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文明が滅びた10000年後の地上で再会するキカイ傭兵と設計者の少女 原題:メタルエイジのMO-GA  作者: カズト チガサキ
銀雪と結束の第二章 氷獄の統率者・オウガ
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【童話】1 11/39

今話からサブタイトルが【童話】に。

童話でふと思い出したんですが、小学生の頃にグリム童話を読みました、私。

これにより。はじめて読んだ小説は、


・小説版アイシールド21

・グリム童話


の二つにまで絞られました。

どちらが私がはじめて読んだ小説にふさわしいか。いざ尋常にファイッ!!

 ユキザル・アニマの群れとの一件が落ち着いた頃、モガとオウカはクレバスに帰投して互いの目的をすり合わせていた。


「オレたちの目的は、ロクの傷心をカイショウしてやること――――つまりは、今度こそ本物の母親、ユスと再会させることだ」


 無論、氷漬けになってしまった状態のまま合わせるつもりは毛頭ない。

 ユスを連れて帰るのは、彼女を健康な状態に戻す手段を見つけてからだ。


「そしてもう一つ、ここからはあくまでもオレ個人の目的だが……オウガを頼りにジエの手がかりを得ること。センガのジョウホウ通りなら、アイツは雪のモビルゲレンデのどこかにいる。今のところは影もカタチも掴めないがな」


 応接室兼オウカの私室で、モガとアーチは部屋の主たるオウカと向かい合う形でソファに座す。バクサだけは起立したまま、オウカの斜め後方で控えていた。


 モガが目的を打ち明けると、オウカは苦渋の表情でおとがいに指をあてがった。


「かなり心苦しい(ペインフルだ)ね……力になれるかどうかは五分五分というところだ」


 バクサはバクサで手枷型のグレートヘルムが表情を隠しているものの、頭は沈痛そうに俯いていた。


「うわ……な~んか一気に辛気臭いカンジね」


 グレートヘルムの奥で、オウカと同じ表情をしていることは容易に想像できた。


「そう言わないでやってくれ。まずオウガというギアニックについてだが、これは今は亡きワタシの先代その人の事だ」

「先代……オマエの父親に当たるわけか」


 オウカは頷く。


ザッツライ(その通り)。ワタシの、パパ上さ」


 バクサは特に言葉を挟まなず、死別を乗り越えた「銀雪民の現リーダー」を斜め後ろから見守っている。


「パパ上ならドクター・ジエについて知っていたかもしれないけど、あいにくワタシでは、何とも……」

「オウガから何も聞いていないのか? いや、そもそもアイツはジエを探してすらいなかったのか……? オウガにジエを気にかける素振(そぶ)りはあったか?」


 オウカは視線を下げて告げた。その所作だけで、期待に添えない無念が伝わってくる。


「モガくんとパパ上の話をするまで、パパ上がその、ニンゲン・アニマ? の手で作られたなど想像もしなかったよ」

「つまるところ……オマエは何も知らない、ということか」

「パパ上だってワタシや他のギアニックと同様、ギアニックの両親を持ちギアニックの子供として生を受けたものだと思っていたからね」

「……私には、いまだによく判りません」


 それまで聞きに徹していたバクサだったが、困惑した声をあげてモガに向き直る。


「ニンゲン・アニマというのはフィクションではないのですか? 絵本や童話などのテキストチップに登場する、あのニンゲン・アニマですか?」

「エホンとやらを目撃した事はないが、ジエは架空の存在ではない。決してな」


 バクサに向けてか、あるいはモガ自身に対してか。

 自分の声に、言い聞かせようとする響きが乗るのを自覚する。


「ジエは確かにいた、架空ではない。たとえ一万年前の存在だろうと、断じて……な」

「ふむぅ、一万年も昔のニンゲン・アニマ……判例がありません」


 バクサが降参すると、それきりオウカも言葉を探すように考え込んでしまった――オウガとジエについて聞けるのはこのあたりまでか。


「なら次のギダイだ。ユスの氷像についてだが、オレはカノジョを――――」

「ストップ。まぁ待ちたまえよ」


 オウガやジエの手がかりが掴めないのも無理ない話だった。


 特にオウガはモガにとって、かつて戦線を共にした兄弟機だ。

 だが、どれほど望もうとこの世にいないのなら……これ以上追うべきではないのかもしれない。


 モガがそう思った時だった。


資料(データ)室になら、あるいはお望みの物があるかもね」


 思考を遮ってオウカは提案した。見れば、そう言うオウカの瞳にはたしかな根拠が宿っている。


「もしやそれは、先日起こった童話の盗難を指していらっしゃる?」

「ザッツライトだバクサ。盗難とモガくんたちの来訪は偶然じゃない、きっと一連の出来事さ」


 オウカの様子は、諦めの中にいるモガに情けをかけたわけでもないと見える。

 オウカは続けた。


「キミたちがここを訪れるほんの二か月前の話だ。資料室に賊が入った痕跡があってね、シリーズモノの童話が盗難に遭ったのさ」

「ドウワ……? ソレとジエに何の関係がある」

「まぁ最後まで聞いてよ。盗まれたシリーズ童話の中には『氷獄の統率者・オウガ』というタイトルがあるらしくてね」


 いかにも、手がかりだ。

 モガは身を乗り出して食いつく。


 ジエへの兆しだ、ようやく巡って来た。

 モガシリーズ○○三――――オウガ。その名を他人から聞くのは久しい。


「シリーズモノとは、つまり……盗られたのはモガシリーズの童話ということかっ」

「おっしゃる通りでございます。ですが……」


 資料室についてはバクサの管轄なのか、それまで控えていたバクサがするりと歩み出てオウカから話を引き継ぐ。


「資料室は私が整頓しているのですが、如何せん広大な部屋でして。その蔵書数は兆を超えています」


 つまり、とバクサが核心に迫るのを、モガは机に手をついて聞く。

 体が無意識に前のめっていた。


「盗まれたのはすでに整頓されたモガシリーズの童話のみ。未整頓の童話は、まだ資料室のどこかにあるでしょう。それらの童話を探し出せば、内容から他のモガシリーズの所在が判明するものと思われます」

「よくわかった。ジョウホウ提供カンシャする」

「よかったわねモガ。これで……ぇ」


 アーチが喜びを分かち合うより、モガの足が資料室に向くほうが早かった。


「探してくる」

「え? ……ぁ、ちょっと!」


 立ち上がったと思った時には、応接室の氷扉が閉まる音。


「モガのばか、場所を教わりもしないで……ったく」

「フゥム……一方的に話を終わらされてしまったね。ジエさんのことの他にも、ユスにこびりついた氷の融き方とか、伝えたかったんだけど……」


 モガの去った応接室で、オウカは呆れを隠さずに頭を抱えた。


「ワタシの話、アーチ嬢は最後まで聞いてくれるかい?」


******************


 オウカの話を聞き終えたアーチが応接室を出る。

 その足でモガを追いかけて資料室へ向かった。


 モガは行き方に迷い資料室にはたどり着けてすらいないものだと思っていたが、アーチが資料室に足を踏み入れると、意外にも彼はすでに童話探しを始めていた。


「エレベーターで地下に降りて一番広い部屋がそうだと、コイツに教わった」

「シロップがぶ飲みにぃちゃんが迷ってたから、おいらがおしえたんだぞ! えっへん!」


 蔵書を検索する端末だろう、円形をした部屋の中央に、タッチパネル。それをモガと雪ん子ギアニックのマルが、並んで操作している。


「オウカの奴、こんな部屋隠してたなんて……意外」


 地下階は上階の屋敷とは雰囲気が打って変わった。洋風で古風な屋敷にエレベーターがあること自体ちぐはぐな話だが、地下で扉が開いたとき、アーチはさらに衝撃を受けた。


 ここに至るまでの廊下は配管と配線が剥きだしで、まるで作業用通路のよう。

 氷雪どころか湿気すら感じないホコリっぽい灰色の壁と床。

 時折、意味不明な赤や緑の電子的なランプがチラチラと覗いている。


 何を示す色なのかふらりと考えても見たけど、資料室に踏み入る頃になっても答えは出なかった。


 工業的な雰囲気から何となく察してはいたが、資料室の入口は当然の如く自動ドアだった。


「うわぁ天井たっかすぎ~……この中のどれかにジエさんの手がかりがあるのね」


 こうしてカビ臭い廊下を抜け、アーチは資料室へと至った。


「そのハズだ。必ず見つけ出す」

「気が逸るのはわかるけど、その前に。はいコレ」


 検索タッチパネルから目を離さないモガの顔を引き寄せる。預かっていたテキストチップのバーコードを、その両目に見せつけて読み取らせた。


「オウカたちからのメモよ。闇雲に読んで見つかるわけないっしょ」


 オウカが資料室の蔵書数は兆を超えると言っていたが、実際に資料室を目にするとそれが真実だと分かる。


 円形の壁一面に抽斗があり、テキストチップ(蔵書)がギッシリと詰まっている。それが天井まで続いているらしい。


 見上げてもどこまでが天井かを判別できない。猟で鍛えたアーチの目を以ってしても、果てしなさで立ち眩む。


 小人になって水筒の底に放り込まれた、みたいな気分だった。


「…………ン」


 テキストチップの大きさは、小指の爪ほど。そこに印されたバーコードを見つめて、モガが小さく唸る。


「なに、読み取れないの?」


 そうではない、とモガはかぶりを振る。


「読み取りはできた」

「じゃ、なによ?」

「字が読めん」

「そういやそうだったわね……はぁ」


 有り体に言って、モガは一万年前からタイムスリップした身だ。

 だから今の時代の字が読めないのも仕方なし……って、字が読めもしないのに本漁ろうとしたわけ!?


 はぁ、やれやれ。


「おいらにもみせてー!」

「いいだろうマルボウ。オマエが読め。オレの代わりだ」

「ぃやったぞぅ! いひひ、どれどれぇ~……えっと」


 コラコラいいだろうじゃないわっ。どんなお殿様よ。

 幼児程度しかないマルの脇に手を通し、テキストチップの高さまで抱え上げる。


「マルボウ、テキストチップには何が記されている?」

「ちょしゃ、ジエ。タイトル……」


 抱えられたままのマルが、メモの中の題名を読み上げていく。

 たどたどしい翻訳の中に、聞き覚えのある題名もあった。


「えと……『かたづのの、せんけつ』……」

「え!?」

「ジエがモガシリーズをダイザイに書いているのなら驚く事ではない。だが……鮮血ときたか」


 鮮血。片角の鮮血って、センガがデタラメに作った呼び名じゃなかったんだ。


「それから、えと……『センガ、メタルエイジのかげ』」

「アイツの名前まであるわけ?」

「…………センガか」


 ジャンルは史実童話っぽく見えた。読んでみないとわからないけど。


 オウカも詳しい内容を把握していたわけではなかったが、これらの童話がジエやモガシリーズとゆかりある地への道しるべになる可能性は大いにある。


 オウカと出会い、新しい手がかりを手に入れ、新しい地でさらなる手がかりを手に入れて……たぶんモガは、そういう風にちょっとずつジエさんに近づこうとしてる。


「次、さいご! 『イカズチのめがみさま』!」

「ム。イカズチでメガミだと? ……兄弟機にそういうスペックのヤツはいないな」

「おーい、シロップのにぃちゃんおろして。もぅおわった、おいらつかれたぞう!」


 マルを床に下ろしたきり、モガはイカズチの女神とやらについて考え込む。


 その脇をそっと抜けて、アーチは検索タッチパネルをいじる。


「著者はジエさん……と、できた。はいモガ、注目」


 呼びかけに反応して、モガは考え込むのをやめた。


「モガシリーズの童話の貸し出し状況。貸し出し中ってのが盗まれちゃったやつで、在中がこの部屋に残ってるやつ。なん、だけ、ど……」


 検索結果を指で示してやる。モガはとりあえず画面を目で追うが、その顔にさっきとは違う意味の考え込む色が浮かぶ。


「ま、見てもわかんないわよね……りょーかい。ここからは役割分担ね」


 アーチの検索に反応して、壁中にしまわれた抽斗のうち一つが一拍遅れて飛来してきた。


 中身を覗き込んでも空っぽ。


「盗難に遭った抽斗ってこれの事か。まんま検索してもダメなのね、やっぱし」


 本来なら作者ジエのテキストチップ(蔵書)が詰まっているはずなのだ。


「じゃ、アタシはここにあるはずのモガシリーズ童話をぜんぶ見つける。感謝しなさいよ、文字読めないアンタの代わりにやったげるんだから。そんでもって、アンタはもっかいオウカのハナシを訊きに行きなさい」


 それがアーチの言う役割分担だった。

 未整理の抽斗には、まだ童話が残されているはず。

 アーチはそれを見つけ出すつもりだ。


「いや、ジエのことはあくまでもオレ個人の目的であって、オマエが気にかけるコトでは……」

「なあに? この期に及んで口答えするわけ。ダメよ、甘えんな」

「!」


 モガはハッと視線を上げる。思いの外、彼女は厳しい顔で立っていた。


 アーチは目に見えて苛立っている。しかし「この期に及んで」と言われても、モガに心当たりはなかった。


「モガ、アンタがジエさんに夢中なのはわかってあげたいけど、ロクとユスの事情をほっぽって勝手に部屋出てったのはムカつく。アンタらしくない」

「! ……スマン」


 叱られて、子供みたいに視線を下げるモガに、アーチは腕組みのまま続ける。


 そうだ反省しろ。あのあと、氷付けにされたユスを今後どうするか、って大切な話があったんだから。


「あと、自分の事情だからって一人で解決しようとするのもムカつく。アンタらしいけど」

「っ、それは」


 斜め下に下がりかけていたモガの視線が、ふっと上がる。


「それはそうだろう。オレのワガママにオマエの手を焼かせるなどありえん」

「ガンコね。でもアンタの言いたいことは矛盾してるわよ」

「ムジュンなどするモノか。ジエのギアニックたるオレは、カノジョが組んだアルゴリズムに従って動くのみだ」

「そうかしら。じゃあ、岩場でアタシと寝る前にしたハナシは憶えてる?」


 岩場で寝たときといえば。

 登って来た荒山が、突然の吹雪で雪山に変わる前日だった。


 たしかに一言二言。言葉も交わしたような。

 眠りに落ちる直前のやり取りを、よく覚えているものだ


 アーチは言っていた――――アンタがロクの事を考えてくれてたの、アタシにはわかったよ。だからアタシも東に行くのを先延ばしにしてアンタについてきた、と。


「宿民じゃないアンタは、アタシたちをスルーすりゃどこへでもジエさんを探しに行けるのに、あろうことか手を貸そうとする。宿の再建やロクの心の傷は、あくまでアタシたち宿民の問題なのによ」

「それは、オレがマントのチカラを扱いきれなかったせいでもある。オレの責任だ」

「そんなことで誰もアンタを責めなかったわ。それにアタシはこうも言った」


 ――――もしセンガの情報とやらが空振ったとして、アタシたちにはアンタを責めてる暇はないの。だから、あんまし背負い過ぎないことね。わかった?


「アタシはちゃんと憶えてる。背負い過ぎないでほしいって伝えて、モガがなんて答えてくれたか」

「ああ……リカイできた、だったか」


 ――――ああ。よくリカイできた。

 モガは確かにそう言ったのだ。


「いや。オレはただ、ゼンショするとだけ……」

「じゃあ善処しなさい。それとも、アタシに手がかり探しを任すのは不安なわけ?」

「不安だと? そんなコトあるモノか」


 モガがしかと目を合わせてきた。さっきまでの考え込むとか、叱られて不貞腐れるでもない。

 静かで落ち着いた目をしてる。何考えてるのかよくわかんないくらいの、モガがいつもする瞳だ。


「オレが今まで、どれほどオマエに助けられてきたと思っている」

「まったく。助けられてきた、じゃないわっ。どんなお殿様よ」


 ふん、そうよそうよ。アタシがどれだけ役に立ってきた事か。

 ご飯作って、一緒にセンガから宿を守って。

 あとお風呂の入り方とか……っいやいや、それは置いとくか。


 コイツのアタシに対する認識は、決定的に欠けているところがある。


 長く意識を失っていたモガからしたら、宿で目覚めてこんにちはしたのがアタシとの初めましてだったんだろうけど、実際は違う。


 気絶中のモガをずーっと介抱したのはアタシ。


 想像もしてみなさいよ。

 自分のそばで眠り続ける謎の異性。人物像に思いを馳せながら、いつ目を覚ますのかなと身の回りの世話を焼く。


 そんなんしてたら、だんだんと可愛く思えて来るじゃない。

 不可抗力なのよ、この気持ちは!


 いざ起きたら大変だった。距離感バグって朝食では険悪な感じになってしまったりもした。


 アニマ狩りでのモガは頼れる、けどその他多方面では眠っていた時より世話が焼けた。

 ああも一般常識に欠けてちゃあ一緒にお風呂入らざるを得ないでしょ、ええ!


「しょうがないでしょ。助けたくなっちゃうのよ、アンタは」

「ここの抽斗全部をあたるつもりか」

「上手い探し方があればいいけど、残念ながら想像通りの探し方よ」

「だとすると、とても気軽には頼みづらいな」

「ダメよ」


 仰々しいルビで資料(データ)室と呼ばれるだけある。

 兆を超える蔵書の中からたった数枚のチップを見つけるのだと思う途端、部屋全体が圧迫感を放つようだった。高い天井の薄暗さが増した。


「アンタはジエさんを見つけるんでしょ? 一万年も前に別れたっきりの相手にたった一人でたどり着けるの?」


 資料室はたしかにデカい。でもモガの旅の目的は、もっと途方もない。


「ホンキで会いたいなら、もっとアタシを頼りなさいよ。頼りづらいなら、感謝することの大切さを覚えてけばいいのよ」


 モガの返事を待たずに、アーチは検索タッチパネルに姿勢を戻す。

 どれくらいたった頃か、アーチの背後から意を決して口を開く気配がした。


「アーチ……」

「ん?」

「……ありがとう」

「ん」


 カンシャする。オンに着る。そんな固いカンジの言葉ではなく。

 モガの声で聞くと、途端に照れくさく感じるのはなぜか。


「早くオウカたちのところに戻んなね」


 モガが資料室を出てしばらくすると、屋敷へ戻っていくエレベーターの駆動音が聞こえてきた。


 モガがやるべき事をやる間に、アタシはアタシで頑張らなくちゃ。

 





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