないが……」


 もしくは、現状の猛吹雪に抜け道があるかどうかだ。賊がその方法を使って逃走し、クレバス内に犯人はいない可能性もある。


 朝食後、アーチは引き続き資料室、モガは『夫婦』アニマ討伐会議のためオウカの応接室に向かう。

 賊の逃走方法については討伐会議の直前に訊くつもりだったのだが、開口一番モガは別の疑問を呈した。


「なぜソイツをここに連れて来た……?」


 応接室、兼討伐会議室になぜか設置されていたユスの氷像。それに気を取られてつい口が走る。


ストゥピッド(愚問)! 今日はワタシの部屋に平原が広がっているから、さ!」


 壁のアイスコープ、その一角を指差すオウカのテンションはさも高い。


 彼の言う平原とは無論、宿があったあの平原のことである。そしてユスの氷像は、平原の営みを見守る女神像のように安置されていた。


 凍り付けのユスは、何度目にしても痛ましい。感傷に流される前にと、モガは事前に決めていたセリフをつく。


「カイギの前に訊きたい。ドウワを盗み出した賊は、その後どこへ行った?」


 話が唐突過ぎたのか、オウカは一瞬きょとんとしたものの、すぐに納得して繕い直す。


クレヴァ(いい質問だ)! だが残念だよ、我々も行方が掴めないんだ。でもクレバス内にずっと身を潜めているって可能性は限りなくゼロ、これは確かだ」


 オウカは持ち前の自信を前面に出して頷く。


「クレバス『システム』って呼ぶくらいだからね、内部の管理体制はキッチリしているよ。銀雪民以外のギアニックがいれば即刻ワタシにシグナルが飛んでくるのさ」

「なら賊はどうなる? まさか自力で吹雪を抜け、下山して逃げたか? あるいは……」


 そもそも賊=銀雪民の誰かで、管理体制には引っかからない不届き者だったとか。

 モガがその可能性を口にするのを遮るかのように、オウカがハッキリ告げる。


「吹雪いたままのモビルゲレンデを自由に行き来することは可能だ」

「!? ……なんだと」


 モガの両目が見開かれる。本当に可能なら『夫婦』アニマに悩まされる必要など土台無くなってしまうのではないか。


「ほとんどのケースがイレギュラー(例外)だけどね。例えば、ワタシとロクがそうだ」

「ロクが?」


 ロクの名前が出ると、オウカの後ろに控えるバクサが深い息をついた。手枷型のグレートヘルムが沈痛そうに揺れる。


「ロクはクレバスの中で産まれた子だ。生を受けて間もないロクにとって、この冷気は悪くていけない。助産のギアニックがすぐにワタシのコールドコードを投与してくれたみたいけど、衰弱は止まらなかった」


 語り口調は過去の事だと割り切らんばかりだが、オウカの視線は時折ユスに引き寄せられている。


「オウカはちょうど、罪深きユキザル・アニマの断罪をしていて……」

「ああ、満月の夜にアニマの迎撃に向かったと、そうだったな?」

シュア(その通りさ)。ワタシはユキザル・アニマの掃討から帰投して、すぐに雪山を下りた。弱っていくあの子をΘ《シールドライン》で守りながら……」


 耳を傾けながら、モガは想像する。ヘラジカ形態の盾角でまだ幼児より脆いロクを守り、風雪を突っ切るオウカの姿を。


「! そうだったな。ロクという名前は」


 魚類の鱗とヒレを持つギアニックが、鹿に背負われてやって来た。


 チョオローが。

 「魚」と「鹿」でロクだと、いつだったかそう語っていた。


「ユス譲りのフォルムと、ヘラジカに変身したオマエを目にして、チョオロー……宿の長が付けた名か」

「そのようだね。ワタシが名付け親になれない悔しさが半分。けど良い名をいただけた事への感謝(サンクス)もある。複雑だね」


 あの話に出た鹿とはオウカの事だったのか。だとすれば、吹雪の中を通り抜けられることは、他でもないロクが証明している。


「なら、やはりイエティ・アニマを倒さずとも下山は可能なのか? 時間はかかるだろうが、オマエのΘ《シールドライン》で守りながらならば……」

「オーっと、ステイステイ! まさか一人一人を抱えて往復しろってことかね!?」

「ン。おかしな事を言ったつもりもないが……」

「まさに悪魔(デーモン)の提案だね。何度も言うようだけど、通り抜けられるのは|イレギュラーなことなんだ」


 オウカは教師のように人差し指を立てる。


「ロクが助かったのは、その後チョオローさんとやらが迅速に介抱してくれたおかげさ」

「あれだけの衰弱から快復したのは奇跡としか言いようがありません。加えてこれは実況見分済みなのですが、私ではオウカに守られながらだとしても吹雪を越えられませんでした」


 人差し指の次に中指が立った。二つ目、と言いたげに。


「さらに、ワタシは吹雪を突っ切ったのちに、もう一度クレバスへと引き返す必要があった。当然だよね、他の銀雪民はまだクレバスに残ってる」

「ご帰投なされたオウカは……それは、ひどい有様でした」

「それも当然だね。あんな吹雪地帯を二度も通るとなれば……ね」

「つまり、奇跡が重なったとしても一人運び出すのが精一杯、ということだな」

 

 あの吹雪では無理もないだろう。しきりに例外だと言うのも、話を聞けば頷ける。


「ところで気になったんだが、オマエはロクという名前を知っている風だったな」


 アイスコープ現象で届く景色に音は乗らない。雪のモビルゲレンデに閉ざされている限り、平原のロクが「ロク」と呼ばれている事を知る由もないはずだ。


「あの子の名前に関しては二人目のイレギュラーが関係していてね。ロクという名前をここまで届かせてくれたのは――――センガくんだよ」







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