【気配】2 10/39
はじめてのマンガがアイシールド21。アニメがそらメソ。
(小説だけ思い出せない。あれれ?????)
フォームチェンジを完了したオウカの姿は、まさしくヘラジカを模していた。
ヘラジカ特有の幅広い角が、群がるユキザル・アニマを強烈に押し返す。
「一体一体はさほどではないが、やけに数が多いな。雪のモビルゲレンデでは、これが日常なのか――ハァッ!!」
モガは広範囲を攻撃できる○《ツイスト》関数で応戦。周囲のユキザル・アニマを薙ぎ払うもしかし、すぐに第二波第三波が押し寄せる。
「ノー・ウェイ、普段の十倍は激しいさ。早速礼を言うようだけど、来てくれて助かったよ」
「そんなんあと、あとでっ! こいつらめちゃ多すぎ……アタシ連射とか得意じゃないのに――――んぁあもう!」
アーチのビリビリ矢は一本につき一体を相手取るのがやっとだ。
モガの○《ツイスト》関数も広範囲とはいえ、片手剣であるアームブレードのリーチは知れたものである。
百はいるかというユキザル・アニマの群れを前にして、モガの戦闘AIを以ってしても戦況は混雑を極めた。
「――ガルルルルァアッ!!」
「チッ、÷《ディバイド》!」
太腕のパンチを掠めた反撃に断絶を見舞う。
数で劣るモガたちは必然的に体力勝負を強いられる――――はずだった。
「《スケーライズ》」
オウカ・ヘラジカが宣言。ただでさえ大きい四足歩行の巨躯をさらにスケーライズする。
「また、なのか? モガシリーズでないはずのオウカが、さらに関数を呼んでいる……だと」
戦闘車の何倍もある体格、相変わらず幅広の角、そして巨体に似合わぬ細長い脚ならば、積雪に足を取られることも無い。
阻まれることを知らない四本の脚が猛然疾走を始める。
「Θ《シールドライン》」
疾走するオウカの角に輝きが乗る。盾の如く堅い質感の光沢が、見る者に角の強固さを伝える。
「ファーザー、≒《ニアライズ》」
≒《ニアライズ》の重ねがけにより、盾角が形を変えて――――角の先端が枝分かれする。
変化中もオウカはダッシュを止めず、ユキザル・アニマの群れを向こうへと押し返していった。
「! ……助かる」
オウカは前線のモガを巻き込まないよう、モガと交戦する数体のユキザル・アニマだけを残し、それ以外のユキザル・アニマはすべてオウカの手中ならぬ角中だった。
前方のユキザル・アニマに強烈なぶちかまし。
辛うじて角の激突から逃れたユキザル・アニマがいれば、≡《スケーライズ》と≒《ニアライズ》による自在な成長が敵をすべからく絡め取って捕らえた。
オウカの角は伸長と枝分かれを繰り返す。
無限に続くかと思われた変型だが、ユキザル・アニマすべてを取り囲んでついぞ停止した。
「あのオトコのツノ。まるでオリだな」
捕らえたユキザル・アニマは優に百あまりはいる。
枝分かれを経た盾角は、折り重ねた雪の結晶のよう。堅牢な光沢の雄角は鉄格子の役割を果たし、群れ全体を釘付けにした。
「ママ上の姿を借りる変身と、パパ上から継いだ巨大化、変形、盾の技……Oh、先代の技は凄まじい! そうは思わないかい!?」
オウカによる一連の一助で、モガの目の前にはたった七体のユキザル・アニマが立ち尽くすのみとなる。
モガは手近な敵を睨むと、
「=《オーバーラップ》」
二閃。残り五体。
アーチの援護射撃がモガの両脇から飛び越えて迸る。
あと三体。
「≠《ディファインブレイク》ッ」
三連閃を最後に、戦闘音が止む。
「ニンム目標、チンモク。あとは――――」
オウカの盾角、その隙間から脱出に成功した一体のユキザル・アニマがモガに襲い掛かる。
それを難なく切り伏せた頃に、もう一体が脱出。同じく両断。同じようにさらなるユキザル・アニマが躍り出て……斬ると同時にモガは気づく。
(あのオトコ、ちょうど一体だけが抜け出せるようツノのオリを調節しているのか。オレに戦いやすく差し向けるために……)
盾角の形は、≒《ニアライズ》の制御で決めているはずだ。牢獄に変形するだけで芸当だが、百の敵相手に有利を取れるのだから、オウカのそれは芸当の域を越えている。
(≒《ニアライズ》が得意なセンガであっても、同じようには出来んだろうな。無論、オレの≒《ニアライズ》精度では不可能なことなど言うまでもない)
オウカが≒《ニアライズ》すれば戦況を支配するに至る。
「細っこい身体でどう戦うのかと思ってたけど……アイツなかなかやるわね」
盾角を破らんとする百体ものユキザル・アニマだが、そこはさすが≡《スケーライズ》で強化されたヘラジカ形態の巨躯。
尋常でない馬力を発揮し、数の暴力をも凌駕する。
まさに一騎当千。銀雪民のリーダーとして、ここを守り続けてきただけはある。
「/《スラッシュ》!」
オウカが作り上げた優位は一瞬たりとも揺らがない。
ユキザル・アニマは時にアーチを狙い、また時には牢獄の源であるオウカに標的を変えるなどしたが、いずれの目論見を以ってしてもモガの光剣をかいくぐる事はなかった。
五十、二十と数を減らし、もはやモガに切り伏せられるのを待つだけとなった最後の数体が、覆った戦力差に慄いて敗走していく。
慌てて逃げるユキザル・アニマの足跡が、戦闘にピリオドとなった。
「アーチ嬢。確かキミはステーキをご所望だったね?」
変身を解いたオウカは事も無げに訊く。
「ぜぇ、はぁっ……っ、急に? なによ……意味、わかんないんだけど……」
「ただのステーキでは満足などしない。コイツは脂っこいモノを好むからな」
三人の前には、降雪で隠れ切らないユキザル・アニマの屠体の山。その山を背にしたオウカは蛮族のような笑顔で親指を立て、どうぞお食べと示す。
「しばらく肉には困らないぞ。どうだい?」
「かなり筋肉質なニクだな。脂は少なそうだ……」
「ってか食べるつもりでやっつけたワケ? はぁ、しょうがないわね……え~っと、どいつを撃ち抜いたんだっけか」
クロスボウを元に戻した左腕で、アーチは次々と屠体に手を置いていく。目当ての屠体に当たったのか、ある一体に左手をあてがうと、跪いて目を閉じた。
それきり、アーチはその場から動かなくなる。まるで黙禱でもするかのよう。
「フーム、モガくんよ」
「? なんだ」
「アーチ嬢はどうしたんだい? まさかとは思うが、コールドコードが効かなくなってうずくまってる、とかではないよね」
依然として吹雪は猛烈に吹き付けて来るが、コールドコードを服用した今のモガたちは極限の環境をものともしない。
だからアーチは、なにも寒さに来しているわけではなかった。
「アイツなら平気だ。狩りをした後はいつも、ああする必要があるだけだ」
ビリビリ矢を受けたジビエは得てして強く帯電する。アーチは左手をあてがう事で、その電流を他へと逃がしているのだ。それが傍目には儀式のようにも映る。
アーチの胸中に感傷があるのか、ないのか。それは本人のみが知るところだ。
「ニンム、カンリョウ……。さてオウカ、この後はどう動く?」
「とりあえずユキザル・アニマをクレバスに運び込もう。なぁに、百体そこらだろうとどうってことはない、バクサに手伝ってもらえばあっという間さ。なんたってカレの鎖は――――」
オウカが部下の自慢話を鼻高く切り出した刹那だった。
――――フィィィイイィィィン。いるはずもない馬のいななきが、吹雪く風に乗ってこの耳に届く。
「! オウカ、今のは」
モガが振り返っても、視界中厳しいホワイトアウトがあるだけ。
肺腑の底を掴んで揺らす、あの恐ろしい声の主はいなかった。
「ペガサス・アニマさ……っ、この忌々しい吹雪の元凶だよ」
吹雪の、元凶。そう聞いて、モガは昨夜の夢を思い出す。
騎乗手、吹雪。それらの背後で糸を引く存在を夢の中で感じていた。
ペガサス・アニマか。
正夢になろうとはな。
「この場は大丈夫だ。『夫婦』アニマの片割れたるペガサス・アニマがすぐに動き出す事は無いよ。今はちょうど出産期だから」
細腕のオウカは、重い屠体を自力で担ごうとして諦める。
屠体の山から踵を返し、バクサを呼ぶべくエレベーターへと向き直った。
「だからこそ油断ならないって言うのはあるけどね。そこら辺は、まぁ追々。モガくんにとってもきっと大事な話だから、そのうち必ず聞いてもらうとするよ」
しばらくして、電流を逃がし終えたアーチが歩み寄ってくる。
さらに時間が経過すると、バクサを率いたオウカがエレベーターから戻ってきた。
持ち前の鎖を操ってはユキザル・アニマを次々と引き払う。
こうして、屠体の山はあっという間に収束した。
その間も雪はずっと降り続ける。激しさを極めた戦いの痕跡は、圧倒的な新雪に覆われてもはや何一つ残っていない。
このまま。
ジエを起源とするクレバスシステムまでもが、このまま吹雪の前に立ち消えてしまうやもしれない。
茫漠な銀世界の厳しい風が、モガの胸に負のイメージを吹き込む。
「ペガサス・アニマとやらが異常な吹雪を起こしているのなら、いずれ戦わねばならん……か?」
――――フィィィイイィィィン。吹雪の中にいる限り、ペガサス・アニマの存在から目を逸らすことは不可能だと悟った。
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